「辺野古になんで行ったんや」 大阪府警警備部が気にしていた「政府に不都合」なこと/関生支部執行委員・西山直洋さん<関西生コン事件・証言#11> | Tansa
関生支部が取り組むのは、労働者の賃金や待遇を改善することだけではない。戦争への反対や差別をなくすことなど様々な社会運動を展開している。そこには、弱い立場の人を犠牲にしてはならないという明確な意思がある。
関生支部執行委員・西山直洋さんは、米軍基地への反対運動や、韓国の労働組合との連携に取り組んできた。
初めて警察に逮捕されたのは、2004年。2018年からの大規模な刑事弾圧でも逮捕・勾留された。
この間、西山さんをマークしてきたのは大阪府警警備部。取り調べで聞き出そうとしたのは、米軍基地への反対運動など、政府に不都合な活動の動向だった。
機動隊に8人がかりで
初めて警察に逮捕されたのは、2004年です。
当時、日韓FTA(自由貿易協定)の交渉が政府間で進められていました。韓国の労働組合は、日本からの輸入品が増えることで、中小企業での雇用に打撃があると考えていました。韓国では約10万人がストライキに参加し、日韓FTAに反対しました。
韓国の労組は来日し、外務省前でも抗議集会を行いました。関生支部は、韓国の建設労働組合と友好関係にあります。僕は2003年から1年間、韓国に留学していました。外務省前での集会では、僕たち関生支部の組合員が協力しました。日本の市民団体も参加していましたね。
初日の集会が終わり、「また明日もやろう」ということで、解散したんです。旗をたたんでマイクロバスに向かいました。そしたら警視庁の機動隊が、ドワーーっと僕に向かってきた。8人がかりで倒されて、そのまま身柄を持っていかれました。一応、集会の責任者をしてたんで、向こうからしたら目立ってたんでしょうね。
集会の参加者には確かに暴れている人もいました。だけどそれは集会が終わって帰る時、警察に横断歩道を封鎖されたので、「渡らせろ、渡らせろと」とワーワーやってただけなんやけどね。
初めて逮捕され、精神的な動揺はありましたよ。逮捕されてもすぐに出られるもんやと思ってたのに、逮捕後すぐに来てくれた弁護士の先生には「いや、いつ出られるか分からへんぞ」と言われたんです。ちょっと不安になりますよね。この時は12日間、勾留されました。
翌2005年には、大阪府警警備部に逮捕され1年間勾留されました。生コン会社との交渉が「威力業務妨害」や「強要未遂」の容疑に問われたのですが、韓国での留学生活について聞かれました。学校に通いながら労働運動しとったんかとか、生活費は関生支部が出しとったんかとか。国際的なつながりが労組間でできるのが気になったんでしょうね。
繰り返された警察の「裁判妨害」
2014年に京都府の京丹後市で、Xバンドレーダーを配備する米軍施設の工事が始まりました。Xバンドレーダーとは、弾道ミサイルを探知するためのレーダーのことです。米国本土の防衛のため、地元の住民や自衛隊が巻き込まれる恐れがあり、市民の反対運動が起きています。
2015年6月、反対運動をしていた市民団体の3人が逮捕されると共に、関生支部の事務所も家宅捜索を受けました。京丹後で反対集会がよく開かれていて、大阪からの参加者に関生支部のバスを利用してもらいました。高速道路の料金やガソリン代など実費は負担してもらったんですが、これが「白タク行為」で道路交通法違反やと言うんです。
この強制捜査はおかしいということで、大阪府警に対して訴訟を起こしました。僕が2019年の2月12日に証人として出廷することが、2018年11月9日に決まりました。
ところがです。証人尋問の日程が決まった約2週間後、2018年11月21日に僕は大阪府警に威力業務妨害で逮捕されました。2017年12月の関生支部の大阪でのストライキが容疑の対象です。僕はそのストの現場に行っていないのに、共謀していたということで逮捕されました。
