楽曲解析10.ズライカの歌

2019年09月23日 | 日記
ゲーテが70歳の時に刊行した『西東詩集』全13巻の中に「ズライカの書」という1巻があります。ゲーテが東洋詩人ハーテムに扮して恋人のズライカと相聞歌を交わす、という仕立てになっていて、ズライカの詩もハーテムの詩もゲーテが書いた、と長いこと思われていました。ズライカの詩には素敵なものがいくつもあって、シューベルトやメンデルスゾーンも歌曲にしています。このズライカのモデルは、後にゲーテの友人ヴィレマーの妻となるマリアンネという女性なのですが、近年、ズライカの詩のいくつかはこのマリアンネの作であることがわかりました。シューマンが曲を付けた「ズライカの歌」のテキストも、マリアンネの作だそうです。

Wie mit innigstem Behagen,  どんなに満ち足りた思いで
Lied,empfind' ich deinen Sinn,  歌よ、私はおまえの心を感じることでしょう、
Liebevoll du scheinst zu sagen,  おまえは優しく言ってくれているようだわ、
Daß ich ihm zur Seite bin;  私はあの方のお側にいるのだと。

Daß er ewig mein gedenket,  あの方はいつも私を想ってくださり、
Seiner Liebe Seligkeit,  あの方の愛という無上の喜びを
Immerdar der Fernen schenket,  遥かな者に絶え間なく贈ってくださっているのだと。
Die ein Leben ihm geweiht.  あの方に命を捧げているこの私に。

Ja,mein Herz es ist der Spiegel,  そう、私の心は鏡。
Freund,worin du dich erblickst,  愛しい人、そこにはあなたが映っているのよ、
Diese Brust,wo deine Siegel  あなたが口づけを重ねて封印した
Kuß auf Kuss hereingedrückt.  この胸には。

Süßes Dichten,lauter Wahrheit,  あなたの甘美な詩と、その明らかな真実が
Fesselt mich in Sympathie,  私を魅了し、同じ想いを抱かせてくれます。  
Rein verkörpert Liebesklarheit  清らかな愛が詩の衣をまとって
Im Gewand der Poesie!  真の姿を現しているのですもの!

相聞歌ですから二人は離れているわけですが、離れていても思いは通じ合っていて、交わし合う詩の中に愛を確かめ合うことができる。このゆかしい愛の姿、少し日本的な感じもしますね。そして、歌(ドイツ語では詩のことも「歌」と言います)に対して「Du あなた」と呼びかけています。このDuの使い方も良いですね~。きっと、この詩の前にハーテムから届いた詩の内容が、お互いに相手が自分の側にいるように感じられる詩だったんですね。そして第3節では恋人に直接Duと呼びかけ、詩と恋人が重層してきます。
それにしても、シューマンはなんと幸福感に満ちた美しい曲を付けたことでしょう。さすがに「ミルテの花」に収められているだけあります。「ミルテの花」はシューマンがクララとようやく結ばれた年、まさにその結婚の前夜にクララに捧げられた歌曲集で、ミルテの花というのは花嫁のブーケに使う花なんだそうです。白い小さな香りのよい花。なんてロマンチック!
歌曲としては、第1連が最後にもう一度繰り返されるので、全体が5部構成になります。幸福感にあふれた美しい歌ですが、レガートに歌うのはなかなか難しい。ドイツでマスターコースを受講した時、年輩の男の先生がすごく上手にこの曲を教えて下さいました。言葉のニュアンスの出し方が絶妙でした。もうだいぶ前のことですが、その記憶をたどって練習しています。

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