goo blog サービス終了のお知らせ 

ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

2重螺旋の恋人

2018-08-02 23:47:28 | な行


オゾンさまの怖さがまたひとつ(苦笑)


「2重螺旋の恋人」70点★★★★


****************************


パリに住む25歳のクロエ(マリーヌ・ヴァクト)は

原因不明の腹痛に悩まされていた。

 

婦人科で「異常なし」とされた彼女は

精神分析医のポール(ジェレミー・レニエ)を訪ね、治療を受ける。

 

やがて二人は恋に落ち、一緒に暮らし始める。

 

が、そんなある日、クロエはポールに瓜二つの男を見かける。

ポールに問いただすが、彼は「自分に兄弟などいない」という。

不信に思った彼女は
こっそり、その男のもとを訪ねるがーー?!


****************************


フランソワ・オゾン監督の最新作。

恋人と瓜二つで、しかしタイプの違う男に出会い、

その二人の間で引き裂かれつつ

自分もいろいろ問題を抱えている・・・というヒロインの話で


双子、過去の事件、原因不明の腹痛、母親との確執などなど

まあ病理と不穏の要素がごそっとつまった「めまい」的サスペンス。



でも、そんな素材の割には、話は割とわかりやすい。
映像のイメージも、驚くほど直截で明快。


向かう展開といい、ベタな感じもするんですが、

それは陳腐さではなく
結局、謎は残りまくりだったりする。

その加減が最大のミステリーですわ(笑)

 

しっかし
少年のように華奢で、女性性を感じさせない主人公に、

(オゾン監督の「17歳」(13年)のあの彼女。ふむ、いい感じでオゾン好みに育ってる。笑)

 

痛む腹、子宮、不感症、いなくなる猫……
オゾン監督、女も母も嫌いなのはわかるけど、
猫も嫌いなのか!(失笑)

あと、けっこうグロい描写もあり
苦手な方もいるかも・・・・・・。

あと不感症のくだりは「ニンフォマニアック」を超、思い出しました。

 

★8/4(土)ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国で公開。

「2重螺旋の恋人」公式サイト

コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

人間機械

2018-07-21 13:52:03 | な行

 

シンプルに強烈な矢を放つインド版「観察映画」。

 

********************************

 

「人間機械」70点★★★★

 

********************************

 

 

冒頭、灼熱の炉を火の粉を被りながら、かき混ぜる男が写る。

さらに、長い長い布を延々と、ひたすらたぐる男。

布の山に埋もれて、死んだように眠る少年たち。

 

ナレーションも音楽もなく

でも、次第にここが、インドの巨大な繊維工場だとわかってくる。

そして彼らの言葉から、

彼らが低賃金で12時間労働を強いられていると知る。

しかもまだ幼い少年たちも、労働力なのだ。

 

労働組合を作り、団結すれば会社と交渉できるが、

しかし、誰もリーダーになりたがらない。殺されてしまうからだ(マジで)

そして彼らは羊でいることを受け入れ、事態は何も変わらない。

 

淡々としたカメラが

強者の支配と搾取の構図を浮かび上がらせる。

 

 

それは、我々にも突き刺さる。

 

労働者の問題はどこも同じなのだ!(怒)

殺される、まではいかなくても

声をあげることで

社会的に抹殺されることなど、日本でだってあるある。

羊でいることを受け入れるのか。

人間は機械なのか。

いろんなことを考えさせる。

 

そういえば、ジャストなことに

発売中の「AERA」(7/23号)の「現代の肖像」で

深田晃司監督を取材させていただいたのですが

 

監督が中学生のときに感銘を受けたという

マーク・トウェインの『人間とは何か』に

「人間とは機械にすぎない」と書かれている部分があったんだった。

(参考に手に取ったけど、ワシには難しすぎて、読破はできなかった・・・苦笑)

 

いろいろ考えさせられつつ

もっとも興味深いことが、プレス資料を読んで判明したのでした。

 

それは

ニューデリー出身のラフール・ジャイン監督が、

実は“強者”の側にいる人間だった、ということ。

彼の祖父は繊維工場を経営していたんだそうな。

 

何も知らずに観ていたけれど

映画のなかで

「取材が終われば帰るのだろう。それとも君が導いてくれるか。ならば我々はついていくぞ」

監督が対象者に囲まれるシーンがあって

知ると余計にドスンと重く感じられた。

 

彼らは「救世主」を求めているのだ。

監督のような視点を持った人たちこそが、もしかしたら、こうした手段で

変化をなしていくことができるのかもしれない。

 

★7/21(土)からユーロスペースほか全国順次公開。

「人間機械」公式サイト

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ナチュラルウーマン

2018-02-20 23:54:13 | な行
「グロリアの青春」(14年)監督の新作。
心にギュッ!とくる。


「ナチュラルウーマン」79点★★★★


********************************


チリ、サンティアゴ。

ウェイトレスをしながらナイトクラブで歌う
トランスジェンダーのマリーナ(ダニエラ・ヴェガ)。

そんな彼女を客席から見守っているのは
年の離れた恋人オルランド(フランシス・レジェス)だ。

その夜、マリーナの誕生日をともに祝った二人は
ラブラブのまま帰宅するが
深夜、オルランドが突然、体調を崩してしまう。

そして緊急搬送された病院で
オルランドは息を引き取ってしまった。

あまりのことに呆然とするマリーナに
警官は、身分証の提示を求め、
事件性を疑う。

さらに、オルランドの元妻や息子から
連絡が入り――?!


