ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

胸騒ぎのシチリア

2016-11-19 23:08:01 | ま行

ティルダ・スウィントンが
キレイだ~


「胸騒ぎのシチリア」68点★★★★


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のどを痛めた
ロック歌手のマリアン(ティルダ・スウィントン)は
シチリアの美しい島で
年下の恋人(マティアス・スーナールツ)と穏やかな日々を過ごしていた。

が、そこに
元カレのハリー(レイフ・ファインズ)が乱入してくる。
しかも、カレは娘だという
セクシーな娘(ダコタ・ジョンソン)を連れて来た。

静かな島で、4人の関係が
少しずつ変化し始め――?


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「ミラノ、愛に生きる」監督が、
再びティルダ・スウィントンを主演に描いた恋愛劇。

元ネタは
アロン・ドロン主演の「太陽が知っている」(69年)。
(「太陽がいっぱい」ではなく。すみません未見ですが)

シチリアの島を舞台に
ロック歌手(ティルダ・スウィントン)と年下の恋人、
歌手の元カレと、その妖艶な娘の四角関係?を描いていて、

まあなんといっても
ナチュラルにセレブライフを送る
ティルダ・スウィントンの中性的な魅力が抜群。

「ミラノ~」では完璧な上流階級ファッションだったけど
今回はロックスターのセレブ役なので
上品でシンプル、ラフな感じも漂っていてオシャレ。

デザインは元ディオールのラフ・シモンズだそうです。

余談ですが
つい先日、来年1月公開の「ドクター・ストレンジ」を試写で見たのですが
ティルダ・スウィントンが最新の映像技術のなかで
魔術師の”マスター”をこれまた美しく演じていて
なんでも演じられる俳優ってすごいなあと改めて思ったり。


ただこの映画、
物語が動くのがかなり後半で
それまでしゃべりっぱなしのレイフ・ファインズに
付き合わなければいけないのが、正直しんどい(苦笑)

ワシ、「イタリアは呼んでいる」もそうだったんですが
イタリアで、おしゃべりをしまくる男、という
シチュエーションがどうも苦手らしい(苦笑)

まあ陽気なキャラで
いいんですけどねえ・・・。


★11/19(土)から新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国で公開。

「胸騒ぎのシチリア」公式サイト
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カレーライスを一から作る

2016-11-18 23:57:43 | か行

ワシは、野菜カレーでいいです(笑)


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「カレーライスを一から作る」70点★★★★


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「グレートジャーニー」の探検家、関野吉晴氏が
武蔵美で「カレーライスを一から作る」ゼミを開催。
その様子を追ったドキュメンタリーです。


一から作るって
野菜、米、スパイス、もちろん肉も・・・です。

なぜ、そんなことをするのか?

関野さんは
「ものごとの“最初”を探ると、社会が見える」と言う。
学生たちはそんな関野さんに連れられて、
おっかなびっくり畑を耕し、米を作り、
ニンジンやスパイスの種をまくんですね。

さらにカレーを入れる器も自分たちで焼き、
塩までも海に取りに行く、という念の入れようで(笑)


最初は
「なんで、美大来て、畑耕してんの?」と(笑)
ボヤいていた学生たちが
だんだんたくましくなっていく様子も伝わり


本作は
世界を旅し、さまざまな知見を得たマスター=関野さんの見ている世界を
紹介する映画でもあり、
学生たちの成長を追うものでもあるんだなと感じます。


そしてやっぱり一番の山場は
“屠る”問題。

学生たちはヒナから育てた鳥を
食べるか食べないかで議論することになる。

観客も彼らとともに
命と向き合い、自分たち人間のエゴと向き合い、
“無感覚”だった自分と向き合うことになるわけです。

そうしていくうちに確かに
いろんなことが、見えてくるような。


『AERA』11/14号で
関野吉晴さんと前田亜紀監督にインタビューさせていただきましたが
前田さんが
「ポーカーフェイスで(鳥に向き合ってた)子も
後で話を聞くと『何も憶えてない』って言うんです」
とおっしゃった言葉が印象的でした。

“体験”の重みをかみしめられたような。

それに武蔵美の学生たちが
なんとも“素朴”なのが実にいいですね(笑)


★11/19(土)からポレポレ東中野ほか全国順次公開。

「カレーライスを一から作る」公式サイト
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灼熱

2016-11-17 23:51:47 | さ行

カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞受賞。


「灼熱」70点★★★★


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1991年、夏。

隣合う村に住む
セルビア人の娘イェレナ(ティハナ・ラゾヴィッチ)と
クロアチア人の青年イヴァン(ゴーラン・マルコヴィッチ)は恋人同士。

しかし
クロアチア国内での民族対立が悪化していた。

二人は村を出て、都会へ引っ越す計画を立てるが
イェレナは兄から
「絶対に家から出るな」と言われ、監禁されてしまう――。


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1991年、クロアチア紛争の勃発前夜。
2001年、紛争終結後。
そしてその10年後の2011年。

