高校生たち(2)

2018年07月22日 | 日記
先月に続き、昨日もまた高校の発声指導に行ってきました。今回は顧問の先生がお仕事のため不在でしたが、生徒さん達は相変わらず明るく熱心で呑み込みが良く、楽しい時間でした。
この時期は合唱コンクールの季節で、彼らも、先日に続き来週もまたコンクールだそうです。コンクールをモチベーションにすることは決して悪いことではないと思いますが、音楽には本来、優劣はつけられません。大切なことは、どれだけ深く(濃く)歌を楽しんだか、ということ。歌が好きだから歌い続けるわけですが、何事も、一生懸命やれば悩みや苦しみも生まれます。それでも、好きだからやめられないし、もっと上手になりたいと願う。心理学者の河合隼雄先生は、こういう境地を「くるたのしい」と表現しておられましたね。一生、歌を友として生きていければ、それこそが高校時代に夢中で歌に明け暮れたことの最大の報酬だと思うよ。と、そんな話を少ししてからスタートしました。
毎回同じ話をするのもなあ...と思いながらも、やはり基本は大事ですから、いつも通り「立ったり座ったり歩いたり」のエクササイズ、呼吸・発声・共鳴のレクチャーとエクササイズに30分ほど。その後発声練習、そして「今日は曲をみて下さい」とのことで、コンクールで歌うというア・カペラの混声合唱曲を聴かせてもらいました。最近の合唱曲は難解な不協和音や変拍子のオンパレードで頭が痛くなるような曲が多いのですが、今回の曲は平明で自然で、素直に「きれいな曲だなー」と思える曲でした。ただ、そういう曲は単調になりやすく、明確な意思(メッセージ性)をもって歌わないと、途中で聴き手を飽きさせてしまいます。先日のコンクールの講評でも「単調に聞こえる」という指摘があったとのこと。そこで楽譜をよく見て、歌詞の内容とダイナミクスやフレーズの掛け合いの関係を確認し、歌詞(日本語)の発音の仕方を工夫していきました。鼻濁音をもっと意識する、言葉のアタマの発語に少しストレスをかける、母音の響きをゆたかにして、子音で体がゆるまないように支える。そして、掛け合いになるところや、縦に揃う和音のところでは他のパートをよく聴く。今歌っているフレーズの歌詞が向かう先を意識する。フレーズに分解して少しずづ練習を進めていくうちに、だんだんニュアンスのある歌になってきました。さすがに若者は反応が速いです。2時間があっという間でした。
今週もまた、合唱団のボイトレのオファーを頂いています。合唱大好きな私には嬉しい仕事です。



第3回声楽発声研究会(2)

2018年07月08日 | 日記
先週に引き続き、声楽発声研究会第2弾を開催しました。今日は女性のみ、5名の参加者です。前回と同じく、発声代わりにモーツァルトの「Ave verum corpus」のソプラノパートを全員で練習した後、お一人ずつ独唱をご披露頂きました。
最初は高2のAさんの「Caro mio ben」です。初心者が最初に歌うイタリア歌曲の一つですが、実は初心者が歌うにはとても難しい曲です。イタリアに留学した声楽家が、最初のレッスンでこの曲の冒頭の「カ」の発音でダメ出しされ、「カ」だけでレッスンが終わってしまった、というエピソードがあるほど。つまり、この曲は第一声が決め手なのですね(笑)。日本語は口先で喋るので、母音を発語する位置がイタリア語と違います。口の奥の開いた「ア」の発音がきちんとできれば、あとは他の母音もなるべくそれに近い響きで歌っていけばOKです。nの発音を響かせる練習や、8分音符をレガートに歌う練習、ブレスを音楽的な表現にする練習などもしました。
次はIさんが「Lascia d'amarti」というイタリア歌曲を歌われました。先週の研究会の時に体調を崩されていたので、今日に振り替えてのご参加です。80に手の届くお歳だそうですが、音程も発音も正確で、よく歌い込まれた端正な歌でした。下行音型で体を落とさないように気を付けて頂くだけで、響きの安定した、素晴らしい歌になりました。続いて、レッスン歴1年未満のKさんが「夏の思い出」を歌われました。日本語の歌は、あまり口の奥に持っていくと日本語らしく聴こえないという難しさがあります。なるべく上あごを高く保ちつつ、ほどよく日本語らしい響きで歌うという課題に取り組んで頂きました。また、日本語の歌には「ガ行を鼻濁音にする」という難題がありますが、熊本弁には鼻濁音がないので、ガギグゲゴの前にちょっとnを入れる、というのがとても難しい。これは習慣の問題でもありますが、体を使って発音すればできるようになります。オープンハミングのnで生じた体の緊張をゆるめずにそのまま母音に移行するのがコツです。
次も日本歌曲で、Tさんの「この道」。この曲は伴奏と歌のメロディとの掛け合いや、伴奏の音量のバランスが案外と難しい曲です。特にフレーズを歌い出すタイミングがずれやすいのですが、一旦歌い始めたら最後まで止まらないこと、伴奏も臨機応変かつ変幻自在に合わせていくことが大事(笑)。しかし、やはり日本歌曲は気持ちが落ち着きますね。母語で歌える安心感は何にも代えがたいです(笑)。
最後はMさんの「ムーン・リバー」。映画「ティファニーで朝食を」の劇中歌で、日本語訳もありますが、Mさんは英語で歌われました。曲想はゆったりしていますが、息の流れが遅くなるとヴィブラートが強くかかってしまいがちなので、なるべく呼気をしっかり飛ばし、短い音符でも母音をきちんと響かせるようにして頂くと、音楽が生き生きしてきました。
5人とは言え、10代から70代まで幅広い年齢層の方たちがつどった研究会でした。お一人ずつに感想を伺ってみまると、「自分一人でレッスンを受けている時にはよくわかならいことも、人のレッスンを聴いているとよくわかります」、「一人で歌っている時はできているように思えても、人の前で歌ってみると、できてないことがわかりました」、「ちょっとしたアドヴァイスで、皆さんの声が変わっていくのがよくわかりました」といった感想が出てきて、やってよかったなと思いました。年に一度の研究会、恒例にしたいと思います。