********************************


パートナーを突然亡くしたトランスジェンダー、
マリーナの闘いを描いた作品です。

主演は自身もトランスジェンダーである
ダニエラ・ヴェガで
彼女の存在感とその説得力が、最大のキモ。

逆風の中をゆく彼女の痛みや強さが
ビシビシ伝わってくる!


予想ではもう少しユーモラスな雰囲気だったんだけど、
けっこうきっちり痛くて、

でも
「グロリア~」を思い出させるようなシーンも多々あって
やっぱりセバスティアン・レリオ監督ってうまいと思った。

痛さや現実を容赦なく
生々しく描きながらも
ユーモアと光があるんですよね。


しかしほんとにこれ、実に今日的な問題ですよ。

LGBTに限らず
"結婚”という法的な保護のないカップルは
いろいろなことを、きちんとしておかないと!っていうよい教訓。


相手が突然亡くなった場合、
マリーナのように
相手の家族に葬儀にも出席させてもらえなかったり
家を追い出されたりしてしまうことは
日本でもよくあると聞くし、

なにより、庇護者を失ってひとりぼっちになってしまう
彼女の心細さよ!


まあ、優しい理解者もいるんですけどね。

そこにまたグッとくるんだよなあ。


冒頭シーンも、何から始まるかと思えば、
「ああ、なるほど」と、ちゃんと編まれていく。

ストーリーが、流れながら巡り合っていくような
こういう編み方、海外作品はやはりうまいなあと感じます。

ときに観客の期待を
フッとかわすあたりも絶妙で、たまりません(笑)


★2/24(土)からシネスイッチ銀座、新宿シネマカリテ、YEBUSU GARDEN CINEMAほか全国で公開。

「ナチュラルウーマン」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

苦い銭

2018-02-03 14:30:10 | な行

163分で観客は、
このほの暗い路地で暮らす一人になっていく。


****************************


「苦い銭」72点★★★★


****************************


「三姉妹~雲南の子」(12年)「収容病棟」(13年)などで知られる
ワン・ビン監督が
中国・淅江省(せっこうしょう)の縫製工場で働く
人々を写したドキュメンタリーです。

2時間43分(!)をじっくり味わう
相変わらずのワン・ビンの超・観察っぷり。


浙江省・湖州は縫製工場の町で
30万人を超える出稼ぎ労働者が働いているそう。

みな
田舎から出てきて、狭い寮をあてがわれ、
コミュニティを作って暮らしている。

そんななかで
果てのない夫婦ゲンカにハラハラし
ミシンの下で布地を複雑に動かし、瞬く間に“洋服”にしていく
人々の手に感嘆し、

長時間労働に付き合い
時にウトウトしながら(ははは。笑)、

完全に自分が、このほの暗い路地の、
この場所で暮らす一人になっていく。

その感覚が
とてつもなく不思議でおもしろい。


働けど、働けど、暮らし楽にならず。
でもみんな、必死に働いている。

嗚呼、自分と同じだ、と思う。


「仕事とは、生きること」。
改めて感じつつ、
なんでか、
じんわり熱いものがこみあげてくるのでした。


★2/3(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国で公開。

「苦い銭」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

猫が教えてくれたこと

2017-11-16 14:44:43 | な行

はあ~たまらん!
これぞ猫天国!

****************************


「猫が教えてくれたこと」72点★★★★


****************************


トルコ・イスタンブールの街に暮らす猫たちを追ったドキュメンタリー。

ただ「かわいい」だけじゃなく
人と猫、そして街の関係から
さまざまが見えてくる、良作でした。


登場するのは7匹の猫たち。

カフェのテーブルを行き来し、
あちこちで上手におねだりする白茶や
かかあ天下の白黒など、みな個性豊かで


それぞれの猫についての街の人たちの解説が、
実にユーモラスで的確でおもしろい。

特に
いかついトルコ男たちが
メロッメロな様子に笑ってしまいます(笑)


今回、プレス資料にコラムを書かせていただいて
そこにも書いたんですが

ホントに街の人と猫たちの関係って
恋人以上、飼い主未満、みたいな距離感なんだよね。


最初こそ、往来で交通事故に逢いやしないか、とか
ゾッとする高所に悠々と座る様子に
ヒヤヒヤ、ハラハラしたけれど

いやあ、こういう人たちに見守られているなら安心。
自由でうらやましいなあと感じました。


猫に人生を助けられた、と話す人も少なくなくて
みんな、猫を助けているようで、猫に助けられているんだよね。

それは街においてもしかりで、
猫が住みやすい街は、人も住みやすいということ。

日本と同じように都市化が進んでいくイスタンブールで
この楽園をどう維持していけばよいのか

日本の保護猫活動事情と照らし合わせたりもしちゃって

日本のいちネコ好きとして
いろいろ考えさせられました。


来週11/20発売のAERAで
ジェイダ・トルン監督にインタビューしています。

美人で優しくて、生粋の猫LOVER!

映画と合わせてぜひご一読ください~


★11/18(土)からシネスイッチ銀座、YEBIS GARDEN CINEMAほか全国順次公開。

「猫が教えてくれたこと」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする