6月2日(土)、3日(日)の両日、北海道札幌市、札幌コンベンションセンターにて、産業カウンセリング第47回全国研究大会がおこなわれ、参加した。沖縄大会、埼玉大会に続き、3回目の参加となる。今回の参加者は、約1千名と主催者発表があった。
札幌に着いたのは1日の午後。抜けるような青空、地元の方曰く今日は最高の天候ですとのこと。6月の北海道は、宮崎でいうと10月の半ばの天候。ちょっと肌寒くて、空気が乾燥しているように感じた。2日目以降は、徐々に天候に慣れ温度湿度とも快適に過ごせた。
大会では、主催者来賓の挨拶のあと、「北海道で考える」と題して、脚本家 倉本聰氏による基調講演。「前略、おふくろ様」「北の国から」「風のガーデン」他、映画「駅-STATION」等、多数の作品で知られている。基調講演では、3つのことを学んだように思う。
ひとつは、脚本家として時代を「見通す力」、この時代の人間の「本質」を見極め「課題」は何かを考え、人として共感・共有できる創作物をつくりだすことが脚本家なのだと感じたこと。
次に、テレビの一時代をつくった経験。テレビを見ている茶の間を想像し、その距離感をどう埋める作業、創作の喜び(前例のないものをつくるということ)、想像力・イマジネーションをかき立てる手法などテレビの魅力について語られ、更にテレビを通して「人として生きる時、何を意識するのか」などのメッセージから、未来をつくる仕事でもあるということを聞き、脚本家の仕事を垣間見たように思った。
最後に、こころという無限の広さを見直したこと。例えるなら、富士山に登ったという方はほとんど5合目まで車で登り、それから登山を開始する。これは富士山に登ったといえるのか。駿河湾の海水に足をつけ、それから登り始めて始めて富士山に登ったと言えるのではないだろうか。つまり、私達は5号目からの発想で物事を考えているのはないか。今一度、原点から物事を考えることで、視野、思考、選択が広がるのではないだろうかとの提案をもらったこと、である。
次に「ワーク・エンゲージメント~組織と個人の活性化に向けて」と題して、北里大学一般教育部人間科学センター教授 島津明人氏による特別講演。講演資料によると、ワーク・エンゲイジメントとは、バーンアウト(燃え尽き)の対概念として位置づけられている。バーンアウトした従業員は、疲弊し仕事への熱意が低下しているのに対して、ワーク・エンゲイジメントの高い従業員は、活力にあふれ、仕事に積極的に関与するという特徴を持つ。これまでに、ワーク・エンゲイジメントの高い労働者は、心身の健康が良好で、高いパフォーマンスを有することが明らかにされている。
ワーク・エンゲイジメントに注目した組織の活性化をするために、仕事の資源(上司や同僚からの支援、仕事の裁量権、成長の機会など)や個人資源(自己効力感、自尊心など)が豊富なほど上昇することが、メタ分析の結果から明らかにされている。このことは、仕事の資源および個人資源を充実させるための産業保健活動を経営部門や人事労務部門と協調しながら行うことの重要性を意味している。たとえば、職場環境等の改善活動においては、メンタルヘルスを阻害するストレス要因を評価し、改善に結びつける活動が行われてきた。今後、新たに開発された組織資源の向上を図るための実施マニュアルなども活用し、資源の増強を図る活動などの展開が期待される。
ワークー・エンゲイジメントに注目した個人の活性化のために、従来のセルフケア研修では、ストレスや精神的不調について知り、これに対応する技術が主に提供されてきた。今後は、こうしたストレスマネジメントに関する対策のほか、従業員が自らの仕事をやりがいのあるものに変えるジョブ・クラフティング(与えられた仕事の範囲や他者との関わり方を変えていく行動や認知)や、仕事外の要因(リカバリー経験、ワーク・ライフ・バランス)に注目した対策についても、新たな技術が開発される必要がある。
(懇親会であるサッポロビール園)
レンガづくりの素敵な建物。
普段話せない有名講師などに、アドバイスいただく。また、研修でご一緒させていただいた他県の会員とも、情報交換をおこなった。身体中に焼き肉の匂い(ジンギスカン料理)がついて、ちょっと困りました(笑)
