拡がり

2013年02月28日 | 日記
昨日は出張先で4人のセミプロの方たちのレッスンをしました。そして今日は先週入門されたYさんのレッスン。うちにはいろんな方がレッスンにみえますが、声楽や合唱をやっている方もそうでない方も、レッスン内容は基本的には皆同じです。以前、脳梗塞の後遺症で半身まひと軽い言語障害のある方がしばらくレッスンに来られていた時も、私にはリハビリの知識はないので他の方たちと同じようにやるしかありませんでした。それでも「すごく効果がありました」と喜んでいらっしゃいましたし、ヴォイストレーニングの潜在的なニーズはひょっとしたらそういう方面にも多いのかもしれません。
Yさんはまだ1回しかレッスンをしていないのに、「医療や福祉関係の職業訓練の一環としてのヴォイトレとか、何かなさってはどうですか」と熱を込めておっしゃいます。ウェルパルやパレアなど公共施設で開催する発声セミナーはそういうニーズを汲み上げる機能を持っていると思うのですが、そんなにたくさんの方は集まらないのが現状です。それでも毎回新しい人が来られますから、それなりに少しずつ認知度が上がってきているのではないかとも思います。
ヴォイトレは、加齢や声の酷使による声のトラブルを抱える方に正しい発声の原理と方法をお伝えしたり、音域や声量、滑舌などに悩む方や自称音痴の方を問題解決に導いたりするわけですが、特に問題を感じていない人も体験してみたら何か得るところがあると思います、というご意見を頂くこともあります。参加人数の如何にこだわらず外部会場でのセミナーを継続することの意味は、そういう啓蒙、啓発というところにもあると思っています。
Yさんは今日も「すごく体を使いました」と言って帰られました。この「体を十分に使った」感覚と声が頭に響く快感を味わうと、皆さんヴォイトレにハマってしまうのです。前屈して脱力し、上体を少しずつ起こしながらスタッカートで高音を(裏声で)出し続けると頭に響く感覚がつかめ、体を使っていることを自覚できます。
発声の要領が少しわかってきたところでコンコーネや短い歌を使ってヴォカリーズでフレーズを歌う練習をすると、「体を使う」実感がなお一層強くなり、小中学校で音楽の先生が「お腹から声を出す」とか「声を体で支える」と言われていたことはこういうことだったんだと納得されます。
明日から3月。春の健康発声セミナーの月です。また新たな出会いが楽しみです。

低音の魅力

2013年02月26日 | 日記
人形劇の仕事をしているIさんが久し振りにレッスンに来られました。初めてうちへ来られた時は、声の酷使で声帯結節ができて嗄声になっていらっしゃいましたが、治療と併せてリハビリ的なヴォイトレを続けるうちに、だんだん声が出しやすくなってきたそうです。車に荷物を積んで遠方まで仕事に行かれるそうで、今日も牛深に行ってきた帰りです、とのこと。体力勝負の仕事ですね。
Iさんの声はかなりハスキーです。レッスンしているうちにだんだん息の音が少なくなり、密度の高い声になっていきますが、いつも高音域の抜けがもう一つ、というところでレッスンが終わります。それは結節のせいだと思っていたのですが、今日、ひょっとしてIさんは声帯が太いのではないだろうか、と、ふと思いました。というのも、やはり演劇をやっているハスキーヴォイスの大学生のレッスンで、どうもこの人は声帯は極太なのではないかと思い当たり、身体をよりしっかりと使って発声してもらうことで、とても厚みのある立派な声が出始めたことがあったからです。重い声帯をくっつけるには、場合によっては軽い人の倍ぐらい筋力が要りますし、閉じた声帯を引っ張って伸ばす高音域は更に筋力が要ります。Iさんが2点イ音より高くなると声帯を引っ張りきれなくて声が出なくなるのも、そのあたりが筋力の限界なのでしょう。
そこでIさんも、高音ではなく中音域から低音域にかけての練習を重点的にやってみました。すると驚くほど良い声が響き出したのです。Iさんは小柄で細身なので、何となく軽いハイソプラノのような気がして高音域の練習ばかりしていたのは申し訳ないことでした。中低音域の練習をする時も高音域と同じく息をしっかり上へ飛ばし、胸を軽く張って吸気筋優位にします。そうすると声帯を厚く使っても息が喉にまとわりつかず、声帯の負担が軽く済みます。Iさんは高い音域へスライドして行く時、1点嬰へ音ぐらいでガラッと裏声に変わってしまうので、そこを上手に通過できるようにポルタメントをかけながら練習しました。腹筋に負荷がかかる感じがするそうです。それをゆるめないようにします。コツが飲み込めてくると上手に通過できるようになりました。
様々なタイプの生徒さんのお陰で、私も本当に勉強になります。

