のりぞうのほほんのんびりバンザイ

あわてない、あわてない。ひとやすみ、ひとやすみ。

正義のミカタ/本多孝好

2007年08月04日 22時28分41秒 | 読書歴
正義のミカタ/本多孝好
■ストーリ
 蓮見亮太は腕っ節も強くないし、ハンサムでもないし、成績も
 よくない。飛鳥大学という三流大学の一年生。いわゆる「負け犬」。
 高校時代はいじめられっ子で、暴力を振るわれ、金を巻き上げられていた。
 しかし、飛鳥大学で正義の味方研究部の部員に出会い、惨めな高校までとは
 別世界の大学生活を送り始める。

■感想 ☆☆☆*
 本多さんの作品は確かデビュー間もない頃に読んで
 「うーん・・・。あまり好きではないかも。」
 と思ったような記憶がある。確か推理小説だったのだけれど、全体的に
 「え?それだけ?」というようなあっさり薄味の小説で、それが私には
 物足りなかったのだ。それ以来、作品に手を出すこともなく過ごしていたが
 書店で表紙を見たときに一目惚れ。なんだかものすごく気になるテイストの
 表紙だったのだ。でも、確か苦手だったはずの本多作品。
 購入する勇気はなく・・・。と迷っていたら、なんと、会社で拾いました!
 落とし主は無事に見つかったのだけれど、見つかるまでの二日間で読破!
 いやー、会議室の管理していて本当によかった!

 で、本作品の感想。やられた。単純明快なすっきりエンターテイメントかと
 思いきや、中盤辺りから、どんどん深く深く思考の迷宮に誘い込まれた。
 一体、誰が正しいのか、何が正しいのか、正義とは何なのか、どこからが
 「悪」なのかが、自分の中でまったく分からなくなってきた。
 そう、中盤から。
 中盤までは単純明快なのだ。主人公はいじめられっ子で弱くてへなちょこ。
 けれど、大学で正義の味方研究会の面々に救われて仲間になる。
 その正義の味方研究会は、かつて大学で不祥事が起こったときに
 各体育会系の部活から有志が集って出来た研究会で「入部する」のではなく
 これ、と見込んだ人を勧誘することによって、維持されている。
 今となっては伝説のようになっている「正義の味方研究会」の創立時の話は
 ページにして約5ページほど(既に曖昧ですが)なのだが、そこだけで
 感動して胸が熱くなる。人の善意と正義に基いた熱い話で、そこに
 惹かれていく主人公の気持ちは痛いほどによく分かる。
 今まで友達も仲間もなく過ごして、将来に希望を抱くこともできず
 自分の存在の意味も分からなかった主人公が仲間と共に「人のため」
 「大学の正義を守るため」に活動を続ける。
 どんどん変わっていく自分。それを嬉しく感じて、更に色んな努力をする
 主人公には素直に共感できたし、良い方向に転がり始めると、それと
 連鎖して、周囲もどんどん良い方向に回っていくんだな、やはり
 人間、努力すればいい方向に変われるんだな、と嬉しくなった。

 そう。中盤までは。
 中盤までは、うかつにも私は「人は努力すれば変われる」成功譚だと
 思っていたのだ。しかし、中盤以降、主人公は怪しく、でも魅力的な
 先輩に出会い、徐々に何が正しいのか、どこに正義があるのかが
 分からなくなっていく。
 どんなに自分の中に信念があっても、結局のところはお金を持って
 いたり、家柄が良かったりする、いわゆる「勝ち組」の人たちには
 どうやったって勝てないのではないか、という主人公の絶望的な思いに
 私自身が反論する言葉を持ってないから、飲み込まれそうになった。
 きっと、この先輩のように周囲の人を説得して、そそのかして
 甘い汁を吸っている人たちって、世の中に実在しているんだろうな
 と思った。それぐらいリアリティのある人物だった。

 ラストは正直、消化不良。
 え?それで終わり?と思う。すっきりとした解答は出ない。
 爽快な気持ちで本を閉じることはできない。
 でも、それが正解なんだと思った。私たちはこの小説が突きつける
 質問に対して、まだ明快な答えを持ってない。だから、同じような
 犯罪が今も現実世界で起こり続けている。
 ただひとつ。はっきりと提示されたこと。そして、私も共感したこと。
 自分で名乗りをあげる「正義」ほど嘘くさく、押し付けがましいものはない。
 まして、国の代表のような顔をして「正義のための戦争」だなんて
 言ってもらっちゃうとね。


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1 コメント

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いつの時代も (生駒山のいも男爵)
2007-08-06 11:11:36
正義の運動に酔いしれて、己を失う若者と彼等を利用して、利益を得ようとする大人達(尾崎豊みたい)は存在するのでしょう。思想の左右を問わず…
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