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のりぞうのほほんのんびりバンザイ

あわてない、あわてない。ひとやすみ、ひとやすみ。

7月の読書

2009年09月08日 21時38分37秒 | 読書歴
62.SPEED/金城一紀
   ■ストーリ
    私の憧れの女性だった家庭教師の彩子さんが自殺!?
    岡本佳奈子、16歳。真面目で平凡な女子高生。
    後悔なんかするもんか。真相を求めて、私の生まれて
    初めての冒険が始まる。ゾンビーズ・シリーズ第3弾。
   ■感想 ☆☆☆☆
    食わず嫌いをしていた作家のうちのひとりだった金城さんに
    初挑戦。どうして食わず嫌いをしていたのか、今までの自分
    を激しく後悔した。
    今まで平凡な生活を送っていた女子高生の初めての大冒険が
    スピーディに、スタイリッシュに描かれていて、結末まで
    一気に読み終えられる。読後感はとにかく爽快。
    ヒロインが感じている「わくわく」を一緒に味わえた。
    ヒロインに協力してくれる高校生四人組のゾンビーズは
    他の作品でも活躍している様子。ぜひ、読み進めたい。

63.六の宮の姫君/北村薫
   ■ストーリ
    最終学年を迎えた「私」は卒論のテーマ「芥川龍之介」を
    掘り下げていく一方、田崎信全集の編集作業に追われる
    出版社で初めてのアルバイトを経験する。その縁あって、
    図らずも文壇の長老から芥川の謎めいた言葉を聞くことに。
    「あれは玉突きだね。…いや、というよりはキャッチボールだ」
    王朝物の短編「六の宮の姫君」に寄せられた言辞を巡って、
    「私」の探偵が始まった。
   ■感想 ☆☆☆☆☆
    北村さんの代表シリーズ。シリーズのほかの作品では、
    落語家、円紫さんと女子大生「私」が遭遇する日常の謎を
    巡る連作短編集だが、この作品は少し毛色が異なる。
    この作品を読んでいると、私にとって「歴史上の人物」
    「教科書に掲載されている人物」だった芥川龍之介と菊池寛が、
    そして、明治の文学が非常に身近に感じられる。
    友情を築きあった友であっても起こり得るすれ違いに、
    人と関わるが故の孤独を感じた。

64.終末のフール/伊坂幸太郎
   ■ストーリ
    あと3年で世界が終わるなら、何をしますか。
    「8年後に小惑星が落ちてきて地球が滅亡する」と発表されて
    5年後。犯罪がはびこり、秩序は崩壊した混乱の中、仙台市北部の
    団地住民たちは、いかにそれぞれの人生を送るのか? 連作短編集。
   ■感想 ☆☆☆*
    伊坂作品ならではの奇想天外な設定ではあるが、内容や
    登場人物たちの行動は奇想天外ではない。
    もし現実に3年後、世界が終わると発表されたら、おそらく
    私たちもこのような過ごし方をするだろう、と納得できる。
    「明日」ではなく「3年後」の滅亡。
    だからこそ、感じる不安やパニックと、「3年」という猶予が
    あるからこそ許される人々の「いかに生き、いかに死を迎える
    べきか」というそれまでの人生と向き合う姿勢が、物語に
    重厚感を与える。たとえ3年後に死ぬことが分かっていても、
    そしてその事実に絶望しても、最終的には、その3年間を
    精一杯に生き抜こうという結論に落ち着くのが人間なんだな
    としみじみ思った。
 
