4月の終わり

2015年04月30日 | 日記
「熊本は4月から12月まで夏なんです」と、さる高名な文筆家が仰ったのを聞いて思わず納得してしまったことがありましたが(笑)、今年の4月は前半が妙にお天気が悪くて寒かったのに、ここへきて一気に夏日です。参りますね。尤も、東北では真夏日もあったようで、九州より東北の方が暑いなんて本当におかしいですよね。
それはともかく、怒涛のような1ヶ月があっという間に過ぎました。今年度は大学の授業にかなり気合が入っています。何しろ週7コマもありますし、特に1年生は4月が勝負ですからね。幸い今年の受け持ちクラスの学生さんたちは皆なかなか熱心で、雰囲気も悪くありません。どのクラスにも一人ぐらいムードメーカーのお祭り男がいるので(笑)助かっています。
毎年1年生の導入には「かえるの歌」の輪唱を使います。これでドイツ語にぐっと親しみを持ってくれます。その後は毎時間「今月の歌」を歌います。5月はモーツァルトの「春への憧れ」ですが、連休があるので前倒しして、今週からこの歌に入りました。最初のクラスで、シュヴァルツコップフのCDをかけて「この歌知ってる人いる?」と訊くと、「高校の時ドイツ語で歌いました」という女子学生が一人いました。嬉しくなって私も張り切って歌ってきかせ、皆で発音練習と歌の練習をしたら、授業後に一人の男子学生が私のところへ来て「先生、歌マジうまいっすね。音楽部かなんかだったんですか?」と訊くので、「憚りながら私、音楽大学の声楽科を出ているのよ」と言ったら「ひえ~、まじっすか!?」と、のけぞって驚いています(笑)。そのリアクションが面白くて、次のクラスでその会話を再現してみせたら、今度は全員が「ええ~っ!?」と声を挙げるので、その反応に今度はこっちが驚きました。例年だと「へえ~」ぐらいの感じで、これほど大げさな反応は初めてです。その初々しさが新鮮で、心楽しく控室に戻ったことでした(笑)。
大学では気持ちが張っているのであまり感じませんが、このところずっと体調が不安定で、頭の回転も少々(いや、大いに)鈍くなっているようです。今日も教室を間違えて、資料やCDプレーヤーなど荷物の小山を抱えて汗だくになりながら控室と教室を小走りに行ったり来たりしたせいか、夕方から左手の手首と肘が妙にジンジンします。どうやら軽い腱鞘炎のようです。今日はM先生が東京から来られて、リサイタルの伴奏合わせとメサイアの合唱の練習があったのですが、伴奏合わせの時間はマッサージの時間になりました(笑)。数日前にM先生からお電話を頂いた時、声に疲労がにじみ出ていたらしく(笑)、今日は会うなり「腰が痛いんでしょう、ここに仰向けに寝てごらん」と言われ、足と腰、腕と背中のマッサージをして下さいました。M先生のマッサージの腕前は天下一品です(鍼師のお兄様から「鍼師になれ」と言われるそうです)。だいぶほぐれて声も出やすくなりました。M先生曰く、練習というものはただ歌うばかりが能ではない、その時々の自分のコンディションを見極め、整え、歌える体を作ることが先決だ、と。本当にそう思います。練習しても思うような声が出ない時は、そのままでは歌える状態ではない、ということなので、声を出す以前のフィジカルケアの方が大事ですね。特に背面と足。肩甲骨の間が凝っていると体が拡がらないので、声帯も引っ張れず、呼気の量も勢いも落ちます。二重唱の相方Iさんのレッスンを見ていて、背中の凝りをほぐすことの大事さを再認識しました。詳しくはまた後日。

春風邪

2015年04月20日 | 日記
「春風」なら良いですが、「春風邪」なんです(-_-;)
新年度の授業が始まって丸1週間経った頃、喉が腫れて節々が痛み出し、声が出なくなりかけ、慌てて耳鼻咽喉科にかかったら「ははあ、喉とリンパが腫れてますね、いわゆる喉風邪です」と言われました。薬のお蔭でようやく少しおさまってきましたが...
今年度は大学の授業の担当が急増したので、生活のリズムを作ることにかなり神経を使っていたのですが、2ヵ月の春休みから急に緊張の日々に突入して体がびっくりしたのでしょうね。お天気も不順だったし。それに、合唱団で取り組んでいる愛唱歌集の編集が大詰めを迎え、楽譜の校正や原稿の執筆などの仕事が立て込んでいる上に、9月のリサイタルで歌うヘンデルの曲(4曲分)の楽譜起こし(装飾音符の記譜が無いダ・カーポアリアなので、歌の主旋律とヴァイオリンのオブリガートに複雑に付いている再現部のメリスマを楽譜に書きとる作業をしているのです)もあるので、ヒマさえあれば机にかじりつく生活で、それも体に響いたようです。作業自体は面白いのですが、机に向かって頭を使う作業がこんなに疲れるとは思いませんでした。やっぱり勉強は若い時にしておくものですね。年を取ると、頭の錆びつきより体力の衰えで頭脳労働には支障をきたします。
そういうわけで、レッスン記録が棚上げのままでスミマセン。横隔膜の下がった緊張状態を上手にキープすることで息モレやヴィブラートを相当抑制できることは、生徒さんたちによって実証されつつあります。これに口の奥をしっかり開ける、下あごの力を抜く、という2つの要件が満たされれば、おそらくかなり発声が安定すると思います。

