ふみさんの日々雑感

生活の事、家族の事、大好きなサッカーの事・・・日々いろいろ

文庫「火のみち」乃南アサ著

2008-12-10 17:51:43 | 映画・ドラマ・小説・マンガ
戦後、満州から引き上げて来て、極貧の生活の中、殺人を犯した南部次郎の一生を、まるでドキュメンタリーのように、物語は淡々とつづって行く。

満州の生活では両親と長女、長男、次郎、三男、四男の満男、次女の君子、三女の9人家族。満州で父は戦死し、長男と三男は病気で亡くなる。そして、引き上げの船の中で末の三女も亡くなる。四男の満男は知能の発達が遅れていた。

やっとたどりついた日本で、親戚の庭の隅の物置小屋で生きて行くのがやっとの生活が始まる。母が病気になり、家族が生きて行く為に19歳の長女が働きに出る(戦後、売春禁止法が施行されて行方不明になる)。14歳の次郎に知恵後れの満男と6歳の君子を託して。

母が死んだ時、君子は12歳だった。葬儀のどうしても必要だったお金を「困った時はおたがいさま」と貸してくれた“谷やん”を殺した。返せない金の変わりに君子を連れて行こうとしたから。

懲役10年の判決を受けた次郎は刑務所に、君子は養護施設に、満男は働きにでる。

刑務所で陶芸を覚えた次郎は、出所後、陶芸の先生に引き取られて備前焼を覚えて行く。そこで才能を開花し、作品に買い手もついて行く。先生が亡くなっても、スポンサーの元で自分の窯を持ち、やはり、独特の才能を発揮する弟と、先生の所から移ってきた兄弟子の伝田と穏やかに作品と作り続けて行く。

物語には、戦後の日本の復興から高度成長、今の時代までの、時々の政治・経済・一般の人達の生活・流行歌が挿入されている。私自身も、自分の歴史を追体験しているような思いで読み続けた。あんな事も、こんな事もあったと思いながら。

焼物に魅せられた次郎は、日本中の焼物を見て回り、そして、出会ってしまった。たまたま入ったデパートの「安宅コレクション中国陶磁名品展」。そこで、北宋時代の汝窯で焼かれた“青磁水仙盆”に。

台湾の故宮博物院の「汝官窯 青磁水仙盆」を見に行く。そこで“雨上がりの、空の青”を見て、満州を引き上げてくる時に見上げた美しい青い空を思い出す。

そして、その“雨上がりの、空の青”に憑かれて行く。自分の手で、それを再現しようと地獄が始まる。女優になった君子は兄の夢を実現させようと、莫大なお金をつぎ込んで行く・・・。

私も、汝窯の青磁水仙盆はどんなものかを見てみた。家には夫の趣味で、美術全集が沢山ある。台湾と北京の故宮博物院の写真集もあるので。

確かに北宋時代の「汝官窯 青磁水仙盆」がある。なるほど・・・。写真で見るのと本物を見るのとは印象が違うのだろう。

どこで作られ、どのように作られたのか、謎の焼物といわれていたらしい。そして、2000年に、見つかった窯を発掘し、やっと全体像が分かって来た。

世界で65点しかなく、日本には3点あり、その1点が大阪市立東洋陶磁美術館にある。晴れた秋の日の午前中、自然光の下で見る“汝窯水仙盆”の美しさは格別だと、解説を書かれている名誉館長さんが言っている。

いつか、秋に“汝窯水仙盆”を大阪に見に行こうかなと思う。

本当に、面白かった。そして、ラストシーンには胸が一杯になった。




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1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こんにちは。 (備前焼後楽窯)
2008-12-12 12:13:47
私は岡山市内で備前焼頑張ってます。
是非見に来て下さい。
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