前、それとも後ろ?

2013年10月22日 | 日記
合唱や声楽をなさっている方からしばしば聞く話ですが、発声指導で「息は前へ前へと出しなさい」と言われる先生が多いそうです。昨日も、ニューフェイスの生徒さんがそんな話をされました。
ホールの一番後ろに声を届けるように声を飛ばしなさい、山の上や大草原の真ん中にいて、遠くにいる人に呼び掛けるつもりで声を出しなさい、などという言い方は確かによく聞きますね。狭い部屋でばかり練習していると空間を小さく感じる習慣がついてしまうので、意識的に広々としたイメージを持つことは大切です。しかし、息を前へ前へ吐こうとすると呼気筋で息を押し出してしまいがちです。そうすると息があっという間になくなってしまいます。呼気筋に吸気筋を拮抗させるよう胸を軽く張っていればよいのですが、それでも身体の軸がぶれそうになり、姿勢がぐらぐらと不安定になりがちです。
私がW先生に最初に習ったの「息は上に向かって吐く」ということでした。それも高速で。誕生仏の「天上天下唯我独尊」のように(笑)右手の人差し指で頭上を指しながら前歯の間からスーッと音を立てて強く息を吐きます。胸はずっと軽く張ったままです。強く吐くのは、呼気を目と鼻の後ろ側にある大きな空洞、すなわち蝶形骨洞に届けるため。呼気圧が弱いと息が喉のあたりまでしか上がり切らず、声帯に息がまとわりついて声嗄れの原因になります。
そしてもう一つ、声を出す時は口の奥行きをできるだけ深くして口蓋垂の後ろが見えるように開けます。そうすると自然に上あごの後方(軟口蓋)が上がりますが、さらに意識的に、口蓋垂が見えなくなるぐらいしっかりと引き上げます。そうしておいて、息を垂直方向に飛ばす時と同じ要領で「アー」と裏声を出すのです。声にした時も呼気が減速しないようにして、息がなるべく後ろから上へ流れるよう気をつけます。こうして発声すると後頭部に振動を感じます。
以前、国内外で活躍する著名な声楽家のレッスンを聴講したことがありますが、「声はどこにありますか?もっと後ろですよ、声はいつも頭の後ろにないといけません」と繰り返しおっしゃっていました。息を前に吐くと、声を頭の後ろに響かせることができません。息を垂直に飛ばせるようになれば、蝶形骨洞に届いた呼気が響きのついた声となり、蝶形骨に接触している後頭骨にも振動が伝わるので「頭の後ろに響かせる」ことができるのです。その響きは後方の空間に拡がり、反射しながら隅々にまで運ばれていきます。こうして空間自体が共鳴箱になるわけです。
息は上へ、声は後ろへ。声楽発声の合言葉にしたいフレーズです。その目指すところは「耳に心地よく、遠くまでよく響く声」です。

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