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ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

私はあなたのニグロではない

2018-05-12 12:28:05 | わ行

 

強烈なタイトルとビジュアル。全米で異例ヒットのドキュメンタリー。

 

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「私はあなたのニグロではない」69点★★★☆

 

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作家で公民権運動家でジェームズ・ボールドウィン(1924ー1987)。

オバマ前大統領やマドンナも敬愛する彼の

1979年に書かれ、未完となった原作をもとにした

ちょっと変わったドキュメンタリーです。

 

ふつうに「人物を追う」とか「関係者のインタビュー」で構成されるのではなく

ボールドウィンが自身の言葉を一人語りしていく構成で

(語りを務めるのはサミュエル・L・ジャクソン)

当時のニュース映像や、「黒人が映画でどう描かれてきたか」など映画のシーンを引用しながら

黒人差別の歴史と、変わらぬ現実を突きつけてくる。

 

 

ボールドウィンの言葉で一本の道を作りながら

さまざまがコラージュされていく、というのでしょうか。

 

 

1957年、パリで執筆活動をしていたボールドウィンは

アメリカ南部の高校に黒人としてはじめて入学した少女の写真をみて、ショックを受ける。

白人生徒たちにつばを吐かれ、笑われながら登校する彼女の姿に触発され

アメリカ南部を旅し、公民権運動の指導者メドガー、マルコムX、キング牧師と出会う。

しかし次々と彼らは暗殺されてしまう――。

 

ワシがおもしろいなと感じたのは

映画やテレビCMから「差別」を考察しているところ。

 

コーンフレークでも住宅CMでも

「正しく美しく、幸せそうな」白人ファミリーの姿が映り、

いっぽうで黒人の役割は……と一目瞭然。

「招かれざる客」(67年)のシーンなど、改めていろいろ考えさせられた。

 

ただね

語られることは重要なのだけど

このスタイルは、正直かなり眠くなる確立が高い!(苦笑)ので

集中してみる必要があります。

 

それでもボールドウィンのピリッと真実をつくストレートな言葉は

現代にビシビシと突き刺さる。

「なにを、幸せなフリをしてるのか?」

「腹が立つのは、口先だけ(私たちに)味方する人々だ。彼らが一番大切なのは、自分と収入だ」とかね。

 

そして

おそらくパンフレットにも掲載されているであろう

プレスの越智道雄先生(英語圏政治・文化研究者)の寄稿がすごいので、ぜひ読まれたし!

ボールドウィン同様に

ピリッとガリッと歯切れよく真実を突いていて刺さります。

 

★5/12(土)からヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。

「私はあなたのニグロではない」公式サイト

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ワンダーストラック

2018-04-08 21:27:16 | わ行


「キャロル」(16年)トッド・ヘインズ監督最新作です。

 

「ワンダーストラック」68点★★★☆

 

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1977年、米ミネソタ州。

母(ミシェル・ウィリアムズ)を交通事故で亡くした

12歳の少年ベン(オークス・フェグリー)は叔母の家で暮らしている。

 

母亡き今、父親を頼りたいところだが

ベンは父親と一度も会ったことがなく、母も父のことを語ろうとしなかった。

 

ある夜、父につながるヒントを見つけたベンは

しかし落雷による事故で、耳が聞こえなくなってしまう。

 

それでもベンは父を探しに、ニューヨークへ向かうことに。

 

いっぽう、時代は1927年。

ニュージャージー州に暮らす

耳の聞こえない少女ローズ(ミリセント・シモンズ)も

やはり母に会おうと、一人でニューヨークへと旅立つ。

 

時代の違う二人の物語は

どこかで交わるのだろうか――?!

