日本語の特徴

2014年01月22日 | 日記
音声学的に見た日本語の特徴は、声楽発声には不利なことばかりです。声楽を志す人はまずそのことをしっかり認識する必要があります。
日本語は子音にすべて母音が付くので、喋っている間ずっと声帯が鳴っています。つまり声帯にかかる負担が大きいのです。また、口の奥は開けず口先だけで喋ります。当然ながら口の中が狭くなるので、強弱に乏しく平板な感じになります。共鳴が少ないので、はっきり発音しようとするとどうしても下あごに力が入ります。下あごが緊張すると声帯も緊張します。声帯に力が入っているので硬めで高めの声になりますが、響きの豊かな声ではありません。
「カロ・ミオ・ベン」という有名なイタリア歌曲があります。声楽の初心者がよく歌う曲ですが、世界中の著名な声楽家の喉を診てこられた耳鼻咽喉科医の米山文明先生のご著書の中に、日本人の声楽家たちがイタリアでこの曲のレッスンを受けた時のことが書かれていました。最初の「カ」の出し方ばかり何度もダメ出しされ、それだけでレッスンが終わってしまったのだそうです。このエピソードを読んだ後、中高生の独唱コンクールを聴きに行ったことがありました。課題曲の中にこの「カロ・ミオ・ベン」が入っていたのですが、中高生たちの歌う「カロ・ミオ・ベン」がまるでお謡いのように聞こえました。口の奥が開いていないのと、響きのポジションが低く、胸に響いているのが原因でしょう。
今日久し振りにレッスンに来られたMさんに、そんな話をした後で「カロ・ミオ・ベン」を歌って頂きました。まず口の奥を開けます。口蓋垂の後ろがこちらから見えるように口の奥行きを深く、上あごもしっかりと上げて頂いて「アー」と発音して頂きます。それができたら「カー」です。舌背を上あごに一旦付けて離すのですが、クッという無声の子音からアーという母音に移行する時、口の奥がちゃんと開くようにします。腹筋や背筋を使わないとできません。カーローミーオベーーーンと下行する音型は身体が緩みやすいので、アスリートのトレーニング用のゴムチューブを軽く引っ張りながら身体の筋肉の伸長をキープします。イやエの母音は口角が横へ開いて下あごに力が入りやすいので、なるべく口角を動かさずに舌の動きだけで母音を変えるようにします。ワンフレーズ歌うだけでも相当に身体を使うので、Mさんは途中でヘロヘロになりながら頑張って下さいました。
口の奥をよく開いて発音する時、横隔膜やその拮抗筋はずっと使いっぱなしになります。イタリア語やドイツ語などは、日本人にとっては喋っているだけで筋トレになるとも言えますね。今や日本声楽界のホープの一人となった旧友のO君が、イタリア留学から帰ってきて久し振りに会った時に「そもそも喋っている言葉が違うからね」と言っていたのを今でも覚えています。欧米で活躍した日本人声楽家も、帰国してしばらく経つといつのまにか息のポジションが下がってしまう例をよく見聞きしますが、喋っている言葉の影響というのはそれほど大きいのですね。
蛇足ですが、これはあくまで声楽発声の見地から見た「音声的な」日本語の問題点であって、私は日本語の美しさに深く愛着する日本人の一人です。俳句も短歌も散文詩も、美しい響きと深い心情を持つ優れた文学だと思いますから、日本語の歌を美しく歌うための工夫も大切にしたいと思います。しかしそれも、あくまでも口の奥がしっかり開き、下あごの力みが取れてからの話です。


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