稜線

2014年07月31日 | 日記
うちの窓からくっきり見えるはずの山の姿がトンと見えなくなって数ヶ月。マスク無しでは外出もままならないほど喉へのダメージが大きかった高濃度のpm2.5でしたが、このところ、山の稜線がうっすらと見える日が多くなり、マスクをするのを忘れている日も増えました。そして今朝、昨日の午後の激しいにわか雨で空気が洗われたのか、本当に久しぶりに黒々とした山肌がはっきり見えて感動!pm2.5が取り沙汰されるまではそこにある山が見えるのは当たり前だと思っていましたが、何事も当たり前ではないのですね。「当たり前ではない」という認識は感動の源なのだと実感しました。
さて、ホールレッスン以来のここ数日を振り返ってみたいと思います。先日の日曜日は完全オフの日で、疲れが出て一日中ゴロゴロと横になって過ごしましたが、月曜日からはいつもの通り忙しい毎日でした。レッスンの生徒さんたちはどなたも皆順調に上達していかれています。そろそろクリスマス会の曲を何にしようか、という話題も出はじめました。皆さんが上手になっていかれるのは私にとって何よりの元気の素です。大学では月曜日が2年生の「星の王子様」のクラスの試験日で、前期だけのクラスなのでこれを以てこのクラスは終了。答案の感想欄に「『星の王子様』をドイツ語で読むという経験がとても新鮮で楽しかった」と書かれているものが多く、このテキストを取り上げてよかったと思いました。火曜日は1年生のクラスの口述試験。一人あたり3分ほどで、簡単な質疑応答、ドイツ語の早口言葉、短文の読み上げ、単語の読み上げ、「今月の歌」から任意の1曲を覚えて歌う、という内容です。みんな相当に緊張しながらも成績は上々。明日もまた1年生2クラスの口述試験です。
そういえば、先週の出来事ですが、夏休み中の課題として「私にドイツ語で暑中見舞いのメールを下さい」と言ったところ、一人の学生さんに「暑中見舞いって何ですか?」と訊かれました。え!?暑中見舞いを知らないの?・・・何と約半数の学生さんが「知らない」と。「年賀状は知ってる?」と訊くと、ああ、あけおめですね、という返事(笑)。夏は暑中見舞い、お正月は年賀状というのはセットなの、お中元とお歳暮みないなものよ(笑)と説明しましたが、どうもお中元お歳暮というたとえもピンと来ない様子。嗚呼!またしてもジェネレーションギャップにノックアウトです。
そのショックを発散しようとひまをみては断捨離に励み、後生大事にとってあった書類やノートなどの紙類を思い切って処分しました。せっせと紙袋に詰め込んでみると10袋を優に超える量になりました。それをカートに載せてごみステーションへ運んだら、腰痛を発症してしまいました(-_-;)。左腰に間歇的に痛みが襲ってきます。昨日の夕方はM先生のピアノのレッスンでしたが、腰が悪いと指もスムーズに動かないらしく、一緒運命練習したバッハがメロメロです。M先生が「左手が弱いね。左手だけの練習を右手の3倍してごらん」と仰いました。私はもともと左手が弱いのですが、腰のせいも多分にありそうです。それでも、ブラームスは「いいじゃない!そのうち「一度は弾いてみたかったコンサート」というのを熊本でもやるから、その時これ弾いたらいいわ。暗譜しといてね」と言われました。万歳!もう1曲、ショパンの即興曲もみて頂きました。これが全然弾けないんです、と言うと、私の弾き方を見事に再現して見せて下さり、練習の仕方を教えて下さいました。それをやってみると、あらま、魔法にかかったように軽く弾けるではありませんか。思わず「嬉しい!」と叫んでしまいました。レッスンっていうのは上手になるために受けるものでしょ、と仰るので、もちろんそうですけど、私は今まで練習すればするほど下手になっていたんです、と言うと、それは辛かったわねえ、と。私でも上手になれるかも、と思うと生きる希望が湧いてきます、と言いましたが、これは決して大げさではありません。M先生のお蔭で、「音痴のままでは死ねない」と言ってうちの門を叩かれ、レッスンの後で「ああ、世界の景色が違って見えます!」と言われる生徒さんたちの気持ちがよくわかるようになりました。
ピアノのレッスンの後、音楽科の先生方との懇親会に出席。1年に1度の楽しい宴席で、旧交を温めつつ、新しく赴任された先生方ともお近づきになりました。
今日で7月も終わりです。酷暑の8月を迎えますが、皆様もどうぞお体にお気をつけてお過ごし下さい。

