鄙には稀な、というほどではないけれど、とっても田舎な海辺の街に、
ちょっとおしゃれな喫茶店があった。ドアに掛けられたプレートには
「美味しい珈琲とスパイシーなカレー」と書かれている。確かにドアの
すき間からは、ガラムマサラの香りが。
店に足を踏み入れると「わっ、きれい」。店内の壁や窓は美しい貝殻で
飾られていた。木のテーブルには手書きメニュー。しかも中味はカレーと
ケーキセットのみ、というのが何だかこだわりがあっていいじゃないの。
ヒゲを蓄えた中年の店主が申し訳ないという様子で話しかけて来た。
「すみません。仕込みが間に合わなくて、まだカレーを
お出しできないんですが」
残念、いい香りが店中にただよっているのになあ。仕方ない、ケーキと
珈琲にしよう。ところがーーー
「申し訳ない。ケーキも切らしちゃって」
えっ、切らしたってどういうこと? まだ午前中よ。そんなにお客が殺到した
とも思えないけど。などとは言えず「じゃあ珈琲を」と注文。ひょっとして、
店主は珈琲好きが高じて店まで出しちゃった脱サラの人なのかなあ。
カレーの仕込みが間に合わなかったりケーキを切らしちゃったり、まだ
慣れていないのかも。
でも、珈琲にはこだわりを持ってて、すごく美味しいのを入れてくれるに
違いないと期待は高まる。やがて香り高いモカが運ばれて来た。
さすがに・・・・・普通だ~。
ほんっとに普通のコーヒー。うちのだんなが入れてくれる方が美味しいと
思うくらいのあまりの普通さに、言葉もない私。
カレーもケーキもなくて普通のコーヒーしか出て来ないんなら店開けるな~、
と思わず叫んだ。 心の中で。
これは昨年の話。
専門業者にカーペットのクリーニングを頼んだのが、6月の末だった。やがて暑い夏が
ようやく終わる。9月が過ぎ10月も終わった。そしてついに11月に入ったのだが、
どういうわけかカーペットが戻って来ない。既に相当寒くなっているから、例年ならとっくに
毛の絨毯を敷き込んでいる時期なのだ。
意を決して業者に電話をかけた。
「クリーニングをお願いしたカーペットがまだ戻って来ないんで
す。寒くなって来たのでそろそろ敷きたいんですけど・・」
それに対して、当然こういう答えが返ってくると私は思った。
「ああ、遅くなってすみません。出来上がっていたんですが、何
かの手違いがあったんだと思います。すぐお届けしますから」
しかし、相手の言葉は私の予想をしっかり裏切ってくれた。
「ああ、昨日出来上がって来たんです。今日お届けしようと思っ
ていました。ご都合はいかがですか」
ウソをつけ~! 6月末に出したカーペットのクリーニングの出来上がりが11月3日
だなんてこと、あり得ない! そば屋の出前か! いやいや、それならホントに今ごろ
出来上がって来たってことで、それはそれで駄目だろう! とっくに仕上がっていたのに、
配送の段取り間違いでこんなに後回しになったに違いない。だったら素直に謝れ~。
言いたい文句は山ほどあったけれど、あんまり頭に来過ぎたせいで、ひとっことも
言い返せなかった。
そして今年。
懲りない私はまた同じ業者にカーペットを預けた。そうしたら何と、8月の10日に
持って来たよ~。猛暑の真っ盛りではないか。連日の気温が34度だ35度だと騒いで
いるこの時期に毛の絨毯を敷けと? せめて9月が終わるまで預かってくれたって
いいじゃない。うち、狭いんだから巻いた絨毯を置いておくスペースなんてないんだからね。
まったくもう・・・
カフェレストランでデザート付きのランチセットを注文した。4種類の中から
選んだデザートはコーヒーゼリー。ところが食後に運ばれて来たのは緑色
の抹茶ゼリーだった。
「これ、コーヒーゼリーですか。頼んだのはコーヒーゼリー
なんですけど」
店員さんはゼリーと一緒に持って来た注文伝票を確認。「大変失礼いたし
ました。すぐ、お持ちします」と言って戻って行った。やがてコーヒーゼリーが
到着。やれやれと思って美味しくいただいたのだったが・・・
注文品が全部届いた時点でテーブルに置かれた注文伝票、何気なく手に
取って「あれー??」。そこには抹茶ゼリーと印字されているではないか。
でも、私は絶対抹茶ゼリーなど注文していない。だって嫌いなんだから。
オーダーを取った店員さんが聞き間違えたか印字を間違えたかのどっちか
であるのは確かだ。
じゃあ、注文品を運んできたさっきの店員さんは、なぜひとことも釈明せず、
だまって商品を交換したのだろう。
*オーダーを受けた店員が間違えたと判断して速やかに対応した
*お客の言うことはとにかく聞いておくという教育を受けていた
から、黙って交換に応じた
もし、後者が正解だったとしたら、まさにお客の無理難題を仕方なく受け入れ
たってことになるじゃない。困るなあ、きっと後で「あのおばさん、急にコーヒー
ゼリーの方が良くなったもんだから、そっちにしろって言ったのよ」とかなんとか
仲間に愚痴ってたりするんだろうなあ。
でもね、わたしは絶対「コーヒーゼリー」って言ったんですからね。世界の
終わりが来たって、抹茶ゼリーなんか注文することは有り得ないんだから。
ひとりでジタバタと悔しがったのでありました。
娘に買い物を頼まれて、近所の大規模玩具店へ出かけた。今日発売の
DSソフトなので、すぐに見つけられると思ったのだが、DSソフトのコーナー
をくまなく見て回っても発見出来ない。
極端に店員の少ない店だから、尋ねようにも近くには誰もいないのだ。
仕方なく迷路のような売り場を一周して、入り口近くのサービスカウンター
まで戻った。
係の店員は「確かに本日発売です。売り場にありませんでしたか」と言い
つつ、探しに行ってくれた。なかなか戻って来ないと思っていたら、どうやら
売り場ではなく、バックヤードに置いてあったらしく、売り場とは反対の方向
からソフトのケースを高々と掲げつつ戻って来た。
「すみませーん。まだ店頭に出ていませんでしたね」
売る気ないんかい!
その空ケースを持ってレジへ行きお金を払うのだが、平日の午前中という
こともあってか、実習生の名札をつけた店員がレジブースに入っていた。
後ろには指導担当者が立っている。一生懸命やっているのは良ーく分かる
んだけど、あまりにも要領悪過ぎ。お客さんは長蛇の列になってる。
おつりのお札を3回も4回も数える必要ないでしょ。機械がバーコードを
読み取らないなら数字を打ち込めばいいの。値札にくっついているカードは
補償保険の加入証だからお客さんに加入するかどうか訊くのよ。お客が
分かってることを何故この店員さんは知らないんだろう。
挙げ句の果てに「お買い物は以上でよろしいですか」って、レストランの
オーダーじゃないんだから~
人一倍せっかちな私は、地団駄をふむ一歩手前。あーあ、精神鍛錬が
必要だ、わたし。
義母の病院からの帰り道での出来事だった。
私の車の側の車線は、踏み切りを目の前にして渋滞。反対車線はどういう
わけかガラガラ。
電車が通過して踏み切りのバーが上がったが、渋滞しているこちら側の
車列はほとんど動かず。ところがガラガラの反対車線を、今まさに踏み切り
を渡って来た一台の車が猛スピードですっ飛んできた。
そして緩いカーブを曲がりきれず、反対車線にはみ出して来ようとするでは
ないか。ちょ、ちょっと待ってよ。こっちは渋滞で身動き出来ないんだからね~。
その車は私の車の右ボディをかすめつつ、凄まじいブレーキ音をたてながら
辛うじて体勢を立て直した。一瞬停止、再び発進。あとに残ったのは、黒くて
長ーいタイヤ痕が二本。
これで衝突でもしていたら「もらい事故」「巻き込まれ事故」とでも言えばいい
のだろうか。冗談ではありません。まっぴらご免です。とはいえ、常にこんな
危険とも隣り合わせなのが、車の運転ってことなのだろうなあ。
夫に話したらーーー
「そうなったら諦めるしかないね。逃げようがないんだからさ」
いたって冷たい返事が戻って来ました。
電車内、私はつり革につかまっていた。停車駅で真ん前
の座席に座っていた乗客が立ち上がった。よしよし、私
が降りる駅まではまだけっこうあるから、ここで座れる
とはラッキー!
ところがである。立ち上がったお客の隣りに座っていた
若い女性が、何と腰をスライドさせてその席に移ってし
まった。そして、自分が座っていたシートに連れの男性
を座らせたのである。
えっ、こんなのアリ? そりゃあ指定席じゃないから、
どこに座ろうと自由だけど、一応言わせてもらうなら、
その席に優先的に座る権利があるのは真ん前に立ってい
た私ではありませんかぁ?
後ろめたさなどみじんも感じていないように見える、そ
の女性にとっては、当然の行為だったのかなあ。でもね、
それはマナー違反だと思うのよ、おばさんは。
夫にこの話をしたら、彼がこんなエピソードをーーーー
「同じような状況で、つり革の客が負けてなかっ
たんだよ。空いた座席に素早く自分の荷物を置
いて確保したんだね。その席へ腰をスライドさ
せようとしてた客は思惑はずれ」
「なるほど、機先を制すってのも有りだわね」
「その二人、言い争いになっちゃって、危うく暴
力事件になりかかったよ。回りの乗客が止めて
何とか納まったけどね」
たかが座席、されど座席ですねぇ。
我が家で使っている、朝食のパンにぬるバター
はこれ。厳密には植物性油脂が何パーセントか
入っている「バタースプレッド」なんだけど。
他人同士である夫婦が一緒に暮らして行くには、お互いの癖や習慣など
に対して相当寛大にならなければやって行けない、ということは分かっ
ているんだけれどね。
夫が使った後のバターナイフを見るたびに、私はムッとする。焼いた食
パンにバターをぬりたくったら、パンの焦げかすがナイフにくっつく。
それをそのままケースに戻したら、バターも汚れる。次に使う時美しく
ない。
でも、こんな細かいことを夫に言うのはやっぱり気が引けて、私は舌打
ちしながらこっそりバターナイフをきれいにぬぐって戻しておく。しか
し、そんな私の行動に夫はてんで気づいてない。だから、夫が使った後
のバターナイフを見るたびに私の「ムッ」は繰り返されるのだ。
誰に聞いたんだったかなあ。バターをナイフですくう、そのすくい方を
巡って喧嘩を繰り返したある夫婦が、ついに離婚寸前にまで行ってしま
ったという話。
夫は平らにすくいたい、妻は直角にすくいたい。トーストを食べるたん
びに修羅場を繰り返した彼らがとった解決策は、自分専用のバターケー
スをそれぞれ冷蔵庫に入れておくという極めてシンプルな方法だった。
些細なことほど、妥協するのが難しいものなのかもしれません。
近所のベーカリーは、レジスターが二つあってフォーク並びを採用している。
お客さんは1列に並び、空いた方のレジへ順番に進むという方式だ。
これだと、複数のレジの進み具合による不公平がないから、今や銀行のATM
などでは当たり前のようになっている並び方である。
私はその時、次に空いた方のレジへ進むべく列の先頭に立っていた。
ところが、そこへ一人の女性が、パンを載せたトレイを持って左側のレジの
真ん前に立ったのだ。店の人がーーーー
「お客様、申し訳ありませんがラインの後ろへ
一列にお並びいただけませんか」
と説明した。ところが、その女性は「あら、そうなの」と答えつつもその場を
動こうとしない。「いいでしょ。ここに来ちゃったんだから」
「おお、大した強者だ」とその場で列に並んでいたお客さんたちは固唾をのんで
成り行きを見守る。店の人が再度促すと、さすがにその女性は、しぶしぶレジの
前を離れた。
だがしかし、あろうことか、私の前に立ちふさがる形で列に並んだのである。
おいおい、と思いながら
「ここが先頭です。後ろへどうぞ」
「あなたね、そんな後ろの方に立ってたら分からないでしょ」
ひぇー逆切れされちゃった、とビビる私。捨て台詞とともに列の最後尾へと
歩いて行く女性。いやぁ、ここまで自分勝手な人に出会ったのは初めてかも
しれません。
週刊誌を買おうとレジへ持って行ったら「720円です」と言われて一瞬耳を
疑った。いつもは320円で買っている『週刊文春』。増刊号の時だって
せいぜい340円なのに。
どうやら、私の前のお客の買い物代金にくっつけてレジを打ってしまった
らしい。「申し訳ありません。320円です」と訂正されたので「はいはい」と
350円を出した。
すると、戻って来たおつりが20円。えーっ! と思わず首を傾げる。
「350円出しましたよね。代金は320円でしょ」
「はい、320円です」
「おつりを20円しかもらっていないんですけど」
と手を広げて見せる。
キョトンとしたまんまの店員さん。隣りの店長さんらしき男性があわてて
10円を追加して平謝り。その店員さんの胸には実習生の名札。なるほど、
不慣れな実習生だったのね、しかも算数のできない。
と意地悪なおばさんは心の中でつぶやきましたとさ。
毎日新聞家庭欄の投稿コラム 女の気持ちに、子ども(特に男の子)の忘
れ物癖についての投稿が4回に渡って掲載された。
登校時に着せた上着や付けさせた手袋を忘れて帰るのは日常茶飯事、よ
その子の長靴や水着を持ち帰って来ることさえあるというお騒がせ息子。
「女の子のママにはこの苦労が分からないでしょうね」とちょっと自慢
げ? なお母さん。
それを受けて「お母さんが先回りし過ぎなのではないですか。本人が困
った時に考えるでしょ」とコメントするお母さん。なかなか的を射たア
ドバイス。でも、自分の息子も困ったさんだったけれど、他に興味を持
つことがいっぱいあるに違いないのだから、忘れ物や落とし物くらい平
気平気、と相当なポジティブ思考。
3番目のお母さんは「覚えることが多くて、少々の落とし物や忘れ物に
なんかかまっていられない」という息子の言い訳を紹介しながら、彼の
「大物ぶり」が嬉しそう。
そして、最後に登場は娘ふたりのお母さん。次女がやっぱり忘れ物の達
人だったんですって。隣りのクラスの友達からノートを借りてその子の
予習をちゃっかり拝借するという要領の良さ。子どもは早くから小さく
完成させようとしない方がいいのだそうです。
まるで、忘れ物落とし物のチャンピオンを競っているみたいだなあ、と
思うのは私のひがみかしら。どうせ、うちの娘は小さい時からしっかり
者で、忘れ物なんかほとんどしなかったし、親を困らせることもなかっ
たです~。
銀行へ行く用事があったのをすっかり忘れていた。気がつけば今日は
もう12月29日だ。役所や一般の会社はすでにきのうが仕事納めで
はないか。銀行はまだやっているかしら?
あせって駆けつけると、今年最後の窓口営業日にすべり込みで間に合
った。もちろんすごい混みようだが、A銀行は窓口をめいっぱい開き、
フロア係りも増員してフル回転の対応。11人待ちだったけど大して
時間はかからなかった。
それに引きかえ、B銀行の窓口業務の要領の悪さは、どうしたことだ
ろう。悪意があるんじゃないかと思うほどだ。順番待ちカウンターの
数字が30分経ってもいっこうに進まないっていうのはあんまりじゃ
ない?「ただいま2時間待ちとなっております」という貼り紙がまた
腹立たしい。
ディズニーランドじゃあるまいし。
B銀行といえば、こんなことがあったなあ。ユーロを買うことの出来
る支店はどこなのかをフロアの案内係に尋ねた時のことーー
「うちではユーロは扱っていません」
と自信満々に断言されちゃったのだ。
「えっ、そんなはずは。ここの支店では無理でも、ユーロを
買える支店なり窓口なりがあるんじゃないですか?」
「いえ、ありません。普通の都市銀行では買えないはずです」
余りのことに食い下がる気持ちにもなれず、その場は退散。隣りのA
銀行へ行って教えてもらいました。たまたま、この支店の顧客対応レ
ベルが低すぎるってことなのかなあ。口座を移すのもめんどくさくて、
毎回ストレスを溜めながら利用しているのです、B銀行さんを。
実家の母が、電車の座席にデイパックを置き忘れてしまった。上着を
脱ぐために肩からいったん外したデイパックを、そのまま忘れて下車
してしまったのだ。
背中にデイパックがないってことに気づいたのは、一時間以上たって
しまってから。あわてて駅へ戻り事情を話した。駅員さんはテキパキ
と手続きをし、忘れ物が最終的に集まる駅に問い合わせてくれた。
何と、駅に届いているという返事。母の記憶では、大した物は入って
いなかったはずなのだが、大切な健康保険証が紛れ込んでいたことが
あとで分かって、冷や汗たらたら。
一方、うちの夫は電車の中に、義母の病院へ届ける予定だった着替え
用のパジャマの入った紙袋を置き忘れてしまった。すぐに駅の窓口へ
駆け込んだのは言うまでもない。
ところが、1週間たった今だに、その紙袋は戻らない。駅へ尋ねても
「いやあ、届いていませんねぇ」という返事が繰り返されるだけ。他
人のパジャマなんか持ち去る人もいないだろうから、一旦拾った人の
手でゴミ箱へでも放り込まれてしまったのかもしれない。
持ち主のもとへ戻った忘れ物と戻らなかった忘れ物。首都圏近郊を
走る、ふたつの私鉄での出来事である。たまたま拾った人が親切だ
ったかそうでなかったかの違いに過ぎない,という夫。
そうね、そうだと思う。ただ、それぞれの私鉄、ひいては沿線のイメ
ージに両極端の印象を持ってしまったのも偽らざるところ。私の思い
込み体質にも困ったもんです。