ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

暮れ逢い

2014-12-16 23:30:33 | か行

メロドラマだけど節度がある。
これが、逆にムラっとさせるんだなあ(笑)


「暮れ逢い」70点★★★★


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1912年、ドイツ。

青年フレドリック(リチャード・マッデン)は
実業家ホフマイスター(アラン・リックマン)の会社に
新入社員として採用された。

ホフマイスターは若く才気に富むフレドリックに目を掛けるようになり、
彼を屋敷に招き入れ、
自分の右腕になるよう指示する。

しかしフレドリックは屋敷で
ホフマイスターの若き妻
シャーロット(レベッカ・ホール)に出会い――。

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「髪結いの亭主」パトリス・ルコント監督作品。
しっとり、染みました。


社長に気に入られた若者が
若い社長の妻に出会い、叶わぬ恋に身を焦がす。

互いへの想いを確認し合ったものの
戦争が二人を引き裂き……


何度も繰り返されたようなメロドラマなんだけど
じりっじりするんだけど、
情熱と節度の間がいいね。
修羅場なドロドロとは無縁なのもいい。

キーパーソンであるアラン・リックマンが
老いを自覚し、先を予感しつつも
しかし達観しきれない揺れる“枯れ心”を表現。

若者たちの暴走を抑える重しになっていて、しびれますわあ。

印象的だったのが
戦争から戻ったフレドリックが
霧の中、富豪の屋敷にたどり着くシーン。

ここから先は夢か、幽霊話かも……と思わせる
ラストへの流れも好きですねえ。


★12/20(土)からシネスイッチ銀座ほか全国順次公開。

「暮れ逢い」公式サイト
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百円の恋

2014-12-15 20:24:46 | は行

痛快!今年の邦画ベストかも。


「百円の恋」79点★★★★


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32歳の一子(いちこ、安藤サクラ)は
実家の弁当屋を手伝いもせず、
ダラダラと自堕落な日々を送っていた。

そんな一子に
出戻りの妹がブチ切れて、大げんか。

勢いで家を出た一子は
全品100円のコンビニでバイトを始める。

そこで一子は
ボクサー(新井浩文)と出会うのだが――。


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痛い、のはいろんな意味で痛いんだけど
でも笑えて、快い。

これぞ痛快、ってやつかなあと思う。


「0.5ミリ」のサクラさんもすごくよかったけど
何が違うかなといえば
あちらは楚々と美しくもあったこと。

こちらの安藤サクラは、マジで、底(笑)。

プーの32歳女の
モラトリアムすら捨てた感じも

バイト先の店長や店員、ホームレスたち登場人物の
いかにもいそうなヤバさ加減も
ねとっとして、マジな感じ。


しかも、この底っぷり捨てっぷり、ヤバイっぷりが
絶妙な絵と間で、かなり笑えるんですねえ。


一子が脚を投げ出して寝てるシーンが写っただけで
笑いが起こり

一子が肉を必死に食べるシーンとか
おかしくて体がゆさゆさ揺れた。周りもさざ波のように揺れてた(笑)


ボクシングにマジになっていく姿も
「一念発起!」とかじゃない、
立ちのぼる怒りや怨念を感じて、すごい迫力だった。


なんとなくこの主人公みて
しずちゃん(南海キャンディーズ)を思い浮かべちゃうのは
きっと大勢がそうなのではないかと思うのでした。


★11/15(土)からMOVIX周南ほか、山口県内先行公開中。
 12/20(土)からテアトル新宿ほか全国順次公開。

「百円の恋」公式サイト
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ベイマックス

2014-12-14 22:27:13 | は行

「アナ雪」のディズニーが贈るアニメーション。


「ベイマックス」69点★★★★


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14歳のヒロは
自作ロボットを自在に操る天才少年。

しかしある日、彼は
唯一の身内で理解者だった
兄のタダシを謎の事故で失ってしまう。

失意のヒロの前に
兄が作ったケア・ロボット“ベイマックス”が現れて――?


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ベイマックス、ぼよんぼよんでかわいいけど、
思ったより「癒し系」話じゃなかった。

天才少年と仲間たちが悪に立ち向かう
ヒーローものだった。

もっとケア・ロボットという題材を
別方向に生かした話なのかと思っていたので
ちょっと想像と違ってはいた。

んで、この点数になったけど、
絵も話もクオリティはさすがのレベルだと思います。


舞台はサンフランシスコと東京を掛け合わせたような街で
登場人物は日本名。

ベイマックスの顔は“鈴”からデザインされたらしいし、
(なーるほど!笑)

ロボコン(あのロボコンも、ロボットコンテストのロボコンも両方だな)的エッセンスといい
あちこちに“JAPAN”が盛り込まれ、
リスペクトしてくれてるのはすごくわかる。

