夢かよふ

古典文学大好きな国語教師が、日々の悪戦苦闘ぶりと雑感を紹介しています。

N・ヒル『仕事の流儀』(その18)

2013-02-01 20:14:27 | N・ヒル『仕事の流儀』
第18章は、いかにして仕事を選ぶか。

Decision in connected with the choice of a life work is one of the two most important decisions that young people have the responsibility of making. The other is the decision in connection with the selection of a mate in marriage.

These two decisions determine largely whether one’s life shall be blessed with happiness and fortune or cursed with misery and poverty!
(“How to sell your way through life”‘18 How to choose an occupation’)

一生の仕事を選ぶことについての決断は、若者が下すにあたって責任を持つべきもっとも重要な二つの決断のうちの一つである、とヒル博士はいう。もう一方は、結婚における配偶者の選択についての決断。

これら二つの決断は、彼あるいは彼女の人生が幸福と成功に恵まれたものになるか、あるいは悲嘆と貧困に呪われたものになるかを大きく決定する!と書かれているのを見て、本当にその通りだと思った。世の中には、人も羨むような仕事に就いていながら、ちっとも幸せそうでない人がいる。いつも不平不満を言いながら働いている人もいる。

ヒル博士の言葉を読んでいてふと思い出したのは、昔見た『マーサの幸せレシピ』(独、2001)という映画だ。ヒロインのマーサは、ハンブルグにあるフレンチレストランの女性シェフ、でも抜群の舌と腕を持つはずの彼女のレシピには、何か大切なものが欠けていた…という話だった。

マーサはレストランのオーナーからは、その優秀な能力を認められながらも、「街で二番目のシェフ」と言われており、定期的にカウンセリングを受けに行くように言われていた。(確か、映画の冒頭はクリニックで精神科医と話をしているシーンから始まったと思う。)

本人は、仕事を完璧にこなしている自信とプライドがあり、厨房でテキパキと働きながらコックたちを指揮して、山のようなオーダーをさばき、見事な料理の数々ができあがっていく。しかし、マーサは目も回るような仕事に追われているだけで、充実した幸福な生活を送っているようには見えない。(実際、マーサは映画の中ほどまで少しも笑わない。下の場面で初めて笑ったような記憶がある。)



マーサは、厨房の仕事が忙しすぎてキレそうになると、食品冷蔵室に行っては、自分を文字通りクールダウンさせて、ようやく心の平衡を保っている。職場でこんな場所にしか安息の場がないところに、彼女の今の仕事への不適応が現れているのだが、彼女はそれに少しも気がつかない。マーサは、私生活でも全く遊ばず、美人なのに恋人もなくデートすることもない。

こういう、仕事が本人に合わないため、どれだけがんばっても報われなかったり、自分を消耗させるだけだったりする人は、世の中に多いのではないだろうか? だから私は、生徒たちには、仕事をどのようにして選ぶべきか、またその職業選択への助走期間としての大学や専門学校への進学をどう考えるべきかを、しっかり話していきたいと思う。ヒル博士が言うように、「自分の要求に合った職業を選ぶことは、世間を知らない若者たちにとっては非常に難しい問題」なのであるが、だからこそ大人が自分の経験や知見を語る必要があるような気がしている。

…ちなみに、映画のマーサのその後であるが、姉夫婦が交通事故で亡くなったため、その一人娘のリナをひきとることになり、またレストランのスタッフに陽気なイタリア人のマリオがやってきたことから、マーサの運命が変わり始める。亡き母を恋い慕い、心を開かないリナや、ラテン系のノリでマーサの仕事のリズムを崩すマリオに、最初はいらいらし通しだったマーサだが、やがてリナが鎹(かすがい)の役割をしてマリオと結ばれ、最後には今の職場を辞めて、三人で街角に小さなレストランを開いて幸せに暮らすという話だった。

この映画は、ハリウッドでリメイクされたもの(『幸せのレシピ』(2007))も見に行ったが、オリジナルの方がよかった。基本的には恋愛ものなのだろうが、職業、家族、女性の生き方についてしっかり考えさせてくれる内容だった。

第18章は長いので、また後日取り上げる。




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