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ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

わたしの名前は・・・

2015-10-28 23:37:35 | わ行

これは、予想を超えてきた!


「わたしの名前は・・・」78点★★★★


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12歳の少女セリーヌ(ルー=レリア・デュメールリアック)は
幼い弟や妹の面倒を見るしっかり者。

だが、仕事のない父(ジャック・ポナフェ)は
彼女を二階に呼び、あることをさせる。
働きづめの母(シルヴィー・テステュー)は、そのことを知らない。

ある日、セリーヌは
こっそりトラックに忍び込み、家出を計る。

セリーヌを見つけた
トラック運転手(ダグラス・ゴードン)の反応は――?!


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あのアニエスベーが
本名のアニエス・トゥルブレとして監督した作品。

オシャレ映画?と思ってると
脇腹にドカンと重いパンチを喰らいます。

8ミリ映像やコマ飛ばしなど
センスのいい仕掛けは多々あるけれど

芯がえらくしっかりしているので
ストーリーものとして、魅了されるんですね。


家出した12歳の少女と
何も聞かずに、彼女をいるままにさせてやる
屈強そうなスコットランド人のトラック運転手。

言葉も通じない二人が
次第に心通じ合わせていく過程の描写も
とても繊細で、見事。


例えば
トラック運転手がカフェで女性に声をかけて
ちょっといい雰囲気になったとき
少女が微妙なジェラシーを見せるシーン。

少女が紙のランチョンマットに悪口を落書きして
それを
さりげなく腕で隠すとか、

「うわ」と、ハッとさせられて
忘れられません。


二人の関係は、とても自然でやさしく、ホッとするものだけど
それが決して長く続かないことは
誰もがわかっている。

少女がなぜ家を出たかには
重く暗い理由があるし、

どんな理由があろうとも
世間は「少女を連れ回した」男の犯罪としか
見ないから。

やるせなさは残るけど
彼は少女にとって真の聖人、天使だったのだろうと
思えます。

そして、この少女が
アニエスベー自身の体験を重ねていると知ったとき

あらためて、それを作品にこう昇華するのか!
才能とセンスに、敬服した次第です。


★10/31(土)から渋谷アップリンク、角川シネマ有楽町ほか全国順次公開。

「わたしの名前は・・・」公式サイト
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和食ドリーム

2015-04-11 23:27:26 | わ行

“クール・ジャパン”って
ダイレクトに跳ね返ってくると、ちょっと微妙(笑)

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「和食ドリーム」31点★★


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すずきじゅんいち監督が
和食を描くドキュメンタリー。

なんですが
あくまでも「外国人に和食の精神を紹介する」というスタンスで
なんというんでしょうか
外国人観光客向けのPR映像を見ているみたい。

そんなに「へえ」がなくて
あまり興味をそそられなかった。

インタビューの最中にもピアノ曲が延々流れたり、
どこか演出が古い感じなのも気になりました。


原因は質問内容にあるのかも。

「料理人として、一番嬉しいときは?」と聞かれたら
「そりゃあ、お客様が喜ぶ顔を見るときが……」となるわな、
みたいな(苦笑)


自分もインタビューする側ですから
やっぱりそういう「王道質問」は一応、踏むんですよね。

原稿ではそれを単純な答えにしないように
工作(図工的な意味ね。笑)することができるけど
映像のインタビューって難しいんだなあと
いろいろ考えることができました。

あと京大の先生だったかな、
「アクを取る」についての実験は
ほう、と思った。

こういう「へえ」がもっとほしかったかな。


★4/11(土)からテアトル新宿ほか全国で公開。

「和食ドリーム」公式サイト
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嗤う分身

2014-11-04 23:37:06 | わ行

劇中歌で昭和歌謡が流れ
試写室が、笑いで揺れました(笑)


「嗤う分身」70点★★★★


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厳しい管理体制が敷かれ、
労働者がネジの一部のような暗~い社会。

ある会社に勤めるサイモン・ジェームズ(ジェシー・アイゼンバーグ)は
要領悪く、孤独な日々を送るダメ男。

密かに想いを寄せる同僚のハナ(ミア・ワシコウスカ)に
声をかけることもできない。

そんなある日。

会社に彼そっくりの男
ジェームズ・サイモン(ジェシー・アイゼンバーグ)が
入社してきて・・・?!


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「自分そっくりな人間が現れる」
ドッペルゲンガーものって
けっこうがっかりすることが多いんですが

これは久々にイケました。


ジェシー・アイゼンバーグ演じる主人公の
哀れなほどのダメ加減に引き寄せられてしまい、

さらに
徹底した美術、世界観に加点、という感じ。


全体にモスグリーンをさらに数段落としたような暗い色味で
昔の絵本のなかのSF社会みたいなイメージ。

ミヒャエル・エンデの『モモ』とかかな。


旧式な機械が地鳴りのようにグワングワン鳴り響くなか、
ミア・ワシコウスカ嬢の
ひんやりした冷たい美しさも、世界にマッチしている。

そして、そこに
なぜか昭和な日本歌謡が流れる(笑)

全てがちぐはぐで、シュールで不安で、
ストレスで、ホラー。
そこがいい。

“世界観”のほうがストレンジなので
自分そっくりな人間の登場にも全然動じないんですよ(笑)。

話としては
「で?」がないとはいえないんだけど(苦笑)
でも、この世界造型は一見の価値ありデス。


★11/8(土)からシネマライズほか全国で公開。

「嗤う分身」公式サイト
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わたしたちに許された特別な時間の終わり

