ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

オーバー・フェンス

2016-09-14 23:46:55 | あ行

日本には
いい俳優さんがいっぱいいる、と
嬉しくなるなあ。


「オーバー・フェンス」74点★★★★


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白岩(オダギリジョー)は
地元・函館で職業訓練校に通っている。

同級生の代島(松田翔太)に誘われても付き合いもせず、
実家にも寄りつかず、
一人アパートに帰る日々。

そんなある日、彼は道で
連れの男に鳥の求愛ポーズを踊ってみせる
不思議な女(蒼井優)に出会う。

その後、代島に誘われて行ったキャバクラで
白岩は女と再会するのだが――。


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山下敦弘監督×「海炭市叙景」「そこのみにて光輝く」に続く
佐藤泰志原作。

「海炭市~」「そこのみにて~」どっちも好きなんですが
本作はもっとも重暗さがなく

トボトボな感じやユーモアが
優しい光を放っていて、好きだなあと思いました。

なんといっても
ゆるーくダメ~な感じの男・オダギリジョーのやわらかさと
それでいて“過去アリ”な雰囲気が
とてもうまくて味がある。

「ここぞ」というときの対応も
これまた氷のように「ヒャッ!」とする冷や水の浴びせ方で。

それに
職業訓練校の男連中の
ユーモラスさ、だるーい感じもいい。
でもみんな過去アリ、訳アリ連中なもんだから、
腕っぷしは強かったりね(笑)

唯一、難しい要素が
蒼井優が演じる女性の危うさだけど
ギリギリ許容範囲を保っている・・・のではないでしょうか。


★9/17(土)からテアトル新宿ほか全国で公開。

「オーバー・フェンス」公式サイト
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怒り

2016-09-12 23:42:39 | あ行

俳優を
こういうふうに使ってくるとは――!


「怒り」79点★★★★


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ある夏の暑い日に
八王子で起きた残忍な殺人事件。

現場には血で「怒」の文字が書き殴られていた。

犯人が捕まらないまま1年が経ち、
3つの場所に、3人の男が現れる。

このうちの誰かが「その男」なのか?
いや、そもそも関係ないのか――?


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吉田修一原作×李相日監督の「悪人」(10年)コンビが再タッグ。

綾野剛、森山未來、松山ケンイチ、妻夫木聡氏という
豪華キャストなんですが

その人選に「うほう!」という
重要な意味があるので
実に面白い。


ミステリー好きにおすすめできるし
ぜひ、予備知識ナシで見ていただきたいです。


ネタバレにはならないけど
ちょっと紹介しちゃうので、ご注意――。
(って、公式サイトなどでもこのへんは全然紹介されてるか)




映画は
一見、まったく無関係そうな人々の、
それぞれの話で始まっていくんですね。

千葉の漁師(渡辺謙)と娘(宮﨑あおい)。
新宿二丁目で一夜の相手を求めるエリート青年(妻夫木聡)。
沖縄に引っ越してきた女子高校生(広瀬すず)。

そこにそれぞれ
3人の男が登場する。

千葉の港に流れてきた男(松山ケンイチ)。
エリート君と出会う青年(綾野剛)。
沖縄の島に住み着く男(森山未来)。

この3人のうちの誰かが
過去に「事件」を起こした人物かもしれない――というのが
ミステリーになっていくんです。


細かくカットを刻みながら
3つの話が群像劇で進み
それぞれが「不穏」や「不審」「不安」で同時に転調する。


3人の誰が「その人物」なのか?
いや、そもそも関係ないのかも――?

翻弄されつつ、だんだん3つの話がつながり
大きなうねりとなっていく。

これが醍醐味ですねえ。



タイトルの「怒り」も重要なキーワードなのですが
それよりも「信じること」がテーマかな、と感じました。

しかしこれをハリウッドで作るとすると
キャストは誰だろう。
いや、向こうでは使えない手かも――?
とか考えるのも、また楽し。


★9/17(土)から全国で公開。

「怒り」公式サイト
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グッバイ、サマー

2016-09-06 23:25:53 | か行

思わずニッコリする
珠玉の“少年ひと夏モノ”!


「グッバイ、サマー」77点★★★★


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ダニエル(アンジュ・ダルジャン)は
絵を描くのが得意な14歳。

しかし女の子のような容姿ゆえ
クラスメイトからはバカにされている。

そんなある日、転校生のテオ(テオフィル・バケ)がやってくる。

改造自転車を乗り回す、風変わりなテオとダニエルは
はみ出しモノ同士、意気投合。

二人は
“夢の車”を作って、冒険の旅に出ることに――?!


