質疑応答

2017年08月14日 | 日記
先月、面識のない読者の方から突然メールで「子音を発した後母音を響かせればよいのでしょうか」というご質問を頂き、こちらも「子音は共鳴しませんから、必然的にそうなります」と短文で返信したところ、それを口火として10回ほどのやり取りが続きました。その抜粋を再現してみたいと思います。久しぶりの発声ネタですね(笑)。

■母音=響きと思うのですが・・・
声帯は母音で鳴ります。子音では声帯は動きませんので、母音と母音の間の子音の時は、前後の母音を発声している時と同じかそれ以上、筋肉をしっかり使って母音をできるだけつなぐ必要があります。
そうしないと、子音で体(声帯)がゆるみ、次の母音の声帯振動と呼気の飛び方が不十分になって、結果として頭部共鳴が薄くなります。

■(質問者の声楽の先生は)音を発するのも途中下がるのもすべて鼻腔で響かせるという持論の持ち主ですが、身体から斜め上方に響きを集めないと、オーケストラピットを超えて観客席に届かないのではないでしょうか。
→鼻腔共鳴という言葉や考え方は、昔は常識だったようですが、解剖学的に言って声の共鳴箱は副鼻腔(特に蝶形骨)というのが最近の定説です。蝶形骨に響かせる、いわゆる頭部共鳴のためには、呼気が高速で(勢いよく)垂直に上がらなければなりません。そのためには、喉頭蓋がしっかり開いていることと、下半身の筋力が必要です。喉頭蓋を立てることはあくびのフォームを維持すればできます。呼気圧を強くすることは、トランペットのマウスピースを吹くことで訓練できます。
「身体から斜め上方に響きを集める」と表現されているのは、篩骨の共鳴のことと思われます。篩骨共鳴を得るには、鼻筋を締めるようにして(鼻を高くする感じ)眉間あたりに緊張を作っておいて、呼気を垂直に飛ばします。篩骨はハチの巣状の小さな骨です。ここに当たると声が前に飛びます。

■口からは言葉は言わないとされているという声楽家と、声は軟口蓋の上を通って舌の先から息に乗って出ていくとあります。どちらが本当なのでしょうか。
→発音には唇、舌、歯、上顎を使います。つまり口を使わなければ発音できません。子音は主に口先で発音しますが、母音を当てる場所(発音の時に緊張する部位)は、ヨーロッパ言語の場合は軟口蓋です。
日本語は口先で喋るので、子音のアンザッツ(声の当たる場所)と母音のアンザッツがあまり変わりませんが、ヨーロッパ言語の場合は子音と母音のアンザッツが違うので、2点で発音する感じになります。
そのため、口の中の奥行きが深くなります。

■頭骨に共鳴した後マスケラに到達するそうですが、どうしたらそうなりますか。
→マスケラに響かせる、とは、解剖学的には篩骨(眉間より少し下)と前頭洞(額)に共鳴させることです。声は緊張しているところに集まるので、鼻筋を締めて鼻を高くするようにして額を緊張させます。頬骨が少し持ち上がるような感じです。このようにして顔の上半分に緊張を作っておいて、呼気はなるべく後ろを通って垂直に(上に向かって)飛ばします。そうすると呼気が蝶形骨にあたります。蝶形骨はたくさんの骨と接合していますが、額に緊張があるので、蝶形骨内の空気が額の方に引き寄せられてマスケラの共鳴が得られます。マスケラの共鳴も、呼気を高速で垂直方向に飛ばすことが必須条件です。

■声は口から息にのせて出すのか、蝶形骨に共鳴させて響きとなってホールに飛んでいくのか、どちらでしょうか。
→声は口から前へ出すという考え方の方もおられますが、頭部共鳴をもっぱらとする発声の場合、蝶形骨の振動が接合する骨に伝わって、篩骨や前頭洞から前方へ、側頭骨から左右へ、後頭骨から後方へと空間に拡散します。それがさらに壁や天井、床などに伝わって反射することで、空間全体が共鳴体になるのです。

■オペラアリアも日本歌曲もロシア民謡も、母音は軟口蓋をとおして蝶形骨に響かせホールに飛ばせばいいのですね。
→蝶形骨に響かせるには、口蓋垂の後ろをしっかり開け、そこを通って呼気が垂直に上へ飛ばなければなりません。
共鳴優位の発声は、民族音楽を除き、大抵のジャンルに応用できると思います。

■硬口蓋と軟口蓋に当たった母音は75パーセントくらいは軟口蓋と硬口蓋から響きとなって頭から外に抜け、20パーセントくらいの呼気は歌になって口から息に乗って出ていく、と考えていいのでしょうか。
→呼気は常に100パーセント垂直方向です。口蓋垂の後ろを通って目と鼻の裏側あたりまで高速で飛ばすと、呼気が蝶形骨に届きます。ここが声の主な反響箱です。口も含気孔ですが、呼気は口からはほとんど出ていきません。