第3回声楽発声研究会(1)

2018年07月03日 | 日記
日曜日の午後、今年で3回目になる「声楽発声研究会」を開催しました。お客様のいない発表会、もしくは合同レッスン会、という感じの会です。今回の参加者は10名で、独唱を披露して下さったのは7名でした。
発声練習代わりに全員で合唱曲「Ave verum Corpus」の練習をした後、お一人ずつ歌って頂きました。歌う前に、簡単に曲の紹介をして頂きました。
最初は、2か月前に入門されたUさんが黒人霊歌「Deep River」を英語で披露。先日のレッスンでは日本語で歌われていましたが、原語でやってみようということになり、わずか数日で暗譜してこられました。まだ2回しかレッスンしていないのに、堂々とした歌いぶりです。次に高校3年生のH君が、イタリア歌曲の「ニーナ」を歌いました。彼はこのところ急速に大人の声になってきています。「ニーナ」はお気に入りの曲らしく、いい味を出していました。次もイタリア歌曲で、ヘンデルの「Lascia ch'io pianga」をソプラノのKさんが歌われました。易しそうで難しい曲なのですが、Kさんもこの曲がお気に入りなのです。スローテンポの曲を、品格を保ちつつレガートに歌うには体力が要りますが、よく頑張って下さいました。次はSさんが歌われるトスティの「Addio」。こういう徹底的にメロディ重視の「ザ・歌」という感じの曲は、ぐいぐいと心に迫ってくるパワーがありますね。緩急の起伏に富んだ、飽きさせない曲です。
ここで日本歌曲が登場。Tさんが中田喜直の「悲しくなった時は」をしっとりと歌われました。寺山修司の美しい詩の情調が見事に音楽化された曲です。こういう歌を選ぶTさんのセンスと、悲しみに対する共感が光っていました。続いては「ルイーゼが不実な恋人の手紙を焼いた時(Als Luise die Briefe ihres ungetreuen Liebhabers verbrannte)」という長い題名を持つモーツァルトの歌曲です。嫉妬と怒りと悲しみの綯い交ぜになった激しい感情がぎゅっと詰まった、短いながらも密度の高い、悪く言えば息苦しい曲(笑)ですが、柔和で質朴なNさんがこの曲を歌われるという意外性が印象的でした。最後にYさんが、オペラ「アドリアーナ・ルクヴルール」から「私は芸術のしもべです」という美しいアリアを歌われました。Yさんは数日前にアレクサンダー・テクニークのレッスンを受けてこられたばかりで、おそらくそのせいでしょう、力の抜けた自然体の声が心地よく響いていました。
それぞれの方がご自分の個性に合った曲を選んで歌われたことと、伴奏をお願いしたN先生の名サポートのお陰もあり、良い時間が過ごせました。最後にディスカッションの時間を設けたところ、YさんがNさんの質問に応じて、先日のアレクサンダー・テクニークのレッスンのことを話して下さいました。「受講された皆さんがどんどん良い表情になっていかれました」というお話に、皆さん興味津々の様子。秋にはまたカリオペくまもと主催でアレクサンダー・テクニークの講座をお願いしたいと思っています。
今回、日程が合わなかった方たちのために、来週もう一度研究会を開催する予定です。その様子はまた後日、ブログでご報告したいと思います。