65.ぼくのメジャースプーン/辻村深月
   ■ストーリ
    「ぼく」は小学四年生。不思議な力を持っている。忌まわしい
    あの事件が起きたのは、今から三ヵ月前。「ぼく」の小学校で
    飼っていたうさぎが、何者かによって殺された。大好きだった
    うさぎたちの無残な死体を目撃してしまった「ぼく」の幼なじみ
    ふみちゃんは、ショックのあまりに全ての感情を封じ込めたまま、
    今もなお登校拒否を続けている。笑わないあの子を助け出したい
    「ぼく」は、自分と同じ力を持つ「先生」のもとへと通い、
    うさぎ殺しの犯人に与える罰の重さを計り始める。
    「ぼく」が最後に選んだ答え、そして正義の行方とは?
   ■感想  ☆☆☆☆☆☆
    何度読んでも泣けます。今、思い出しても少し目頭が熱くなる。
    いろんな人にお勧めしたい作品。
    最後まで読み終えて、「ぼく」が出した結論に驚き、
    「ぼく」の行動が導く結末は、おそらく「正解」ではない。
    けれど、信じられないような事件が現実に起こっている中、
    何が正解なのか、今も私には分からない。
    ただ、甘いかもしれないけれど、誰かが誰かを思っての
    行動は何らかの救いを必ずもたらす。そう信じたくなる作品です。
   
66.パラダイス・キス(全5巻)/矢沢あい
   ■ストーリ
    進学校に通う、早坂紫は、ある日学園祭のショーのモデルを
    探していた矢沢芸術学院の生徒に声をかけられる。当初は
    彼らに対して偏見を抱いていた紫だが、一緒に行動していくうちに、
    自らも受験勉強以外に生き甲斐を見いだしていく。
   ■感想 ☆☆☆☆☆
    久々に読み返した矢沢作品。何度読み返しても魅力的。
    夢に向かってもがいているヒロインたちの姿は、とても現実的で
    すべてがうまくいくわけではない。むしろ、恋も夢もうまく
    いかないことばかり。それでも諦めずに夢に向かって立ち向かって
    いく人がいたり、夢と現実の狭間でうまく折り合いをつけ、
    前向きに進んでいく人がいたり。その多様性が矢沢作品の
    魅力だと思う。「少女漫画」的な夢物語で終わらせない作者の
    姿勢がヒロインたち女性陣の強さにつながっているのだと思う。

67.20世紀少年(全22巻)・21世紀少年/浦沢直樹
   ■感想 ☆☆☆*
    以前から気になっていた話題作をようやく手に取ることが
    できました。本当にアリガトウゴザイマス。
    長いだけに、登場人物が多く、ストーリも入り組んでいますが
    一気に借りれたため、そこまで混乱せずにストーリを追うことが
    できました。これは、全部集めてから読むべき物語だと思う。
    途中で中断していたら、間違いなく話が分からなくなって
    いたことでしょう。本当に本当にありがとうございます!
    終盤、やや物語に破綻を感じるものの、読み手を最後まで
    離さないストーリテリングぶりはさすが。長い長い作品に
    引き込まれ、一気に読み終えました。映画も見てみたいかも。

68.恋文の技術/森見登美彦
   ■ストーリ
    京都の大学から、遠く離れた実験所に飛ばされた男子大学院生
    が一人。無聊を慰めるべく、文通武者修行と称して京都に住む
    かつての仲間たちに手紙を書きまくる。手紙のうえで、友人の
    恋の相談に乗り、妹に説教を垂れる男子学生の行く末は?
   ■感想 ☆☆☆☆
    森見作品らしい軽快なリズムあふれる文章が心地よい。
    テンポ良く読み終えられる作品。さらさらと流れるような
    文章なので「書簡体」特有の読みにくさをまったく感じない。
    深く考えず、とにかく読むべし。そして日本語の美しさを
    堪能し、彼特有のユーモアセンスを満喫すべし。

69.ふたつめの月/近藤史恵
   ■ストーリ
    あの街灯を壊してほしい。誰の何を守るために赤坂老人は
    あんなことをしたのか。恋も仕事もうまくいかなくったって、
    毎日はすすんでく。フリーター久里子が出会った日常の事件。
   ■感想 ☆☆☆
    日常の謎シリーズ。肩のこらない読み物として楽しめます。
    理不尽な理由で会社をやめさせられた主人公が少しずつ
    前に進んでいく様子を見守っていると、私もがんばろう
    と素直に思えます。実はいろんなところに、誰かの優しさは
    転がっているのかもしれない。そんな気持ちにさせてくれる
    作品。

