あだな
父兄会の日、教室に集まったお父さん、お母さんは少し戸惑っていた。
「息子が先生の名前を言うのを聞いたことがないの」「うちもそうなのよ、担任の先生はカレーパンらしいの、でも、本当の名前は知らないの・・、どの人がカレーパンかしら。」
通っていた中学校はイエズス会の神父さんの手作りであったせいか、少し変った校則、習慣、いや癖を持っていた。あだ名で先生を呼び合い、実名は出てこないのも一例だ。
世間の評判では、スパルタ教育を施す厳しい学校と言われた由縁は、小雨が降ろうが、雪が降ろうが、毎日、上半身裸でラジオ体操をやらされるためだったのかもしれない。厳しい校則も目白押しで、体操終了後は爪の先から髪の毛まで服装検査をされる。この総指揮官のあだ名は、天狗。勿論、氏名・洗礼名のある神父さんである。その名の由来は、簡単明瞭、彼の鼻の先が割れており、天狗の鼻に瓜二つということである。
幼小のころ、「悪さをすると、天狗さんにさらわれるぞ」と言われたものだが、この響きは当時の学生には、同じように感じられた。天狗鼻にかかったメガネの奥の鋭い目でジーっと、見すえられると、鷹に狙われた鼠のようにビクッとしたものだ。天狗のついでに赤鬼の神父さんもいた。怒ると本当に真っ赤になる。狼みたいな精悍な容貌の神父さん、あだ名はウルチ、皆、天狗ファミリーの一派である。
先生のあだ名の由来は、聞いてみるととてもたわいもないことが多く、他人が聞けば、馬鹿みたいの一言で終わってしまうが、同窓生から言えば、あだ名を耳にすると、当時の教室のざわめき、教壇に立つ先生の真面目くさった顔、机の臭い、懐かしい級友たちの笑顔がすぐに浮かび上がってくるから面白い。少し実例を挙げてみる。くだらないが。
「先生、今何時ですか、3時だな」 その日以来、化学の先生の名前はサンジ、
先生が読むから良く聴いて「ウイー、アクチュ、ライク、アニマル」、(アクツのほうがまだ近いが)tの発音はいつもチュになるので、この先生の名前はアクチュ、
栄養元素をいつも強調するので、生物の先生のあだ名は、CHONS、チョンス、
後ろ手で黒板に字を書く、小柄の浅黒い顔、キョロとした目の動き、ダボハゼ
よっし、と言えず、うっし、というので、牛の様な感じの国語の先生の名前は、ウッシ
まだ沢山いたが、きりがないのでこの辺でやめる。
先のカレーパンは試験の点数がいつも厳しく、辛いから、カレーパン。日本の神父さんも色々な科目を教えていたが、小作りのコロコロした神父さんが倫理を教えていた。あだ名は、クンタメマ、後ろから読むと分かる。クンタメマと囃したてていたら、いつのまにか校長になってしまった。我々も見る目がなかったなー、とこの頃、とても後悔している。