大会2日目。テーマごとの分科会が4時間半にわたっておこなわれた。私が参加したのは、第2分科会、産業カウンセラーとして「産業社会の期待に応えるためには」。これまで3回にわたり継続テーマとして参加してきた。今回も、全国から応募のあった成果事例の中から、4事例が紹介された。
1「組織内産業カウンセラーの役割と育成」として、関西支部。企業組織内の課題は、労働市場の構造変化、働き方改革、技術革新、人事制度の改革、企業倫理・コンプライアンスなど、外部からはわかりにくい諸要素の複合化が進んでいる。特に、日大アメフト部、記者へのセクハラ報道、スポーツ界のパワハラなどの事例からも、想像に難くない。そこで活用モデル例として、①組織内産業カウンセラーの育成、②企業の課題を検討する研究会の設置、③支部カウンセラーの協力を得た企業の個別課題の具体的な解決、④企業内の解決事例(成功例)を元に各部門に水平展開させることなどが提案された。また、高い専門性追求と外部支援者との連携も課題であると話された。
2 沖縄支部における賛助会員への支援について。協会の認知を高めるため、賛助会員向けに「公開講座開催」「研修プランの作成」「情報交換会」などをおこなっている。このことは、企業・団体を支援するということだけでなく、専門家集団として、更に現場力を高め、問題解決力をつくるという反面もあることを感じた。
3 対話促進型ADRは産業社会の期待に応えられる協会の活動領域として関西支部。ADRを通じた問題解決には「評価・指導型」と「対話促進型」があるという。産業カウンセラーの資質を生かした「対話促進型」の問題解決手法は、当事者自らの問題解決を促進する方法として機能するのではないかと感じたのが第1印象。上記のパワハラ等の報道を見る限り、社会の変化に対応が追いついていかないそんな印象である。つまり「もみ消す」など従来のやり方では限界だからこそ、もめるのだと。人間が生きていく以上、人間関係は避けられない日常的な問題。オープンなダイアログ(対話)を通じて、自立、当事者の生きる力(エンパワーメント)を創出する支援が必要であると改めて感じた。
4 職場環境改善への支援として、北海道支部の会員から紹介された。建設会社で、2年前の資格取得をした女性Tさん。産業保健師でもある。まずは現場の生の声を知るべく、毎週、現場にでかけ積極的に声をかけたという。そこでいつもと違う社員に対して、自身でできることには対応し、力及ばない場合は、産業医、専門医へとつないだ。また、相談しやすい環境づくりをこころがけた。ストレスチェック制度では、働きやすい環境づくりのため、情報共有、対策、スケジュール立案などもおこなっている。また、Tさん本人からだけでなく本社や人事総務からも支援をいただけるよう働きかけて、社内環境の向上に務めている。
午後からは、グループでのディスカッションをおこなった。印象に残った点は3つ。ひとつは「ピアサポーター制度」。産業カウンセラーやキャリアコンサルタントなど資格をもった人を任命し、社内で気軽の相談にのってもらえる制度をつくった事例。社内では、このピアサポーターになることに社員からの憧れがあると聞いた。
次に、資格を会社で生かしている総務の女性の話。彼女は、「カウンセラーのいらない組織」を目指し、社員200名に話かけるという。そして、必要な部署や人へと橋渡しをしている。コーディネーターより、資格取得後活動の範囲を広げられない会員には、日々の研鑽、毎日知識を生かす場所として、普段と違う同僚、そこで声がかけられるかが専門性の分かれ目であり、積み重ねることで方向性が見えてくるのではないかとアドバイスがあった。
最後に、産業カウンセラーとしての専門性とは何か。心理学的な知識、労働法規等に加え、研修ができること、外部の協力者との連携できることなどが挙げられた。小さな成功例を積み上げること、課題を解決、知識を磨くことが生きた専門性につながる。
多くの方との会話を通して、自分を確かめ、そして未来を考える機会となった。普段の仕事と生活を離れ、じっくり考える時間が持てたこと、家族や仲間に感謝。いつかそれも出来なくなる時が来るだろう。それまで精一杯前へと進みたい。
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