70.イナイ×イナイ/森博嗣
71.キラレ×キラレ/森博嗣
   ■ストーリ
    美術品鑑定を生業とする椙田事務所の電話番、真鍋瞬市と
    椙田探偵事務所の助手、小川令子が遭遇する事件の数々。
    めったに戻ってこない探偵事務所所長の椙田と、
    自ら「探偵」を名乗る鷹知。そして、椙田が遭遇を恐れる
    西ノ園萌絵。Xシリーズ第1弾と第2弾。
   ■感想 ☆*
    森作品に飽きてしまったのだろうか?それとも、西ノ園嬢の
    出番が少ないために、今ひとつ集中して読めなかったのだろうか。
    どちらにせよ、物語に引き込まれることなく、さらっと
    読み終えてしまった。推理小説としてはまったく魅力を
    感じないものの、S&Mシリーズからの森作品永遠のヒロイン
    萌絵が今後、どうシリーズと関わってくるのか、その点のみは
    ぜひ、後を追いたい。

72.太陽の塔/森見登志彦
   ■ストーリ
    私の大学生活には華がない。特に女性とは絶望的に縁がない。
    三回生の時、水尾さんという恋人ができた。毎日が愉快だった。
    しかし水尾さんはあろうことか、この私を振ったのであった。
    クリスマスの嵐が吹き荒れる京の都、巨大な妄想力の他に何も
    持たぬ男が無闇に疾走する。失恋を経験したすべての男たちと
    これから失恋する予定の人に捧ぐファンタジー作品。
   ■感想 ☆☆
    ・・・ちょっとついていけませんでした。主人公の誇大妄想に。
    少し、いえ、かなり粘着質な主人公の独白は、当初、ユーモア
    を感じられたものの、中盤以降は、若干、くどくきつく
    なってきました。これは、私が女性だから、かもしれません。
    妄想大好きだけれど、男性と女性の妄想はやや質が異なるのかも
    とそんなふうに思った作品。

ナツイチブログドラマ「コトバとシオリ」

2009年07月12日 23時58分59秒 | 読書歴
集英社文庫の夏の文庫フェアの広告に掲載されている
ブログドラマが気になって、見に行きました。

集英社文庫 夏の一冊「はじまり、ナツイチ」
 ブログドラマ「コトバとシオリ」

とても素敵なブログドラマです。
本を読んでいる姿を見てお互いに一目ぼれをした
コトバくんとシオリさんが
本を通して、徐々にお互いのことを知っていく様子が
ブログと2分ほどの動画で綴られています。

1回あたり5分もあれば読めてしまうお手軽さと
お手軽さを感じさせない内容の充実が素敵です。
毎回、ふたりの気持ちに寄り添っている1冊の本が紹介され、
その本にまつわるふたりの話がブログで展開されます。
徐々に距離が縮まっていくふたりの姿がとてもかわいらしい。
バックに流れている音楽も綺麗で
いかにも初恋、という感じの美しさ。

以前、キットカットのWEB上にて
蒼井優さんと鈴木杏さんのふたりが出演している
動画CMが公開され、その動画CMを基に
「花とアリス」という素敵な映画ができあがりました。
思わず、その映画を思い出したほど、
「映画」の雰囲気が漂ってくるブログドラマです。
音楽の雰囲気が似ている、というのもあるのかも。

8月末まで毎週更新されるそうです。
楽しみがまたひとつ増えました。

6月の読書

2009年07月07日 22時58分39秒 | 読書歴
54.迷子の眠り姫/赤川次郎
   ☆☆
   体育の日、誰かに川へ突き落とされ、「あの世」へ行きかけた
   高校生の里加。生き返って目を覚ますと、不思議な「力」が
   そなわっていた。一体誰が里加をつき落としたのか?
   単身赴任の父や妹の秘密、ボーイフレンドや友達を巻き込む
   幾つもの危機。

   という、「いかにも赤川さん」の青春ミステリ。爽やかで
   青春小説でからっとした気持ちで本を置くことができます。
   おそらく疲れがたまっていたのでしょう。
   私にとって、バロメータにもなっている赤川作品。
   疲れているときの赤川帰りなのです。
   いつだって前向きで明るくて、でも節度を持って清く正しい
   高校生であろうとする赤川作品の主人公たちに触れていると
   元気が沸いてきます。

