心肺機能

2013年05月29日 | 日記
先日、福祉サービス事業所のヴォイストレーニングで「ヴォイトレで深い呼吸を身に付けると、心肺機能が活性化するので健康に良いんですよ」と何気なく言ったら、副施設長が「声を出すと心肺機能が上がるんですか。それならヴォイトレを作業所の他の方たちにも勧めてみますね」と仰って下さいました。これまで折に触れ繰り返し「ヴォイトレは健康増進に役立つ」と言ってきたつもりだったので、副施設長が「初めて聞きました」という感じでそうおっしゃるのを聞いてちょっとびっくりしてしまいました。発声セミナーでは最初に図解入りの資料を配布して「呼吸のしくみ」、「発声のしくみ」、「共鳴のしくみ」について説明しますが、レッスンは実践中心になるので、理論的な部分が意外と伝わっていないのかもしれません。
「呼吸のしくみ」でいつも話すことは、胸式呼吸と腹式呼吸の原理です。肋間筋を使って肺を前後左右に拡げて空気を取り込むのが胸式呼吸、横隔膜を下げて肺を下方に拡げて空気を取り込むのが腹式呼吸(横隔膜呼吸)で、その両方を同時にやるのですが、腹式の方を優位にするとより多くの空気を取り込むことができます。肋間筋は厚い層になっていて、外側(外肋間筋)が吸気筋、内側(内肋間筋)が呼気筋です。軽く胸を張ったまま(=吸気筋を使って)息を勢いよく吐くと呼気が長持ちします。呼気筋だけを使って息を吐くと、息はすぐになくなってしまいます。胸を軽く張った状態と保つということは、肺が前後左右に引っ張られた状態を保つということなので、必然的に肺の下の方に入っている空気が上へ押し出されることになります。つまり、胸を軽く張って息を吐くことが腹式呼吸の呼び水になるのです。
ヴォイストレーニングでは、最初にこの呼吸の練習を十分に行います。毎回時間をかけて練習しているうちに呼気がだんだん長くなります。つまり、上がっていく横隔膜の動きに拮抗する筋肉の筋力がついてきて、横隔膜がゆっくりと上がっていくようになるのです。肋間筋と横隔膜という2大呼吸筋を十分に使って呼吸をコントロールできるようになることを、私は心肺機能の活性化と呼んでいるわけです。
そう言えば数年前、歯科医をやっている同級生に歯のかみ合わせの治療を受けたことがあるのですが、当時うちにレッスンに来られていた2人の女性が「私もかみ合わせをなおしたい」とおっしゃるので仲介したことがあります。その時、歯科医のM君が「吉田さんの紹介で来られたお二人は、同じような症状の他の患者さんたちと比べると元気度が高いんだよね。多分歌をやっているせいだろうね」と言っていました。きっとそうだと思います。呼吸が深くなり、筋力がアップし、頭部共鳴で気分も明るくなる。ヴォイトレはまさしく「道具の要らない健康法」です。さあどうぞ(笑)。

