ドイツの響き

2015年05月26日 | 日記
熊本県立劇場の文化事業としてシュトゥットガルト室内合唱団が熊本へやってきました。今日の公演に先立ち、昨日は合唱のワークショップが行われ、私たちの合唱団も参加させて頂きました。
指揮者のベルニウス氏は当年とって68歳。練達のマエストロです。曲はメンデルスゾーンの「Abschied vom Walde」(「緑の森よ」の邦題で有名です)と「Auf dem See」(湖上にて)でした。「緑の森よ」の方は我が団の愛唱歌ですが、「湖上にて」は初見参で、数ヶ月をかけて音取りの練習をして備えました。が、テンポが速い曲なので、皆さん言葉が追い付きません(-_-;)どうなることかと戦々兢々でしたが、100名を超える参加者だったので何とかボロは隠せたかな(笑)。
ワークショップは英語で行われました。上手な通訳さんがついていましたが、いくつもの合唱団が寄り集まっていきなり一緒に歌うわけですから、最初は皆おっかなびっくりです。まずは歌詞の発音が問題。ネイティヴスピーカーの指揮者には発音が一番気になりますよね。ベルニウス氏が歌詞を読み上げて下さると、さすがに言葉の細かいニュアンスまでくっきりと浮かび上がってきます。そして、歌詞の意味に添って音楽的な表現を施していきます。「緑の森よ」は有節歌曲で、1番から3番までの歌詞が同じメロディで繰り返されます。それぞれ違った意味とイメージを持つ歌詞が同じメロディと同じハーモニーで繰り返されても違和感のない見事な作曲技術に注意を喚起しつつ、それぞれの詩節にふさわしい表現を与えて全体を形作っていくプロセスがとても素晴らしく、あっという間の1時間でした。休憩を挟んで後半の「湖上にて」は、やはりこのテンポに乗ることが最も大変でしたが、皆さん指揮者についていこうと必死で、集中力もどんどん高まっていき、最後には生き生きとした歌が仕上がりました。素人相手でも妥協せず、的確に根気強くイメージを伝え、短い時間でぐっと引き上げて下さる手腕に感服しました。
そして今日は公演本番。前半はラインベルガ―のミサ曲の間にラフマニノフの手になるロシア正教の典礼曲が抜粋で挿入された、ちょっと不思議なプログラミングです。ラインベルガ―はラテン語、ラフマニノフは古ロシア語(教会スラブ語)でしたが、一まとまりの全体としてほとんど違和感がありません。ノン・ヴィブラートの澄明さと純正律の完璧さ、それでいて立体感のあるダイナミックな造形が光っていました。後半はロマン派の作品で、最初にコルネリウスの3つの合唱曲、次に存命中の作曲家ゴットヴァルトの編曲によるシューベルト、グリーク、リストの歌曲、そして最後に、メンデルスゾーンの『野に歌う』から9曲がメドレーで歌われました。昨日の「緑の森よ」や我が団の愛唱歌集に収載予定の「おお、ひばり」、以前練習したことのある「ナイチンゲール」も入っていました。歌詞やメロディがわかっていると聴こえ方も違います。「緑の森よ」を聴いて、昨日のワークショップで求められていたもの、つまり指揮者の持っていた曲のイメージがよくわかりました。
27名のメンバーには、かなりご高齢に見受けられる方もおられましたが、長い演奏時間中誰も姿勢が崩れません。最初から最後まで響きも変わりません。後半のゴットヴァルト編曲の3曲は、ロマン派の曲なのに何だか古いミサ曲を聴いている気分になりました。おそらく純正律の響きのせいでしょう。このハーモニーの正確さには全く驚きました。音感だけの問題ではなく、安定した発声の賜物でもあると思います。また、言語が発声を規定することもつくづくと感じました。歌なのに(朗読と歌では響き具合が違いますから)ドイツ語(ラテン語、ロシア語もですが)が極めて自然に明瞭に聞こえてきます。
こちらの注意をぐっと惹き付けて離さない、それでいて聴いていて全く疲れない、いつまでも聴き続けていたい気持ちになる演奏でした。これぞ名演の証でしょう。心に残る2晩でした。

