令和流華燭の典

2020年08月27日 | 日記
中学校で音楽の講師をしていた頃の教え子Kちゃんが結婚しました。教え子と言ってももう熟女ですが、お相手はさらに熟年の年の差婚。コロナ禍で披露宴もままならないご時世に鑑みて、Kちゃん夫妻が考えたのが「オンライン結婚報告会」なるバーチャル披露宴でした。
ご招待のメールを受け取った時には、一体どんな会になるのやらイメージが湧きませんでした。指定の日時に指定の会議リンクにアクセスすると、お2人がモニター上に現れ、挨拶の後、何と2人の脳のMRI画像が画面に現れました(笑)。脳神経外科医のご主人の発案でしょうか。なかなかユニークな掴みです(笑)。よく似た脳の形である、とか、しかし右脳と左脳の発達の具合がちょっと違っている、とかの説明があり、続いてご両人のバイオグラフィーが紹介されました。2人とも熊本出身で、ご主人はかの有名なオリンピック金メダリストと同じ中学校(柔道の強豪校)で柔道を始め、現在も続けておられて有段者だそう。バリバリの体育会系ですね。Kちゃんも新体操部でした(とっても上手だと担任の先生が自慢していらしたのを覚えています)が、特技はピアノ、そして今は大学で西洋美術史とフランス語を教えているという文系人間です。似たところもあり、違っているところもあり、というのが案外と相性が良いものなのでしょう。
Kちゃんは料理の名人でもあります。2人が住む四国の地方都市は食材に恵まれた土地柄だとのことで、知友に腕を振るったり、アートと料理のコラボレーション展示をやっている映像が流れました。また、Kちゃんに触発されたのか、キッチンで包丁を握るご主人の姿も映し出されていました。ご主人、今後はフランス語にも挑戦予定だとか。Kちゃんにゾッコンという感じでしたね。
2人の馴れ初めやその後の展開など、一通り話が終わると、今度は参加者からチャットで寄せられる質問に答える時間があり、最後はご主人の中学時代の同級生で声楽家のM先生の乾杯の音頭でバーチャル乾杯。BGMにヴェルディの「乾杯の歌」が流れ、M先生が麗しい美声で一節歌われて、画面に向かって「乾杯!」と相成りました。実はこのM先生、私が音大を受験する時にお世話になった、私の高校の大先輩にあたる方です。こんな形で再会しようとは!あれから40年近く経つというのに、画面に映るM先生の何とお美しいこと。年齢が信じられないほどでした。
かくしてオリジナリティ溢れる素敵な会が終了しました。随分たくさんの方がアクセスしていたようです。ドレスコードもなく、どこからでも参加でき、主役の2人だけにフォーカスした、全く夾雑物のない純粋なお披露目。幸せそうな2人の様子に心がほのぼのと温まりました。人生100年時代、結婚の形も披露宴の形も随分多様化したものです。温かい余韻とともに、いろいろな感慨が心をよぎりました。

動物の声

2020年08月01日 | 日記
昔、W先生のレッスンでよく動物の鳴きまねをさせられました。当時は言われるままにやっていただけですが、これがレスナーになってから役立ちました。時々「音痴を直したい」という方がお見えになることがあるのですが、本当に音感がない方も、音感はあるのにイメージ通りの音程が出せない方も、どちらも声帯の伸縮性がなくなっているのです。目玉親父の「おーい、鬼太郎!」という叫び声や、ニャーオーという猫の鳴き声などを練習すると裏声が出しやすくなります。そこからサイレンのように声をずり下げたり、またずり上げたり。これはレガート唱法の基本練習にもなっています。歌は裏声と地声とミックスヴォイスの自在な使い分けが必要ですから、声帯を柔軟に使えることがとても大事です。いくつかのパターンを教えて頂いたお蔭で、私は音痴矯正にはあまり苦労せず、今まで随分感謝されました。自分を音痴だと思い込んでいる方は大抵、学校時代に随分辛い思いをしておられて、心の傷がかなり深いのです。それを癒すお手伝いができることは、レスナーとして大きな喜びです。
最近仕入れたメソッドをご紹介しましょう。胸板に響くような低い声でmooooと牛の鳴き声を真似してみます。次に、頬骨から上へ息を飛ばすように、高めの声でhooooとフクロウの鳴き声を真似してみます。これで低音域と高音域がムラなく出せるようになります。今度は頭の後ろに向かってmeeeeと羊の鳴き声を真似します。次に眉間から前の方を意識してminminminとセミの鳴き声を真似します。声は後ろへ回すのが基本ですが、篩骨洞の共鳴で前へ飛ばすことも必要です。これらを全部混ぜ合わせて、曲の中では必要に応じてどれかを多めにしながら、バランスを考えて歌っていくのです。
動物の鳴き声は瞬発的にはできますが、呼気圧が弱いと息を持続的に支えてフレーズを歌い切ることができません。然るに、どんなにお腹でリキんでも息は支えられないのです。あくびの時のように胸郭が拡がった状態を維持することが支えの秘訣です。ところが、人前で大口をあけてあくびをするのはハシタナイ、という(特に年配の女性の)心理的抵抗のせいか、「あくびをして下さい」と言ってもなかなか十分に胸郭が拡がらない方がわりといます。そこで最近は、口を閉じて舌を上あごにつけ、バラの香りを胸いっぱいに吸い込むイメージで、鼻の奥から後頭部を空気で膨らませるように「ゆっくり」「たくさん」鼻から吸ってみて下さい、というようにしています。すると胸郭が拡がり、吸気筋が十分に使えます。このフォームを、フレーズを歌い切るまでキープしないといけません。
この「キープ」が難しい。これは下半身の筋力が必要なのですが、どこの筋力がどれぐらい必要かを知るために、胸郭を広げた姿勢を保ちながらトランペットのマウスピースを吹いてみます。たとえ音が鳴らなくても、鳴らそうとするだけで、どこの筋肉がどれぐらい必要かがわかります。マウスピースが手許にない時は親指と人差し指で輪を作って口にあて、胸郭を広げたままで強く息を吹いてみてもいいです。あるいは、掌で口と鼻を塞いで、bやpの子音でドレミファソファミレドと大急ぎで歌ってみるのもいいででしょう。腰がすっと伸びて、丹田に力が入り、下腹が引き上がるのがわかります。日本語はあまり子音をたてなくても喋れてしまいますが、子音は体を使うのに有効です。[v]や[z]の子音でワンフレーズ歌ってみると、下半身の筋力がどれぐらい必要かわかります。お試しください。