Me & Mr. Eric Benet

私とエリック・ベネイ

金子三勇士 11/16 公開レッスン by Christopher Elton

2010-11-17 00:10:23 | ピアニスト 金子三勇士
画像は金子三勇士、先週演奏旅行で訪れた中国、西安の街角にて。

あるピアニストが自身のブログの中で、学生時代に最も苦手だったのが、
「公開レッスン」だったと記していた。
その方は中学生時代にポーランドから来日したピアニストの公開レッスン
(ホールで観客が見守る中レッスンを受ける)に参加したそうだ。
マズルカのリズムがなってないと指摘され、ピアノから離れて、
ポーランド民族舞踊のステップを踏むように要求される。
踊ったこともないダンスをするように言われて、ピアノ一すじで来た少年にできるはずもなく、
焦れば焦るほど観客は笑う、先生には叱られるしで、
その後、「公開レッスン」がトラウマにまでなってしまったそうだ。

金子三勇士、一昨日、facebookに「明日はロンドン、ロイヤルフィルの先生の公開レッスン」
とスレッドを立てる。
こんな物を見過ごすわけにはいかない。
一応、本人に観に行っても良いか確認しようとも思ったが、そのまま出掛けることにした。
大学に問い合わせの電話を入れると、今回の公開レッスンはホールではなく練習室、
とのことで部屋番号を教えてくれた。
三勇士の他にも2名がレッスンを受ける。
最後が金子三勇士とのことだったので、その前の方のレッスンから拝見することに。

講師はクリストファー・エルトン。
ロンドン王立音楽院でピアノとチェロを学んだ後、ロイヤルフィルハーモニー管弦楽団
(略してRPO)で活躍している。
RPOはクラシックだけでなく、幅広い分野でオーケストレーションをしている。

早めに着いたので、練習室をのぞくと一人目の男性がレッスン中。
部屋の前にその日のレッスンを受ける学生と曲目が書かれている。
「金子三勇士 リスト ソナタ」
と張り出されているのを見て、心の中でガッツポーズ。
大好きな曲が聴けると思うと、ここまで来た甲斐もある。

2人目の方のレッスンの始まる際に入室。
席は15席ほど用意されている。
ピアノに向かって左後方の席に座る。隣の位置には机があるので、そこにノートを広げる。

最初に通しで演奏。
その後、通訳の方を挟みレッスンになる。
一時間が過ぎ、講師は時計とドアの外を見た。
次の生徒、金子三勇士が待っているのをご覧になられたようで、終了となる。

部屋に入ってきた金子三勇士。
まっすぐ前に進むと後ろを振り返って客席を見る。
存在を消して紛れ込んでいたつもりだったが、私が来ているのに気付いて、
びっくりした表情でこちらを見て、微笑んでくれているのがわかる。
しかし周りは彼が誰を見ているのかといっせいに振り返ったので、目を伏せる。

三勇士はまず先生に自己紹介をし挨拶。
先生に譜面を渡し、ハンガリー語でいろいろと書き込んであり、
見苦しかったら申し訳ないけれど、と付け加えた。
それまでの学生たちは譜面を二つ持っていて一つは講師にもう一つは自分用。
しかしながら金子三勇士は暗譜なので講師用のみ。
講師は「僕はこの曲が好きでねぇ。」と目を細めている。

和やかな雰囲気から始まるが、ピアノの前に座ると、
三勇士はしばらく目を閉じて集中力を高める。
リスト ピアノソナタが始まった。

金子三勇士が最も得意とするリスト、
そして、彼がここのところずっと取り組んでいるピアノソナタを弾くのを間近に、
10名ほどの聴講者と共に聴ける、こんな贅沢な瞬間があって良いのだろうかと
思わず口角が上がってくるのを押さえられない。
もう最高のハッピーフィーリングに突入してしまった。

クリストファー・エルトンの様子を見ると、目を閉じて音に集中したり、
譜面を追ったり、また気付いたことをメモしたりしながら、聴いている。
私の周囲の学生たちはみな、譜面を見ながら聴いていた。

30分の演奏が終わる。
いつもながらピアノを演奏しているという状況を超越し三勇士とピアノが一体となっている。
講師は三勇士が英語ができるので直接やり取りをし、
通訳が学生にその様子を伝えるという形になる。

「この曲は人生の縮図、すべてが集約されている。喜び、悲しみ、美しさ、手強さ。悲哀。」
とエルトンは切りだした。「そして君はそれを的確に表現していて、ほんとうに上手だ。
素晴らしかった。」

私はオーディション番組、「アメリカンアイドル」「アメリカンダンスアイドル」
を観るのを楽しみとしているが、金子三勇士が先生から指導されている姿を観るのは、
知り合いがオーディション番組に出演しているのを観るに等しい。
それが生で目の前で繰り広げれられているかと思うと、思いっきりテンションが上がる。

講師は細かくいろいろな部分を突っ込んでくる。
例えば、「ここのテンポはゆっくりだったけど、それは意図的なこと?」
「自分の好みとしてはここを速くした方が良いと思うけど、君はどう思う?」
「リストはここの部分で何を考えて曲を作ったと思う?」
良く聴き取れなかったが、三勇士は"Angel"と言ったように聴こえた。
すると「抽象的なものでなく、具体的に音楽的な表現として。」と講師。
三勇士は「オペラですね。」と返事をする。
講師「そう、そうなんだ。だからもっとリリカルなものをここで打ち出した方がいい。
歌唱的な雰囲気を。」

またこの曲の難しさはクライマックスがたくさんあること、
それのどこを最も強調するか、すべてを強調してしまうとストーリー性が弱くなる、
観客にこれから何が起こるかという期待感、恐れ、
ミステリアスな部分を作っていかないと、などと指摘した。

前の学生の時は譜面でも指示していたが、三勇士のレッスンでは講師はピアノに向かい、
フレーズを弾き、「ここの部分を弾いてみて。」
「この邪悪なものが忍び寄ってくる感じ、これをもっと出したらどうかな?」
「こうやってシンコペーションをもっとわかりやすく弾いてみたら?
その方が印象が強くなると思うけれど。」
「一番最初に来るフォルテッシモはどこ?
そこを強調する方が僕としては好みなんだけど?」
「ここの部分は弱くした方が、観客も少しリラックスできる。
何しろ、30分の曲だから、どのようにテンションを維持させるかがポイントだ。」

「人を感動させる演奏をするためには、自分の感動も大切だけど、
リストが細かく書き込んでいる譜面を深めることで更に深遠なものに達することができる」
と他の学生たちにも向けて先生は結んだ。
一緒に演奏したり、三勇士に寄り添ってピアノを弾く手を押さえたり、
メロディーを歌ったりで講師も真剣だ。
それでも「あくまでもこれは私の意見だからね。君は君の演奏をすればいい。
それだけのものを既に持っているし、君はほんとうに巧い。」

いやはや公開レッスン、素晴らしいショウを観ているようだった。
3時間通しで3人をみたクリストファーも凄いが講師が要求していることを即時に理解し、
その場で期待に応える演奏をする三勇士の姿にも感動した。
金子三勇士、今までに多くの公開レッスンを重ねて経験を積んできたことがわかる。
昨日の公開レッスンは、私にとって金子三勇士を応援するようになって体験した
思い出に残るモニュメントの一つとなった。