大阪府警の逮捕により、2019年2月12日に予定されていた府警への訴訟の証人尋問は延期。3月4日に大阪拘置所で行うことになりました。
しかし、3月4日の大阪拘置所での証人尋問もできなくなってしまいます。2月18日に滋賀県警が僕を逮捕し、大阪拘置所から大津警察署に身柄が移されたからです。滋賀県警が僕を逮捕した容疑は恐喝未遂です。建設現場での法令遵守を呼びかけたビラを撒いただけなんですが。
その後、9月17日に僕は保釈され、10カ月ぶりに自由の身となりました。中止になっていた証人尋問は、11月15日に行われることになりました。
今度こそ証人尋問で出廷できると思っていたら、前日の11月14日、和歌山県警に逮捕されました。生コン経営者が元暴力団員を関生支部に差し向けたことに対し、抗議した関生支部の組合員たちが強要未遂と威力業務妨害で逮捕されました。僕もその事件に共謀したということで逮捕されました。
結局、米軍のXバンドレーダー施設の反対運動をめぐり、大阪府警の横暴を問うた訴訟では、僕の証人尋問は実現しませんでした。
政府とは闘わない「連合」
米軍基地にしろ、大阪で2019年に開かれたサミットにしろ、政府がやることへの反対運動に、警察は神経を尖らせています。大阪府警も僕を取り調べている間、逮捕した容疑のことは聞かず、「西山くん、辺野古になんで行ったんや」とか言ってくるんです。沖縄の辺野古の新基地に反対するため、ミキサー車に乗って行ったことがあるんですが、あの時は警視庁と大阪府警も機動隊を送り込んでいました。
今の日本の労働組合は衰退していると思います。だって、政府相手には闘わないでしょ。
連合(日本労働組合総連合会)さんなんて、政府と「春闘」して総理大臣に賃上げしてもらってるんですよ。
でもそれでは、大手企業の賃金しか上がらない。中小零細企業まで波及しないんですよ。全部、踏み台にされていますから。
権利は勝ち取るものなんです。
【取材者後記】「なんで緑色の頭 ?」に表れる本質/編集長 渡辺周
大阪地検の天川恭子検事は、取り調べで西山さんにこんなことを尋ねたという。
「なんで、緑色の頭をしているんですか」
西山さんは髪をカラフルに染めている。今はピンクだが、当時は緑色だった。天川検事にしたら、黙秘を続ける西山さんと会話するきっかけが欲しかっただけで、深い意味もなく尋ねたのだろう。
だが、私はこの質問が本質を表していると思う。警察にしろ、検察にしろ、弾圧する側は多数派の中にいることに慣れきっている。自分たちとは違う少数派が「異質」に映る。その潜在意識が、長いものに巻かれない者を排除する動機につながるのだ。
西山さんは逆だ。多数派から排除される人たちのことを常に気にかけている。インタビューの時も、大阪万博の開催に伴い、ホームレスが行政により追い出されることを心配していた。
日本の多数派への闘い方として、大きな可能性を秘めているのが国際連帯だ。関生支部は、韓国の全国建設労組と連帯している。建設労組は建設業に従事する約5万人の組合員で組織。西山さんは2003年、韓国への1年間の留学を経験している。
2019年1月9日、建設労組のイ・ヨンチョル委員長は、在韓日本大使館を通じ、安倍晋三首相に抗議文を送った。関生支部への大規模な刑事弾圧が始まって間もない時だ。
「今回の大規模な刑事弾圧は、連帯労組ばかりでなく、他の労働組合や労働者の正当な組合活動を萎縮させる効果をもつものである。われわれはこのような不当な刑事弾圧に対して断固抗議するとともに、組合員らの一日も早い釈放を求めるものである」
この3年後、韓国ではユン・ソンニョル氏が大統領に就任。建設労組に「建設労組暴力団(建暴)」とのレッテルを貼り、弾圧を開始した。関生支部も「反社会的勢力(反社)」のレッテルを貼られ、暴力団と同じような扱いを受けた。
しかし、韓国では市民社会のエネルギーを前にユン氏が失脚した。
関生支部の労組活動が、国際的な連帯の中で力を増して、やがて日本の市民社会に波及していく。このことを、日本の為政者は恐れているのではないか。