わかるんだけど、これって
実はビミョーに
日本人が見て嬉しい感じのセンスではないんだよなー(笑)。

そこが「パシリム」と違う点つうか。

作品としては
「Mr.インクレディブル」(04年)に
最も近い感じしました。


★12/20(土)から全国で公開。

「ベイマックス」公式サイト
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幸せのありか

2014-12-11 23:56:37 | さ行

きっと想像と違うと思う。
けっこうおすすめ。


「幸せのありか」72点★★★★


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1980年代のポーランド。

体が不自由で、言葉を発することができない幼いマテウシュは
医師から「植物のような状態」と言われたが
家族の愛情を受け、成長していく。

だが、大人になったマテウシュは
あるとき病院に入れられてしまい――。

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実話から生まれたポーランド映画。

障害を持った少年が人々と出会い、成長していく・・・というストーリーなんですが

泣かせ映画じゃなく、甘くもなく。
意外なラストに、満足感が残る。

まずは

「潜水服は蝶の夢を見る」
をイメージするとよいかもしれません。



脳性麻痺の障害を持った主人公マテウシュ。

体を自由に動かせず、声を発することもできない彼は
医師から「知的障害があり、こちらの話も通じていない」と診断されている。


本人の内なる声が
「自分にはちゃんと通じてるんだよ」と心境をモノローグで語るんですが、
これは映画だからこその“演出”なんだろうなと最初は思うし、
当然、周囲には伝わらない。


不自由な肉体が感じさせる
もどかしさは相当なもので

ワシもはじめは言葉の通じない動物に接するがごとく、
いたわりの目で彼を見ていました。


マテウシュの一番の理解者であるパパが
障害なんて気にもせず、ほかの子どもたちとマテウシュに分け隔てなく接する様子には
本当に頬がゆるむし。


でも、優しく、悲劇が起こっていく。

パパはいなくなり
マテウュの初恋は意外な形で終焉。

やがて彼は病院施設に入れられ、
ある女性に出会うんですがこれにも悲しい結末が待っている。


が、しかし。
それでもこの映画はへこたれないんだなあ。


彼の内なる声が、実は空想やファンタジーではなかったのだと
ラスト近くでわかるのだ。

ある人物によって自分の意志を表す手段を得た彼は
解放され、
さらにその先に進んでいくんです。


決して悪気はなくとも
障害を持つ人に無意識に向けている
「大変そう」という微妙な気持ちが
クルッとひっくり返って、こちらを見返してくる感じというのかなあ。

なんか爽快感がありました。


★12/13(土)から岩波ホールほか全国順次公開。

「幸せのありか」公式サイト
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イロイロ ぬくもりの記憶

2014-12-09 23:56:52 | あ行

シンガポール映画って、こういう作品があるんだ・・・。


「イロイロ」71点★★★★


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1997年、シンガーポール。

共働きの両親を持つ
少年ジャール―(コー・ジャールー)は
小学校で騒動を起こしてばかりの問題児。

手を焼いた母(ヤオ・ヤンヤン)は
フィリピン人のメイド(アンジェリ・バヤニ)を住み込みで雇うことにする。

最初はメイドに意地悪ばかりする
ジャール―だったが・・・?

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カンヌ国際映画祭でカメラドール賞を受賞した
シンガポール映画界の“新風”
アンソニー・チェン監督の作品。


シンガポール映画って初めてかもしれない。
実際、本数もあまり作られていないらしく
ググっても出てくるのは喜劇が多い。


でも本作はまず
是枝監督っぽい、柔らかい陽光差す映像が印象的。

チラシより、このプレスの表紙が物語ってると思います。



そして
描かれるのは市民の生活。
子どもの使い方もうまい。


主役はまずまずの所得のありそうな夫と
共働きの妻、小学生の一人息子という
中の上っぽい家庭。

その3人家族のもとに
フィリピン人メイドがやってくる。


打ち解けなかった悪たれ息子とメイドとの間に
次第に交流が生まれる。

しかし夫は、実はリストラにあっていて
妻は宗教にハマったりもする。


「メイドがいるのが普通なんだ・・・」とか
「え、こんな習慣があるの?」とか
シンガポールという土地と風俗の目新しさはあるけれど
まあネタは日本のドラマと変わらない感じ。

でも登場人物たちの心理描写が
とても自然に丁寧にされ、
流れもよく、なかなか魅せる作品になってます。


なかでも
ひねくれ息子が初めてメイドに心を開く、
あのバスルームから、彼女を呼ぶシーンは見事。

心の流れにカメラがピタリと寄り添っていました。

97年の話だけど、日本のいまに妙にリンクする感じもあり。


ちなみに
“イロイロ”って原題でもあり
すごくナイスな題名ですが

これは実際、監督の家庭にいたフィリピン人メイドの
故郷の地名なんだそうです。
いいね!


★12/13(土)からK's cinemaほか全国順次公開。

「イロイロ ぬくもりの記憶」公式サイト
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