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ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

笑う101歳×2 笹本恒子 むのたけじ

2017-06-03 22:21:48 | わ行

101歳にパワーをもらうの巻。

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「笑う101歳×2 笹本恒子 むのたけじ」70点★★★★


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日本初の女性報道写真家、笹本恒子さんと
伝説のジャーナリスト、むのたけじさん。

ともにオーバー100歳の二人を
「天のしずく 辰巳芳子の“いのちのスープ”」
河邑厚徳監督が写したドキュメンタリーです。


笹本恒子さんは、近年メディアにもよく登場されているけれど
むのたけじさんを映像で見たのは
この映画が初めてだった。

笹本さんのお元気さ、美しさもすごいけど
(本当にお若い頃より、ますます美人!笑

やはり
むのたけじさんに圧倒されました。

朝日新聞の記者だったむのさんは
1945年8月15日に「戦争協力の記事を書いた」責任をとって新聞社を辞め、
その後、ずっとフリーで平和を訴えてきた
伝説のジャーナリスト。

映像を見ると、本当に年相応によぼっとした(すみません)
100歳のご老人なのですが
笹本さんとの公開対談でも、大学で講義をするシーンでも

マイクを持つと「カッ」とスイッチが入る。

その
血を吐くような、命を吐くような、言葉の数々。

滑舌も良く、声量もあり、
本当に別人のようになる。

その気迫とエネルギッシュさに圧倒されるんです。

監督はそんなむのさんの、
命の火が燃え尽きようとしている最期の瞬間まで、写している。

ラスト、わずかに開いた小さな瞳の淡いグレーが、
目に焼きつき、胸が詰まって、たまらない。

重く、大事なものを
バトンタッチされた気がして
様々なことを考えました。

「通販生活」公式サイト
「週刊通販生活」で河邑監督にインタビューをさせていただきました。

映画が意味するところについて、
監督、たくさん語ってくださってますので
ぜひ、ご一読いただければ!

なおこのインタビューは
雑誌「通販生活」夏号にも掲載されるそうです~


★6/3(土)から東京都写真美術館ホール、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国で公開。

「笑う101歳×2 笹本恒子 むのたけじ」公式サイト
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わすれな草

2017-04-13 23:49:07 | わ行

万国共通のリアル問題。
でも、つらくない。


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「わすれな草」73点★★★★


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ドイツ発、認知症の母と、その母を介護する父を
30代の息子が撮ったドキュメンタリー。


万国共通のリアル問題ですが
しかし悲壮感はなく、意外なほどピュアなラブストーリーなんです。


彼女の病気をきっかけに
家族がその関係を再構築してゆく様子に
あたたかい希望も感じます。

なので、警戒せずに見てほしい。


なによりまず、このお父さんとお母さんが
けっこうな美男美女カップルで
夫は数学者、母は政治活動家――という経歴が
絵的に、映画的においしい(笑)

さらに
息子が両親の昔話を探っていくと
意外な過去が出てくるのもすごい。

二人が浮気も公認の「進んだ」カップルであり、
それゆえの嫉妬や複雑さがあった・・・とか
思いがけず“普通”っぽい家庭の「裏事情」が描かれるんです。
いやあドラマチック!


もちろん美しいことばかりではないです。

美しかったお母さんが、記憶障害とともに、
信じられないスピードで老いていく。

その姿は切ないし
会話のもどかしさや、家族ならではのイラつきも、痛いほどリアルに刺さる。

きれいごとでない
介護のリアルもきちんと見えるんだけど
それでも「家族」がいる、そこには光がある。

彼らはリアル家族だけど
この「家族」はどんな形式だっていいと思うんですよ。
やがてくる未来を、
こんなふうに、感じられるのは悪くない。


70歳になってもハンサムな夫と
優しい息子にたっぷり愛情を注がれて
はにかんだようにするお母さんは、幸せものだなあと
しみじみ思いました。


★4/15(土)から渋谷ユーロスペースほか全国順次公開。

「わすれな草」公式サイト
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わたしは、ダニエル・ブレイク

2017-03-17 23:01:09 | わ行

やっぱりケン・ローチはいい!


「わたしは、ダニエル・ブレイク」79点★★★★


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イギリスのある小さな町。

59歳の大工・ダニエル(デイヴ・ジョーンズ)は
仕事中に心臓発作を起こし、
医者から仕事を止められている。

国から雇用支援手当を受けていたが
新年度の面接で、なんと「就労可能、手当中止」とされてしまった。

「仕事ができないのに、これでは収入が途絶えてしまう!」と
役所に掛け合いに行ったものの
たらい回し&複雑な手続きに、あ然。

そんなとき彼は
子どもを連れて苦境に立たされている
シングルマザーのケイティ(ヘイリー・スクワイアーズ)に出会う――。


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常に市井の立場で時代を斬り、弱者に寄り添い、
静かに強く発言する巨匠ケン・ローチ監督。

