弾き語り

2012年07月31日 | 日記
「弾き語りのおじさん」が腰痛のためここしばらくお休みされているのですが、最近、第二の弾き語りのおじさん(?)が新たに入門して来られました。本業は大学の体育の先生です。大学での公開講座や対外的な活動の折にはギター持参で自作自演を披露されるそうです。今週末に公衆の面前で(笑)演奏する機会があるそうで、今日はその時に歌われる予定の日本の四季の唱歌メドレーをレッスンしました。さすがに筋肉の使い方などは呑み込みが早く、持ち声も良いのでなかなかムーディに歌われます。
私はギターを弾いたことがないので弾き語りをする時の身体の状態があまりよくわかりませんが、楽器を前に抱えて歌うと姿勢が崩れやすいだろうなと思います。ギターやヴァイオリンやフルートのように左右非対称な演奏姿勢になる楽器は、体幹部がしっかりしていないと重心が安定しないでしょうから、思っている以上に体力が要るのではないかと推察します。
この「第二の弾き語りのおじさん」は身体がすぐに反応するので、その点はとてもいいのですが、コード進行に気を取られると姿勢が崩れて声が顎にひっかかってしまいます。また、日本語の自作自演は歌詞が多いので、つまり「しゃべるように歌う」ので(だから「弾き語り」と言うのですね)、どうしても普段の話し方がそのまま歌に持ち込まれてしまいます。
日本語は音声学的には非常に非声楽的な言語です。こういう表現は価値判断を含んでいるように取られかねませんが、そうではありません(私とて日本語を愛することでは人後に落ちないつもりです)。今週の土曜日にパレアで開催する「健康と発声」のセミナーでもお話するつもりですが、日本語には、諸外国語と比べてざっと見ただけでも7つほどの決定的な非声楽性があります。列挙してみましょう。
1.口先だけで話す(外国語は口の奥を開けないと発音できない音がある)。
2.横隔膜をほとんど使わない(外国語はよく使う)。
3.下あごに力が入る(外国語は入りにくい)。
4.子音にすべて母音がつくので、声帯にかかる負担が大きい(外国語は子音が多い)。
5.呼気筋を多く使う(外国語は吸気筋を多く使う)。
6.顔の筋肉をあまり使わない(外国語は唇や口角をよく使う)。
7.周波数帯域が狭い(外国語は広い)。
声楽発声の点から見てこれほどのハンディキャップを持つ日本語ですから、「しゃべるように歌う」のでは全然声が通りません。ここは発想を逆転して「歌うようにしゃべる」ことに徹しないといけません。その際、特に「口の奥を開ける」ことは、どんなに意識してもし過ぎることはないというぐらい大事なことです。何しろ普段は口先だけでしゃべっているのですから、口の奥を開けるというのは日本人にとっては至難の業なのです。先日のW先生のレッスンでも、口の中に親指をつっこんで「口蓋垂の後ろまで」マッサージしなさい、と言われました。嘔吐反射がすごいですが、それぐらいしないと開かないのです。
それから、前傾姿勢になりやすいので、無意識に呼気筋が優位になってしまいます。伸ばす音では「ストローでジュースを吸うように」、口の奥に棒を突っ込むような感じをイメージすると自然と胸が開き、口の奥の息の通り道も開いて、息が途中で切れることなくロングトーンを歌いきることができます。
弾き語りのレッスンでは概略こんな感じのことをやっています。結局、すべて声楽のレッスンと同じですね。