拍子考

2013年05月27日 | 日記
昨日、姪たちの通う小学校の運動会に行きました。風がひどく、もうもうと砂塵の舞う中での熱戦でした。小学校の運動会は保護者や近隣の幼稚園、保育園、自治会の方たちも参加する地域ぐるみのイヴェントですから先生方もさぞ準備が大変だったことでしょう。無論、主役の子供たちも一生懸命です。応援にも思わず力が入りました。徒競走も技走もダンスも組体操も見ごたえがあって楽しませてもらいましたが、途中の応援合戦で少々アタマが混乱してきました。
応援団員がずらっと並び、リーダーの「いちびょーーし!そーれ」という掛け声に続いて太鼓が「ドン(ウン)、ドン(ウン)...」とリズムを打ちます。それに合わせて応援団がパフォーマンスをするのですが、(ウン)という部分は、楽譜に書けば4分休符です。ドンの部分は4分音符。つまり、これは2拍子なのです。続いて「にびょーーし!そーれ」という掛け声に続いて太鼓の「ドンドン(ウン)ドンドン(ウン)...」というリズム。これは4分音符2つと4分休符1つの組み合わせ、つまり3拍子です。その後、「さんさんななびょーーし!そーれ」でお馴染みの「ドンドンドン(ウン)、ドンドンドン(ウン)、ドンドンドンドンドンドンドン(ウン)...」となるわけですが、これをリズム聴音すれば4分の4拍子の4小節分になります。
三三七拍子については子どもの頃から「どうして休符をカウントしないのかなあ」と不思議に思っていましたが、一拍子とか二拍子などという不思議な名称のリズムは、私自身は子どもの頃経験しませんでした。日本人にとって休符の部分は句読点の感覚なのでしょうか。そう言えば、俳句を声に出して読む時も上五の後に休符が入りますよね。
以前、こんな話を聞いたことがあります。外国人の指揮者が日本の有名なオーケストラとベートーヴェンの「運命」を演奏した時、冒頭の「ジャジャジャジャーーーン!」という部分をオーケストラが全員揃って(一糸乱れず)なぜか一拍遅れで入るので、「この国ではなぜ運命が一拍遅れて戸を叩くのだろう?」と不思議がった、というのです(笑)。日本人は元来農耕民族ですから、クワを入れる前に頭上に振りかぶる分と、土を掘り起こして次に進む時の「間の一拍」が常にセットになっている、という説を聞いたことがありますが、本当でしょうか。読者の皆様、どなたかこの問題を解釈して頂けませんか。
追記 宴会の後でよくやる「いよーーっ、ポン!」という一本締め、どうして日本人はあの「ポン」という拍手が練習もせずに全員きちんと揃うのか、外国人には不思議なのだそうです。あの「間合い」にも民族性が反映しているというわけでしょうか。

縁は異なもの

2013年05月25日 | 日記
昨日、Yさんがご近所の奥様をレッスンに同伴されました。5年ほど前にお身内が突然亡くなられた時に声が出なくなったそうで、今でもまだ少し声が出にくそうな感じでした。
この奥様とお話しているうちに、この方のご主人様と私は以前、とある研究会でご一緒していたことが判明しました(音楽とは関係のない、理系文系が入り混じる研究会です)。熊本は狭い!そもそも、Yさんと私は偶然にも同じ高校の同窓で、Yさんの方が私より2学年上ですが、今日来られたSさんもやはりYさんや私と同じ高校でYさんと同学年です。しかしお互いに面識はなく、全くの偶然です。
同じ高校と言えば、昨日の夕方レッスンに来られたIさんという方、私より一回り以上お若いのですが、やはり同じ高校の同窓だと先日わかりました。ところが、高校だけでなく何と小学校も私と同じだとわかってびっくり。お母様が小学校のPTAコーラスで歌い続けていらっしゃるという話から判明しました。それだけでなく、彼女の中学校の頃の教頭先生が私のかつての同僚であったこと、彼女の高校の頃の国語の先生が私の友人であることが次々と判明し、熊本って何て狭いんだろうと思わず笑いが出てしまいました。
先週、大学1年生のドイツ語の授業で、自分の誕生日をドイツ語で言う練習をした時のことです。ランダムに当てて誕生日を言ってもらっていたら、2人続けて同じ生年月日でした。「偶然だね」と驚いていると、「私もです」、「私もです」と、何と同じ生年月日の学生さんが1クラスに4人もいて、口あんぐり。さらに驚きの事実があります。実は、この4名のうちの一人は私の親友の娘さんです。親友の子が自分の担当クラスに入ってきたというだけでもかなりの偶然ですが、実は実は、この親友と私が同じ生年月日なのです。それどころか生まれた病院も同じ、生まれた時刻もほぼ同じ。まさしく「同じ星の下に生まれた」わけです。それにしても、こんなにあちこちにご縁がつながっていては、悪いことはできませんね(笑)。
さて、Yさんのご近所の奥様は、レッスンをご覧になって「私も来月から個人レッスンをお願いします」ということに相成りました。以前、脳梗塞の後遺症に悩む中年の男性の方がレッスンに来られていましたが、ヴォイトレがリハビリに著効があったととても喜ばれました。心身に様々な悩みを抱えた方たちのお役に立てることはヴォイストレーナー冥利に尽きる喜びです。失声症は私も経験があるので身につまされますが、喋り声はかなり取り戻していらっしゃることですし、歌声も徐々に回復していかれるよう、精一杯のお手伝いさせて頂きたいと思います。

大気汚染?