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「エターナル・サンシャイン」(04年)の
ミシェル・ゴンドリー最新作。

監督の自伝的要素を多分に含んでいるそうで
思わずニッコリ微笑んでしまう
珠玉の“少年ひと夏モノ”です。


主人公のダニエル少年の
「みんなと違って浮くのはイヤだ。でも人と同じなのもいやだ」というセリフに
ずきゅーんときましたが(笑)

まさに、自己形成の過程、自意識と実態のさだまらない
思春期の“あの瞬間”を
見事に掴まえていると感じました。


そんな14歳の胸中もですが、
少年たちのイタズラやじゃれ合いが、マジで楽しそう(笑)
彼ら目線のワクワクを、こんなに忠実に描ける大人はそういないですよ。


しかもですね、
少年たちがモヤる現実を飛び越え、
冒険に出る手段を「自分たちでハンドメイドする」という
このビルド感がたまらないんですよ。

「僕らのミライへ逆回転」(08年)が好きな人は、好きだと思うなー。

彼らが作る究極の「動く家」の造作には爆笑必至です(笑)

主人公の指南役となる
テオ役の少年もすごくよくて。

甘酸っぱくて、笑えて、
自分も通った「あの場所」を振り返られるような
いい映画です!


★9/10(土)からYEBISU GARDEN CINEMA、新宿シネマカリテほか全国で公開。

「グッバイ、サマー」公式サイト
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アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲

2016-09-03 23:58:10 | あ行

フランス人って、ほんとによくしゃべるわなあ、と(苦笑)

「アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲」68点★★★☆


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映画音楽作曲家として成功を収めている
アントワーヌ(ジャン・デュジャルダン)は

ボリウッド版「ロミオとジュリエット」の製作のため
インドに招かれる。

着いた早々の晩餐会で
彼はフランス大使の妻アンヌ(エルザ・ジルベルスタイン)と出会う。

初めは衝突していた二人だが
次第に意気投合。

そしてアントワーヌはアンヌのある旅に
同行することになり――?


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「男と女」(1966年)から50年(!)

クロード・ルルーシュ監督×フランシス・レイ音楽が再タッグした
新たな男と女の物語です。

監督は75歳でインドに行き、
その土地に魅了されたそうで

インドの魅力がたっぷり詰まってるし
若々しさにびっくりするし
特に後半~クライマックスは大人な展開でいい。

しかし、ともかく導入部分、
男女の出会いのところにまったくときめかず
ちょっとハマれなかったんですよ(笑)

「アーティスト」のジャン・デュジャルダンと
「ずっとあなたを愛してる」のエルザ・ジルベルスタインと
役者もいいんですが

初っぱなから攻撃的なおしゃべりを繰り出す二人が
意気投合していくように全然思えなくて、
「男と女――え?この二人の話なの?」と笑ってしまった。

しかも突然過去のシーンになったり、
夢シーンがはさまるので、
慣れるまで見づらかったのもある。

ただ、
音楽はさすがだし、
アンナが会いに行く聖者アンマ、も本人出演。
このアンマさんの大きさ、包容力は
見るだけでヒーリング効果があり、なんか涙がポロッとしました。


★9/3(土)からBunkamura ル・シネマほか全国順次公開。

「アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲」公式サイト
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アスファルト

2016-09-02 03:17:50 | あ行

プッと吹き出す、おかしみたっぷり。


「アスファルト」73点★★★★


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フランス郊外にある
オンボロ団地。

一人暮らしの中年男(ギュスタヴ・ケルヴァン)は
エレベーター修繕の話し合いで
「自分は2階だから、エレベーターは使わない」と協力を拒否する。

10代の少年(ジュール・ベンシェトリ)は
引っ越してきた自称・女優の女(イザベル・ユペール)と出会う。

NASAの宇宙飛行士(マイケル・ピット)は
なぜか団地の屋上に不時着してしまい――?


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フランス郊外のオンボロ団地を舞台に、
三つの話が同時進行する。

淡々と低空飛行なのに退屈知らず。
フツーの日常なのに、なにかヘン。

小さくとも愛おしく、
プッと吹き出しながら、見入ってしまう作品です。


壊れたエレベーターを修繕しようという住民集会で
「オレは2階だから、エレベーターは使わない」とのたまい
「じゃあ、アンタは費用を払わなくていいから、使わないでくれ」となり
その結果、エライ目に遭うことになる中年男とか(笑)

NASAの宇宙飛行士と
団地のおばあさんのかみ合わない会話とか(笑)

アキ・カウリスマキ監督を彷彿とさせる――と
言われているそうで、なるほど。
ワシはベント・ハーメル監督
「さよなら、人類」のロイ・アンダーソン監督っぽいかなあとも感じました。

それにイザベル・ユペールや、
イタリア&フランス映画好きにはおなじみの
ヴァレリア・ブルーニ・テデスキら

キャストが映画のスケールと全然そぐわず(失礼!)
妙に豪華なのも、また愉快というか(笑)

プレス資料の表紙が
イメージぴったりでしたよ。


★9/3(土)からヒューマントラストシネマ有楽町ほかで公開。

「アスファルト」公式サイト
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