Happy Day

2013年02月24日 | 日記
ゴスペルの名曲に「Oh, Happy Day」という歌がありますが、今日は私にとって至極満足な一日だったのでこの曲の題名がふと浮かびました。無論ごく世俗的な意味でのhappyですが。
まず、今日は非公開の祝賀午餐会でオープニングに20分ほど歌ってほしいというオファーを受けていました。1曲はシューベルトの「アヴェ・マリア」をというリクエストで、もう1曲は時節柄や雰囲気も考慮してヨハン・シュトラウスの「春の声」にしました。これは昨年の春のリサイタルでプログラムの最後に歌った曲ですが、あの時はひどい更年期障害のため直前1週間寝たきりのような状態で、今思っても最後まで歌えたのが不思議なほどです。当然ながら高音域が全然当たらず、捲土重来を誓ったのでしたが、その「春の声」を今日再びステージに乗せることになったわけです。
昨夜は肉を食べて早寝をし、今朝はゆっくり起きて美容院へ。肉を食べるというのは一種のジンクスなのですが、経験則から言って舞台の24時間前までに動物性たんぱく質を摂取すると声の伸びが良いのです。でも今日の舞台は午後早い時間だったので、夕食では間に合わなかったのですね、よく考えると。昨夜はそれに気づきませんでした(笑)。そして、声のためには質の良い睡眠を取ることがとても大切です。そのためには、私の場合は12時前に寝ること、そして8時間以上寝ること。今日は睡眠も十分に取ったし、昨日整体治療にも行ったし、身体的には万全です。ゆっくり支度をして11:30に会場入りしました。
出番は開宴の挨拶の後すぐです。舞台に立つと150人もの方々が姿勢正しく、まっすぐ私を見つめていらっしゃいます。歌が始まってもそのまま微動だにせず聴き入って下さっています。その「気」が何ともいえず清々しく、とても気持ちよく歌えました。アヴェ・マリアは私のオハコです。「春の声」も、今日は何とか納得のいく演奏ができたように思います。この曲にはハイCが頻出しますが、長い曲でかなり体力を消耗するので、今日もやはり最後のハイCはちょっとぶら下がってしまいました。しかしまあ、前回と比べれば及第点でしょう。温かい拍手を受けて退場し、着替えてお食事会に加わると「とても素敵でした」、「良かったです」と口ぐちに声をかけて下さいました。晴れやかな席に多少なりとも華を添えることができて幸せに思いました。
お開きの直前に会場を後にし、ユーゲントコールの定演を聴きに県立劇場へ。休憩後の第3ステージだけ聴くことができました。とても楽しく和やかな雰囲気で、今しがた自分が舞台で歌ってきたことを忘れてしまうほど、すっかり気分が変わりました。とてもよい気分で帰宅し、夜は甥の誕生会です。弟一家と外食し、5人の甥姪に癒されて帰ってきました。
こんな幸せな一日を過ごすと、当分何も要らないという気分になります。音楽とともにある人生の幸いをかみしめつつ、今日も早寝することにしましょう。

