誌上発声セミナー(4)

2013年10月30日 | 日記
今日は「支え」について述べたいと思います。
声楽のレッスンでは「お腹でしっかり支えて!」という言い方がよくされますが、私はその意味が長年よくわかりませんでした。オーストリアでマスターコースを受講した時、ドイツ語でも「支え」という単語を使うのだと知りましたが、肝心の「何を」「どのように」支えるのかは結局わかりませんでした。
現在の私の理解では、「支え」とは、体中のさまざまな筋肉を使って呼気と吸気のバランスを取る(=息をコントロールする)ことではないかと思います。つまり、内肋間筋(呼気筋)と外肋間筋(吸気筋)、横隔膜と補助呼気筋群(腰筋、背筋、腹筋など)など、相反する動きをする筋肉を同時に使い、全身的にバランスを取りながら呼気を長く保つことではないかと思っています。デュアルということですね。声を出すのには筋力が必要ですが、それは息を支えるため、即ち呼気を長く保つために必要なのです。

~エクササイズ~
1.うつ伏せになり、腰回りの筋肉を外側に開くように伸ばす。
2.おおあくびをして、体中が開いた状態を数秒間保つ。
3.アッハッハッハと高笑いをする。その声を伸ばしたり、スタッカートにしたりしてお腹の動きを観察する。
4.上体を腰の高さまで落として両手で椅子の背につかまり、腰回りの筋肉を外側に開き伸ばす。その姿勢をなるべく保持しながら「あー」と声を長く伸ばす。
5.深いため息をつきながら、動物のうなり声のような低い声を断続的に出す。その時に下腹部に軽く腹圧をかける。

日本人は総じて支えのための筋肉が未発達ですが、それは日本語の言語特性によるところが大きいと思われます。日本語は、話すのに舌や唇をあまり使いません。舌や唇を動かすには腹筋の力が要るのですが、日本語はほとんどお腹を使わずに喋れてしまうのです。舌や唇をあまり使わないと滑舌が悪くなりやすい(=発音が不明瞭になりやすい)ので、舌のストレッチをしっかりやりましょう。これは誤嚥防止にも有効です。舌を思い切り前に出す、口を閉じて舌で前歯の表面をなめまわす、頬の内側を舌先で叩きながらスピーディーに往復する、など、いろいろなやり方で舌をしっかり動かしましょう。また、唇の形を変えずに(下あごを動かさずに)舌だけ動かして「アエアエアエアエ...」と発音すると、舌が前後方向によく動きます。巻き舌rrrr...は、舌根を柔らかくするよい練習になります。


誌上発声セミナー(3)

2013年10月28日 | 日記
声を出すしくみを考える時、便宜的に「呼吸器官(肺とその周辺)」と「発声器官(声帯とその周辺)」と「共鳴器官(副鼻腔とその周辺)」に分けるとわかりやすいと思います。もちろん、実際には3つが同時に連動しているのですが。
前回は「呼吸」と「共鳴」の関係について述べたので、今日は発声器官の話です。ただし、息を声に変換する装置である声帯については、実際に声を出す時はあまり意識し過ぎない方がよいと思います。それでは。

~発声のしくみ~
1.声帯は「閉じ」ます。
歌の先生が「喉をよく開けて歌いなさい」とおっしゃるのを「声帯を開ける」ことだと思っている方が時々いらっしゃいますが、これは大きな誤解です。
そもそも声帯とは、喉の左右両側から中央に向かって隆起した分厚い粘膜です。分厚いと言っても1㎝前後の小さなもので、表面は粘液で覆われています。内部に5種類の声帯筋があり、この筋肉で声帯を閉じたり開いたり引き伸ばしたりするのです。呼吸時はこの一対の声帯が前(喉仏の方)から後ろ(首筋の方)に向かって開き、そのスキマから空気が出入りするのですが、声を出す時は左右の声帯がぴったり閉じ、肺から出てきた呼気がその間(声門と言います)をこじ開けて出てくるのです。その時に声帯が複雑な波動運動を起こして「気流音」を作ります。これが声の素(「喉頭原音」)で、ここではまだスキマ風のような音です。

