若人の歌

2017年05月28日 | 日記
うちにレッスンに来ている高校生たちの学校のコーラス部からヴォイストレーニングのオファーを頂き、昨日初めて行ってきました。本来はグリークラブと女声コーラスに分かれているのですが、今、男女合わせて14名の部員だそうで、特にグリークラブは4人なので、単独では演奏が難しいでしょうね。5年ほど前、発声セミナーにグリークラブの1年生が参加してくれたことがあり、「僕、部長なんです」というので「1年生で部長さんなの?」と訊くと、何と部員は彼1人とのこと。その頃よりは増えています(笑)。
さて、昨日は欠席者もあり参加者は一桁でしたが、中学生の頃うちにレッスンに来ていた生徒さんや、前回の発声セミナーに参加してくれた生徒さんたちもいて、リラックスした中にも集中して取り組んでくれました。顧問の先生も参加して下さいました。普段のセミナーと同じように、呼吸、発声、共鳴に分けてレクチャーとエクササイズをしましたが、実際やってみると、あごの硬さと下半身の筋力が2大ウィークポイントでしたね。顎関節がハンパなくがちがちになっている人もいました。よほど奥歯を噛み締めて生活しているのでしょうか(笑)。下あごで腹筋や横隔膜の代償をしているので、下あごの力を抜くと下半身がふらふらになってしまう人もいました。
それでも、呼気を垂直に強く飛ばすことと、口の奥を開けることを徹底しているうちに、だんだんと体が使えるようになってきました。「低音域が掘り下げた声になってしまうんですが」という男子生徒には、口を開けたままハミングをして舌背が軟口蓋にくっついている状態を作り、その舌の位置をなるべくそのままにして(つまり、舌背をほとんど下げないで)アーと声を出してもらうと、息が下に落ちず、密度の高い声が出るようになってきましたが、これも相当体を使わないといけないようです。
思えば私も高校生の頃は下あごが硬く、下半身が弱く、声が胸に落ちていました。しかもその自覚が全くありませんでした。歌が大好きなのに、歌うと苦しい。このアンビヴァレンスを耐え忍びながら、声楽発声に対する認識も知識もなく、どうしたらいいかわからないまま歌い続ける毎日でした。一緒に声楽の勉強をしていた友人たちが何人も声帯ポリープの手術を受けました。まだ高校生なのに!
若い時に合理的な声の出し方を学び、身に付ければ、それは一生の財産になります。この高校には今後もお邪魔することになりそうです。彼らが歌を友として心豊かな人生を送るためのお手伝いが少しでもできれば、これにまさる喜びはありません。

エリカちゃんのこと

2017年05月23日 | 日記
ドイツでドイツ人と結婚し、生まれたばかりのベトナム人の女の子を養女にした直後にがんを発症し、3年間の闘病の末に亡くなったくみさんの忘れ形見、エリカちゃんがもうすぐ1年生になります。
くみさんの合唱仲間で、エリカちゃんを実の孫のように可愛がって下さっているオーマ(おばあちゃん)・ハニーから、エリカちゃんの写真をたくさん添付した長文のメールが送られてきました。
くみさんの遺骨埋葬式の時、ドイツでハニーご夫妻のお宅に泊めて頂いた時、ハニーから「年に一度はメールと写真でエリカの様子を知らせますから、くみのご家族に届けてあげて下さい」と言われたとおり、毎年律儀に送って下さっています。メールからも写真からも、ハニーご夫妻の惜しみない愛情とエリカちゃんの健やかな成長ぶりがうかがわれ、心から安堵するのが常です。
~エリカは私たちの毎日の幸せの源です。エリカはとても明朗快活で、しぐさがエレガントで、態度がしっかりしています。エリカと一緒に歩いていると、立ち止まってエリカをじっとみている人がよくいます~
~エリカはあいかわらずバレエ教室に通っています。また、最近自転車に乗れるようになったので、私たちの家から自分の家まで、パパと一緒に自転車で帰っています~
~エリカは幼稚園の人気者で、よくお友達の家に招かれます。私たちもその子たちをうちに招き返します。お誕生日にヴォルフガング(ハニーの友人のオルガニスト)からトランポリンを贈られたので、子どもたちは喜んで跳びはねています~
~エリカは去年からスイミングクラブに通っています。8月30日の小学校の入学式までには泳げるようになると思います。昨年の9月の就学前検診でいろんなテストを受けた時、エリカはそのすべてを完全にクリアしました~
~私は毎晩エリカに本を読んでやります。エリカはもうアルファベットも数字もたくさん覚えました。エリカはおしゃべりがすごく上手で、とてもわかりやすくて楽しい話し方をします~
~エリカは歌と踊りが大好きで、数えきれないくらいたくさんの歌を歌えます。また、毎晩のように私たちのためにリビングで踊ってくれます~
本当に、可愛い孫を自慢するおばあちゃんのような筆致です。
メールには他にも、昨年はくみさんのご主人のフビイが商用でほとんどドイツにいなかったので、その間エリカちゃんはハニーご夫妻の家で過ごしたこと、エリカちゃんのために通学用のランドセルを買ったこと、エリカちゃんを定期的にくみさんのお墓参りに連れて行って下さっていること、自分たちがくみさんのことをよく話すので、エリカちゃんがその話の内容をよく覚えていること、ご夫妻が北海の島に保養旅行にいく時はいつもエリカちゃんを連れて行って下さっていること、エリカちゃんを連れて隣町にオーケストラの演奏を聴きに行ったこと、チャイコフスキーのピアノ協奏曲の演奏に感激したエリカちゃんが、興奮してパパに報告したことなど、日々の生活の様子がこまごまとつづられていて、ハニーの愛情の深さに圧倒される思いがしました。
合唱をこよなく愛したくみさんの思いを受け継いだのか、エリカちゃんも歌が大好きなようです。いつか、くみさんと最後に一緒に歌った「メサイア」を、成長したエリカちゃんと一緒に世界のどこかで歌える日が来るでしょうか。その日まで、世界の平和とエリカちゃんの健やかな成長を心から祈りたいと思います。