55.その女の名は魔女/赤川次郎
   ☆☆
   生まれながらの霊感体質で幽霊を呼び寄せる類まれな
   バスガイド、町田藍。彼女が添乗する「すずめバス」の
   「怪奇ツアー」は、今日も大人気。幽霊が出る旧家の土蔵、
   本物の亡霊が現れる『ハムレット』の舞台、魔女が
   火あぶりにされ、今も恨みが残っているという村。
   藍がそれぞれの怪奇現象の謎を解くうちに明らかになる
   幽霊たちの悲しさ、淋しさ。

   「霊感バスガイド」シリーズ第二弾だそうです。全5編からなる
   連作短編集です。連作短編集は一遍一遍が短くて読みやすい
   うえに、全体としてはつながっているために登場人物たちに
   深みが出て(愛着も沸いて)非常に好みです。
   ただし、この作品はあくまでも「幽霊」が主人公。
   ヒロインの藍は脇役に徹しているため、あまり出番は
   ありません。このシリーズもまだまだ続くのかな?
   久々に三毛猫ホームズなんかも読みたくなってきたかも。

56.ワーキング・ホリデー/坂木司
   ☆☆☆
   夏のある日、ホストクラブで働く元ヤン・沖田大和のもとに
   突然、息子と名乗る小学五年生の進がやってきた。
   息子の教育上、ホストはよろしくないため、大和は昼間の
   仕事である宅配便のドライバーへ転身する。正義感に溢れ、
   喧嘩っ早くて義理人情に篤い大和。
   家事にたけて口うるさい、おばちゃんのような中身の進。
   仕事や仲間を通して、二人は絆を深めてゆく。

   いかにも坂木さん、といった優しさに満ち溢れた作品。
   世の中色々と殺伐としてきてはいるけれど、でもきっと
   まだまだ優しさとか暖かさはこんなにも人間に満ち溢れて
   いるんじゃない?という作者の声が聞こえてくるような作品です。
   少し甘いんじゃないのかな。世の中、こんなふうに
   「いいことばかり」じゃないと思うんだけど。とも思うけれど
   世の中を、人と人との絆や縁を徹頭徹尾信じようという
   決意に満ち溢れた作品は心地よいです。
   「家庭」には「食事」が必要不可欠なんだな、と思わされる
   作品でした。そして、宅急便の方々へは、心からのお礼を
   伝えようと決意しました。

57.泥流地帯/三浦綾子
58.続・泥流地帯/三浦綾子
   ☆☆☆☆☆
   大正時代の北海道で厳しい自然と共に生きる農村の人々。
   拓一と耕作の兄弟は、幼い日に父と死に別れ、母とも別れて
   暮らさなければならなくなる。厳しい現実の中、ふたりは
   祖父母のもとで自然と正面から向き合いながら前向きに生き、
   成長していく。しかし、そんな中、自然は容赦なくふたりに
   そして、開拓地域に襲い掛かる。

   「神の不条理」というキリスト教をテーマにした作品ですが
   非常に読みやすく、そして、人生について考えさせられる
   作品でした。
   どう生きるべきなのか。
   正しい、とはどういうことなのか。
   私たち人間は何のために生きているのか。
   誰のために生きているのか。
   そういった普遍的なテーマを平易な日本語で、胸に迫る
   言葉で描いてくれています。
   こういった先駆者の苦労があって、今の日本がある。
   そういったことに改めて気付かされました。

59.あ・うん/向田邦子
   ☆☆☆☆*
   昭和初期の山の手を舞台とした、製薬会社サラリーマンの
   水田仙吉と仙吉の親友で実業家の門倉修造、門倉に慕われる
   仙吉の妻、たみ、仙吉夫婦の一人娘さと子、そして門倉の愛を
   得られぬ妻の君子を中心とした支那事変前夜の昭和の人々の
   暮らしを描いている。