2.喉頭蓋は「開け」ます。
声帯を閉じるとか開けるというのは感覚的にちょっとわかりにくいかもしれませんし、そういうことをあまり意識しない方が却って良い場合もあります。しかし、声帯の上にある「喉頭蓋」の動きは比較的わかりやすく、また、なるべく意識した方が良いのです。喉頭蓋というのはしゃもじ型の大きな軟骨で、飲食をする時は前から後ろに倒れて声帯の上を覆い、飲食物を食道へと誘導しますが、あくびをする時は息が通りやすいように垂直に立ち上がります。普段しゃべる時は半開きぐらいです。歌う時は、あくびの時のように喉頭蓋をしっかり起こしましょう。そうすると喉の空間が広くなり、呼気が通りやすくなります。

エクササイズ
1.「あー」と声を出しながら喉仏のあたりを触り、声帯が振動するのを確かめる。
2.喉仏のあたりを触りながら口を閉じたままあくびをし、喉頭が下がる(=喉頭蓋が起き上がる)のを確かめる。
3.喉頭蓋を起こしたまま、ハミングから小さな声で「あー」と発声してみる。喉頭が下がった状態をキープして音程を上下にスライドさせてみる。

さて、声帯のしくみとの関連で、以下の2点を補足的に付け加えておきたいと思います。

地声と裏声
私たちが普段しゃべる時の声は地声です。地声の時は声帯全体を振動させています。これに対して、裏声の時は声帯の縁だけを振動させています。歌を歌う時、低音域は地声で歌えますが、音がだんだん高くなってくると、そのままでは出せなくなるので、声帯を前方(喉仏の方向)に引っ張って引き伸ばすことで対応します。しかし、伸ばせる限界まで来ると、そこからは声帯の使い方を変えて、声帯の内側の縁だけを振動させるのです。これが裏声です。地声は声帯全体を使うので、声帯にかかる負担が大きいのです。しかし、中音域(女声では一点ヘ音から下)は裏声だけではよく聞こえないので、少し厚めに声帯を使う必要があります。これをミックスヴォイスと言います。ミックスヴォイスや地声を使う時は、息を胸に落とさないよう気をつけ、アンザッツ(声の当たるところ)を硬口蓋に持ってきましょう。そうすると声帯にかかる負担が減ります。

「声がひっくり返る」とはどういう現象か
原因は2つ考えられます。1つは、声帯の閉じ方が不十分な場合です。声帯の後方が閉じ切っていないと、そこで呼気が停滞して声がひっくり返ります。口を開けたまま、高めの裏声で軽くハミングしてみましょう。その響きを保ちながら「あー」と小さな声を出してみます。声にする時に腹筋や背筋がゆるまないよう気を付けます。2つめの原因は、呼気圧が弱く、呼気が高く上がっていないことです。息のポジションが低いと、息が声帯を揺らすので声が割れます。対策は、息をなるべくスピーディーに上へ抜くこと。トランペットのマウスピースを吹くと息が上へ高速で抜けるようになります。また、軟口蓋をしっかり挙げ、その状態を保ったままで下行音型の練習をすると効果的です。

(続く)

誌上発声セミナー(2)

2013年10月26日 | 日記
今日は「呼吸」と「共鳴」の関係について述べたいと思います。

呼吸のしくみ
1.肺はどうやって動く?
肺は自力では伸縮できません。それではどうすれば肺に空気が入るのかと言えば、それは「肋間筋」と「横隔膜」の働きによります。肺のまわりの肋間筋(呼吸筋)と、肺の下にある横隔膜の動きによって肺が拡がったり縮んだりするのです。
肺が膨らむと、口や鼻から自動的に空気が入ってきて、肺が縮むと空気は出ていくのですが、肋間筋を動かして肺を前後左右に伸縮させる方法を「胸式呼吸」、横隔膜を動かして肺を上下に伸縮させる方法を「腹式呼吸(横隔膜呼吸)」と言います。肺の下の方がスペース的に広いので、腹式呼吸を優位にすると息がたくさん入ってきます。
2.「息を吸って!」はマチガイです
「呼吸」は「呼」→「吸」です。まず息を吐いてしまいましょう。そして体壁をゆるめれば、吐いた分だけ反射的に入ってきます。ただし、体壁がゆるまなければ息が入ってこられませんから、体が柔軟で伸縮性があることが大切です。

