夢かよふ

古典文学大好きな国語教師が、日々の悪戦苦闘ぶりと雑感を紹介しています。

砂漠でサーモン・フィッシング

2013-03-14 23:32:41 | 映画
さわりだけあらすじ
この映画は、フィッツハリス&プライス投資コンサルタントのハリエット(エミリー・ブラント)が、水産学者のフィリップ(ユアン・マクレガー)に、
「イエメンの大資産家、シャイフ・ムハンマド氏からの依頼により、同国の砂漠に鮭を泳がせて釣りをするというプロジェクトへの協力をお願いしたい。」
という内容のEメールを送るシーンから始まる。
フィリップからは、
「鮭は回遊性で、冷たい水が必要だし、インド洋や紅海はヨーロッパから遠すぎて、実行不可能。」
という返事がかえってくる。

しかしその頃、アフガニスタン問題でイギリスの立場が悪化し、焦った首相から、
「何でもいいから、中東関連のイギリスのよいニュースを探せ!」
と首相広報室に指示が出る。担当官のパトリシアが、“イエメンで鮭釣りを”というプロジェクトの存在に気づき、明るい話題作りのため、外務省が支援してこのプロジェクトを推進することになる。

フィリップは浮世離れした人柄で、研究と趣味の釣りにしか興味がない。当然、砂漠で鮭釣りなどという荒唐無稽な話には耳を傾ける気もない。しかし、フィリップが翌日、職場の漁業・農業省に出勤すると、上司のザクデンから、
「外務省からの指示だ。ハリエットに会え。」
と命令されてしまう。

このプロジェクトの窓口となったハリエットは、有能なキャリアウーマンで、三週間前に知り合ったばかりの軍人の彼氏・ロバートがいる。
フィリップが渋々ハリエットに会い、なぜ実行不可能かくどくどと説明し始めると、ハリエットは意外な事実を告げる。
「イエメンの砂漠でも山岳部は気温も低く、帯水層がある。依頼主のシャイフ・ムハンマドは、砂漠に水を引くためのダムも、二年前に完成させている。」
話し合いから帰ると、フィリップは上司のザクデンから、
「イエメン鮭プロジェクトを実行する契約書にサインするか、退職か、どちらかを選べ。」
と脅されてしまう。またフィリップは、この話を引き受ければ給料が倍になると言われ、計画に協力することを決めるが…。

感想
このあと、フィリップとハリエットは、シャイフの城(!)に招待されるのだが、アラブの大富豪というのはスケールが違うことを感じた。フィリップが冗談で、鮭プロジェクトには5,000万ポンド(約60億円)は必要だ、ということをいうと、シャイフはあっさりと資金を拠出することを約束してしまう。自分の財産で砂漠にダムを造り、水を引く、というのも、日本人にはまずできない発想であり、行動である。
その一方でシャイフは、金持ちにありがちな嫌みなところがまったくなく、初めて会ったフィリップは趣味の釣りを通じて意気投合し、シャイフの率直な人柄に好感を持つ。また、鮭プロジェクトの動機が金持ちの道楽でなく、小さな奇跡を起こし、部族の心を一つにしたいというシャイフの願望にあることを知って、心から協力したいと思う。砂漠で鮭釣りを、というのは一つの象徴で、実際には灌漑によって砂の大地を緑で潤し、農業を盛んにし、人々を物心共に豊かにしたいという信心から発した行いだったのだ。

映画は、壮大なプロジェクトが果たして本当に実現するのか、また仕事を通じて急速に接近するフィリップとハリエットの関係がどうなるのか、期待を持たせながら進行していく。ただ、私はやはり、このシャイフという人物に非常に興味を惹かれた。
初対面のとき、シャイフはフィリップに対して率直に、
「この計画を君が変だと思わないなら、私は君の判断力を疑う。もし、実現したら、神の奇跡だ。」
と言いつつ、フィリップの趣味の釣りを引き合いに出して、
「釣り人にとっての美徳は、忍耐・寛容・謙譲の三つだ。君は、魚がかかるまで、何時間釣り糸を垂れるか?」
フィリップが思わず、
「何時間でも。」
と答えると、シャイフは、
「あなたには信じる心がある。」
と言い、夢想のように思えることでも、信じる心があれば必ず実現する、と語る。
また、プロジェクトが一度は過激派の妨害で失敗したときも、
「私が彼らに求めすぎたのだ。」
と言い、一言も責めないところには、聖人のような心の広さを感じた。

というわけで、私としてはこの二人の恋愛よりも、フィリップとシャイフの友情の方が強く印象に残った。
ハリエットを演じたエミリー・ブラントは美人で演技もうまいのだが、実際の年齢(1982年生まれ)よりも……に感じられ、ヒロインとしてはやや華に欠ける感があったのが、少し残念。
とはいえ、ベストセラー小説に基づいて編まれた脚本も、俳優の演技もすばらしく、美しい映像(主にロンドン、スコットランド、モロッコで撮影)と音楽、イギリス人らしいユーモアや政治風刺などが溢れ、見応えある映画だったと思う。

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