2014-08-10 11:53:24 | わ行

これは、得るものが大きいと思う。
ぜひ見てみてもらいたいなと。


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「わたしたちに許された特別な時間の終わり」71点★★★★


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自殺してしまった友人を撮り続けていた太田信吾監督が
苦心の末、作り上げたドキュメンタリー。

冒頭、「仮面男」のフィクション部分が始まったときは、
あまりの違和感に
「しまった」と思ったんですよ。

しかしドキュメンタリー部分がとても面白くて
いやあ、引き込まれました。

テーマから想像するような暗さや重さもなく
それに後半になると
あのフィクション部分が意外に効いているのがわかる。


主人公の増田壮太氏はミュージシャン志望の青年。

監督の高校の先輩で
在学中に有名な音楽コンテストで優勝するなど
監督の憧れの存在だった。

しかしその後、増田氏は
なかなかプロミュージシャンになれずに苦しむ。

そんな彼の様子を友人として
監督は撮影をし始めるんですね。

増田氏は、さすが芸術家肌なのでしょうか
自意識と傍若無人のかたまりのような人物で(笑)

それがそのまんま写ってるのもおもしろいんですが、

この映画は正直、
彼だけでは成り立たなかったと思う。


増田氏のやはり後輩で
彼に憧れていた蔵人(くらんど)くんという人物の存在がでかいのだ。


増田氏に声をかけられ、彼とバンドを組むことになった蔵人君は、
増田氏に酷い言葉を言われても
まるで恋人か、はたまたカウンセラーのように
彼の話を聞いてやり、そばにいるんですね。

でも
増田氏よりもはるかに礼儀正しく、社会性もある蔵人君もまた
夢を追い、悩み、もがいている。

さらに監督自身も増田氏とぶつかり、
その死に狼狽し、悩みまくって
この作品を作り上げている。

だから
この映画は夢を追い、しかし芽が出ずに苦しむ
ニートな(=悩める)若者たちの魂の叫びであり、
かつ見事な“バディ・ムービー”になってるんです。

ワシ的には
悩める蔵人君が「田舎で音楽作りをしたい」と
ある地方の村にお世話になるくだりが最高に共感できた。

若く、あまちゃんな彼を叱咤する村人たちの優しさ。
それがのちに
フィクションパートに出演する若い女優を厳しく叱咤する、
蔵人君の姿につながっているなあと。


飢えることない現代社会で、
自己表現をし、自己実現をしたいともがき
でも自分の才能の限界も、渋い現実も実はみえている。

そのなかで正社員になることに目標をシフトしたり、
結婚や子どもに生きがいを見出したり、
はたまた鬱になって苦しんだり。
我々は、どこへ向かうのだろう?

ラストで息子の死を、気丈に、ある意味温かく語る
増田氏のお父さんとお母さんに
涙ボロッボロ出ました。


★8/16(土)からポレポレ東中野ほか全国順次公開。

「わたしたちに許された特別な時間の終わり」公式サイト
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私の、息子

2014-06-19 19:28:17 | わ行

いやあ、ラスト近くのあのシーン、
ホントにアドリブじゃないかと。
そのくらい、臨場感。


「私の、息子」72点★★★★


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ルーマニアの首都ブカレストに住む
セレブリティのコルネリア(ルミニツァ・ゲオルギウ)の悩みは

30歳すぎても自立しない
一人息子バルブ(ボクダン・ドゥミトラケ)のこと。

しかも何かと世話を焼いてくる母親がうっとうしいのか
バルブは彼女を避けている。

そんなある日、
バルブが交通事故を起し、相手の少年を死なせてしまった。

一人息子を守りたい一心で
コルネリアは奔走するが――?!

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2013年ベルリン国際映画祭で金熊賞&国際連盟批評家賞受賞作。

いや~さすが
リアリティありありのヒューマンドラマでした。

セレブとして地位も豊かさも、
意のままにしてきた50代(60代に見えるけど)の母親。

しかし子育てには明らかに失敗した残念な母親である。

彼女の息子(30代という設定。40代に見えるけど)は
自分を意のままにしようとする母親に逆らいながらも、
しかし逆らいきれない自分に腹を立て
自分をもてあましている。

金があっても、豊かさがあっても
ぜーんぜんうまくいってない親子なのに

そこに息子が交通事故を起こすという事件が発生。

母親は息子可愛さから、必死にその罪を軽くしようと
警察にちょっと顔をきかせたりするんですな。

どうにも「イヤ~な」話なんですが
見入ってしまうんですよ。

冒頭から手持ちカメラの揺れが、
人物の表情をじっと見つめる。

リアルな会話や間があり、
人物たちの関係性もサッと暴かれ、
こちらは息を潜めてそれを見守る感じ。

全体に、特にラスト、
被害者家族と母親コルネリアの対面シーンなどは
「全てアドリブじゃないの?!」と思わせるほど、臨場感と迫力がある。

原題「チャイルドポーズ」は「胎児の姿勢」。
ダメ親がダメ息子を作るのか、逆なのか。

罪を犯した子でも親だけは、味方になってあげないといけないというけれど
どうしたものなのか。

考えさせられますねえ。


発売中の『週刊朝日』おなじみ「ツウの一見」で
教育評論家の尾木ママこと尾木直樹さんに
お話を伺っています。

この話の同じ水脈上に
「いじめ加害者の親」があると聞いて
なるほどなあ!と、納得です。

ぜひ、映画と合わせてご一読を☆


★6/21(土)からBunkamura ル・シネマほか全国順次公開。

「私の、息子」公式サイト
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