ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

これは映画ではない

2012-09-22 14:38:57 | か行

この映像、
USBに入れて、お菓子の箱に隠して
国外に持ち出されたんだって。

「これは映画ではない」66点★★★


禁止されているサッカー観戦をしたいイラン女子の話
「オフサイド・ガールズ」(06年)などで
イランの現状を鋭くユーモアも交えて描いてきた
ジャファール・パナヒ監督。

しかし監督は政府から
「反体制的な活動」だと
20年間の映画制作を禁止されてしまった。

本作は
そんな監督が悶々とし
しかしそれではすまないぞ
自分の周辺を撮ったドキュメンタリー。


冒頭、キッチンで朝食をとる自分を
固定カメラで撮った画をみて
「あ、キム・ギドクの『アリラン』に似てる」と思った。

そのカンは、まあまあ外れていなかった。

状況は違えど
映画人の「撮れない」もどかしさ、自己愛などには
やはり近いものがある。

違うのは、ユーモアが多いことと
こちらは相当いい家に住んでることかな(笑)


映画を撮ることはもちろん
脚本を書くのもダメ、おまけに禁固6年になるかもしれない状況
ひどく退屈している監督は

仲間の監督を呼び出して
「これは映画ではない」と言いながら
家族が留守な一日、カメラを回させる。

かかってくる電話の内容は先行き暗く
窓の外には銃声のようなものがたえず聞こえる(後にこの音の正体は明らかになるけど)

しかし悲壮さがないのは、
電話で彼に用事を言いつけまくる妻のマシンガントークや
同居するペット(これが意外性あり!笑)が醸し出す笑いのおかげ。

それでも
撮れないもどかしさに苦しみ、
退屈に身悶えする姿は痛々しく、

強大な力に理不尽に押さえつけられる辛さを
映し出しています。


この秋の日本は
「イラン式料理本」やキアロスタミ監督「ライク・サムワン・イン・ラブ」
さらに
「チキンとプラム」(11/10公開)と
“イラン映画祭り状態”なので

ぜひ、この状況も知っておくべきかと思います。


★9/22(土)からシアター・イメージフォーラムで公開。ほか全国順次公開。

「これは映画ではない」公式サイト
コメント (3)
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ソハの地下水道

2012-09-21 21:31:59 | あ行

本年度アカデミー賞外国語映画賞ノミネート作。
ずっしりきますぜ。

「ソハの地下水道」71点★★★★

**************************

1943年のポーランド。

ナチスによるホロコースト(ユダヤ人狩り)が行われるなか、
貧しい下水処理工のソハ(ロベルト・ヴィェンツキェヴィチ)は

連行されたユダヤ人たちの家で金目のものをいただき、
妻と幼い娘を養っていた。

あるときソハは、地下水道に脱出口を掘ろうとする
ユダヤ人たちに出会う。

誰よりも地下水道を知り尽くしているソハは
彼らに隠れ場所を提供し、
その見返りに金を受け取ることにする。

しかしそのことがソハの運命を
大きく変えることとなり――。

**************************

145分、長い!疲れた!(苦笑)
でも、この疲労感こそ狙いだろう。

暗く冷たく、臭い地下道に
隠れ続けたユダヤ人たちの苦労は
こんなものではないんだから。

実話をもとにした物語で、
決して完全なる善人ではないソハが
成り行きからユダヤ人らをかくまうことになる。

映画はソハの善意を美化することもなく進むので、
「いつナチスに見つかるか?」「いつソハが裏切るか?」など
予測不能で
常に緊迫感が絶えない。

さらにホロコーストたちの
セックスも含めて生々しい生が描かれているのが本作の特徴かな。


ソハの行動は宗教や信念に基づくわけではなく、
あくまでも「反射神経」なのだと思う。


損得抜きで「ほっとけない」とか
自分でも思ってもいないような
ピュアな動機に突き動かされることがあったり、

反転して、いきなり見放したりとか。

そして、それが
意外に人間の真理なのではないかなと。


そんなソハとユダヤ人とつなぐのは、
今にも切れそうな一本の細い糸なのだ。

それは良心なのか、それとも・・・。

映画なのにすさまじい臭気が漂ってくる気がする
気概に満ちた作品です。


★9/22(土・祝)からTOHOシネマズシャンテほかで公開。

「ソハの地下水道」公式サイト
コメント (2)
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ロック・オブ・エイジズ

2012-09-19 23:21:01 | ら行

かなり大味なんですが
いや、いいっすもう。ウケました(笑)

「ロック・オブ・エイジズ」73点★★★★


**************************

1987年、米・オクラホマの田舎娘シェリー(ジュリアン・ハフ)
歌手を夢見てハリウッドに上京してくる。

だが、バスを降りた早々、
荷物を盗まれて大弱り。

助け舟を出したのは
伝説のライブハウス「バーボンルーム」で働く
やはりミュージシャン志望の青年ドリュー(ディエゴ・ボネータ)。

ドリューのおかげで
「バーボンルーム」でバイトすることになったシェリーは
憧れのロックの神様ステイシー(トム・クルーズ)に出会うが
彼はすっかり酒浸りになっていて――?!

