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ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち

2021-01-08 23:47:46 | さ行

泣いた!女性たちの連帯に。

アガる主題歌に!

 

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「スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち」73点★★★★

 

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ハリウッド映画のスタントを務める女性たちに焦点を当てた

よきドキュメンタリー。

 

スタントの歴史を遡りながら

「アベンジャーズ」や「ワンダーウーマン」

「ワイルド・スピード」のあのシーンが、

さらに「スピード」や「マトリックス」のあの場面が

スタントによってこんなふうに行われていたなんて!の驚き。

 

しかも、そうだと知ったうえで映像が出ても

絵的に絶妙にわからないようになってる!ってのが

当たり前だけど黒子の悲しさに思えるのですが

 

しかし、彼女たちのマインドは

「あたしが!あたしが!」という自己顕示とは

まったく別のベクトルにあるんです。

 

「いかに、女優たちの替わりになって

女優を輝かせるかがすべて」という

彼女たちの利他主義の考え方に

ハッとさせられるのです。

 

インタビューに答えるスタントウーマンたちは

ファイヤージェルを体に塗って火だるまになったり、

「車に引かれるのが得意よ」と車に体当たりしたり(ギャー!)

 

さらに男性のようにズボンに膝当てを隠せず、

肌の露出が多いドレス姿やハイヒールでそれをしなければならない苦痛も

改めて知ったし

しかも、女優に似せなきゃいけないから

「痩せてないといけないのよね」って言うんですよ。

うわあ、それ、つらいわ!(泣)

 

スタントを務めるなかで

頭を切ったり、背骨を骨折したり、

さらに仲間を撮影中の事故で失った話のくだりは辛いけど、

しかし、

映画史を振り返りつつ

そこでプライドを持って働く彼女たちの

高い意識と努力を怠らない姿勢、その生き様に、グイグイ魅せられます。

 

スタント業界はまだまだ男性社会で

差別も多いけれど

彼女たちは愚痴ったり、ベソベソしない。

 

そして

命にかかわる仕事だからこそ、

連帯感がめっちゃ強いんですよね。

 

この映画でも

それぞれの一流スタントウーマンが

自らのやり方を明かし、すべてを共有してくれる。

世代も映画も飛び超えて全員が繋がっているような、

巨大な仲間意識に、なんか感動してしまう。

これぞ、ひとつのシスターフッドじゃね?と。

 

なによりプロとして

「性別は関係ない。全力でいく」という言葉に

泣けました。

 

そう、グチグチ言ってたってはじまらない。

進むのだ!って

元気をもらえます。

 

それにエンディングに流れる

オリジナルの主題歌もすんげーアガる。

ランニング用ソングに速攻ダウンロードしたっす!

 

★1/8(金)からTOHOシネマズ シャンテほか全国で公開。

「スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち」公式サイト

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声優夫婦の甘くない生活

2020-12-15 23:52:55 | さ行

監督はアキ・カウリスマキ作風を参考にしたそうで、

あ、わかる(笑)

 

「声優夫婦の甘くない生活」74点★★★★

 

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1990年、9月。

「鉄のカーテン」が崩壊したソ連からイスラエルへと

多くのロシア系ユダヤ人が移住をしていた。

 

ソ連で暮らしていた

ヴィクトル(ウラジミール・フリードマン)とラヤ(マリア・ベルキン)夫婦も

大勢の移民とともにイスラエルにやってきた。

 

念願の聖地で第二の人生をスタートさせるべく

二人は仕事探しを始める。

 

というのも

二人はソ連で、ハリウッド映画などをロシア語に吹き替えする

スター声優夫婦だったのだ。

 

が、イスラエルでは声優の需要はなく、厳しい現実が待っていた。

 

なんとか生活費を得ようとしたラヤは

ある“バイト”に足を踏み入れるのだが――?!

 

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かなりプッ、と笑った

イスラエル発の逸品です。

 

 

作品全体に、映画への愛がめちゃくちゃ詰まっていて

かつ、社会&政治状況を描いている。

双方をうまく融合させているのがうまいんです。

 

 

1990年、ソ連からイスラエルへと移住したユダヤ人夫婦。

かつて彼らはソ連内で、ハリウッド映画やヨーロッパ映画を

ロシア語に吹き替える仕事をしていて

一応、スター声優だった。

 

で、彼らはイスラエルでも声優の仕事を希望するのですが

そう簡単に、そんな仕事もない。

 

「高収入の声の仕事!」と

新聞を見て妻がいくと

テレフォン○ックスの仕事だったり(笑)

 

ダンナにも仕事がある、と聞いて

すわ!と行くと、緊急避難放送の録音だったり。

 