 

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トッド・ヘインズ監督×ブライアン・セルズニック原作。

ブライアン氏は「ユーゴの不思議な旅」の原作者でもある方ですね。

 

トッド・ヘインズ監督、

好きなんだけど

ワシにとってハマるものとハマらないものの振り幅がちと大きい。

 

最近でも

「キャロル」はめちゃくちゃハマったけど

「エデンより彼方に」(03年)や「アイム・ノット・ゼア」(08年)は

ちょっと掴みにくく。

 

なんでしょうね、リズムや呼吸のようなものなんだと思うのですが

本作も、ちょっと難しいラインだったかなー。

 

70年代の再現は素敵で

デッドストックふうの映像の風合いや

自然史博物館や“模型”をフィーチャーするのも、

時代の違う二つの話が平行して進むのも、

好きな世界だし、おもしろいなあと思うんだけど

 

とにかく

この異なる時代の、二つの話がつながるのが

すごーく後のほうなんですよ。

「見えない感」のもどかしさが大きすぎた(苦笑)

 

それでも

つながったときの「おお!」は

ちょい快感だったし

 

自然史博物館のなか、そして、キモとなるあの“模型”など

印象に残ってる場面は多いんですけどね。

 

 

★4/6(金)から角川シネマ有楽町、新宿ピカデリーほか全国で公開。

「ワンダーストラック」公式サイト

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わたしは、幸福(フェリシテ)

2017-12-14 23:02:04 | わ行

アフリカ、キンシャサの鼓動と混沌とした空気が
身体に満ちていくような。


「わたしは、幸福(フェリシテ)」69点★★★


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幸福、という名を持つフェリシテ(ヴェロ・ツァンダ・ベヤ)は、
バーで歌を歌って生計を立てている。

夜な夜な疲れ切って
一人、家に帰る彼女は
常に、幸福に縁のなさそうな、厳しい表情だ。

そんなある日、彼女の一人息子が交通事故に遭ったと電話が入る。

病院にかけつけた彼女は
手術費を前払いできなければ、手術はできないと医師に告げられる。

高額な費用をなんとかしようと
フェリシテは奔走するのだが――。


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幸福という名にまったくそぐわない、
顔立ちは美しいのに、陰気な表情の主人公フェリシテ。

強く自立心がある女性なんだけど
ゆえに尊大で、
正直、感じが悪い(笑)


そんな彼女の息子が交通事故に遭い、
彼女は手術費用のために奔走する――という展開。


赤い夜の街、闇夜の森、清らかな朝の光――
その場の空気がリアルに映し出され

アフリカの鼓動と混沌が
体の隅々へと満ちていくような感覚になった。


ていうか、予備知識ナシで観たので
最初はずっとドキュメンタリーと思ってた。


主演フェリシテを演じたヴェロ・ツァンダ・ベヤは
キンシャサ生まれで、本作が映画初出演の女優。
彼女の存在感が、この映画の要でしょう。


青い背景のなかの西洋楽団と
赤い光のなかのアフリカンミュージック。

絶望の夜と、お構いなしにやってくる朝

さまざまなものが暗示を含みながら
反復されるのが印象的なんですが

この繰り返しがちょっと単調で
惹きつけられつつも
129分はちょっと長かった、が正直なところ。

あと
昼間やってくる修理人と夜の店で酔っぱらうタブーを、
ラスト5分前まで別人と思ってた。


このどうしようもなさを
笑ってください(笑)

ちなみに資料によると
タブーを演じたパピ・ムパカもコンゴ生まれ。
キンシャサでガソリンスタンドを経営し
近隣の恵まれない若者を雇っているそうです。

いいね!


★12/16(土)からヒューマントラストシネマ渋谷、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。

「わたしは、幸福(フェリシテ)」公式サイト
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笑う故郷

2017-09-14 23:42:28 | わ行

「ル・コルビュジエの家」監督作。
やっぱりこのコンビ、おもしろい!


「笑う故郷」71点★★★★


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アルゼンチンの作家ダニエル(オスカル・マルティネス)は
ノーベル文学賞に輝いた有名人物。

しかし、それから5年たっても
彼は1本も新作を発表できずにいた。

そんなダニエルに故郷の小さな町から
「名誉市民にしたいので、ぜひ式典に出席して!」と知らせがくる。

すべての招待を断っているダニエルだが
ふと、40年ぶりに故郷に帰ってみる気になる。

だが
そこで彼を待ち受けていたものは――?!


