のりぞうのほほんのんびりバンザイ

あわてない、あわてない。ひとやすみ、ひとやすみ。

森のなかのママ/井上荒野

2006年08月21日 22時22分49秒 | 読書歴
■ストーリ
 難儀で頑固な20歳のいずみは、のほほんとして
 今も4人の男性に思いを寄せられている60歳のママと
 二人暮し。パパは画家で、数年前に別の女性と一緒に亡くなった。
 パパの絵を飾る私営美術館に集うママを好きなおじ様たち。
 その中のひとりに思いを寄せるいずみ。
 人生はものすごい。そんな日々を描いた物語。

■感想 ☆☆☆*
 先に読んだ「ヌルイコイ」が全編を通して不穏な空気が
 漂っていたのとは対照的に、こちらは全編を通して
 明るいタッチで描かれている。

 いつものほほんと過ごしているママ。
 口には出さないけれども
 亡くなったパパのことを今も愛していることが
 なぜか伝わってくるママ。
 寂しさを衝動買いで紛らわすママ。
 それでも募る孤独を誰も想像できないようなことで
 なんとか乗り越えようと孤軍奮闘するママ。

 そうなのだ。
 ママは終始一貫、のほほんと日々を過ごしている。
 ママが怒ったり取り乱したりする場面はない。
 けれども、ママはいつだって自分なりの方法で
 精一杯、辛いことや哀しいことと向き合って
 それらを乗り越えようとしている。

 その方法があまりにも突拍子もないから
 「堅実」で「無難」な娘のいずみちゃんは
 なかなかわかってあげられない。苛々してしまう。
 けれども、周囲の人との関わりの中で、
 何よりいずみちゃん自身も人を好きになることで
 徐々にママを理解していく。

 ママにとって、パパは「たったひとりの人」だったのだろう。
 パパにとってもママやいずみちゃんは大切な存在だった。
 けれども、パパには愛人がいた。
 愛人との間には子どももいた。

 既に死んでしまったパパの気持ちは
 小説の中ではまったく出てこない。
 パパが誰をどういうふうに愛したのか。
 どちらの女性が一番だったのか。
 そもそもどちらも女性もきちんと愛していたのか。

 けれど、そういったことは、
 きっと残された人にとって、そしてママにとって
 ちっとも重要なことではないのだろう。
 大事なのはママがパパをどう思っていたか。
 ママがどう感じていたか。
 そう胸を張って言えるほど、ママは強い人なのだと思う。
 のほほんとしているのに。生活能力がないのに。

 人生は変なことの連続。そしていとおしいことの連続。
 そんなふうに思える小説だった。


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