そうこうするうちに

「所詮、誰かの代理」と感じ、吹き替えという仕事に虚しさを感じていた妻と

逆に俳優になりきることに生きがいを見出していた夫との間に

ズレが生じていく。   

 

それは

新天地で、変化を受け入れて前に進もうとする女性のバイタリティと

過去にしがみついてしまう男性、という

男女のメンタルの差=ズレにも思えて

とても興味深いし

 

二人が、そのズレをどう克服していけるのか?(いや、無理なのか?)という部分が

物語をひっぱっていくんです。

 

随所にクスッとさせるユーモアがあるのもよく

脇役が光る点もいい。

 

海賊版吹き替えビデオを売る店のオーナーと店の男性や

テレフォン○ックス業をするオーナー女性など

出番は少ないけど、

それぞれで映画が作れそうなほどおもしろみがあるんですね。

 

 

主人公夫婦にはモデルがいるの?

トイレの描写が何度もあるのはなぜ?

夫ヴィクトルがつけたり消したりする、アパートのあのスイッチは何?と

観ながら、監督に聞きたいことがいっぱいになってしまった(笑)

 

残念ながら、今回は直接取材が叶わなかったのですが

プレス資料に少しは解答が載っていて

 

1979年生まれのエフゲーニ・ルーマン監督自身が

1990年、11歳のときに

ベラルーシからイスラエルに移住しているそう。

この夫婦の子ども世代にあたるのでしょうね。

 

で、

あのスイッチは、実際に監督が住んだ家にもあって

「おそらくは給湯器のスイッチ」なのだろうけど、

いまだ謎らしい(笑)。

異文化の象徴として、登場させたのかなあとか。

 

今後、インタビュー記事がいろいろ出るかもなので

チェックしようっと。

 

★12/18(金)からヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。

「声優夫婦の甘くない生活」公式サイト

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空に聞く

2020-11-22 18:00:07 | さ行

この監督の息づかいは、なぜこうも優しいのだろう。

 

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「空に聞く」72点★★★★

 

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「息の跡」(17年)小森はるか監督の新作。

 

岩手県・陸前高田市の「陸前高田災害FM」で

パーソナリティを務めた阿部裕美さんを追ったドキュメンタリーです。

 

「陸前高田災害FM」は

2011年12月10日に開局したFMで

プレス資料に寄稿された金山智子さん(情報科学芸術大学院大学教授)によると

こうしたFM局は震災後に沿岸部を中心に30局も開局されたそう。

 

 

阿部さんはそこで開局当初から

2015年までパーソナリティをしていたんですね。

 

普段ラジオを聞く習慣がないワシなのですが

移動の車のなかや、取材先のお仕事場(農家さんとか)などで久しぶりにラジオを耳にすると

おもしろいなあと思うと同時に

不思議と、センチメンタルな気分になる。

それを聞きながら暮らす人の「生活」を

背後に感じて、しみじみしちゃうんですかね。

 

で、そんなFM局で阿部さんは

災害情報を伝える、というだけじゃなく

仮説住宅に暮らすお年寄りを訪ねて、その人の人生を聞く取材をしたりしている。

こたつに入りながら、おじいさんに

「奧さんとのなれそめは?」「いやあ恥ずかしいねえ」みたいに

インタビューしたりする様子が

とってもあったかく、感じがよくて、好きになってしまう。

 

阿部さんは

決してプロの話し手だったわけじゃなく

震災前はご夫婦で和食料理屋を営んでいたんです。

 

すごくホッとする声と、話しかたをする方で

きっと取材相手も聞く人の心も、癒やしていたんだろうなあと。

その姿は瓦礫と化したシリアで

私設ラジオ局を立ち上げた大学生を追った「ラジオ・コバニ」(18年)

にも重なったりして。

 

そして、そんな阿部さんを追う小森監督の視線もまた

とても優しくて、ホッとする。

視線だけじゃなく、取材の場に同席しているそのたずまいや息づかいのやさしさも

映像に現れている。

心の素直さ、きれいさが映像に映るって

こういうことなのかな、と。

 

阿部さんも、陸前高田の人々も

言うまでもなく喪失や虚無から生き続けることの難しさを

経験してきた方たち。

 

彼らは、そこに在る悲しみを、たしかに抱えつつも

立ち上がり、歩み続けている。

そんな思いをとらえた本作に

コロナ禍のいま、学ぶことがあるなあ、とも思うのでありました。

 

★11/21(土)からポレポレ東中野ほか全国順次公開。

「空に聞く」公式サイト

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サウラ家の人々

2020-11-19 23:45:30 | さ行

「カラスの飼育」(1976年)で知られる

カルロス・サウラ監督のドキュメンタリー。

サウラ作品を知らなくてもおもしろいはず!

