一度でも、こうした経験のある人は
その傷がうずくにちがいない。
「ジュリアン」71点★★★★
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離婚を申請中の
妻ミリアム(レア・ドリュッケール)と夫アントワーヌ(ドゥニ・メノーシェ)。
妻は夫からの一切の連絡を拒絶したいと訴えるが
夫は「妻はおかしいのだ」と訴える。
結果、裁判所は夫の言い分を採用し
子どもの共同親権を認めた。
18歳の長女は対象外となるが
11歳の息子ジュリアン(トーマス・ジオリア)は週末に
父と会うことになった。
会うたびに「母の新しい住まいは?連絡先は?」と聞いてくる父から
ジュリアンは必死に母を守ろうとするのだが――?!
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フランスの新鋭グザヴィエ・ルグラン監督の作品。
独特の語り口が新しいんですが
冒頭、家庭裁判所でのシーンが延々続くところなど
意図とリズムが掴めなくて、ちょっとのるのが遅くなった。
でも、その不思議なリズムにのると、ハマっていきます。
離婚調停中の夫と妻。
妻は夫のDVや、その危険性を訴え、
夫の側は妻のほうが異常なんだと訴える。
それぞれの言い分は食い違い、裁判所は結局、夫の言い分を取る。
実際、見ていて夫もまあ、まともそうな人物に見えるんです。
が、物語が進むと
結局、この判断が過ちだった――ということにつきるわけですね。
ストーカー夫の危険性を見極められなかった行政によって、
少年ジュリアンも、その母も、とんでもない恐怖を味わうことになる。
ピーピーと耳障りなシートベルト着用の警告音や、
深夜になり続けるドアの呼び鈴――
独特の語り口のリアリティによって、身近なモンスターの恐ろしさが際立ち、
その顛末は、けっこうなホラーとなっていく。
一度でも、こうした経験のある人は、その傷がうずくと思う。
それほどに怖いです。
監督は短編から、この「ドメスティックバイオレンス」というテーマを追っているそう。
自身の両親も離婚しており、監督自身は暴力を経験していないそうだけど
難しい家庭環境をよく知っているんだなあと思う。
どんな過去があるのか、
深く聞いてみたくなってしまうのでした。
★1/25(金)から新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。