北陸にて

2017年05月15日 | 日記
友人Iさんの母上のお里、福井県坂井市での「熊本地震復興支援チャリティコンサート」が無事終わりました。
思えば、昨年9月にIさんが熊本で初めての単独自主リサイタルを開催された折、はるばる福井から聴きにおいでになったご両親に、M先生が「今度は福井にコンサートに行きますね!」と仰ったのが始まりでした。
Iさんもいろいろ考えた末、熊本地震の復興支援ということならやる意味がある、と肚を括って準備をはじめたのですが、何しろ遠隔の地ですから物事はそう簡単には運びません。各方面への協力のお願いや打ち合わせに何度も福井へ足を運び、準備に奔走すること数ヵ月。傍で見ていてもハラハラするような緊張感の中、ついに当日がやってきました。前日、M先生の熊本での活動を全面的にサポートして下さっているUさんご夫妻と私は、同じ便で福岡から小松経由で福井入り。Iさんのご主人は、大阪在住のIさんの妹さんご一家とご一緒に大阪から福井入りし、妹さんと共に当日スタッフとして活躍して下さいました。Uさんは譜めくり、Uさんのご主人は受付。どちらも大役です。M先生のお嬢さんのRさんも東京からやってきて、訳詞朗読を務めて下さいました。熊本からも、Uさんご夫妻の他にIさんのお友達も駆けつけて下さり、受付を手伝って下さいました。うちの合唱団の団員さんも「Iさんの追っかけです」と言ってお友達と一緒に聴きに来て下さいました。Uさんの昔のお知り合いや、以前熊本にいらして今は金沢にお住まいの方が聴きに来て下さったり、熊本からのご案内があったからということで福井のロータリークラブの方々がおいで下さったり、もちろんIさんのお身内もおいでになり、いろいろなつながりの方々がご来聴下さっていました。
Iさんは相当疲れていて、体力的にもつかどうか心配していたのですが、前日のリハの後半から調子が出てきて、本番は素晴らしい歌声でした。私も咽頭炎でずっと声が出ない状態が続いていましたが、当日に合わせたように声が戻ってきて、無事に歌うことができました。何かに守られているような温かい感覚をおぼえて、安らかな気持ちで歌えたのが不思議でしたが、後でIさんと話していたら、彼女も同じ気持ちだったそうです。Iさんの代々のご先祖様の地ですから、きっとお守り頂いたのでしょうね。
北陸の方たちは表情や態度が控えめです。でも、終演後、お客様方が「素晴らしかった」、「鳥肌でした」、「感動しました」と言いながら帰っていかれました。本心から仰っていたと思います。終演後、皆でIさんのご実家に少しお邪魔させて頂きましたが、ご両親の柔和な表情が印象的でした。遠方に嫁いだ娘が、地元でこんなに素晴らしいコンサートを開催するなんて、きっと想像もしていらっしゃらなかったことでしょう。うまくいくかどうかご心配もなさったでしょうから、どんなに嬉しかったことかと思います。
翌日はUさんご夫妻は永平寺へ、M先生とRさんと私はIさんのご案内で観光に出かけました。まず、火曜サスペンス劇場でおなじみの(笑)東尋坊へ。遊覧船に乗って、昔々地理の授業で習った柱状節理の見事な岸壁をとっくりと眺めました。その後、勧進帳で有名な安宅の関に連れて行ってもらいました。Iさんのお母様のご実家である古刹にもお寄りし、北陸の春の一日を満喫して、夕方の便で小松空港から福岡経由で熊本へ。ゆったりとした心豊かなおまけの一日のお陰で、すっかり疲れも癒され、今日からまた元気に仕事に戻ることができました。Iさんらしい行き届いた心尽くしに、ただただ感謝です。
生まれて初めての北陸の旅は、美しい印象に彩られた思い出深い経験になりました。