 

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「サウラ家の人々」74点★★★★

 

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1932年、スペイン生まれにして

「カラスの飼育」(1976年)で知られる

御年88歳のカルロス・サウラ監督のドキュメンタリー。

 

ワシもですね、サウラ作品って「カラスの飼育」しか知らないのですが

でも、これはおもしろいw

サウラ作品を知らない方にも薦めたい良作なのです。

 

なんとサウラ監督って

4人の女性との間に7人の子がいるそうで(ひえ~知らなかった!

それだけでも波瀾万丈感がムンムン(笑)

 

 

で、そもそもは

サウラ作品ファンのフェリックス監督(1975年生まれ)が

「彼が子どもたちとの対話を通して、自身を、女たちを語る」――――という企画を

たてたようなんです。

で、取材OKが出て、おそらく監督は小躍りしたでしょう。取材者として、わかる。

 

しかーし。

サウラ監督、これまたなかなか一筋縄ではいかない方で

撮影がスタートしても

「え?自分のこと?話さないよーん」みたいな感じ(笑)

 

まーあ、インタビューアー泣かせというか、

同業者として、背筋を汗が伝う感覚もいたしましたが

いやいやどうして、監督もなかなかに食らいつき、

取材相手に傀儡される様子までもが、おもしろみになっているんです。

 

それに、なんといっても88歳(撮影時85歳)にして、

生き生きと絵筆を握り、旺盛な制作意欲とユーモアに溢れ、

記念上映やイベントに招かれて世界を駆けるサウラ監督の姿を

すごい!かっこいい!と思ってしまう。

 

そんな監督のマネージャーをしているのは

まだ20代の美しき末娘だし

60代を筆致にした6人の息子たちも

写真で振り返ると、まあ一様に美青年なんですよね。

 

そんな息子を前に

「いまはハゲて腹が出たなあ」「おたがいさまでしょ」的な

父子の会話も笑えるんですが(笑)

 

映画の冒頭に映る、若き日の監督のシャープな横顔は、

歳を重ねてもそのままで

かつ息子たちにも、その鼻筋がそっくり受け継がれているのを見て

遺伝子ってすげえ!って思ったり

さまざまがあっただろうけれど、

それを超えて”親子”になっていく

家族のさまが映し出されていて、すごくいいなあ、と。

 

監督がいう

「映画も(自分の)子どもたちのようだ。その時代の空気と、そのときの私の心から生み出されるのだから」

という言葉に

想いの全てが詰まっている、と感じました。

 

マルタ・アルゲリッチの三女が撮った

「アルゲリッチ 私こそ、音楽!」(14年)

 

サラ・ポーリーの家族ドキュメンタリー

「物語る私たち」(14年)にググッとくる向きに

特におすすめです!

 

★11/21(土)から新宿K’scinemaで公開。ほか全国順次公開。

「サウラ家の人々」公式サイト

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セノーテ

2020-09-18 23:46:59 | さ行

タル・ベーラを師匠に持つ小田香監督の新作。

 

「セノーテ」71点★★★★

 

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メキシコ、ユカタン半島北部に点在する

セノーテと呼ばれる洞窟の泉。

 

そこはかつて、マヤ文明の時代に

雨乞いの儀式のために、少女たちが生け贄として

投げ込まれた場所でもあった。

 

その場所を巡って交錯する

人々の過去といまの記憶とは――?!

 

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「サタンタンゴ」「ニーチェの馬」タル・ベーラを師匠に持つ小田香監督の最新作です。

 

メキシコにある、美しい泉、セノーテ。

神聖な泉として古代から生け贄が投げ落とされてきた

その場所にスポットを当て

 

その忌まわしく悲しい歴史を

泉に潜るカメラや、水や光や音で表現した映像と

現在の村の祭りや生け贄の動物たち――などから構成し

イメージの氾濫で描く75分。

 

基本はドキュメンタリーですが、

それを超える感覚的表現は、ジャンル分けできない魔力を持っています。

 

 

神秘的で深い青色をたたえた洞窟と泉。

そこに閉じ込められ、水に溶けてしまった少女たち。

 

詩の朗読と、現地の人々の泉にまつわる証言、そして

断末魔の叫びを上げる獣の引き裂かれるような悲鳴――などが

鮮烈に

泉に投げ落とされ、犠牲となった少女の魂を映し出している。

 

伝説や因習を前に、ありえない非道も行ってしまう

人間の残酷さが、ヒタヒタと足もとに迫ってきて

その冷たさに、思わず足をひっこめるほどの、

生々しい感覚がありました。

 

世界にはばたく若い才能のために

2020年に設立された、第1回大島渚賞を受賞。

めでたい!です!

 

★9/19(土)から新宿K's cinemaほか全国順次公開。

「セノーテ」公式サイト

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