男声

2012年06月29日 | 日記
一昨日のヴォイトレ講習会で男性の参加者から「裏声」についてご質問があったことを書きましたが、男声に関して他にお伺いしたいこともあったので、今日はW先生にお電話しました。講習会で男性の方が「男声合唱は基本的に頭声で歌う。頭声と裏声は別のもの」とおっしゃったので私もちょっと混乱したのでしたが、W先生は大略以下のようにご説明下さいました。
まず、W先生の実感では、男声は女声より1オクターブ低いだけでチェンジ(地声から裏声への切り替わりの場所)はほぼ同じで、そのあたりの通過の仕方(ミックスヴォイスの使い方や地声と裏声の割合など)はほぼ同じと考えてよいとのこと。ただ、女性の場合は話し声と歌声とでは声帯の使い方が違うのに対し、男性は同じなのだそう。つまり、女性は歌声を出そうとすると声帯の縁だけを使った発声に切り替わるが、男性は話し声も歌声も声帯全部を使っているそうです(これを通常「地声」と言うのです)。但し、歌う場合は地声であっても口蓋垂を挙げて口の奥を広くし、息を上へ抜かないといけない(そうしないと声が割れて汚い響きになってしまう)のです。そのフォームで出す声は、地声であっても息が頭に抜けているので、それを「頭声」と言われているのではないか、とおっしゃいました。なるほど、納得です。
それでは男性の裏声(ファルセット)はと言えば、これは左右の声帯の合わせ目を閉じる力(圧力)を加減して、なるべく縁だけを振動させるようにして出すのだそう(女生の裏声も同じです)。そう言えば、ヴァイオリンで1オクターブ高い音を出したい時、弦を押さえる左手の指の強さをゆるめ、弓にかける圧力も軽くして弾きますが、あれと原理的には同じですね。しかしその場合も、呼気流はあくまでも高く速く声帯を抜けて頭の方に行かなくてはいけません。声帯のあたりに息が溜まってはいけない、というのはどんな場合でも変わらない鉄則です。そして、ファルセットの音域になったら上あごをさらに上へ挙げ、あたかもギアチェンジをするように頭部共鳴腔への道を確保しないといけないそうです。これも女声の場合と全く同じですねえ。私も、ソプラノでありながらなかなか高い音が出なくで困っていたのですが、上あごの挙がり方(挙げる時の角度)の微妙な違いを体得してからラクに出るようになったのです。
そして、チェンジヴォイス(パッサージョと言います)付近の声の切り替えの練習は、高い音域から低い方へとスライドさせながら練習する方がわかりやすいそうです。
他にもいろいろ、小一時間ばかりお話して電話を切りました。お陰様で頭の中が随分整理されました。W先生とお話しするといつも、最も基本的な認識に立ち返ることができ、見通しがよくなる気がします。発声について何でもお尋ねしたり相談したりできる先生が居て下さることがどんなに有り難いことか、今日も改めて感じました。来月のヴォイトレ講習会では男声の方にも納得して頂けるようにお話できそうです。

講習会

2012年06月27日 | 日記
今日は県南の合唱協議会主催のヴォイス・トレーニング講習会に講師として呼んでいただきました。この講習会は今年で3回目で、初回から行かせて頂いています。昨年は混声合唱と女声合唱に分かれて1曲ずつ合唱曲を仕上げ、秋の合唱祭で発表されましたが、今でも感動をもってありありと思い出せるほど素晴らしい演奏でした。今年は基本に戻ってもう一度声づくりを、とのご要望で、今日は40人余りの老若男女が参集されました。
今回が初めての参加という方が数名いらしたこともあり、最初にストレッチをする予定でしたが、まず「歌声は裏声です」という話から始めることにしました。私たちの普段の話し声は地声ですが、歌声はしゃべり声とは違う声帯の使い方をします。同じ一つの声帯を使うわけですから切り替えが必要です。その切り替えの練習として、最初に裏声でしゃべってもらいました。「はーい」、「わかりました」と歌うように返事をして頂き、「鬼はーそとーー」、「福はーうちーー」ときれいな声で出して頂きます(これは私が高校時代にコーラス部で教わったメソッドです)。裏声は声帯にとっては負担の軽い省エネモードの使い方ですが、体にとっては仕事量の多い声の使い方で、体の筋肉をしっかり使わないと裏声で話し続けることはできません。それを少し感じて頂いたところでストレッチに入りました。二人組になって上半身を充分に伸ばし、口の奥をよく開け、ストレッチをしながら裏声を出します。いろんな態勢でやって頂きました。次にバスタオルを敷いて仰向けになり、足を組んで上体にひきつけながら裏声を出す練習や、うつぶせになって高らかに笑いながら腰回りや臀部の筋肉を動かす練習。こうして横隔膜を鍛えます。一通り終わると、皆さん汗ばんでいらっしゃいました。
次に椅子に座って唇や舌のストレッチです。「いおいお」や「えあえあ」や「んがんが」、また「東京特許許可局」や「新春シャンソンショー」などの早口言葉。どれもお腹周りをしっかり使わないとできないことを実感されたようです。口の奥、すなわち口蓋垂の後ろを開ける練習や、下あごの力を抜く練習など、定番の練習もやりまそた。下あごの力を抜くことと、奥歯をかみしめないようにすることが予想通り一番大変で、皆さん相当苦労されいたので、これを毎日練習することを来月の講習会までの宿題としました(笑)。
休憩後、初参加の男性から「男性の裏声」についての質問が出ました。おそらくこれは質問が出るだろうと予想していたので、準備していた通りに裏声と地声、頭声と胸声という声区の分類の考え方などを私の理解の範囲で説明したのですが、どうもあまりピンとこないご様子。私は個人レッスンの男声のイメージで、男性は基本的に胸声で歌うものだという前提で話をしていたのですが、「男声合唱では「頭声」は実声で「裏声」はファルセットと考えている」と言われ、また「男声合唱は基本的に頭声で歌う」と言われてちょっと面喰いました。しかしともかく「胸板に響かせるのが胸声で、頭(副鼻腔)に響かせるのが頭声」ということで、ミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」で歌われる「ひとりぼっちの羊飼い」の歌の冒頭に出てくるヨーデル風の部分を使って胸声と頭声をポルタメントで往復する練習をしました。女声の方は「毛虫が三匹」というカノンを使って(これも高校時代にコーラス部で仕入れた歌です)「キャッ!」という悲鳴を喉を開けて頭に響かせる練習をしました。
その後、腹式呼吸(横隔膜呼吸)の体の使い方とそれに声を接続する練習などもしました。そして、合唱の練習に接続できるようにハーモニーの練習もしました。発声がそろっていると不協和音でも美しく響きあいます。2度の音程と5度の音程でハモって頂いたらそれを実感されたようで、途中で「美しい!」という声が上がりました。そこで最後に「たなばたさま」の歌をヴォカリーズ(アの母音)で3部のカノンにしてみました。風のように軽く爽やかで心地よいハーモニーが響き渡りました。感動!
かくして2時間の講習会が終了。心地よい疲労感に包まれました。こんなサウンドを聴くととても癒されます。「夜汽車」のカノンもやりたかったのですが、これは来月に回すことにしました。来月が今から楽しみです。

ストレッチ(2)