エクササイズ
1.上体を左右にねじったり、体側を引っ張ったり、前屈をしたりして体壁をゆるめる。
2.体を上へ引き上げながらあくびをし、元に戻しながら息を吐く。
3.胸を軽く張ったまま歯の間から勢いよく上向きに息を吐き、息がなくなったら上体と膝の裏をゆるめて吸気を迎え入れる。

共鳴のしくみ
1.のど
息は声帯を通り抜けたら「声の素」(=喉頭原音)になりますが、ここではまだスキマ風のような音で、響きはついていません。口や副鼻腔のような広い空間に出てきて初めて響きがつくのです。
さて、声帯の上から口の奥あたりまでを一般に「のど」と言いますが、声帯の上には喉頭蓋という蓋があって、飲食物を食道に送る時にはこの蓋が閉まり、声を出す時には開きます。その開き方が不十分だと、呼気が口や副鼻腔まで上がってきにくくなります。あくびをする要領で、喉頭蓋を立ててのどを広くしましょう。
2.くち
あくびをすると喉頭蓋が開くだけでなく、上あごもぐーっと上がりますね。上あごは頭蓋骨の一部で、硬口蓋(手前の方)と軟口蓋(後ろの方)でできていますが、「上あごが上がる」というのは「軟口蓋が上がる」ことです。その時、口の中は「天井の高いホール」のようになります。また、口の奥行きも深くなります。
3.副鼻腔
副鼻腔は声の反響箱で、蝶形骨洞、篩骨洞、前頭洞、上顎洞の4つから成ります。最も大きいのが蝶形骨洞で、目と鼻の後ろに位置し、9つの骨に接しています。呼気をスピーディーに垂直方向に飛ばすと蝶形骨洞に呼気が届き、この中で声が反響して明るく輝く響きのよい声になります。また、下あごや舌根の力を抜き、鼻筋を引き上げて額を緊張させると、眉間にある篩骨や額にある前頭洞にも共鳴します。
4.骨伝導
骨は中が空洞なので、声の振動は骨を介して手足の先まで全身に伝えることができます。これを骨伝導と言います。筋肉が硬いと骨の振動を止めてしまいますので、全身の共鳴のためには筋肉を柔軟に保つことが大切です。

エクササイズ
1.喉を指で触りながら口を閉じたままあくびをして、喉頭が下がった状態を保つ。声を出しても喉頭が上がらないようにする。
2.ワインコルクを上下の歯の間にはさみ、口腔が十分に開いている状態を覚える。そのまま口の奥行きをできるだけ深く後ろへ引きながら声を出してみる(あくびが誘発される)。
3.口の中に手を突っ込み、軟口蓋をマッサージして上へ挙げる。
4.鏡を見ながら口を開け、「笑い」または「あくび」で口蓋垂を上へ挙げる。口蓋垂が見えなくなるように。
5.唇を軽く合わせて息を強く吹き出し、唇を振動させる(リップロール)。
6.軽く胸を張ったままトランペットのマウスピースを吹く(呼気が蝶形骨にあたる)。
7.上体を前屈させ、頭頂を床に向かい合わせるようにする。目の後ろに息を強く吹き付ける感じで「アー」と声を出し、頭に響く感じをつかんだら、軽くスタッカートしながら上体を徐々に起こす。
8.仰向けに寝て両手で顔を覆い、低い強い声でハミングをして掌に振動を伝えながら徐々に手を体側に戻す。同様に両手を組んで首の後ろに回し、ハミングの振動を背骨から足の裏まで届ける。