冒険的演奏

2017年05月07日 | 日記
N響第一コンマスの篠崎史紀氏が率いるスーパーオーケストラ、通称「マロオケ」による指揮者無しのコンサートシリーズ「最高の男たちの冒険」の第5回目が今日、熊本県立劇場コンサートホーで開催されました。このシリーズ、毎回聴きに行っていますが、今回も期待にたがわぬ素晴らしい演奏会でした。プログラムはオール・ブラームスで、前半はハンガリー舞曲、後半は交響曲1番、そしてアンコールはチャルダッシュ。このプログラムを指揮者無しで演奏するなんて信じられない話ですが、見事という他ないものすごい凝集力で、それはそれは気魄のこもったエキサイティングな演奏でした。
それにしても、最近の日本のオーケストラの音色は、驚くほど本場の音になっていますね。このメンバーがこのホールで演奏するからこそかもしれませんが、私がクラシック音楽を聴き始めた昭和50年代に比べれば別世界のようです。今は外国が遠い国ではなくなっていますし、生活スタイルも音感やリズム感もヨーロッパとの違和感がほとんどなくなっているからかもしれませんが、とにかく音色が美しい。つややかで滑らかで、柔らかく且つ張りのある、いつまでも聴いていたい心地よい質感です。
コンサートに足を運ぶ聴衆も、一握りの教養層だけではなくなっています。クラシックファンの底辺も随分拡がっていますし、クラシック愛好家ではなくても楽しめるように、演奏家たちも創意工夫を凝らすようになってきたからでもあるのでしょう。今日もオケのメンバーによる解説を挟み込みながらの演奏会でしたが、プレイヤーという人種は基本的にそんなに能弁ではないので、立て板に水という解説ではありません。でもそれが却って親しみが持てて良いのですね。言葉での説明には限界があるので、実際にちょっと演奏してみせながら説明してくれるのですが、これがまたわかりやすい。本番の演奏への期待がいやがうえにも盛り上がるというものです。
ブラームスの交響曲、私は4つとも大好きですが、21年の歳月をかけて作曲された第1番は特に、その産みの苦しみがしのばれるほど様々な楽想がてんこ盛りで、それだけに終楽章の世にも美しい主題とフィナーレに向かう盛り上がりは絶品です。しかし、ブラームス特有の風通しの悪さというか景気の悪さは、スカッとした音楽が好きな方には耐えがたい隠々滅々さに感じられるかもしれません。実際、昔の演奏はテンポがひきずるように遅いものが多かったし、和声も分厚いので、その重厚長大さに辟易する、と仰る方も結構いました。でもハンガリー舞曲などはアゴーギクが効いていて、エキゾチックでとても魅力的です。交響曲も以前と比べて随分スマートな印象を受ける演奏が多くなりました。ブラームスはメロディメーカーではないけれど、構成力がすごくて、交響曲は特に、壮大な建築物が建ち上がっていくのを目の前で見ているような迫力があります。
実は昨日も、教会で素敵なチェロのリサイタルを聴きました。前半は聴いたことのない珍しいプログラム、後半はチェロのコンサートの定番、シューベルトのアルペジオーネ・ソナタでした。弦楽器の音は人間の肉声に似ていてとても落ち着きます。2日続けてクオリティの高い演奏を聴いたからか、満ち足りた気分です。音楽が毛穴から沁み込んできて、細胞が喜んでいる、という感覚。今日のコンサートの終演後、両隣の方から「素晴らしかったですねー」と声をかけられました。お2人とも涙を流していらっしゃいました。私も涙を抑えきれませんでした。そして、何だかスッキリした気持ちになりました。