ショック

2015年05月21日 | 日記
先日、昔ピアノを教えていた男の子(と言ってももう35歳です)の結婚式に招かれ、ドレスアップしたついでに、9月のリサイタルのチラシ用に写真館でポートレートを撮ってもらいました。その写真ができあがったので取りに行ったのですが...
ガーン!!私ってこんなに老けてた?
普段から大学生に囲まれているので、いつまでも若いつもりでいましたが(その割には体調不良を更年期のせいにしてばかりいますが)、写真に写った私は全く年相応のおばさんにしか見えません。この写真屋さん、腕がいいのか悪いのか(笑)。
あまりショックだったので、昨日、ある会合の席でご一緒した友人のIさんに「この写真、ヒドイよね」と言って見せたら、「あら、すごく素敵に写ってるじゃない?」と言われてダブルショック。「私って実物もこんなに老けて見えてるの?」と訊くと、無言(笑)。その傍から同僚のO先生まで「よく撮れてるじゃないか」と仰るので、完全にノックアウトです。
こんな怖いおばさんの写真入りのチラシを見たら、みんな引いちゃってチケットが売れないんじゃないかと心配になるようなド迫力の写真なんです。でも、確かに写真としてはよく撮れているので、これはデザイナーさんを拝み倒してなるべく優しい表情に修正して頂くしかないかな。
いつまでも若いと思うな。美しく年を取れ。
知命を迎えて以来の人生訓ですが、改めて我と我が身にしっかり言い聞かせたことでした。

発声日誌

2015年05月18日 | 日記
この頃あまり発声のことを書いていないので、久し振りに少しまとめておきたいと思います。
最近、レッスンではまず「胸郭を拡げる」ことをします。体が固まっている場合はある程度ほぐしてからでないと筋を痛めますが、今の季節は体が柔らかいので、いきなりやってもあまり問題ありません。
まず両手を組んで腕を上へ上げ、掌を頭上に向けて足からしっかり上へ伸びをします。まっすぐ伸ばしているつもりでも少し前傾していることが多いので、腕が耳より前に来ないよう気を付けます。この姿勢で大あくびをします。肋骨の間が拡がり、バストが上へ持ち上がり、肋骨と骨盤の間が拡がります。上半身の拡がりがピークに達したら、そこからさらに体を外側に拡げる感じで「アー」と大きめの裏声を出します。声を出す瞬間に息が口から洩れないよう、口蓋垂の裏側を意識して、目の裏側に息を垂直に飛ばすつもりで。胸郭が拡がっているということは、外肋間筋(吸気筋)が拡がっているということです。また、この姿勢では横隔膜が下がり、大胸筋や後筋も適度に張っていますが、声を出すと体が一気にしぼんでしまいやすいので、このフォームを保持しながら声を出すようにします。
声を出す時は「歌声モード」と「喋り声モード」の切り替えを意識します。日本語は喋る時に下あごが緊張しますが、歌声モードにする時はこの下あごの力を抜かなくてはいけません。舌を前後、左右、上下に動かしたり、下あごを左右に軽く動かしたりしながら舌根や下あごの緊張を解いて声を出します。音程は上あごで作ります。決して下あごで音程を取らないこと。母音も上あごに当てます。低音域では下あごに力が入りやすいので気をつけます。
高音域を出す時は体を拡げたまま背中を少し下げ、胸骨の剣状突起を少し内側へ押し込むようにして、かかとに重心をかけて声を出します。内転筋を使って足から息を高く飛ばす感覚で。
息のポジションは口蓋垂の裏側あたりから上です。目の裏ぐらいの感覚でしょうか。口を開けたまま洟をかむ要領でハミングをし、眉間のあたりに緊張を作って、その緊張を緩めずに、息をその後ろ側に持って来る感じです。ア、エ、イ、オ、ウと母音を変えながら、響きが変わらないように声を出してみます。いろいろな音程で試してみるとよいでしょう。音程を下げても息が下がらないように気を付けます。
フレーズを歌う時は重心がだんだん前に移って来やすいので、常にかかとの方に重心をかけておきます。後ろにひっくり返らないよう足の指を使って床を掴みます。フレーズの終わりに向かって体がしぼんでいかないよう、ウエストを外側へ外側へと拡げるようにして(←横隔膜を下に保つ)息を支え、息モレやヴィブラートを防ぎます。
今日はとりあえずこれぐらいで。

湿邪?

