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テディちゃとネーさの読書雑記

ぬいぐるみの「テディちゃ」と養い親?「ネーさ」がナビする、新旧の様々な読書雑想と身辺記録です。

虚構を超えて。

2016-10-24 22:11:54 | ブックス
「こんにちわッ、テディちゃでスゥ!
 わおおゥ! ふッてくるでスゥ~!」
「がるる!ぐるるー!」(←訳:虎です!避難だー!)

 こんにちは、ネーさです。
 ええ、今年もこの季節がやって来ました。
 イチョウの枝から熟した銀杏の実が降ってくる季節です。
 ここ東京・八王子の、イチョウ並木の下を歩く予定がある御方は、
 どうか頭上にご注意くださいね。
 もちろん、踏んじゃったりしてもエラいことになりますので
 足元、靴の裏にも注意しながら、
 さあ、本日の読書タイムは
 こちらを、どうぞ~♪
 
  



            ―― テロ ――



 著者はフェルディナンド・フォン・シーラッハさん、
 原著は2015年に、日本語版は2016年7月に発行されました。
 2012年に『犯罪』で本屋大賞・翻訳賞悦部門第一位を受賞し、
 日本の活字マニアさんにも広く知られることとなった著者・シーラッハさんの、
 この御本は……

 はたして小説作品といっていいのか、
 賛否両論を呼んでいる新作です。

「むゥ~、むずかしィのでスゥ~…!」
「ぐるるるるがる?」(←訳:虚構なのか否か?)

 “ストーリー”自体は、
 いたってシンプルです。

 そこは、ドイツの、とある法廷。
 裁判長と、
 検察官と弁護人、
 そして被告人が揃い、
 ちょうど審理が始まろうとしているところで、
 検察官が起訴状を朗読します。

  2013年7月26日、
  被告人ラース・コッホは
  ドイツ上空で旅客機を撃墜し、
  乗客164人を死に至らしめた――

 彼は有罪か、無罪か、
 参審員であるあなたがた(=読み手)は
 評決をせねばならない――

「だいじけんッでスよゥ!」
「がるるるる!」(←訳:どうしよう!)

 そう、この事件には、
 どうしよう、と悩まざるを得ない背景があるのです。

 ベルリン発ミュンヘン行きのッルフトハンザ航空機は、
 テロリストにハイジャックされ、
 強制的に進路を変更させられたました。

 テロリストの狙いは、
 アリアンツ・アレーナ・スタジアム。

 7万人の観客で満員となっている
 ドイツ王者バイエルンのホームスタジアムに
 旅客機を墜落させようとしていたのでした。

「そんなのォ、よくないィでスゥ!」
「ぐるがるっ!」(←訳:テロ反対っ!)

 では、どうするか。

 ドイツ空軍の戦闘機パイロットである被告人は、
 選択を迫られます。

 ハイジャックされた旅客機ををそのまま行かせるのか。
 行かしたら、7万人の観客の生命は?

 それとも、
 旅客機を撃墜するのか。
 撃墜したら、旅客機に乗っている164人の生命は?

 そうして、被告人は、選びました。
 旅客機を撃墜する方を。

「ええええェ~ッ!」
「がるるー!」

 旅客機は、畑に墜落。
 乗客164人に生存者なし。

 一方で、スタジアムの観客7万人は無事でした。

 7万人の生命を守るために、
 164人の生命を見棄てた被告人の行為は
 罪であるか、否か――

 あなたの答えは?

「そッそんなことォ、いわれてもッ」
「ぐるるるるがるぐるっ?」(←訳:選ばないとダメなのっ?)

 164人か、7万人か。

 それはそもそも、選ぶなど許されることなのか?
 数が多い少ないと、
 天秤にかけていいものなのか、人命とは?
 
 白熱する議論に、
 読み手の私たちは何を思うべきなのか。

「こたえェ、だせないィでスゥ!」
「がるるるるるぅ!」(←訳:分からないよぉ!)

 著者さんが読み手に突きつける命題を
 冷静に判断することは可能でしょうか。

 私たちはとうに、
 現実がフィクションを追い越してしまったと痛感しています。
 パリで、シリアで、イスタンブールで、ニースで、
 起こった事々はフィクションではないと知っています。

 その上で、
 判断せねばならない被告人の《罪》とは、何なのか。

「むずかしィすぎまスゥ!」
「ぐるがるる!」(←訳:誰か助けて!)

 読み手にすべてをゆだねる“作品”です。
 全活字マニアさん、ぜひ、一読を。