**************************

トム・クルーズがキレキレに歌う!
誰もが踊り出す!なロックミュージカル。

これはもうね、観たいもの見せてもらいました(笑)

主役は歌手志望の若いカップルで、
トム氏が主役ではないんだけど、
そのスターの存在感と声は存分に楽しめます。

しっかしトム先生は本当に勤勉なのだろうな。
意外に高音で、うまくロックしてました。
(見てさっそく、iPodにダウンロードしました。笑)


若い二人に、かつてのロックの神様
彼とロックを敵視する市長夫人(キャサリン・ゼダ=ジョーンズ)と
伝説のライブハウスの存在問題が絡み合う話で、


まあエピソードはどれも中途半端なんだけど
80年代ロックなノリがホントに笑っちゃうくらい楽しい!


タイトルは知らなくても、聴けば知ってる曲がほとんどで
「ここでこの曲か!」と笑いが込み上げる。

トム・クルーズの妖しさとエロさ満点の
ロッカーぶりも予想越え。

ただストーリーが弱いので
ライブ映像を見てるような盛り上がり、といえばそうなんですけどね。

まあこれだけ楽しませてもらったし、
ポール・ジアマッティの歌声まで聴かせていただいたし。

ま、いっか!(笑)


★9/21(金)から全国で公開。

「ロック・オブ・エイジズ」公式サイト
コメント (2)
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人生、いろどり

2012-09-18 22:06:36 | さ行

ひねってるようで、直球なタイトル(笑)

「人生、いろどり」69点★★★☆


************************

徳島県・上勝町。

四国のなかでも人口が少なく
どん底にあえぐこの町で
ミカン農家の薫(吉行和子)や、唯一の雑貨店を営む花恵(富司純子)らは
細々と暮らしていた。

そんな町をなんとかしたいと考える農協職員の江田(平岡祐太)は、
繁華街の居酒屋で、ある光景を目撃する。

それは料理のいろどりに添えられた葉っぱを
「カワイイ」と持ち帰るギャルたちの姿。

「――これだ!」

江田は山々にいくらでもある
葉っぱを売ろうと提案するが――?!

************************


葉っぱをお金に変えるビジネスを成功させた
徳島県のある町の実話に基づく物語。

有名な話で知ってる人も多いだろうし、
どちらかというと興味があるのは
「どうやって成功したの?」というサクセス話かなと、
そういう方向かなあと思ったんですが、

あまりそっち系ではなく
田舎で女性がなにかを始めようとするときの
大変さに焦点が当てられていて
意外性もあり、いいと思いました。


暴君夫(といっても田舎の農家じゃ、こんなのは当たり前だろう。笑)役の藤竜也氏が
憎めず、でも女性たちを威圧する役で
スパイス効いてるし。

それにしても
最近は「道の駅」や「直売所」でヒット商品を生み出したり、と
農家の女性が活躍する話も聞くようになったけど

この映画を見ると、ホントに大変だったんだなと思う。

なにせ自分の通帳も持ってないんですからねえ。

また中心となる三人の女性(吉行和子、富司純子、中尾ミエ)に、
それぞれ共感できそうな境遇があるのもいい。

特に吉行和子さん、
相当なメークダウンで頑張ってました。


ただ、
ビニールハウスが火事になったり
ダンナの新事業がポシャったりと起こる事件が
おおかた予想通りなのは残念だった。

タイトルと同じく、
お話にもうちょっと練りが必要だったで賞。


★9/15(土)からシネスイッチ銀座ほか全国で公開。

「人生、いろどり」公式サイト
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天地明察

2012-09-17 16:25:07 | た行

思ったより、よかったんだけど
キレイすぎるし、長いんだ。

「天地明察」67点★★★

*************************

今から400年ほど前の江戸時代。

安井算哲(岡田准一)は、
天体観測と算術が大好きな青年。

神社の境内に掲げられた、顔も知らぬ好敵手からの問題を
必死に解いたりする日々。

あるとき、その情熱が認められ
算哲は各地を旅し、北極星の高度を図る仕事を命じられる。

1年半にも及ぶ調査のあいだに
算哲は
800年前に制定された暦が、
ズレ始めていることに気づく。

暦のズレは農作業のタイミングなどにも影響を及ぼし、
人々の暮らしにも影響する。

算哲は暦を改めることを進言するが、
しかし、そこには多くの壁が立ちはだかり――?!

*************************


「おくりびと」滝田洋二郎監督が

実在の算術家の功績を描いた
沖方丁のベストセラーを映画化したもの。


算術好きの青年が
天文への情熱から世の中を動かし
周りの人々も彼を支える、といういい話で、

まっすぐな主人公に
それを支えるよき女性(宮崎あおい)

天才数学者(市川猿之助)との
絵馬を介した算術勝負や
天体好き老人コンビ(笹野高史、岸部一徳)のユーモアなどが散りばめられ、

安定感抜群。


同じ意思や目的でつながる善き人々の仲間意識やほんわか笑い、
苦難の共有という点で
「おくりびと」に似てもいて、

一種の「おしごとシリーズ」ともいえますな。


ただ143分は長い!

それにすべてがキレイすぎるんだな。

たとえば暦の改暦をめぐるある勝負は
3年かけて行われたりするんですが、
その間の時間の経過や苦労に、重みがない。

一度、日食のタイミングをはずしたら
次は10年後――とかな世界なのに
誰も年もとらないし、ボロッちくなってない(笑)

いくらなんでも、ちょっとファンタジーじゃないか?と(笑)

まあそうした部分は
あえてバッサリ削ったんだと思いますけどね。


若い世代に歴史と数学に興味を持たせるには
とてもよい作品でしょう。

それに市川猿之助氏がよかったな。


★9/15から全国で公開。

「天地明察」公式サイト
コメント (2)
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