共鳴の原理

2020年12月24日 | 日記
共鳴という言葉は案外と難しい言葉のうちに入るようですね。声楽発声の術語としては、端的に「響き」のことだと理解して頂けばよいのですが、さて、声はどこで共鳴するでしょうか。
a. 骨
b. 筋肉
c. 空洞
答えはcです。骨も響きますが、これは空洞の振動が、その空洞を形成している骨に伝わり、その骨と繋がっている骨にも伝わり、という骨伝導が生じるということですね。筋肉にも振動は伝わりますが、柔らかい筋肉は固い骨のようには鳴りません。
さて、人体の中の空洞と言えば、腔とか洞という名前の付いている部位です。口腔、咽頭腔、咽頭腔、鼻腔、そして一括して「副鼻腔」と総称される蝶形骨洞、篩骨洞、上顎洞、前頭洞。他にも側頭骨の乳突洞などがあります。このうち最大の空洞は蝶形骨洞です(何度もお話しているので耳タコかもしれませんが)。声が響くという現象は、これらの空洞に反響と振動が生じる、ということです。
実はこれらの空洞は、体の使い方によって(わずかですが)形状が変わります。いくつか方法をあげてみましょう。
1.花の香りを嗅ぐような気持ちで鼻からゆっくり息を吸うと咽頭腔が開きます。
2.あくびをすると横隔膜が深く下がって咽喉頭腔や口腔などの共鳴腔が全開になります。
3.鏡を見ながら口蓋垂が見えるように口を開け、頬骨を手で持ち上げて上あごを上げると咽頭腔が開きます。
4.耳たぶをつまんで後方に軽く引っ張ると横隔膜が下がりやすくなり、蝶形骨とその周りの骨とのかみ合わせがゆるみ、蝶形骨洞が拡がります。
5.顎を引いて胸骨に付けると咽頭腔が空きます。両手で体の前に輪を作り、その中に頭を突っ込んでおへそを覗くようにしてもいいです。
これらのエクササイズを声を出しながらやってみると、響きが変わるのがわかると思います。

歌唱の呼吸

2020年12月21日 | 日記
歌う時の呼吸は、自然呼吸とは目的が違います。日常の呼吸、無意識呼吸とか自然呼吸と言われる呼吸については、ことさら呼吸をしているという意識を持つことはありませんね。しかし歌唱時の呼吸には明確な目的があります。一言で言えば、「体に支えを作るため」です。しからば「支え」とは何ぞや?これが案外わかっていないんですね。実は私も、30代半ば過ぎまでよくわかっていませんでした。「支え」とは、呼気(吐く息)を長持ちさせることなんです。それでは、どうやって長持ちさせるのでしょうか?
その前にまず、呼吸は「呼(吐く)→吸(吸う)」の順序であることを確認しておきたいと思います。吐き切れば空気は反射的に 入ってくるのです。しかし、歌う場合はその入ってきた空気を上手にコントロールして吐く必要があります。また、喋るよりはうんと長いフレーズを歌い切るためには、肺に空気が十分に蓄えられていないといけません。そこで「吸う」という話になってくるわけです。
「吸う」という言葉は誤解を生みやすいように思います。ドイツ語では吸気は「入ってくる息」、呼気は「出ていく息」という言い方で、こちらの方が実情に合っています。というのも、肺は自力では拡がることができず、吸気筋という筋肉をしっかり働かせて空気を取り込むのだからです。この吸気筋のうち、一番大きいのが横隔膜。そして外肋間筋。他にも肩回りの筋肉や大胸筋など、上半身の筋肉が連動しています。横隔膜を完全に下げ切ることで呼気は十分に肺に呼び込まれます。横隔膜が一番下がるのは「あくび」です。あくびをイメージしながら横隔膜が下がり切った感じになるまで、焦らずゆっくり空気をたくさん取り込みます。横隔膜が下がると、その下の内蔵は押されて下がりますが、下がると言ってもスペースが限られているので、やむなく前に押し出されます。それで下腹が膨らむわけです。
さて、問題はこの吸気をどのように効率的に使うか、つまり長持ちさせるか、というところで「呼気筋」が登場するわけです。歌唱時の呼吸は「支え」を作ることが目的ですが、そのためには、吸気筋と呼気筋を拮抗させて、横隔膜が上へ戻る速度をできるだけ遅くすればよいのです。つまり、ゆっくりと下げて「下げ止まり」になった横隔膜をそのまま止めておく気持ちで、一定の呼気圧で少しずつ戻し、3割ぐらい戻ったところでフレーズを歌いきる、フレーズが終わったらその3割分をもう一度吸って取り戻す、そしてまた次のフレーズを一定の呼気圧で歌い出す、という繰り返しです。その「呼気圧を一定にして」吐くために使う呼気筋が、肋間筋、腹直筋、内転筋、骨盤底筋、臀筋などです。
前かがみになってゆっくり息を吸うと、自然に空気が入ってきます。そうして歌うと、横隔膜を下げて空間をつくることができます。
声楽の先生は皆「呼吸」にはかなりのこだわりを持っています。やり方はそれぞれの流儀があるでしょうが、歌唱の呼吸の理屈はこういうことですね。