レッスンwith腰痛

2012年07月29日 | 日記
ロンドンオリンピックが始まりましたね。手に汗握る熱戦が繰り広げられていますが、私は勝敗のある競技は怖くて正視できず、結果が分かった後の録画放送を見ることが多いです。案外心臓が弱いのです(笑)。
さて、昨日、W先生のお宅に伺ってレッスンを受けてきました。上京直前にまた腰痛がぶり返したので、レッスンの前に「身体呼吸療法」という治療を受けに行きました。この治療を行っているO先生はアメリカでカイロプラクティクの資格を取り、ドクターも取得して日本で開業していらっしゃるパイオニアです。ここの治療は私の身体にはよく合い、呼吸と睡眠が深くなります。今回は「脊椎の4番と5番がねじれていたのでゆるめました」とのこと。身体が軽くなり、だるさも取れました。しかし腰痛は間歇的に襲ってきます。この宿痾はなかなか私から離れてくれません。
レッスンでは、最近W先生やお弟子さん方が取り組んでいらっしゃる「声楽家のため太極拳」のお話を伺いました。普通の太極拳とは少し違うものだそうです。その一部をちょっとだけご伝授頂きましたが、不思議に腰の重さが軽減しました。話を聞くだけでも興味深く、私も是非一度参加してみたいものだと思いました。
発声については、このところ私が男声について質問をすることが多かったので、女性が男性のレッスンをする時には地声を使って教える方がわかりやすい、という話から、椅子に深く腰かけて重心を後ろにかけながら地声を出す練習をしました。その際、まず足に響いているかどうかを確認します。そして口蓋垂をしっかり引き上げ、両目の間の篩骨に響かせます。地声でもこうすると喉には負担がかかりません。うっかりすると声が顎にひっかかるので、顎を動かしたり、腰を後ろに拡げたり、全身的にバランスを取りながら顎の力を抜きます。
その後で立位での発声に移りました。足の親指の付け根をしっかり使い、腹話術式発声から声楽発声に変換したり、口の中に指をつっこんで、口蓋垂の後ろまで指で触って挙げたり、帳形骨の両端の縁を触ってみたり。こんなに深くつっこむと嘔吐反射が強く起きますが、それぐらいしないと開かないんですねえ。また、高音域の発声にはかなり腰を使いますが、痛みがあるので十分に筋肉を使うことができず、高音が薄くなってしまいます。早く腰痛を直さねば。
曲は、9月22日に八代で行われるチャリティコンサートで歌う予定の、リストの「愛の夢」を見て頂きました。これは先日Iさんがステージで歌われ、レッスンにも持って来られたお陰で私も覚えることができた曲です。「私の声に合う曲じゃないんですけど、お客様は一般の方が多いので、なるべく親しみやすい曲がいいと思って...」と言いながら歌ってみると、W先生は「いいんじゃない?合ってないことないわよ」とおっしゃいました。「高音域の時はもっと奥歯を後ろに引いて!」、「エの発音の時はもう少し口を縦に開けて!」などなど、普段自分が生徒さん達に言っているのと同じことを言われ、私もまだまだだなと再認識。
レッスン後、「声に厚みが出てきたわね。息のスピードも速くなっているし、この前来た時より良いわ」とおっしゃって下さいました。「多分、毎日生徒さんのレッスンをしているお陰だと思います。人のことはよくわかるので、もっと息を高く!とかもっとスピーディーに!とか言いながら自分でも一緒にやっているんです」と言うと、笑いながら「そうよね」と言われました。教えることは学ぶこと、と言いますが、本当にそうです。忙しくて自分の練習などほとんどできないのに、それでも多少なりとも発声に進歩があるのだとしたら、それはひとえに生徒さん達のお陰です。良き師と良き生徒さん方に感謝しつつ帰途につきました。

