のりぞうのほほんのんびりバンザイ

あわてない、あわてない。ひとやすみ、ひとやすみ。

真夜中の五分前(SideA/SideB)/本多孝好

2007年08月04日 22時29分48秒 | 読書歴
真夜中の五分前(SideA/SideB)/本多孝好
■ストーリ
 【SideA】
 小さな広告代理店に勤める主人公は、大学生の頃に恋人・水穂を交通事故で
 失って以来、きちんとした恋愛が出来ないでいる。死んだ彼女は、常に
 時計を五分遅らせる癖があり、それに慣れた主人公は、今も五分遅れの
 目覚まし時計を使っている。社会や他人と、少しだけズレて生きている
 主人公はある日、一卵性双生児の片割れ「かすみ」と出会う。
 双子であるが故の悩みと失恋の痛手を抱えているかすみ。ふたりは次第に
 親密になっていく。
 【SideB】
 「砂漠で毛布を売らないか」IT企業の社長・野毛さんに誘われるまま
 会社を移った主人公。仕事は客入りの悪い飲食店を生まれ変わらせること。
 単なる偶然か実力か、仕事はすぐに軌道に乗り、業界では隠れた有名人と
 なる。ある日、かすみの双子の妹「ゆかり」の夫、尾崎さんと再会した
 主人公は、彼から信じられないような話を切りだされる。

■感想 ☆*
 今年の新潮文庫「夏の百冊」に選ばれている作品。つい最近読んだ
 「正義のミカタ」で本多作品に対する苦手意識が払拭されたこと、
 そして帯文句「五分遅れたこの世界で、僕は君に出逢う。」と
 「絶対にSideAから読んでください」という言葉が魅力的だったのとで
 手にとってみた。購入しようか迷ったものの、たまたま図書館で
 発見し、借りてきて読破。・・・・うん、良かった。図書館で見つかって。
 購入しなくて良かった。購入してたらちゃぶ台ひっくり返してた。
 間違いなく。

 仕事を一生懸命しているわけでもないのに、そつなく仕事をこなし
 仕事に対する姿勢は評価されていないのに、能力は上司からも周囲からも
 しっかりと評価されている。恋愛できないでいるのに、それでも
 手近なところで、彼女をころころと変えていて・・・と、とにかく嫌味な
 主人公。ものすごく嫌味なんだけれども、好きだった女性を亡くしたときから
 心に傷を抱えていて、けれども自分の心の傷にさえも気付けないでいる姿は
 なんとなく痛々しいし、そういった影に女性がひかれるのも、同僚が
 どこか鼻につくいやらしさを感じ取るのも分かる気がする。
 そういったところは妙にリアルだったし、心に傷を抱えた主人公が
 ひとりの女性と出会って、自分の内面と向き合うことができるまでに至る
 過程も説得力があった。かすみが双子の片割れだという設定も
 双子の片割れの恋人を好きになってしまったという設定も、かすみと主人公が
 出会うためには必然性のあるもので、わくわくしながらページを読み進めた。
 SideAのラストにあるかすみと主人公の言葉のやりとりも美しく
 面白く読み進めることができたと思う。

 では、何がいけ好かなかったかと言うと、この本の売り方だと思う。
 「必ずSideAから手に取ってください」と注意書きがしてあり、なおかつ
 二冊で一冊にしてもよさそうな薄さにも関わらず、わざわざ二冊に分けている
 ことから、私は勝手にこの本にはものすごい仕掛けがしてあると思ったのだ。
 完結したと思ったSideAの話がSideBでは違う登場人物の視点で語られていて
 その登場人物の視点で語られる物語にはSideAとは異なる結末が語られている
 というような。(あ、書きながら思いましたが、「冷静と情熱の間に」の
 ようなつくりね。)だって、「SideA」に「SideB」なんだもの。Aの側と
 Bの側、なんじゃないの?

 それが読み進めたものの、そんな驚きの仕掛けはまったくなく、SideBは
 SideAから2年経っただけのありきたりの小説だった。期待が大きかった
 だけに、ちゃぶ台をひっくり返したくなったのだ。帯で煽り過ぎるのは
 やめてほしい。含みを持たせすぎる文章もやめてほしい。
 まあ、私が勝手に思い込んでしまっただけで、大変自分勝手な憤りでは
 あるのですが。でも、やはり一冊にまとめてしまってよかったような
 気がしてならないのだ。


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