ホールレッスン

2014年07月26日 | 日記
来年のW先生門下生の発表会に向けて、昨日はW先生の地元のKホールを借り切ってレッスン会がありました。ホールで歌うのと普段レッスン室や自宅で歌うのとでは感覚が全然違いますし、客席への声の届き方のチェックという意味でも本番前にホールで練習しておくことは大事です。私は日帰り参加なので、他の方たちのレッスンをあまり聴けず残念でしたが、実際に舞台上で歌ってみてやはり行ってよかったと思いました。大気汚染のひどい熊本でほとんど練習できない日々を過ごしているので、こういう機会でもないと歌い込むことができませんから。
午後2時過ぎにホールに着くと、日本歌曲を歌われるお2人の方のレッスンを聴くことができました。お2人ともすごくお上手。W先生の的確なアドヴァイスで一段と素敵な歌に仕上がっていきます。お2人の次が私で、W先生にちょっとだけ発声をみて頂いてからシューベルトの「ナイチンゲールに寄す」と「ガニュメート」の2曲を歌ってみました。今回私の伴奏をして下さるHさんはドイツリートの伴奏を自家薬籠中とされている方です。今回の発表会のお世話係でもある奥様のNさんには私も何度かお会いしていますが、ご主人のHさんとは初対面。しかしさすがに専門家、何の打ち合わせもなくいきなり弾いて頂いてもほとんど齟齬を感じません。無論、練習の中でテンポや強弱など細かい打ち合わせや相談をしましたが。
私はホールで歌う時はいつも、体が普段のようには使えていない感じがします。それに中音域が響きにくく感じて、これで客席までちゃんと聴こえているのだろうかと心配になるのが常です。でもW先生は「あなたの声は細いけれど後ろまでよく届いているわよ」と仰って下さり、「むしろ、響きが言葉に覆い被さってしまって何と言っているのかわからないから、発音をもっとはっきりさせてごらんなさい」と言われました。耳の後ろで喋る感じで、子音を少し早めに強く発語し、続く母音は瞬間的にデックングするように、と言われ、一生懸命そのイメージを持って歌ってみると「だいぶ聴こえてきたわよ」と。そして、下行の跳躍音程で少しうわずるので、重心を下げて息は高く上げるように、と。私は腰が弱いので、疲れてくると重心が浮いてきて音程が上ずるのです。つまり問題は体力。筋力アップを図らねば。
あと、伴奏のHさんがテンポや表現についていくつかアドヴァイスを下さり、通して歌って終了となりました。タイムを計測して下さっていたNさんが「吉田さんは(口の)奥がよく開いているから響きますね」と言われ、W先生が「古い生徒さんたちは奥が開いているのよね」と応じていらっしゃるのを聞き、私はそんなに古い弟子でもないのですが、と言いかけて頭の中で数えてみたら、初めてW先生とお会いしてから10年以上経っていることに気づきました。20年、30年の生徒さんも多くいらっしゃるW先生門下の中で私は古参の弟子とは言えませんが、いつの間にかそれなりに年月を重ねていたのですね。顧みて、メゾソプラノからソプラノへの劇的変身(?)を遂げたあの初回レッスンの感動と喜びがどれほど大きなものだったかを改めて噛み締めながら帰途につきました。

音と言葉

2014年07月21日 | 日記
声楽と器楽の違いは、音楽に言葉がついているかいないかの違いですよね。でも、説得力のある器楽演奏からは言葉が聴こえてくるような気がすることがあります。それはメロディの歌わせ方からくるものかと思っていたのですが、今読んでいる本の中に興味深い一節がありました。小澤征爾と村上春樹の対談集で、そのものズバリ『小澤征爾さんと、音楽について話をする』というタイトルです。村上春樹という作家は音楽に造詣の深い方のようで、彼の作品にも、レアなクラシック曲をはじめとしていろんな音楽がよく出てきますから、このお二人の対談はなかなか読みごたえがあります。
さて、その中に、古楽器オーケストラによるベートーヴェンのコンチェルトの演奏レコードを聴きながら話をしている短い章があります。当該のオーケストラの演奏が室内楽に近い質感になっているという話の中で、小澤さんが「楽器がよくしゃべる」、「このオーケストラの演奏はしゃべりに子音が出てこない」というような言い方をしている箇所があります。楽器がよくしゃべるというのは「楽器の音が独立して聞こえる」ということだと村上さんが確認していますが、「子音が出てこない」というのはどういうことなのかと尋ねる村上さんに、小澤さんが「それぞれの音の出だしがないということですね」と説明しています。それでも不得要領な村上さんに対して、小澤さんは重ねて「何と言えばいいのかな、「あああ」というのが母音だけの音です。それに子音がつくと、たとえば「たかか」とか「はささ」とかいう音になります」と言い、例えば最初に「た」なら「た」をつけるのは簡単だが、それに続く音が難しいと言っています。全部に「た」をつけると子音ばかりになってメロディがつぶれる、と。一つ一つの音が硬くなり過ぎるということなのでしょうね。声楽のレッスンでも、言葉の発音を意識し過ぎてメロディの流れが悪くなっているような時、母音だけで歌ってみてから子音をつけるとメロディがレガートに流れるようになりますが、それと似たような感じでしょうか。そして、器楽の場合、子音の強さや質感の違いによって言葉としての聴こえ方も違ってくるのでしょう。残響の強い会場では母音の多い演奏は豊かな響きに聞こえるでしょうが、デッドな空間で母音ばかりだと演奏全体の説得力が乏しくなるかもしれません。
私は器楽やオーケストラ演奏について十分な知識は持ちませんが、各楽器の音が独立的に響いていながら「しゃべりに子音がない」演奏、という指摘を興味深く感じました。それがテクニック上の問題なのか、感覚的な問題なのかわかりませんが、フレーズなりその最小単位なりを言葉として聴くという発想が新鮮です。一方で、音そのものの説得力で勝負、というスタンスもあり得るでしょうが、その場合はアーティキュレーションよりも音色の微妙な変化や音の持続性にフォーカスすることになるでしょう。日本の伝統音楽を連想しますね。