■アクートを身につけないと高音は出ないと言われていますが、どうなのでしょうか。
→アクートのことはよくわかりませんが、「開ける」という意味だと聞いたことがあります。声帯の上の喉頭蓋を開けるという意味であれば、解剖学的には合っています。喉仏が下がっていれば喉頭蓋が開いています。

■息を垂直に頭部の下にたたきつけ声を外に投げ出すやり方を試したらうまくいったのですが、これは間違っているのでしょうか。
→できるだけ高速でダイレクトに呼気を蝶形骨に届けることをそのように表現されているのであれば、私の言いたいことと同じだと思うのですが、実際には「たたきつける」というより「抜けていく」という感覚です。比喩的に言えば「鯨の潮吹きのように(あるいは噴水のように)、頭頂から呼気が勢いよく真上に飛び出す」という感じです。

■頭部共鳴優位の発声ではなく、もう一つの「パンチの効いた声」という発声は、息を軟口蓋に当てればいいのでしょうか?
→声帯を鍛えるタイプの発声は、私は 自分でやったことはありませんが、声帯の下に息をためておいて、閉じた声帯を爆発させるように強く声を出す練習をしているところを見たことがあります。しかし、これは声帯を傷める危険を伴う発声だと思うので、お勧めはできません。

■母音のイとエはアの口のあけ方で言えといわれていますが。
→エは、口蓋の高さや唇の形はほぼアのままで、舌を少し前へ出します。正しくは舌を少し持ち上げ、舌の両端を上の歯につけるようにするのですが、いきなりは難しいので、少し前へ出す方がやりやすいです。
イもエと同様ですが、どうしてもエの時より口蓋が下がります。硬口蓋が下がるのはやむを得ませんが、 軟口蓋はできるだけ挙げておきます。エからイに行ってみるとわかりやすいと思います。

■軟口蓋をしっかり上げる意図は何なのでしょうか。
→軟口蓋を上げるのは、口腔のスペースを広くして口の中の響きをよくするため、そして、口蓋垂の後ろ側をしっかり開けて、蝶形骨洞にいたる道を呼気がスムーズに通れるようにするためです。

■下から垂直に呼気を飛ばし、ハミングや母音で歌うとこめかみの部分に響きますが、これでよいのでしょうか。
→「こめかみに響く」というのは、私にはよくわかりません。耳の後ろの側頭骨や、後頭骨に響く感じです。

頂いたメールそのままの文ではありませんが、大体こんな感じのやりとりでした。せっかくの質疑応答なので、読者の皆様とシェアしたいと思います。ご感想やご意見をお聞かせ頂ければ幸いです。


前期終了

2017年08月11日 | 日記
大学の前期試験の再試験がやっと昨日終わり、今日から晴れて夏休みです。前期はだんだん暑くなっていくので、例年のことながら最後がとても長く感じます。7月下旬になると青息吐息で、だんだん呂律も回らなくなり(笑)、自分が言っていることや言おうとしていることさえ途中でわからなくなる始末です。試験問題を作る頃には判断力もほとんどなくなっていて、出来上がった問題を自分で解いても正解できず(笑)、こんな問題誰が作ったんだ、と心の中で突っ込む有様。
それでも皆頑張ってくれて、単位を落とす人もごくわずかでした。肩の荷が下りた、というのがぴったりの気分です。
今年の夏休みは、断捨離に励みます。心臓のバイパス手術の後、リハビリのため入院中の父が帰ってくる日に備えて、家の模様替えをしないといけません。そのためにも、まずモノを減らすところから。私は断捨離が趣味(笑)なのですが、その割にはモノが減らない(変ですね(笑))。いや、減ってはいるのですが、減っているように見えない。要はモノが多過ぎるわけです。どのコーナーにも余白が無い。とりあえずそこに置いてある、というものが多過ぎます。余白が大事なんですね。収納は、モノを出し入れするためのスペースを十分に確保してやらないといけないわけです。
断捨離に取り組んでいると、私の場合、日々の生活にも人生全般にも、果ては性格にも、ゆとりや遊びが無さすぎる、ということがすごく意識されます。せっかくの夏休みですから、ここらで人生も一休みしたいところです(が、サバティカルを自分に許容するだけの経済的余裕のないことは、自分が一番よく知っています(爆))。M先生が二言目には「遊びなさい!」と仰る意味も、最近ようやくわかる気がするようになりました。あまりきちきちに詰め込んだ生活をしていると、余裕のなさが歌に表れてしまうのですね。もっとも、現実には誰もが生活に追われているわけですから、このジレンマを乗り越えるのは一大事です。
自分を解放し、慈しむことは、意識しないとなかなかできません。時間は万人に平等に与えられているのですから、工夫次第なのでしょう。この夏休みは、休むことを課題にしたいと思っています。