前作「ジミー、野を駆ける伝説」での引退宣言を撤回して
「まだ、描かなきゃいけない物語がある!」と作ってくれた80歳に、最大の敬意を表します。


今回は切り捨てられていく弱者と、
“現代の見えにくい貧困”がテーマ。

国を超えて、これだけ共感できることが
ホント怖いっていうか、悲しいっていうか
胸に突き刺さります。


まず、今回はいつもよりも
語り口が優しい。

主人公ダニエルは
病気なのに「手当を打ち切る」と一方的な国のやり口に納得いかず
役所に文句を言いに行き、

そこで出会った、自分よりもより困難そうな
若きシングルマザーのケイティに、思わず手を差し伸べるんです。


ダニエルとケイティの子どもたちとの
やりとりもあったかいし

ダニエルのアパートの隣人の若者たちが
見た目、めちゃくちゃワルそうなのに
すっげ気のいい奴らだったり

なんだか、泣けてくるほど、優しい。

しかし。そんな環境にあっても
ダニエルもケイティも
いざというときの助けを求めることが、なかなかできないんですよ。


なぜならば、
人間は尊厳ある生き物だから。

お役所で唯一、ダニエルに人間らしい対応をしてくれる女性が
「正直でまっとうな人がホームレスになるのを何度も見てきたわ」というように
いま「人に迷惑はかけられない」という人たちが
理不尽に苦しめられている。

だからこそ、この世界は真綿で首を絞めるように、
見えにくい貧困や辛さに覆われているのだと
胸が締め付けられるような気持ちになりました。


冒頭、ケイティの家のそばをうろつく三本足の野良犬のように、
この映画は、優しいけど、甘くない。

でも、
だからこそ、そこからの展開が
リアルな希望をもたらしてくれるんだと思います。

監督には、これからも
拳を掲げ続けてほしい。

それを見て、勇気づけられ
続く人が、必ずいますから!


★3/18(土)からヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。

「わたしは、ダニエル・ブレイク」公式サイト
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湾生回家

2016-11-11 23:47:51 | わ行

台湾という土地と人々の温かさが、沁みる・・・(泣)


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「湾生回家(わんせいかいか)」70点★★★★


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1895年から1945年まで
日本に統治されていた台湾。

その台湾で生まれ育ち
しかし敗戦によって、日本へ強制帰還させられた
「湾生(わんせい)」と呼ばれる日本人の人々を
台湾の監督が追ったドキュメンタリーです。

まさに「海角七号 君想う、国境の南」で
描かれた背景ですな。


映画は数人の湾生たちに密着し、
その人生と現在を追っている。

湾生の人々はみんな故郷の台湾に恋い焦がれているような感じで
何十年ぶりに台湾を訪れて、旧友に会ったり
昔の場所を訪ねたり、
逆に日本で自分のルーツを再発見したり。


これがなかなかドラマチックで
しかも過剰でなく、自然。

なんといっても
湾生の人々を迎える、台湾の人々が
本当に優しいし、あったかいんですよ。

みな日本語を話せるし、親日だし。
湾生の人々を惹きつけるものは、
この人と土地の懐深さと、おおらかさによるところが大きいんだろうなあと感じた。

「セデック・バレ」でも描かれたように
日本の統治による負の面も
いろいろあると思うけど
人と人のレベルの“つながり”が自然に行われる
この感覚が、なんだか嬉しい。

台湾でも大ヒットしたそうですが
なるほど納得です。


通販生活web「今週の読み物」
ホァン・ミンチェン監督にインタビューをさせていただいたんですが

1970年生まれ(同い年!)の監督は
かなりの日本映画好きで
是枝作品のなかでのベストは「歩いても 歩いても」なんだそう。

「一緒!」と思わず盛り上がりましたが(笑)
そんな市井目線と感覚が、この映画にもあるのかもしれない。


日本人監督が
この時代の台湾の人々の心境を描いたドキュメンタリー

「台湾アイデンティティ」(13年)
もあったし

日本と台湾の関係は、知れば知るほど、もっと知りたくなる。
おもしろいですねえ。


★11/12(土)から岩波ホールほか全国順次公開。

「湾生回家」公式サイト
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わたしはマララ

2015-12-07 19:47:09 | わ行

今週はAERAの表紙も
マララさんですね。

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「わたしはマララ」72点★★★★


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16歳であの感動的な国連スピーチをし
17歳でノーベル平和賞を受賞した
マララ・ユスフザイさんを

「不都合な真実」の監督が追った
ドキュメンタリー。

とてもすっきり、上手にまとめられていて
しかも難しい話だけでなく
素顔の彼女が見られるのが、まず楽しい。

弟に「横暴だ!」とか言われたり(笑)
割と直球なイケメン好きだったり(笑)

そんなフツーの女の子が
いかにして「マララ」になったのか?
それが明かされる映画なのです。

なんといっても驚いたのは
彼女のお父さんの影響がとても大きい、ということ。
彼女の成り立ちは、まさに
「教育が人を作る」その見本なんだなあと感じ入りました。

所々を
素朴かつ雰囲気のあるアニメーションで
表現したのもセンスいいす。


それに実はワシ、
彼女がなぜタリバンに銃撃されたのか?
あまりわかっていなかった。

なので今回、そこが
とても勉強になりました。

タリバン、最近はISISにもつながっているそうですが
彼らがどうやって人々を支配していくのか
そのやり口のリアルなレポートとしても価値があるし、

さらに、
マララさんの活動を見ていると
世界でどれだけ教育や人権を奪われる女性や子どもたちがいるのか!
驚き、憤慨してしまいます。

同時に、彼女の存在とその意味、
役割の大きさを深く知りました。

充実内容にして
88分というのもスバラシイ。
学校現場での鑑賞もぜひおすすめしたいです。


★12/11(金)からTOHOシネマズみゆき座ほか全国で公開。

「わたしはマララ」公式サイト
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