支え

2015年04月13日 | 日記
先日のブログの補足です。
「支え」という声楽のテクニカルターム、わかるようでよくわからない言葉ですよね。
ところで、支えと横隔膜は切っても切れない関係ですが、先日、もう長らくレッスンにみえているセミプロの方が「横隔膜」を文字通り「膜」だと思っていたと仰ったので、「横隔膜は膜ではなくれっきとした筋肉です、ひらひらした薄い膜などではありません」とセミナーのたびに強調している私としては、選挙カーのウグイス嬢が、自分が毎日連呼している候補者の名前を身内から間違えられたような(笑)ショックを受けました。まあ、これは翻訳ミスの問題もあるでしょう(注:横隔「膜」も声「帯」も翻訳ミスとしか思えない訳語です。ちなみに声帯も、「帯」とは似ても似つかぬ分厚い粘膜の塊で、声帯筋という筋肉が動かしています)。
それはともかく、この横隔膜はもともとドーム型に盛り上がった形をしていて、肺が空気で膨らむと下方に押し下げられ、平らに拡がります。しかしこの状態は横隔膜にとっては緊張状態で、空気が肺から出て行けばラクになれるので、早いところ元通りのドーム型になりたいのです。それを「そうはさせじ」と、なるべく平らに拡がった状態を保ち、息を長もちさせることを「(息を)支える」と表現するのです。
然るに、横隔膜が上がっていかないように下へ引っ張るためには、下半身の筋肉を総動員しないと間に合いません。なぜなら横隔膜は胸郭と腹腔を仕切る大きな一枚の筋肉ですが、それと拮抗できるほど大きな筋肉はないからです。腹筋、背筋、側筋、臀筋、足の筋肉、全部を使わないと拮抗できないのです。
さて、それでは実際にはどうやって「支える」のか。脇腹の、肋骨の下と骨盤の間に、骨のない部分があります。ウエスト部分ですね。空気が肺に入ってきて横隔膜が下がると、この部分が外側へ張り出します。あくびをしてみるとわかります(あるいは、軽く咳をしてみる、笑ってみる、洟をかんでみる、などの方法でもわかります)。フレーズの一音一音をマルカートに母音唱しながら、この「ウエストが外側へ張り出した状態」を一音ずつに対応させて意識的に作るのです。次にレガートで。メリスマ(歌詞の1音節にたくさんの音符がついている装飾的なメロディライン)を歌う時は息を吐きやすい(つまり、ウエスト部分が縮みやすい)ので、特にこのフォームを保つことに気を付けます。気を付けることは「力まない」こと。下腹部に腹圧をかけようとして力でプッシュするのは間違いです。どちらかと言えば下腹を前に突き出すイメージの方が近いです。
昨日、教会の聖歌隊のレッスンでこの「支え」を徹底してやったら、メンバーの方たちがかなりフラフラになられました。けっこう体力を使うので、自分の体力と相談しながら少しずつ練習しないといけません。しかし、これが身に付けば息が長くなり、発声が安定してくると思います。最近の朝ドラの決まり文句ではありませんが、「地道にコツコツ」が肝要です。

ノン・ヴィブラート

2015年04月08日 | 日記
今日はメサイアの練習日でした。M先生は相変わらず元気いっぱいで、今日は「ふるさとの四季」を通しで歌った後、Worthy in the Lambから終曲のアーメンコーラスまでを練習しました。歌う度にメサイアの素晴らしさをしみじみ感じます。練習後、先週被災地に行ってこられたM先生から現状のご報告がありました。来年1月の熊本での公演を皮切りに、来年は東京や東北でもメサイアの公演が予定されているそうで、各地のメンバーが他の地域で一緒に歌う相互交流も自由にできます。今月から東京でも月に2回の練習が始まるそうです。メサイアを通じて東北支援の輪が拡大していくことをM先生ともども祈っています。
さて、メサイアの練習の前に9月のリサイタルの曲をみて頂きました。先日東京でN氏と3人で合わせた曲です。バロックの曲はノン・ヴィブラートが基本ですが、私の声は揺れやすいので困っていました。それが今日、M先生に2つのヒントを頂いて解決の糸口がつかめました。一つ目の練習方法は、例えば「Strand」という言葉が1つの音符についている箇所で、まずaの母音で声を出し、次に母音の後ろについているndの子音をつけ、次に母音の前のrをつけて-rand、もう一つつけて-trand、最後にStrandと、子音を一つずつ増やして最後に完全な一語を発声するというやり方です。母音は声帯をきちんと振動させないと響きませんから、aの母音を体を使ってしっかり鳴らし、発音に体力が必要な子音を1つずつくっつけていくことで筋肉が必要十分に使え、子音が優位になってスカスカの声になるのを防ぐことができます。
もう一つは、フレーズの終わりで横隔膜を低い位置に保つことです。ウエスト部分を外側に拡げるようにしてフレーズを終えるとピタリと揺れが止まります。低い音で終わる場合は特にこの方法が効果的でした。高音域は口の奥を開けておいて声を後ろに回すと、声を押し出してイントネーションが崩れるのを防げます。
メリスマを音程正しく歌うには、まずオの母音でゆっくり一音ずつスタッカートで練習します。スタッカートは体をきちんと使わないと音程になりませんから、スタッカートで練習してから言葉をつけると、音程がクリアに、発音も明瞭になります。
バロックのダ・カーポアリアは再現部に細かいメリスマがつくので、この方法でゆっくり丁寧に練習することが大切なようです。これからしばらくこの方法での練習を徹底してみたいと思います。