惜別

2018年06月30日 | 日記
若い頃ひとかたならぬお世話になった叔母が、一昨日、静かに息を引き取りました。享年71歳。長い闘病の末の安らかな最期でした。
父の義妹にあたるこの叔母は、とても愛情深い人で、私も小さい頃から可愛がってもらいました。叔母の夫である私の叔父は、姉、兄、弟、妹と上下に2人ずつの兄弟姉妹を持つ次男ですが、「お家の事情」で本家を継いだため、叔母は色々な意味で苦労の絶えない人生を送りました。しかし、いつも穏やかで明るく、嫁ぎ先の係累はもとより、ご縁のあるすべての方を大切にし、いつでも優しく温かく心を尽くして人をもてなしていました。人の話にじっと耳を傾け、慰めたり励ましたり、一緒に泣いたり笑ったり、そして、普段は控えめでも、必要とあらば決然と行動を起こす。そういう人柄ですから、誰もが叔母を慕い、頼りにしていました。大変に信心深い人でもありました。あの驚嘆に値する謙虚さと共感力と献身性、そして、現実を直視しつつ、希望をもって逞しく未来を切り拓いていく積極性は、生来の徳性に加えて、信仰の賜物でもあったのでしょう。
私にとって叔母は、その姿に多くを教えられ、無言のうちに人生の指針を示してくれる人でした。自分を導き、育ててくれた方たちが一人ずつこの世を去っていくこの頃、今度はそのご恩を若い人々にお返しする番になっているのに、未だに甚だ心許ない我が身です。
心残りなのは、叔母に私の歌を聴いてもらう機会がなかったこと。私がリサイタルをするようになった頃、叔母は体がきかなくなり、遠出ができなくなっていたのです。もう叔母に聴いてもらうことは叶いませんが、聴いて下さる方々に叔母の分まで楽しんで頂くつもりで、精進を重ねたいと思います。
苦労に磨かれた人ならではの光を放ちつつ、その苦労で体を虐げてしまった叔母。1週間ほど前、もう目を開く力さえ無いのに、見舞いに訪れたうちの父に「今日は有難うございました。気を付けて帰って下さいね」と、最後の力を振り絞って感謝と労いの言葉をかけてくれたそうです。いまわの際にあってなお、見事なお手本を残してくれました。今はただ、心からの感謝を捧げつつ、冥福を祈りたいと思います。

高校生たち

2018年06月17日 | 日記
昨年何度か発声指導に呼んで頂いた高校から、今年もまたオファーを頂き、昨日行ってきました。グリークラブと女声コーラスの合同練習です。
グリークラブは今年の年度替わりの頃にはとうとう部員1名になり、存亡の危機でしたが、幸いにも1年生、2年生が新しく入ってくれていました。女声コーラスも、1年生が7名も加わって活気充分です。顧問の先生は4つの部活の顧問の兼任で多忙を極めていらっしゃるようですが、今回も一緒にヴォイトレに参加して下さって、途中でうまく言葉をかけて生徒たちのヤル気を鼓舞して下さいました。良い先生ですね~。
今回は、昨年とは少し違うアプローチで、最初に椅子に腰かけてもらって、「立ったり座ったり」のアレクサンダー・テクニークの実習をしてみました。首の長さと頭の位置の高さを意識しながら少し歩きまわったりして、シンプルな(余計な力の入っていない)状態を覚えてもらってから、腰かけて、吸気筋を使って息を吐くエクササイズ、あおむけに寝てお腹の3点ポイントをつかむエクササイズ、背骨から足の先、手の先まで骨伝導を感じるエクササイズ。次に発声練習をしてみると、男性はハイC、女声はハイFまで軽々と出ています。とても自然で良い響きです。下あごの力を抜き、舌根の緊張をほぐすエクササイズや、顎関節周辺をほぐして上あごを動きやすくするマッサージなどもやりました。みんな顎関節が硬い!ちょっと指で押しただけで悲鳴を上げる人もいて、放っておくといずれ顎関節症になっちゃうよ、と脅しながら一人ひとりの上あごをクイッと持ち上げてやりました(笑)。
発声の後、間近に迫っている合唱コンクールの曲の練習をするのかと思ったら、「個別の質問に応じて頂けませんか」とのことで、一人ひとりの問題点や疑問を解決する時間となりました。「息もれを直したい」という生徒さんが複数いましたが、息もれは声門閉鎖が弱いか、呼気圧が弱いかのどちらかです(息の量と呼気圧のバランスが悪い場合もあります)。呼気圧を上げるだけでなく、口蓋垂の後ろ側を十分に広く開けて息の通り道を拡げておくことも必須条件です。口の奥はどうしても開きにくいので、ワインコルクをはさんだり指で軟口蓋をマッサージしたり、いろいろやってみました。
みんな熱心です。そして和気あいあいで良い雰囲気。来月また伺うことになりました。楽しみです。