2013年05月23日 | 日記
熊本はPM2.5の濃度が日本一高いとのことですが、昨日も今日も外気がひどくかすんでいました。運動会を控えた幼稚園や小中学校は大変だと思います。出講している大学でもマスク姿の学生さんが多く、「風邪?」と訊くと「いえ、喉がイガイガするんです」という答え。レッスンに来られる生徒さんたちも、このところ「喉がいがらっぽい」とおっしゃる方が多く、ニュースで「不要不急の外出は控えて下さい」とか「室内換気は控えて下さい」とアナウンスしている時にヴォイトレをやって良いのかどうか迷いますが、レッスンが終わって「元気になりました!」と言って帰られる生徒さん達を見ていると、こういう時こそ心身のリフレッシュのためにヴォイトレが役に立つのかもしれない、という気もします。
さて、昨日は県南に出張レッスンに行き、5人の方のレッスンをしましたが、仰向けに寝て膝を立て、強い息でハミングをしながら背中の浮いているところを床にくっつけるようにするエクササイズを試みたところ、これがとても有効でした。これはもともとは骨伝導の練習なのですが、唇は閉じたまま口の奥をよく開け、呼気圧を強くしてハミングをすると後頭骨に響きます。この体勢でハミングをすると、背筋も腹筋も臀筋も脚の筋肉もかなり使い、背骨への骨伝導も相俟って背面全体によく響くのです。この感じを覚えておいて、同じ身体の使い方でハミングを「ア」の母音に変えます。密度の高い響きが得られたら音域を動かし、中音域や高音域もやってみます。うまくできたら、今度は起き上がって正座し、上半身を前屈させて腰を浮かせるようにして同じ響きを出してみます。次に椅子に腰かけ、踵とつま先を使って下半身に緊張を作って同様に響かせます。最後に立ってやってみます。この練習は口の奥をしっかり開けておかないとうまくいきません。要領がつかめると、「体とつながった声」とはこういう声だということがよくわかります。とても効果的な練習なので、これからしばらくレッスンの導入にはこのメソッドを使おうと思っています。

2013年05月21日 | 日記
発声には踵(かかと)が大事だということを昨日痛感しました。
Iさんのレッスンでのことです。Iさんは美声で筋力も十分、勘も良く、この数年で発声に長足の進歩を遂げた方です。そのIさん、昨日もかなりいい線まで来てはいるのですが、下あごの力が抜け切れず、一生懸命声を出しているうちにだんだん大声になってきて体と声が切れてしまいました。そこで、椅子に腰かけて頂いて低音域の練習に切り替えました。足のつま先と踵をしっかり使って足全体の筋肉に緊張を作り、腰を軽く浮かせるような感じで声を出して頂くと、響きが下半身に入って来ました。その響きのまま音程を少しずつ上げていき、立ちあがって口の奥をしっかり開けて高音域まで持って行くと、やっと体とつながった声が響くようになりました。抜けの良い明るい声です。「今は下あごは全然感じません」とIさん。重心が踵にかかり、後ろにひっくり返りそうになるのをつま先で食い止めている感じです。内転筋も臀筋も相当緊張していますが、上半身はラクラク。この状態がベストだとご本人にもよくわかるのですが、なかなか自力でここまで持って行けません。私も自分だけで練習していると筋肉の使い方や重心の置き方が微妙にズレてきます。誰でもそうなのです。
踵に重心を置くというのは東洋の武道や運動の共通事項です。声を出す瞬間、つま先にぐっと力が入って重心が前に移動しますが、また踵に戻します。結果として足全体をずっと使いっぱなしなので、レッスンが終わる頃には足がガクガクしています。下半身の筋力と重心の位置の大切さを再確認したレッスンでした。