イマドキ

2012年07月27日 | 日記
今時の若者は、とか今時の子どもは、と言われながら育った私たち世代ですが(まあこれは大昔から言われていることですが)、精神年齢があまり成長していない私でも「今時の若者は...」とつい思ってしまうことがあります。と言っても大抵の場合は「今時の若者は(良くも悪くも)進んでいるなあ」という慨嘆なのですが。
昨日、小学校のコーラス部のヴォイトレに行きました。総勢16人という少人数でコンクールに挑戦するそうです。昨年初めてこの学校にお邪魔した時は反応の良さに手ごたえを感じましたが、昨日は、朝9時に伺った時はすでに30分ほど練習をしたところで、この暑さのせいでみんなぐにゃぐにゃっとしています。こんな暑さの中で何時間も練習するのは大変だなあ、と、半ば子どもたちに同情しながらレッスンを始めましたが、今回はちょっと勝手が違います。何と言うか、ノリが悪いのです。もともと、ヴォイス・トレーニングというのは子どもには難しいところがあります。何しろ相手は小学生ですから、「発声」という概念さえ持ち合わせてないわけです。音程が取れない、とかリズムがずれる、というのは自分でも自覚があるでしょうが、発声というのは子どもにとっては漠然とした概念ですから無理もありません。
発声のメソッドは子どもも大人も同じですが、合唱の場合はアプローチに工夫が必要だな、と合唱団のヴォイトレのオファーを頂くようになってから思うようになりました。声楽の人とはやはりモチベーションが違いますから、食いつきの点で差があるのです。腹筋をはじめ全身の筋肉を使って声を出すには体力が要りますから、暑さでぐでっとなっている時に発声のレッスンは少々辛いようです。全身を使って声を出すとスカッとした爽快感があり、それが魅力でヴォイトレにハマる人も多いのですが、昨日はその「スカッとした爽快感」まで行きつく前に撃沈(?)してしまう子がいることに気づきました。何しろ筋力が弱い。だから座骨の上にまっすぐに座ることさえなかなか難しいのです。口の開きをよくするためにワインコルクを使ったのですが、コルクをくわえている時はとてもいい響きがしているのに、はずしたとたん元に戻ってしまう。ありがちなことです。しかし、何とかキープしようと思っても、そもそもの筋力が弱過ぎてうまくいかないのですね。
そんなこんなで2時間を一緒に過ごしましたが、ヴォイトレ以前の基礎的な体力や筋力の問題が大きいなあと思わされました。生活習慣や環境要因が大きいのでしょう。でも、とにかく子どもは可愛いです(毎度同じことを言っていますね、私)。子どもたちの発散している生命力をもらって、私は元気になって帰りましたが、さて子どもたちはどうだったのでしょう。気になるところです。歌に必要な筋力は歌いながらつけるしかありませんから、昨日のトレーニングを地道に続けてくれるといいのですが。

講習会

2012年07月25日 | 日記
県南の合唱協議会の連続ヴォイス・トレーニング講習会の2回目に行ってきました。今日の午前中は出講している大学の試験日、午後は近所の福祉サービス事業所のヴォイトレと個人レッスンお一人、そしてJRに乗って7時からの講習会へ。暑さと疲れで、始まる前の段階で「今日は最後まで体力がもつだろうか」と一抹の不安がよぎりましたが、いざ受講者の皆様を前にすると不思議とシャンとするものです。とはいえ、週半ばの夜7時からの講習会、しかもこの暑さですからお集まりの皆様もかなりお疲れの様子。人数も前回より少なめでした。それでもさすがに意識の高い方たちばかりで、質問も出て、内容のある講習ができました。
こういう講習会の時に私が大事にしているのは、声を出す前に身体と意識を活性化させることです。まず前回の復習を兼ねて「裏声で挨拶をする」、「伸びをしながら裏声を出す」、「胸を軽く張ったまま息を吐く」、「吸気を反射的に取り込む」といった練習をしました。呼吸の練習は、どの講習会やセミナーでも「吐き終わって脱力すると吸気が反射的に入ってくる」というのがなかなかうまくいかない方が必ずいらっしゃいます。息を上に向かって強く吐く、というのも案外と難しいらしく、最初の頃、私にはどうしてこういう練習がそんなに難航するのかよくわかりませんでした。しかし回数を重ねるにつれてわかってきたのは、声楽家や声楽を勉強している人以外の一般の人には呼吸が浅い人がかなり多いということです。合唱をやっている人でもそうなのです。呼吸も筋肉の仕事ですから、筋力が弱い人が案外多いということですね。これは、身体を全くと言っていいほど使わずにしゃべることのできる日本語という言語の影響でしょう。筋肉が凝っていることも大きな一因です。
口を開ける、というのも一般の方にとっては(声楽家でも)かなり大変な作業です。今日はワインコルクをくわえて上あごを上げる練習をしました。すると声が歴然と変わります。ハンカチを使って軟口蓋を上げる練習や、あくびをして喉頭蓋を開ける練習もして、共鳴腔が広く開いていることがいかに響きにとって大切かを実感して頂きました。「アゴが痛くなった」とおっしゃる方もあり、これもなかなか徹底し難い課題なのだな、と再認識。
休憩の後は下あごと舌根をゆるめる練習、そしてハーモニーを楽しみながら発声の方向づけをする時間を設けました。まず、和音をピラミッド型に低音を充実させて積み重ねる練習です。小中学校でよくやる「ハローハロー」という曲を使いました。それから、不協和音をきれいに響かせる練習として「ほたるこい」、協和音の練習として「山の朝」をそれぞれカノンで練習しました。息の方向を揃えると本当に素晴らしく心地よいハーモニーになります。高原の爽やかな風が吹きわたるようなハーモニーに疲れもすっかり消えてしまいました。帰りのJRの中でも少しも疲れを感じません。それどころか数日前からぶり返していた腰痛も消えています。驚いてしまいました。良い発声は文字通り波動が良いのでしょうね。明日も朝から小学校の合唱部のヴォイトレですが、きっと小学生の声が私の夏バテを癒してくれることでしょう。楽しみです。

