5522の眼

ゆうぜんの電子日記、2021年版です。

オーウェルの世界

2007-11-12 22:29:38 |  書籍・雑誌

仏教僧を巻き込み数万人が参加したミャンマーでの大規模反政府デモで、軍事政権の武力弾圧により多数の死傷者を出したことは、日本人ジャーナリストの死もあって、一時はかなりの報道量だったのだが、デモが鎮圧後は報道管制が強化されミャンマー国内からの生情報が入らなくなった途端に、以前の公式報道のみに戻ってしまい、日本人の意識から遠ざかりつつあるようだ。デモはまだ2ヶ月前のことだというのに。



「ミャンマーという国への旅」(英語タイトル=隠された歴史、ビルマの茶店にジョージ・オウエルの足跡を探して)(エマ・ラーキン著、晶文社、2005)を読み終えた。



今から80年以上前の英領インドの一州であったビルマへ帝国警察官エリック・ブレアとして赴任したジョージ・オーウェル。5年間のビルマ時代に関する著作の背景となる9つの赴任地を巡って、その足跡を探す旅を、エマ・ラーキンというアメリカ人の女性ジャーナリストが記したルポである。



80年後の今もかわらず圧政に諦めながらも悩まされ続ける一般の市民の姿を書くことになった著者は、オーウェルの代表作「動物農場」や「1984年」の世界がアジアの片隅に現実にあるとレポートする。



最終章の「カター」にはティン・ティン・レイという元ラングーン大学の歴史学教授の話が出てくる。「私たちビルマ人は800年間にもわたって絶対君主の下で生活を営んできたのです。ビルマの王様は人を殺すことも、人を破滅させることも、人を牢につなぐことも、自分の意のままにやってのけることが出来ました。結果としてビルマ人は権威者の統治を黙って受け入れるようになってしまい、上の人の言うことを聞くように馴らされて服従するのは当り前だと思うようになってしまったのです。言い換えれば、ビルマ人は権威ある政府を心理的に受容してしまうようになってしまったのです。」と彼女は語る。ビルマ人の皆が持つ「諦め」や「焦り」、「沈黙」や「裏切」といった行動を説明することばのように思えた。



1948年にイギリス連邦から脱し独立してから、すでに60年、軍政下の生活経験しかないジェネレーションは、現在の自分の生き方をどう認識しているのだろうか。反政府デモも燃料費の高騰が引き金だったという。生活は苦しいのに違いなかろうが、圧政に面と向かって楯をつける状況にはないのだろう。



オーウェルは「1984年」で、支配者層が力を失うに至る4つの要因をあげ、



  • ?外部からの力に彼らが屈服した場合、


  • ?政府の失政から民衆が蜂起した場合、


  • ?政府施策に不満を抱く中間層が力をもった場合、


  • ?自信を失った政府が統治する意志をなくした場合、


を示して、こういった要因も一つだけではなかなか結果を伴わない。たいていの場合、この4つがそれぞれ、ある程度なければ、実効は上がらない。これらの要因を排除し続ける限り、支配層は永遠に権力を保持し続けるのだと云っている。



タン・シュの軍事政権は、まさに半世紀前に書かれた「1984年」でオーウェルが云ったことを忠実に履行しているように見えてきた。永遠の権力保持の為には、NKの首領さまもひょっとしてこの本を愛読されているのかもしれない。コワイ話である。






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