(続く)


連載 誌上発声セミナー(1)

2013年10月24日 | 日記
来春の発声セミナーの日程がなかなか決まらず困っています。既に入っている私の用事を避けて会場を予約しようとすると、参加者の集まりやすい曜日や時間帯がうまく取れないのです。いずこも考えることは同じで、どこの団体さんも参加者の都合のよい日時をねらっていますからね。
ひょっとしたらセミナーが少し先延ばしになる可能性を考え、過去のセミナーで配布した資料の内容整理を兼ねて、今日から「誌上発声セミナー」を行おうと思います。まずは「まえがき」から。

~声楽発声とは~
「声楽」は、ヨーロッパで生まれた「人声による音楽」です。西洋音楽600年の伝統の中で、合唱、独唱、重唱、オペラ等々さまざまな「声楽」が発達してきました。17世紀初めにイタリアでオペラが創始されてからは、広いホールの隅々にまでよく響く美しい声の出し方、すなわち「声楽発声」が研究され、時代とともに改良され、洗練されながら確立されました。
日本に西洋音楽が輸入されてから100年余り経ち、私たちにとって、かつてに比べて西洋クラシック音楽は随分身近なものになりましたが、声楽発声の基盤になっているヨーロッパ言語の音韻構造や、ヨーロッパ的な美意識などに対する理解はまだ十分とは言えません。無理なくよく響く発声を身につけるには、私たちと欧米人の骨格、筋肉、言語の違いまで視野に入れた解剖学的・生理学的な研究が必要でしょう。
西洋音楽と言っても、クラシックたけでなくシャンソンやカンツォーネ、はたまた(もとは黒人の音楽ですが)ジャズ、ゴスペル等々、歌にもいろいろなジャンルがありますが、基礎的な部分は共通しています。また、声は誰にでも備わっているものですから、器質的な問題がない限り、磨けば必ず光ります。
そして、一人ひとり顔が違うように声も一人ひとり違いますから、発声法の基礎を正しく身につければその人の個性が出てきます。一人ひとりが個性的な声でありながらも、正しく開発された声どうしは斉唱でも重唱でも合唱でも美しく調和します。

~ベル・カントの2つの流れ~
 ベル・カントとは「美しい歌唱(法)」という意味のイタリア語ですが、これはオペラ創始以来イタリアで実践的に探求されてきた、歌手たちの声楽的表現技術の向上のための方法論です。17~18世紀にかけて発声法の原理や技術の体系化が進み、時代とともに改良され、確立してきました。
現在、「ベル・カント」と呼ばれる発声法には2通りあると言われてます。一つは、声帯を十分に鍛えて強靭な喉を作り上げ、その声帯を徹底的に鳴らすことによって、インパクトの強い張りのある声を出す方法です。しかし、かつてイタリアで学んだ北欧の多くの歌手は、この方法によるトレーニングで喉をつぶしてしまったそうです。日本人が喉をつぶした例もしばしば聞きます。イタリア人は人種的に強靭な声帯を持っているのかもしれません。
これに対して、声帯を全く意識せず、喉になるべく負担をかけないように全身の筋肉をバランスよく使い、空間全体を共鳴体にしてホールの隅々にまで声を届ける方法があります。こちらの発声法は、人体のメカニズムを良く知り、あくび・ため息・笑いなど人間の生理現象を活用し(つまり自然の法則に則って)、発声時の身体全体のバランス感覚を養いながら声を磨いていきます。多くの日本人はイタリア人のように強靭な声帯を持ち合わせていませんから、この発声法の方が万人向きだと言えるでしょう。私が探究している発声法もこちらです。