2012年06月25日 | 日記
先日ストレッチの本をご紹介したことが反響を呼び、昨日の県外でのレッスンでも「ネットで注文します」と言われました。ストレッチはヴォイス・トレーニングの重要な一要素だと思いますので、その認識が広まるのは喜ばしいことです。但し、何事もそうですが、体格、体調、体質には個人差があるので無理は禁物。私も生まれつき骨盤に歪みがあって腰が弱いので、下半身のストレッチは自分の身体とよく相談しながらやらないと後に響きます。実は今日はヨガのレッスン日だったのですが、昨日の聖歌隊のレッスンで行った下半身のストレッチが私の身体には十分以上の負荷になったので、今日もヨガに行くと多分腰が抜けるだろうと思って休みました。「腰が抜ける」というのは比喩ではなく、本当に下半身に力が入らなくなり、立つことができなくなるのです。日本語は身体の状態を表すのに実に絶妙の表現を持つ言語ですね。
さて、昨日試みた下半身のストレッチは、椅子に腰かけて片足の足首をもう片方の膝の上に乗せ、乗せた足の膝と足首を手でサポートしながら前屈して深呼吸を6回、というものです。これは骨盤の歪みを正し、下半身をバランスを整えるのだそう。私には最も負荷の高い動きです。普段からよくやっている「横隔膜を鍛える体操」もやりました。仰向けに寝て足を組み、両足を両手で抱え込んで、息を吐きながら上体の方に引き寄せます。足を組み替えながら数回やります。これも私には「腰に効く」ストレッチです。脇腹を伸ばす運動も、私には腰に効くのです。筋肉は全部つながった一枚の皮ですから、どの部位を動かしても全身の筋肉に波及します。ですから、私の場合は何をしても必ず腰に響くのです。
昨日の聖歌隊のレッスンでは第1ソプラノ、第2ソプラノ、アルト、テノールという組み合わせてア・カペラの難しい歌を歌われました。入念にストレッチをし、パート練習(=個人レッスン)をしてから四声で合わせたのですが、各パート一人の四声体アンサンブルというのは大変難しいのです。個人レッスンで一人ずつ身体をしっかり開き、筋肉を使って口の奥を開け、高音部で下あごに力が入らないように、また低音部がふらつかないように声を保つ練習をしてから4人で合わせ、録音を取られました。レッスンの後で録音を聴くと、シンのあるしっかりした声が聴こえてきます。息が高く上がっているので響きの方向もよく揃っています。全体としてはなかなかの出来ですが、ご本人たち(特に黒一点の牧師さん)はあまり納得いかないような面持ちで「あと何回か録音を取りたかった」とおっしゃいました。自分たちの演奏に対する評価は得てして辛口になりがちですから、お気持ちはわからないではありませんが、これだけ歌えれば立派だと思います。
アンサンブルとなると発声だけでなく、他のパートに引きずられないで音程正しく歌うとか、発音とか、他のパートとの音量のバランスとか、ブレスのタイミングとか、いろんなことに気をつけなくてはいけませんから、自家薬籠中のものになるまでには積み重ねが必要です。自分のパートだけでなく他のパートもすっかり手のうちに入って初めて、余裕をもって歌えるのです。この曲の第1ソプラノは同じ言葉を繰り返し歌うようになっているので、第1ソプラノ担当の牧師夫人が他のパートのレッスンを聴いていて「こんなにいろんな歌詞が入っていたのか」と思った、とおっしゃったのが可笑しかったです。
さて、今日はレッスンもなく、ヨガも休みましたので、身も心もゆっくりとくつろいで過ごしたいと思います。