2015年05月14日 | 日記
私は昔から台風が近づくと半病人になる体質です。昨日も体中がパンパンに張って大変でした。午前中のレッスンがキャンセルになったのを幸い午前中いっぱい寝て過ごし、午後にお2人の方のレッスンをした後かかりつけの鍼灸院に行きました。実は先日の日曜日に温泉に行ってマッサージをお願いしたら「これはひどい、相当凝ってますね」と渾身の力で体中を押され、腰を痛めてしまったのです(-_-;)鍼の先生から「吉田さんのように体が白い人は鍼灸などの手技治療がよく効くんですよ。だからあまり強くしない方がいいんです」と言われ、へえ~、体が白いとよく効くのかと驚きつつ、「先日、肘と手首が痛くて鍼に行ったら「胃腸が弱っているせいですよ」と言われて漢方薬を処方してもらったんですが」と言うと(先日かかった鍼の先生は今日の鍼灸院の先生のお姉さんです)、「湿邪」という言葉を教えて下さいました。私はもともと代謝が不活発なたちですが、漢方では水分を湿と言い、湿の体質の人は梅雨の時期や台風の時期には胃腸が弱ったり、関節痛や頭痛が起こったりしやすいのだそうです(内湿と外湿が影響し合う、ということらしいです)。こういう説明を聞くと、数日前からの頭痛や先週の肘痛も確かに理屈に合っているなと感心します。腰痛も、引き金はマッサージだったのでしょうが、根本的には湿邪の解消をめざすべきなのでしょう。しかし「今回の腰痛は坐骨神経痛寸前なので、様子を見てまた近いうちに来て下さい」と言われてしまいました(-_-;)
腰痛で一番困るのは歌が歌えないことです。今日もレッスンしながら、声を出そうとするたびにギクッと腰が痛むのに閉口しました。調べてみると、内湿を解消するには、食べ物・飲み物を生のままや冷たい状態で摂ることを避け、また、辛いものを少し摂って水分を発散すると良いそうです。湿邪対策に良い食べ物は、胃腸を活発にする香味野菜やかんきつ類、利尿作用のあるキュウリや西瓜、自然の甘味を持つ穀類、豆類、イモ類、かぼちゃ、ニンジンなど、そしてトウガラシや生姜などの香辛料類らしいです。キュウリ以外は好物ばかり(笑)。腰痛対策も食養生からということで、とりあえず冷たい物を控えることにしましょう。
合宿話の続きをするつもりでしたが、湿邪のせいですっかり記憶が飛んでしまいました(笑)。先日の句会で出した山荘俳句(?)を以て合宿のご報告とします。