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故郷を捨てたノーベル賞作家が
40年ぶりに帰郷することで
巻き起こる騒動を描いた作品。


「ル・コルビュジエの家」監督コンビで
あの映画、めっさおもしろかったんで期待していましたが
期待どおりでした。

この、人の心を遠慮なく描くズケズケさ(笑)。


誰もがルーツという重さから逃れることはできない、ということを描いてもいて
昨日の「サーミの血」
微妙に被るところも、興味深い。

そして
「あ~あるある、こういうこと」「あ~いるいる、こういう人」という
描写力が優れているんですねえ。


故郷を捨てて成功した
皮肉屋で反骨な主人公ダニエルに
正直、序盤はなかなかノレなかったんですが
中盤~後半、グンとおもしろさが加速する。

というのも
明らかに高慢でイヤな男なダニエルと
彼を「名誉市民」と崇める無邪気な地元の人々の構図が
映画が進むにつれて次第に変化をきたしていくんですね。


「久しぶりに帰ると、なーんかやっぱり故郷っていいよな」とか
一瞬思う気持ちが

地元の人々の粗野で“文化的でない”さまに触れて
「ああ、やっぱり……」となる(苦笑)
視点の肩入れ具合が逆転するんですよ。

「ブルックリン」のシアーシャ・ローナンをすごく思い出したけど
自分自身を振り返っても、なんか共感できるというか(笑)

故郷、田舎との複雑な関係、感情を
この映画はうまく突きつけてくる。

ただ、さらに、この映画には笑いがあるんです。
そこがいい。

主人公のかっこ悪さを笑うもよし、
そこにかつての自分を見て失笑するもよし。

故郷って、ルーツってなんだろう?と
いろいろ思ってしまうのでした。


★9/16(土)から岩波ホールほか全国順次公開。

「笑う故郷」公式サイト
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ワンダーウーマン

2017-08-20 22:21:14 | わ行

Rotteen Tomatoesでも「フレッシュ!」94%だそうで
全世界No.1大ヒット中!


「ワンダーウーマン」67点★★★☆


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ダイアナ(ガル・ガドット)は
外の世界と隔離された
女性だけが暮らす島のプリンセス。

幼いころから叔母(ロビン・ライト)に
最強の戦士になるよう育てられてきた。

ある日、ダイアナは
海に不時着した小型飛行機から
パイロットのスティーブ(クリス・パイン)を救い出す。

彼はダイアナにとって
初めてみる“男性”だった。

スティーブはダイアナに
「外の世界は戦争の真っ最中で、
しかも大変な兵器が生み出されそうなんだ!」と話す。

ダイアナは人類を救うべく
外の世界に行きたいと母(コニー・ニールセン)に申し出るが――?!


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「バットマンVSスーパーマン」
(16年)に登場した
ワンダーウーマン(ガル・ガドット)の物語。

女性だけの島で育ったワンダーウーマンが
最強の戦士となるまでを描き、
「モンスター」(03年)のパティ・ジェンキンス監督だし
期待度、高まる!

実際、
元ミス・イスラエルの美女、ガル・ガドットのアクションはキレがあり
最強の美女戦士の名にふさわしい。

詐欺師や、酔っ払い狙撃手など
数人のポンコツチームで強大な敵に挑むさまは
ローグ・ワン的でもあり。

「男を見たことなかった」彼女が
20世紀初頭のロンドンの街で起こす騒動や
異文化ギャップもおもしろくはある・・・んだけど


うーん、これは期待値が異様に高すぎた。
というか、ワシには
なぜあんなに高評価なのかちょっとわからなかった(苦笑)。


前半、パラダイスのような島から
おてんばなお姫さまが外の世界に出て行こうとするところなんて
ん?「モアナ」?的な(笑)

物語もそんなに入っていけるものではなくて

あと
相手役がクリス・パインっていうのもなー。
いや、別に彼がどうの、というんじゃないんだけど
旬な大作サマームービー!ってところに彼だと
なんとなく「いま感」がないっていうか・・・
勝手なこと言ってすみませんねえ。

本命の敵が
ちょっとわかりにくかったのもあるかも・・・。


実際、最強女子の戦いはスカッとするんですけどね。
今後の活躍に期待です。


★8/25(金)から全国で公開。

「ワンダーウーマン」公式サイト
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