引っ張る

2012年07月23日 | 日記
昨日、新しい生徒さんをお迎えしました。声に自信がない、とおっしゃる物腰の柔らかい30代の男性です。実際、話し声もかなり小さく、優しそうではありますが少々自信無げな印象を受けます。よく通る声が出るようになったらもっと溌剌とした感じになられるだろうと思います。
初回なので、呼吸や発声、共鳴についてレクチャーをしながらレッスンをしましたが、ご多分にもれず、このNさんも声を出すための筋力が弱いようで、「軽く胸を張ったまま前歯の間から息をスーッと音を立てて吐いて下さい」と言うとお腹周りが硬直したようになります。トランペットのマウスピースを吹いて頂くと、なかなか音にならないのはまあいいとしても、胸を絞るようにして吹こうとされます。胸は軽く張ったままで、というのが存外難しいようで、どうしても身体が硬くなってしまうのです。
こんなに筋肉を使わなくちゃいけないとは思いませんでした、とおっしゃるので、何か運動はなさいますか、とお尋ねすると、スポーツはよくなさるそうです。ということは体力はおありなのでしょう。しかし、声を出すための筋肉はスポーツの時とはちょっと違うのですね。そこでストレッチ用のゴムチューブを出してきて説明を試みました。「このゴムチューブ、こうしてテーブルの上に投げ出してある時は緩んでいますよね。これは、車で言えばエンジンを切ってクールダウンしている状態です。今、Nさんは腰かけてリラックスしていらっしゃいますよね、それはゴムで言えばこの状態、車で言えばまだエンジンがかかっていない状態です」。ここまではおわかり頂けたようです。「さあこれから声を出そう、と思ったら、車で言えばエンジンをかけなくてはいけません。つまり、いつでも走り出せるようにするわけです。ゴムを筋肉に見立てれば、両端を握ってたるみのない状態にするんです」。話はわかるが実際の身体の状態としてはよくわからない、というお顔ですが、ともかく話を先に進めます。「実際に声を出す時は、このゴムを引っ張って伸ばすように筋肉を引き伸ばすんです。固めるんじゃなくて。車で言えば、いよいよアクセルを踏んで加速するわけです」。呼吸の練習の時に胸を軽く張るというのは、車のエンジンをかけてニュートラルに入れるのと同じことです。胸を軽く張ったまま歯の間からスーッと音を立てて息を吐く時は身体が引っ張られます。ゴムを引っ張っているのと同じ状態です。声を出す時もこんなふうに身体を使うのです。お腹周りの筋肉が一生懸命働こうとしますが、筋力が弱いとちょっと大変です。
歌う時は、この「ニュートラル」と「アクセルを踏み込んだ状態」を往復するわけです。そして完全に歌い終わってから初めてエンジンを切ります。つまり、曲が続いている間は休符でも筋肉を緩めきってしまわず、いつでも引っ張れるようにしておきます。
筋肉は伸縮性が高いこと、つまりたくさん伸びられる(引っ張ることができる)ことが大事なのです。Nさんもレッスンを重ねるうちにきっと「引っ張る」ことを会得されることと思います。