榛(はん)の花揺らして吾子(あこ)の宙返り
葉隠れに光宿して草苺
山荘に歌声ありて風光る

声立て

2015年05月06日 | 日記
恒例のメサイア合宿が終わりました。今年は1泊組が10人、日帰り参加が3人でしたが、1泊組にはM先生、運転手兼料理人のIさん、うちの父、小5の姪、幼稚園児の甥も含まれているので、実質の合唱メンバーは8名です。ゴールデンウィークの最後にふさわしい、充実の2日間でした。
合宿場所は南阿蘇のルーテル阿蘇山荘という木造の古い研修宿泊施設です。自炊なので、前日から食材や調味料、ラップやキッチンペーパーなど必要なものを用意し、10人分の朝食用パンを焼いたりして準備万端整え、父の車でいざ出発。連休中で多少渋滞しましたが無事に辿り着きました。全員揃ったところで皆で掃除や布団干し、夕食用のワラビとタケノコ狩り(笑)、厨房の準備などをしました。中岳の降灰がひどいので、拭いても掃いてもすぐに床が埃っぽくなりますが、とりあえず練習できる態勢を整え、2時から練習を始めました。
初日のメンバーはソプラノ3名、アルト1名、バス1名の5人です。2時から4時半まで、そして夕食を挟んで7時半から9時前まで、ソプラノとバスの音取りを中心に、発声や発音をきめ細かく見て頂きました。私は普段はレスナーや合唱指揮者の立場ですが、本当は自分が合唱に入って歌いたい人間なので、こんな風に合唱の中に入って歌えることがとても嬉しく、また指揮者としてもすごく勉強になります。M先生の発声メソッドはとにかく体を使います。練習の最初には必ずM先生の指導でストレッチをして、よく伸びるようになった筋肉を目いっぱい使って声を出します。私は筋肉は割と柔らかい方ですが、支持力(いわゆる筋力)があまり無いので、以前はよく筋肉を引っ張り続けようとして力んで固めてしまっていました。メサイアプロジェクト(?)が始まって数年経つうちに少しずつ筋力もついてきて、今回ようやく少しわかりかけてきたかな、という感じです。
話が飛びますが、運命的に巡り合ったW先生のお蔭でアルトからソプラノに劇的に大変身して10年ほど経った数年前、同業者の旧友Tさんが30年ぶりにM先生を私に引き合わせてくれました。Tさんも私と同様、W先生のお蔭で歌うたいとしてよみがえった経験者ですが、私とは対照的に極太の声帯なので、いわゆる「声立て」(アインザッツ)がとても大変なのです。私の声帯は軽いので、声立てなどほとんど意識したこともありませんでした。この「声立て」と筋力の関係が今日のトピックスです。
実は数日前、ちょっとした経緯があって、うちの最近の生徒さんのレッスンをTさんにみてもらいました。その生徒さんは以前Tさんのグループレッスンのクラスに行っていた年配の女性で、お若い頃に2度も声帯ポリープの手術をされています。この方がやはり極太の声帯で、声帯をくっつけたり引っ張ったりするのが私と違ってかなり大変なのです。Tさんは彼女のレッスン風景を見て「息のポジションはかなり高くなっているので、この方向で大丈夫だと思いますよ」と言ってくれましたが、この方はシャンソン教室に通っておられて、歌う段になると息が落ちてしまうのです。それで、発声を歌につなぐ部分のレッスンを私に代わってやってもらいました。それを見ていたら、Tさんは徹底して「胸郭を拡げる」ことをやらせるのです。これはかなり筋力が要ります。私もよくレッスンで生徒さんにやってもらいますが、ここまで徹底していませんでした。声を聴いていると、声帯が重い人は声立てが大変なんだということが改めてよくわかりました。
ここから今回の合宿に話が戻ります。M先生もいつも「体の使い方」を懇切丁寧に教えて下さいますが、今回初めて、私は声帯が軽いために声立てをあまりせずに声を出し、出してから体を使っていたのだなと気づいたのです。この気づきには伏線があります。実は私、最近のレッスンで太い声の生徒さんたちに「声を出しながら体を拡げるのではなく、体を拡げてから声を出して下さい」とよく言っていたのです。そう言いながら自分自身はあまりやっていませんでした。しかし今回の合宿練習で、「最初の一声」で体を引っ張っておかないと息が口から洩れてしまうことがよくわかったのです。M先生は、声を出す前に「オのフォームで吸って!」と仰いますが、その言葉の意味するところは「体を開く」なのですね。そしてスクワット。上体をしっかり起こしたまま深くスクワットすると背筋がしっかり伸びます。このフォームで軽く声を出すと、喉に負担のかからない、すっきりしたノン・ヴィブラートの声がすーっと出ます。W先生が仰っていた「声立て」って、これだったのか!今更ですが、やっと少しわかりかけてきました。
合宿話の続きはまた次回。