後ろを開ける

2020年12月18日 | 日記
「もっと後ろを開けて!」という指示は、声楽レッスンではお決まりのセリフの一つです。「後ろが開いている」とか「後ろが開いていない」とか、声楽以外の人には意味不明な言葉ですね。
後ろというのは咽頭腔のことです。口の奥、と言う方がイメージしやすいかもしれませんね。舌根が硬くて盛り上がっているせいで、口の奥が塞がっている(外から見えない)ことを「後ろが開いていない」と表現しているわけです。
舌が硬いというのはなかなか自覚しにくいことですが、例えば口を閉じたまま舌を唇の裏まで突き出し、舌先をグルグル回してみると、とても回しにくいと感じる時があります。これが「舌が硬い」ということです。
それでは舌のストレッチ法をいくつかご紹介します。
1.鏡を見ながら舌を突き出し、そのまま「おはよう」、「こんにちは」、「こんばんは」などと何回か言ってから、普通に「おはよう」と言ってみる。そうすると声が上の方に響きやすくなっているのがわかります。
2.口を閉じたまま舌を唇の裏まで突き出し、舌先をグルグル回しながらハミングをする。この時、下あごを動かさないように気を付けます。
3.よく老健施設などでやっている「あいうべ体操」。あー、いー、うー、と言った後で思いきり舌を前に付き出して「べ~~~」と伸ばします。
4.舌を出したままワンフレーズ歌ってみる。舌が引っ込もうとしますが、鏡を見ながら歌ってみましょう。ヘンな声になっても構いません。
5.舌の両端で口角を左右交互に叩きながら声を出す。
6.天井を見上げ、顔の上にあるものを舌で舐め取るようにする。
7.舌を上あごにつけて軽くハミングする。長めに。
8.うつむいて、下あごを胸骨にくっつけて「アー」と発声してみる。歌う。

歌唱の際に舌がなかなが下がってくれない時には、ブレスのたびに上あご(軟口蓋)を引き上げます。
このブログにも何度も書きましたし、常々お伝えしていることですが、後ろが開くためには、舌が柔軟で、自由に動かないといけません。日本語は舌をあまり動かさずに喋る言語なので、しっかりストレッチする必要があります。誤嚥防止や健康増進にも役立ちますので、舌のストレッチを習慣づけられることをお勧めします。


発声を科学する

2020年12月15日 | 日記
4月にご縁を頂いて以来、折々に個人的にお世話になっているY氏をお招きして、2日間に亘ってうちの生徒さんたちのための特別レッスン会を開催しました。今回の主たる目的は、私自身の「教え方の抽斗を増やす」ことで、生徒さん方にはそのモデルになって頂いた、という形です。
Y氏は私より一回り以上お若い、気鋭の指導者です。日本にこういうタイプの声楽発声指導者がいることを、とても頼もしく思った2日間でした。
それではクイズです。
Q1.呼吸の機序は、以下の2つのうちどちらが正しいでしょうか。
A. 肺が膨らむと、横隔膜が下がる。
B. 横隔膜が下がると、肺が膨らむ。

Q2.次の2つのうち、円唇で発音する母音はどちらでしょうか。
A.ア、エ、イ
B.オ、ウ

Q3.次の2つのうち、吸気筋はどちらでしょうか。
A.腹直筋、内転筋、骨盤底筋
B.横隔膜、外肋間筋、大胸筋

Q4.声はどこで共鳴するでしょうか。
A.胸腔、腹腔
B.口腔、鼻腔、副鼻腔、咽頭喉頭腔

答えはすべてBです。
わかっているつもりでも、改めて訊かれると「あれ?」っと思ってしまう方も多いのではないでしょうか。
理屈は二の次、という考え方もあると思いますが、何であれ技術を身に付けようと思えば、「何のために」という目的を理解し、練習の方法が理に叶っているかどうか、自分にとって効果的がどうかを常に確認することが大切だと思います。
骨格や筋肉、臓器などは基本的に皆同じですが、ウィークポイントや癖は人によって様々です。つまり発声技術を身に付けるには、誰もが習得すべき基本的なものと、その人の今のレベル、今の状態で特に必要なものを、できるだけ合理的にシステマティックに練習するのが早道、ということですね。
ですから、レスナーは抽斗をたくさん持っている必要があるわけです。