健康発声セミナー(第9クール)

2014年07月17日 | 日記
なんだかんだと忙しくしているうちに、あっという間に1週間経ってしまいました。
さて、今日は8月に開催する連続発声セミナーのご案内をさせて頂きます。

日程 8月2日(土)、8月16日(土)、8月30日(土)

時間 18:30-19:20 レクチャー&エクササイズ 19:30-20:20 歌って、健康!

場所 あいぽーと大会議室(ウェルパルくまもと1F) 熊本市中央区大江、市電「交通局前」電停前

参加費 各部1,000円

3回とも同じ内容ですので、1回だけのご参加でも連続でのご参加でも構いません。また、前半のレクチャー&エクササイズはビギナー向け、後半はリピーター向けですが、両方に参加されてももちろん構いません。但し、初めての方は前半からご参加下さい。多数のご参加をお待ちしています。

夏休みまであと少し。試験問題作成などの雑務が嵩み、暑さも本格的になってきて、今が胸突き八丁と言ったところ。あとひと踏ん張りして夏休みに入ったら、8月は「断捨離月間」にすることに決めました。後生大事に取ってあった本や書類、楽譜を思い切って処分するつもりです。大した所蔵量ではありませんが衣類、食器なども整理する予定。生活自体も見直し、総合的スリム化を遂行するため、1週間ぐらいお盆休みを取って断捨離に没頭しようと思います。

母音考

2014年07月12日 | 日記
昨日、女性4人組のヴォイトレをしたのですが、中のお一人が「「オ」の母音だと発声がうまくいく」と言われました。うまくいくというのは、体が自然に使え、口の奥がよく開いて息が上へ抜けやすいという意味です。別の一人は「私は「イ」の方がやりやすい」と言われました。他の2人は「ア」が良いそうです。
どの母音が発声しやすいかは各人の骨格によると思いますが、一般的には発声練習には「ア」を使うことが多いと思います。「オ」は上あごが上がりますが少しこもり気味になりやすく、「イ」は口の奥行きが深くなりますが上あごが下がるので平べったい声になりやすい。その点「ア」は、特段のメリットはないけれどデメリットも少ない、ということでしょうか。因みに、「エ」は口角から息が外に漏れやすいので、「エ」で発声する時は口をあまり横に開かないようにして、舌の両側も少し上げ気味にします。
「イ」は側頭骨に響かせやすい母音なので、耳の後ろのゴリゴリした骨を触りながら、ちょっとあくびが出かかっているようなフォームで声を出し、骨に響いているのを確かめます。声楽的な声と言うよりは腹話術あるいはミッキーマウスのような声になりますが(笑)、息がちゃんと後ろに回っていれば、そのままかなり高音域まで行けます。イでうまくいったらイからアにスライドさせますが、アにすると口から息が洩れやすいので、息を後ろへ引っ張るようなイメージで軟口蓋を引き上げながらアに変換します。すると下腹部にぐっと圧力がかかり、足腰をたくさん使っている感じになります。
「オ」が出しやすいという方は、ウォ~~~ンとオオカミの遠吠えのような声を出して頂くと、やはり腹圧が強くなります。
どの母音を使って練習すると体がうまく使えるか、いろいろ試してみるのも面白いと思います。発声には標準的なメソッドと個別的なメソッドがありますから、両方を組み合わせてオーダーメイドの発声練習を構築してみてはいかがでしょう。