ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

アリラン

2012-03-02 23:23:45 | あ行

キム・ギドク監督、3年ぶりの新作。
ちょっと「監督失格」(平野勝之監督)との
相似点を感じました。


「アリラン」68点★★★☆


オダギリジョーが出演した「悲夢」(08年)の
撮影中に起きたある出来事から
映画を撮れなくなってしまったキム・ギドク監督。

そんな彼が山小屋にこもって暮らす自分の姿を
ドキュメントした“自己治療映画”です。


雪積もる山小屋の中に
テントを張って独り暮らし、

炊飯器でご飯を炊いて
キムチと一緒にモシャモシャ食べる。

夜になると誰かがドアをノックするのだが、
何度見に行っても誰もいない……。

そんな暮らしを自分で撮影し、
自ら「キム・ギドク、お前は何をしている?」と問いかけ、独り語りする。


「撮りたいけど撮れない。しかし撮らずにはいられない」
そんな狂おしいまでの作家の業が
なんとか彼を生かしているのだとわかる。

そしてそこにある
自尊心、なにより強烈な自己愛には
わかっていながら失笑してしまう。


彼の状態は明らかに躁鬱で、
カメラを回せるようになるまでは
相当に苦しんだらしい。

「撮ることで幸せになれるかもしれない……」

そう自分を奮い立たせ、自分自身に話し続ける姿は、
応援したくもあり、
しかし強烈な自己愛に、正直鼻白みもする。


しかしながら
その強烈な自我は
時間が経つと思ったより、心に残っているんですね。

なんでもないオヤジ(自分)を撮っているのに
ちゃんと鑑賞に堪える“美”があるのは
さすがキム・ギドクという感じもするし。


中学に行かずに工場で働いたという彼が、
自分でエスプレッソマシンを作ってしまうのには驚きました。


★3/3(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。

「アリラン」公式サイト
コメント
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