セミナー案内

2013年02月22日 | 日記
先日、新しい生徒さんをお迎えしました。このYさん、普段の話し声は人並み以上にしっかりしたお声ですが、大勢の人の前で話す時は声が出にくくなるとのこと。こういうケースはメンタル面のアプローチも必要だと思いますが、緊張すると筋肉が動きにくくなるので、呼吸も浅くなり、声帯の動きもスムーズでなくなりますので、まずはヴォイストレーニングの守備範囲内で「声を出す際の体の使い方」をレッスンしました。まず仰向けに寝て頂いて、腰のあたりの空間をつぶすように息を吐き切り、完全に吐き切ったら「吐くことをやめる」(身体をゆるめる、という表現ではうまく通じない場合があります)と、反射的に吸気が入ってきます。最初は反射的に入ってくるはずの吸気がうまく入ってこなかったのですが、「しっかり吐き切る」練習を重ねるうちにだんだんスムーズになってきました。そこで今度は起き上がり、椅子に腰かけて背もたれに腰を押しつけるようにして同じことをしてみます。次に立ちあがり、膝を少し緩めて、息を吐きながら足の裏で床を押すようにして徐々に膝を立て、吐き切ったら脱力して肺の下方に吸気を取り込みます。この一連のエクササイズで「息を全部吐くって難しいんですね」とおっしゃいました。「吐き切れば脱力ってできるんですね。普段は過緊張になっていたから、完全に吐くことができなくなっていたんですね」とも。深い呼吸が全身運動だということを実感されたようです。
声をつけてみましょうか、ということで、唇を閉じたハミングから口を開けたハミングへ、そしてその時の体の緊張を保ったまま「ア」の母音で発声。体がプルプル震えます。「これが声帯がきちんと閉じた状態ですよ」と言うと、「喉には全く何の感覚もないんですね、その代わりお腹や足腰をすごく使うんですね」と、身体の状態をとてもよく把握されています。下顎の力を抜く練習や上顎を上げる練習も比較的簡単にできてしまいました。と言ってもご本人としてはすべてが初めての経験で、「目からウロコです」と何度もおっしゃっていましたが。最初は「歌じゃなくて発声だけ習いたいんです」とおっしゃっていましたが、終わった後は「歌もやりたくなりました」と、気持ちが変化したようです。レッスン後の雑談で、Yさんは私より2学年上で同じ高校の卒業生だとわかりました。高校の選択科目で音楽を取っていたそうで、ピアノの心得もあるそうですから、発声のエクササイズをしているうちに歌心が目覚めたのでしょう。
発声のもうひとつの課題であるメンタル面に関しては、私は経験上「場数を踏むこと」としか言えませんし、個人レッスンではカバーしにくいのですが、今はコーチングやメンタルトレーニングなど様々なアプローチがありますから、そちらも組み合わせてレッスンを重ねられることで克服できると思います。また、3月には外部会場で発声セミナーをしますので、そこで複数の人たちと一緒に声を出すのも良い経験になるのでは、と思ってお勧めすると、「是非参加したいです」とのこと。こういう時、セミナーをやっていてよかったなと思います。
2015年春の健康発声セミナー(全3回)は以下の通り開催致します。
日時 3月9日(土)、23日(土)、30日(土) 18時より入門編、19時より応用編。
場所 ウェルパルくまもと1階あいぽーと大会議室(交通局前電停の目の前)
参加費は各回ごとの徴収で、飛び込み参加も可、1回だけでも3回連続でも可、入門編と応用編に続けて参加されることも可。どなたもどうぞお気軽にご参加下さい。

旅の種々(5)

2013年02月20日 | 日記
いよいよ帰国。出発前に携帯電話が鳴りました。大学の教務からで、私のクラスの履修者から成績について問い合わせが来ているとのこと。一気に現実に引き戻されました(笑)。帰ったらすぐにもう一つの大学の試験の採点もしなくてはなりません。そういえば、24日には本番が一つあるのに、まだ一度も伴奏合わせをしていない!帰ったらすぐに伴奏者に連絡しなくては。頭の中が俄かに回転し始めました。正味3日間のウィーン滞在はあっという間のようでもあり、濃密な時間を過ごしたようでもあります。ともあれ一行はバスで一路空港へ。「クリスマスの後だからきっと空港の売店は安いわよ」というM先生のお言葉通り、ヤケッパチのようなディスカウントセール中で、ここでお土産の不足分を買い込み、ミュンヒェン経由で成田へ。帰路の飛行機も満席でした。日中のフライトなのであまり眠れず、新聞を読みふけったりボーっとしたりしているうちに成田に到着し、旅行団はこれにて解散です。仲良くなったゴスペル仲間たちと別れを惜しみつつバスで羽田へ移動して熊本行きの飛行機に乗り、熊本空港に着いた時はもう日が暮れていました。
旅の様々な経験と印象が心身を覆い尽くし、帰宅後は興奮しているのか疲れているのかよくわかりませんでした。父に「どうだったのか」と訊かれてもうまく答えられず、「行って良かったか?」と訊かれても即答できませんでした。もちろん「行って良かった」のですが、単純に「楽しかった」とか「良かった」という言葉で済ませられるような旅ではなかったような気がしたからです。最終日にM先生から「今回の旅行で一番良かったことは?」と訊かれ、「礼拝の中で歌えたことと、王宮で演奏して会場のすべての人と一つになれたこと」と答えたのですが、こうして今回の旅を振り返ってみても、やはりそれに尽きるような気がします。帰国の翌日、旅の疲れを癒すべく整体治療に行った時、整体の先生がさりげなく「結局、どんなことでも「何のためにそれをするのか」が大事ですね。音楽だって、聴く人を元気にするという利他の精神がベースにあるんでしょう?」と言われ、「聴く人を元気にする」という素朴な表現の中にすべてが言い尽くされているような気がして、思わず大きく頷いてしまいました。音楽は心を解放し、心と心をつなぐツールの一つです。歌が人の心を救うことを、私は身をもって体験した一人なのですが、長い年月の中でいつのまにかその原点を忘れつつありました。この一番大切なことを思い出させてくれた今回の旅に心から感謝しつつ、気持ちを新たに歌い続けていきたいと思います。