20年のあいだに
クロアチアとセルビアの間に起こった出来事を、
それぞれの時代を生きる一組の男女の関係を描くことで
紡いでいく作品。


おもしろいのは3つの時代ともに
同じ俳優が主人公なんだけど
それぞれの時代で別の人物を演じている、という点。

こういう構成だと知らずに見たので
最初はちょっと混乱しました。

こういう方式でも
それぞれの時代の主人公に
因果関係のストーリーがあったりすることが多いんだけど

ここでの縦糸はあくまでも
「紛争」。


主演の男女俳優二人がとてもよいし、
それぞれの時代のエピソードに余韻が残るので
もっとそれぞれの話を
じっくり見たかったなあという気もする。

でも
それが監督の狙いなのかもしれん(笑)

こういう方法もアリ、ですかね。

クロアチア紛争について、じっくり学びたくなるし

争いや衝突のむなしさを
荒れ果てた村や朽ちた建物で表現する方法もいい。
音楽もすごく効果的に使われています。

なにより
土地の風や自然、常にさりげなくいる動物たちが
作品を貫く、一本の太い軸糸に感じました。


★11/19(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。

「灼熱」公式サイト
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ブルゴーニュで会いましょう

2016-11-16 18:59:11 | は行

ワイン勉強中の身には
ことさらにおもしろい。


「ブルゴーニュで会いましょう」69点★★★★


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ワイン評論家として成功したシャルリ(ジャリル・レスペール)は
姉から実家に呼び戻される。

父(ジェラール・ランヴァン)が経営する
実家のワイナリーが経営難で
人の手に渡りそうだというのだ。

父と不仲だったシェルリは
悩んだあげく、ワイナリーを継ぐ決意をするが――?


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日本ではボルドーよりも人気が高いと聞く
仏のワイン名産地、ブルゴーニュ地方を舞台にしたドラマ。

ブルゴーニュが舞台になった映画って
いままでなかったそうで
へえ!と思いつつ、興味深々。

父と不仲だった息子が、実家のピンチに帰郷し
ワイン作りを始める――というストーリーで
父子の確執、畑やブランドを守る大変さに
主人公の恋模様が加わる。

ドラマは割に軽めでシンプルなんですが
直球にワインが絡むので
やっぱりワイン好きには勉強になるし、おもしろい。

アロース・コルトンの特級畑の隣人事情や
ブドウの収穫タイミングが
「種を噛んでリコリスの味がしたら」とか
「ほお~」って感じでした。

ブルゴーニュのワイン農家の娘が
オレゴンのワイン農家の息子と結婚する…という設定もなるほど。
オレゴンはブルゴーニュ同様、ピノ・ノワールの優良産地だもんね~。

隣家とのちょっとフクザツな恋愛事情も
フランスならありそうだなあと(笑)

公開時期もなんともいいタイミングだし
鑑賞後に一杯、のコースがぜひおすすめです。


★11/19(土)からBunkamura ル・シネマほか全国で公開。

「ブルゴーニュで会いましょう」公式サイト
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聖の青春

2016-11-13 23:07:56 | あ行

地味でも、真摯に撮る。
心意気を感じました。


「聖の青春」70点★★★★


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1994年、大阪。

大阪の路上で倒れていた青年が
近所の人の助けで、将棋会館に運び込まれる。

彼の名は村山聖(さとし)(松山ケンイチ)。
“西の怪童”と呼ばれるプロ棋士だ。

彼は幼いころから
腎臓の難病ネフローゼを患い
自由の効かない身体と闘いながら
「名人」のタイトルを目指して進んできた。

しかし、そんな彼の前に
同世代の天才棋士・羽生善治(東出昌大)が立ちはだかる――。


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あの羽生善治氏を追い詰めた伝説の棋士、
村山聖(さとし)の人生を描いた作品。

村山氏は
人気コミック「3月のライオン」のあのぽっちゃりした二階堂氏の
モデルともされている棋士です。


で、映画はというと
あえて地味でも“真摯に撮る”
そんな覚悟を感じました。


頭の中が戦場、という
将棋の試合は映像にしにくいと思いますが
実際、映画でも
将棋の駒が派手に飛ぶようなこともなく
心理戦をCGで表現するようなこともない。

それでも
将棋を知らないワシでも
棋士の思考の深みを、少しのぞくことができた気がした。


松山ケンイチ氏の熱演で
“西の怪童”と呼ばれた村山聖という人が
非常に人好きのする、チャーミングな人だったんだなということも
よくわかりました。

松山氏は
一説には体重を20キロも増やして(!)、役に挑んだそうですが
体型だけでなく
無法さ、純真さが垣間見える
村山氏の黒目がちな目の演技まで渾身。

さらに
東出昌大氏演じる羽生名人が激似!(笑)
これはずるい!というほどですよ。
まあ東出さんは相当な将棋好きで羽生ファンだそうで
これはしかたないですね。


村山氏が最大のライバルとしていた
羽生さんとの対決シーンには涙がにじみました。

『週刊朝日』11/4号で
羽生善治さんと松山ケンイチさんの対談を取材させていただいたのですが

※ここから抜粋が読めます。

本当に村山さんと羽生さんの間には
「底で通じていた」感があったみたいで
なんだか、さらにグッと・・・(涙)


原作の『聖の青春』(大崎善生著、講談社文庫)も
アッという間に読めるおもしろさなので
おすすめです!


★11/19(土)から全国で公開。

「聖の青春」公式サイト
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