健康と発声

2012年06月23日 | 日記
一昨日、パレアから電話を頂き、今年も「パレアde健康」という夏の催しに参加させて頂くことになりました。「健康」に関する活動をしている団体に発表やアピールの機会を提供して下さる恒例行事です。ヴォイス・トレーニングは心身の健康とパワーアップにつながる、というコンセプトで毎年参加させて頂いていますが、お陰様で毎回好評で、「今年はパレアホールでやってみませんか」と言って頂きました。そこで今年は「健康と発声」というタイトルで、第1部レクチャー、第2部ワークショップという構成にすることにしました。
ウェルパルくまもとで定期的に開催している「健康発声セミナー」もやはり「健康」がウリなのですが、それは、実はカリオペくまもとを団体登録するに当たって「健康」という文言を入れることを強く勧めて下さる方があったからなのです。ヴォイス・トレーニングが健康によいということは、私自身よりむしろうちに来られる生徒さんたちの方が強く感じておられて、以前から「レッスンに来ないでいると身体に悪い気がする」とか「レッスンの後は気分がすっかり変わって元気になる」というようなことをおっしゃる方が多かったこともあり、それなら「健康発声」と銘打ってみようか、と思ったわけです。
実を言えば、私自身は子どもの頃からひどい虚弱体質で、「健康」という枕詞を使うのがこれほど似つかわしくない人もいないだろう、という感じでした。今でも、小学校から高校までの同級生に街中で偶然会ったりすると必ず「りかちゃん、身体が弱かったもんね~。今はどう?」と異口同音に訊かれます(笑)。「お陰様で、殺しても死なないぐらい元気になったよ」と答えていますが(笑)、私が曲りなりも自分のことを「元気」だと言えたり、主催するセミナーに「健康」という言葉をかぶせることに抵抗がなくなったのも発声法のお陰だと本当に感謝しているのです。歌をやっていなかったら今頃どうなっていたことか、想像もつきません。
健康発声の根本を成しているのは、おそらく呼吸と共鳴だと思います。ごく単純化して言えば、意識的に「吐く息を長くする」ことで心肺機能が上がり、頭部共鳴により脳下垂体や松果体が刺激されて気分がよくなるのでしょう。さらに、仙骨を動かすことで脳脊髄液の流れがよくなることや、全身の筋肉を使って声を出すのでエアロビクスのような有酸素運動になっていることも「健康」に一役買っていると思われます。
第1部では、そういう理論的なことをスライドや模型を使ってできるだけ科学的根拠を示しながらお話しようと思います。そして質疑応答などで参加者の方たちの悩みや問題点をお聞きした上で、第2部では実際に身体を動かしながらワークショップを行う予定です。8月4日の午後、お時間のある方はどうぞお誘い合わせの上お越し下さい。詳細は近日中にホームページにアップします。

ストレッチ

2012年06月21日 | 日記
声を出すことがにいかに筋肉を使う仕事か、日々痛感させられています。誰もが経験していることだと思いますが、ひどく消耗している時はちょっと喋るだけでも息切れしますし、疲れて横になっている時は喋ろうとしても舌がもつれて呂律が回らなくなります。これは筋力が一時的に著しく低下しているからです。筋力は年とともに少しずつ落ちていきますから、声を磨こうと思う人は筋肉に関して多少は意識的な努力が必要です。私はゴスペルのレッスンを受け始めてから特にその認識が強くなりました。
先日、ストレッチの本を購入しました。演奏家のためのトレーニングプログラムを開発しているスポーツトレーナーの方が書かれたものです。序文に「呼吸も含め、日常生活も、楽器の演奏も、歌唱も、すべて「運動」とみなすことができる」、「ストレッチによって身体感覚を磨き、自分の身体に対する理解を深めることができる」という意味のことが書いてあり、我が意を得たりと思いました。さまざまな楽器の正しい演奏姿勢の写真も載っています。トレーニングの仕方も写真や図解入りで詳しく説明してあります。ヨガのレッスンで習うポーズとかなり共通していますが、どんなポーズがどこに効くのかが解説してあるのでとてもためになります。そこで今日のレッスンで、この中から首と肩のストレッチを試みました。うちの生徒さんには首や肩が凝っている方がとても多いことと(私自身もかなり凝りやすい体質です)、これらの体操は立ったままできて手軽なので。
まず首のストレッチです。足を腰幅に開き、肘を伸ばしたまま首に力を入れて肩をすくめ、落とす。これを10回繰り返します。次に右の掌を上にして肩の位置まで持ち上げ、頭を左側に倒し、大きく息を吸いながら肩甲骨を寄せ、吐きながら腕を斜め後ろに伸ばし、深呼吸を6回します。反対側も同様に。
次に肩のストレッチ。手の甲を外側に向けて肘を少し曲げ、胸を張って手の甲が耳の高さに来るまで10回、肘の角度を変えないで腕を上下に動かします。次に右腕を身体の正面に伸ばして左手で抱え込み、左足を軸足にして右のかかとを持ち上げ、腰からぐっと身体を左側に捻りながら右肩にあごをつけるようにします。視線は左向き。そのまま深呼吸を6回。反対側も同様。
たったこれだけ、時間にして5分もかかりませんが、身体の詰まりが取れて風が吹き抜けたような感じです。夜の老健施設の職員合唱団の練習でもこれをやりましたが、2時間ばかりの練習が終わった後も上半身が軽く、あまり疲れを感じませんでした。これはよさそう!皆様もお試しください。