呼気圧再び

2018年06月10日 | 日記
うちの一番古い生徒さんが、来熊中のバリトン歌手M氏のレッスンを受講するというので、高校生の生徒さん2人と一緒に聴講に行ってきました。
私はソプラノの中でもかなり軽い声なので、男性の生徒さんは私の声を聴いても発声のイメージがつかみにくいでしょうから、発声の良い男性の先生にレッスンを受ける機会があればどんどん受けてほしいと思っています。M氏は私が音大在学中、若手のホープとしてよく学内コンサートに出演されていました(もちろん対外的にも活躍されていました)。様式感にすぐれた、発声の良い歌い手さんというイメージでした。熊本とも結構ご縁がおありで、熊本にもお弟子さんが多く、私も熊本でも何度も演奏を聴いています。教えるのもうまく(ピアノもお上手)、レッスンを聴いているだけでも勉強になります。
M氏のレッスンは説明がわかりやすく、発声のメソッドも合理的で、意図されていることがよくわかります。今日は4人の方のレッスンを聴講させてもらいましたが、中でも「息のスピード」を強調されたのには大いに納得。最近特に呼気の速さ(強さ)の大切さを痛感しているだけに、わが意を得たりの思いでした。呼気圧が弱いと共鳴腔(副鼻腔)まで息が届かないので声が響きません。しかし、それには腹圧を相当かけないといけないのです。特に下行音型の時は、呼気圧が落ちないためには、下腹部とバストの引き上げが必要で、そのためには腰の筋力が必要です。骨盤底筋、脚の内転筋の筋力も必要です。
下腹部の引き上げについては、昔からよく「お腹に力を入れて!」とか「腹から声を出せ!」などと言われていますが、これには解説が必要ですね。ヤミクモにお腹に力を入れても苦しいばかりですし、腹からは声は出ません(笑)。先日も書きましたが、先日M先生に教わった下腹部の筋肉の使い方は、呼気圧を高めるのにとても効果的です。ざっくり言えば、足の付け根、脇腹の少し前側、肋骨のすぐ下の3か所がポイントで、その3ヵ所(左右両側)は、指で押さえたまま軽く咳をするか笑ってみると、指に内側から抵抗がかかって外側に張り出す感じになります。盟友Iさんに調べてもらったところ、足の付け根は腸骨筋(大腰筋も一緒に動いている可能性あり)、脇腹の部分は腹斜筋(外腹斜筋と内腹斜筋が斜めに重なっている部分)、肋骨のすぐ下は腹直筋と腹横筋だそう。まあ、筋肉は複合的に連動しているので、そこだけ使っているわけではないのですが、ともかく、この3か所が内側から外側に向かって張り出すようにしっかり動いている時は、バストの位置が高くなり、外肋間筋(吸気筋)を拡げている状態になります。このフォームを保つには、足腰の筋肉が必要です。
もちろん、呼気圧だけでなく、喉頭蓋を開け、口の奥も開けて息の通り道を確保しておくことと、息を声に変換する装置である声帯(左右一対)がぴったり閉じていることも必須条件です。そのすべてが有機的に連動するようにもっていくのがヴォイストレーニングなのですが、私の場合、この3条件のうち一番弱いのが呼気圧で、生徒さん達もやはり呼気圧が弱い傾向にあります。レスナーに似るんでしょうか(笑)。
他にも、口の開け方や息の分量、子音と母音のバランスについての説明の仕方など、参考になることの多い、刺激的な時間でした。