栄光イレブン会

栄光学園11期卒業生の親睦・連絡・活動記録

ブログ開設:2011年8月23日

Smartプロジェクト(その28)(Suzuki_Taketo)

2019年01月19日 | 鈴木(武)・関口・高野

 Smartプロジェクト(その28)

海外事業の秘訣とは 

 当時のフィリピンの法律では、フィリピン人の出来る業種、販売業やサービス業は原則外資が規制され、通信事業の様なインフラサービスでは50%以下は認められるものの外国人の直接の命令権を認めていませんでした。

 我々の立場は明治の昔の『お雇い外国人』の様なもので、何を誰に教えるかのプログラムを予め提出し、またその進捗状況を報告する義務がありました。私のレベルのNTTへの支払い年間費用が1億円を超えると聞いて驚き、まさにお雇い外人と認識したりしました。

 その後は少し緩んで、経営上のアドバイザーの役割となり、プログラムを作ったり、進捗報告等は不用になりました。しかしながら、実際には『アドバイザー』に止まる必要は無く、それ程不便無く執行役として行動できました。即ち日本での会社役員のやり方と大差は有りません。ただ、幾つかの処世術は必要です。

 Smart・PLDTの最大株主であるFirst Pacificからも香港から数人の英国人の『アドバイザー』が我々のカウンターパートとして派遣されており、彼等から経理・財務面で多くの事を学びました。 反面、技術者でもない英国人が移動通信の総責任者を自認し、『NTT側は固定網のみに関与すべき、電波も使用させない』と縦割りの仕切りを求めたり、Smartの社名が英語では『Smart=ずる賢い』の意味がある事から改称するとか突如言い出したりして、かなりの対立がありました。

 彼等が基地局の購入、課金・顧客管理システムの選定にあたり、社内でのコミッティ(検討委員会)の結論を無視し、独断で契約に至る行為をしてしまった等から、ファウンダーのFernando氏と殴り合いになる程の激しい対立を重ね、結果的にお引取りを願う事になりました。 その後は、コミッティだけでなく、大きな課題に取組む場合に第三者のコンサル会社を雇って、缶詰合宿で答を導く方法で円満な人間関係の中で経営を進めることが出来る様になりました。

 現地で注意すべきは、一部の人を除いては、親分・子分の関係が余りにも強く、与えられた目標を達成する事で地位を確保、俸給も決まる事から、一度方針を示すとフィードバックが掛かり難く、即ちストップが効き難いことでした。これはSmartに限った訳では無く、オーナーが一度命令したらフィードバック無しに走ってしまい、この事から競争相手の通信事業者の幾つかは、固定網の目標や義務を達成した途端に倒産、あるいは身売りした例が幾つもありました。この点、Smartはコミッティを活用する事で、早くフィードバックをかける事が出来、固定網への投資も最小限に留める事が出来たのが幸と言えるでしょう。

 親分は子分の面倒を一生見るのが原則ですから、数年で退任する我々外人が一時的に責任者となっても忠誠心を期待する訳には行きません。したがって、論理と展望が説得力という事になります。逆に忠誠心を持たれると一生の面倒を見る義務のような関係が生じますから、ある意味危険といえます。

 処世の秘策としては、現地の心有る人物と事前に意識を合わせ、この人物からの意見を十分に聞き、その結果を反映して、あるいは反映できない時でも、これを選択肢に挙げ、会議の結論として方向を決めれば良いと言う事です。現地の中堅幹部も立派な学歴と経験を持っており、経営的にも技術的にも高い技量を持つ方々でした。

 PLDTの収入の伸びはSmartが支えていると言っても良い状況ですが、国内の競争状況が安定している事がその背景です。シンガポールのSingtelとフィリピン最大財閥のAyalaを親とするGlobe社はその面で良い競争相手です。

一時期PLDTの買収に失敗したゴ・コンウエイがSUN Cellularを立ち上げてSmartやGlobeに挑んだ事が有りましたが、いわゆるプラチナバンドを確保できなかった事からサービス品質の良くないディスカウントサービスに甘んじ、結果PLDTグループに下る事で、再び安定的な競争に戻りました。

 経営が安定するにつれ、パートナーのFirst Pacificのパンギリナン氏は色々な機会を捉えて独占的インフラ事業に乗り出しました。 その内容は前にも述べた電力会社のMeralcoの他に、首都圏水道民営化に伴ったMaynilad、マニラ北部高速道路などがあり、さらにメディア、鉱山、レストランチェーン等多岐に亘るようになり、Market Value総額では$21B=2兆4千億程となっています。

 多くのケースは財閥の次世代経営能力に関する株主金融機関からの疑念や、交代期に起りがちのお家騒動等が契機のようでした。フィリピンから外への進出については小生の在籍した頃に、一時タイのTT&Tの買収検討の他、華僑系財閥Lippoからのオファーでインドネシアでの携帯通信事業等の検討を行いました。インドネシアについてはNOKIAの協力を得て本格的に検討しましたが、政治的に利益を吸い上げられる構造であったり、周波数から技術的にリスクが高過ぎるとの結論で検討を停止しました。フィリピン自体が十分な人口増もあり、GDP成長率が6.8%前後と高成長で、当時は出て行く必然性が低く、比較をするとリスクが高かったと思われました。

 NTTの持ち株は当初NTTCommunicationでしたが、その後docomoと共有するようになり、現在はFirst Pacific (25.6%), ドコモ (14.5%), NTT Com. (5.85%) となっています。NTTの双方からは時々サービスの展開上の要求があったりしますが、日本の環境とかけ離れた状況から、そのまま移植して成功した事はありませんでした。

 逆に現地で成功した送金サービス等GSM上のサービスについても何度も説明を日本側がこれを受ける事もありませんでした。要は、配当や株価値による資産については興味があっても、海外企業の経営は現地の状況を把握している側に任せるほかは無いという事でしょう。逆にPLDTが他の国へ進出するような事になるとNTT側は混乱する事になりかねないと感じています。

  (その29へ続く)

 

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