~「よい声」ってどんな声?~
「耳に心地よい声」、「つやのある声」、「遠くまで通る声」、「近くで聴いてもうるさくない声」、「張りのある若々しい声」、「広い音域を無理なく動ける声」etc... よい声を出すためのポイントは、「正しい呼気流の方向」と「よい共鳴」を身につけることです。
よくある悩みとして、「息が続かない」という訴えがあります。これは息がモレているからです。原因として、1)呼気圧が弱いため呼気が副鼻腔まで届かず、口から抜ける、2)声帯がきちんと閉じていない、3)呼気筋優位の身体の使い方になっている、などが考えられます。
それから、「キンキン声」は共鳴不足です。共鳴腔(喉と口)が狭いと硬質のキンキン声になります。子供の声が硬いのは、大人より体が小さい分、喉の空間も狭いからです。また、口腔が狭いと平べったい声になります。
「声が遠くまで届かない」のは下あごに力が入っているからです。日本語は下あごに力の入る言語です。声は緊張しているところに集まるので、下あごが緊張していると声が下あごに集まり、遠くまで飛ばないのです。また、「滑舌が悪い」、「発音不明瞭」の原因は、舌根が硬いことですが、下あごが硬いと舌根も硬くなります。そうすると舌がスムーズに動かないので、滑舌も悪くなるし、舌と唇で作る子音が甘くなるので発音が不明瞭になります。
このように、原因を分析して行けばおのずと対策も生まれてきます。少しずつ探究を進めていきましょう。

(続く)

前、それとも後ろ?

2013年10月22日 | 日記
合唱や声楽をなさっている方からしばしば聞く話ですが、発声指導で「息は前へ前へと出しなさい」と言われる先生が多いそうです。昨日も、ニューフェイスの生徒さんがそんな話をされました。
ホールの一番後ろに声を届けるように声を飛ばしなさい、山の上や大草原の真ん中にいて、遠くにいる人に呼び掛けるつもりで声を出しなさい、などという言い方は確かによく聞きますね。狭い部屋でばかり練習していると空間を小さく感じる習慣がついてしまうので、意識的に広々としたイメージを持つことは大切です。しかし、息を前へ前へ吐こうとすると呼気筋で息を押し出してしまいがちです。そうすると息があっという間になくなってしまいます。呼気筋に吸気筋を拮抗させるよう胸を軽く張っていればよいのですが、それでも身体の軸がぶれそうになり、姿勢がぐらぐらと不安定になりがちです。
私がW先生に最初に習ったの「息は上に向かって吐く」ということでした。それも高速で。誕生仏の「天上天下唯我独尊」のように(笑)右手の人差し指で頭上を指しながら前歯の間からスーッと音を立てて強く息を吐きます。胸はずっと軽く張ったままです。強く吐くのは、呼気を目と鼻の後ろ側にある大きな空洞、すなわち蝶形骨洞に届けるため。呼気圧が弱いと息が喉のあたりまでしか上がり切らず、声帯に息がまとわりついて声嗄れの原因になります。
そしてもう一つ、声を出す時は口の奥行きをできるだけ深くして口蓋垂の後ろが見えるように開けます。そうすると自然に上あごの後方(軟口蓋)が上がりますが、さらに意識的に、口蓋垂が見えなくなるぐらいしっかりと引き上げます。そうしておいて、息を垂直方向に飛ばす時と同じ要領で「アー」と裏声を出すのです。声にした時も呼気が減速しないようにして、息がなるべく後ろから上へ流れるよう気をつけます。こうして発声すると後頭部に振動を感じます。
以前、国内外で活躍する著名な声楽家のレッスンを聴講したことがありますが、「声はどこにありますか?もっと後ろですよ、声はいつも頭の後ろにないといけません」と繰り返しおっしゃっていました。息を前に吐くと、声を頭の後ろに響かせることができません。息を垂直に飛ばせるようになれば、蝶形骨洞に届いた呼気が響きのついた声となり、蝶形骨に接触している後頭骨にも振動が伝わるので「頭の後ろに響かせる」ことができるのです。その響きは後方の空間に拡がり、反射しながら隅々にまで運ばれていきます。こうして空間自体が共鳴箱になるわけです。
息は上へ、声は後ろへ。声楽発声の合言葉にしたいフレーズです。その目指すところは「耳に心地よく、遠くまでよく響く声」です。