   初読です。向田さん大好きなのに、初めて手に取りました。
   案の定、素敵なお話でした。向田さんが飛行機事故で
   お亡くなりにならなければ、まだまだ話は続く予定だった
   そうです。残念でなりません。
   今はもう完全に失われてしまった昭和の香りが、あの時代の
   品の良い恋愛が、本全体から漂ってきます。
   いつから恋愛は「若者のもの」になってしまったんだろう。
   いつから大人たちが若者と張り合って若作りをするように
   なったんだろう。そういった疑問を覚える作品でした。
   大人ならでは、の苦さと甘さが詰め込まれた恋愛が
   非常に切なく、それ以上に魅力的です。
   2000年にTBSでリメイクされているようですが
   その際の役者陣が私にとっては、非常にしっくりくる
   方々ばかりでした。ぜひ再放送して欲しいです。熱烈希望。

   水田 仙 吉:串田 和美 / 水田 たみ:田中 裕子
   門倉 修 造:小林 薫  / 門倉 君子:樋口可南子
   水田 初太郎:森繁 久彌 / 水田さと子:池脇 千鶴

60.賢治の学校/鳥山敏子
   ☆☆☆
   教育の理想のかたちが「賢治」の中にある。宮沢賢治の作品や
   生き方を通して、子どもの教育にとって大切なものは何かを探り、
   その実践の場としての「賢治の学校」を語る。

   宮沢賢治の小説の一部は好きですが、一部は「よくわからん。」
   と思っていました。小学校の国語の教科書に掲載されていた
   「やまなし」の詩なんて、まさにその代表。
   あの授業では散々、苦しめられた気がします。
   この本を読むことによって、未だにこんなにも鮮やかに覚えている
   「やまなし」という詩の魅力について、考えさせられました。
   心に爪あとを残す詩。作品。
   賢治の紡ぐ言葉が持つ力の源は一体、なんだろう。
   賢治の作品だけでなく、生き様に興味を持ちました。

61.臨場/横山秀夫
   ☆☆☆*
   辛辣な物言いで一匹狼を貫く組織の異物、倉石義男。その死体に
   食らいつくような貪欲かつ鋭利な「検視眼」ゆえに、彼には
   「終身検視官」なる異名が与えられていた。
   誰か一人が特別な発見を連発することなどありえない事件現場で、
   倉石の異質な「眼」が事件の真相を見抜く。

   さすが横山さん。はずれのない作品です、。堅実に楽しめる作品、
   「単なる2時間もの」にはしない迫力があります。短編なのに
   しっかりと人間を書き込んでいる作品にいつも、感嘆します。
   ドラマも見たかったな。

今月は非常に読書量が少なくなってしまいました。
図書館に行けていないのが大きいのかな。
来月はもう少し本とオトモダチになりたいな。

5月の読書

2009年06月25日 00時40分52秒 | 読書歴
45.樹上のゆりかご/荻原規子
   ☆☆☆*
   男子校のバンカラの伝統が残る都立辰川高校に入学した
   上田ヒロミは、女子を疎外する居心地の悪さを学校生活の中で
   感じるようになっていた。そんな折、合唱コンクールで指揮をした
   カリスマ女生徒が出現し、次々と事件が起こる。
   「これは王国の鍵です」の続編。ですが、ヒロインを務めた
   上田ヒロミさんが登場する以外は、ほぼ前作とのつながりが
   ありません。ほんのかすかにヒロミさんが過去の「夢」の話を
   思い出すぐらい。独立した話として楽しめます。
   自分の高校時代を思い出して、胸がちょっぴりきゅっとしました。
   確かに学生時代、そして特に学園生活というものは、一種独特な
   空気をまとっている時期なのだと思うのです。

46.夜は短し、歩けよ乙女/森見登志彦
   ☆☆☆☆☆☆
   「黒髪の乙女」にひそかに思いを寄せる「先輩」は「偶然の
   出会い」を一生懸命、繰り返す。街中での「偶然の出会い」を
   繰り返す二人を待ち受けるのは、奇々怪々なる面々が起こす
   珍事件の数々。キュートで奇抜な恋愛小説in京都。
   私の読書の好みを知っている友人と先輩から「絶対にお勧め!」
   「読みながら、のりぞうを思い出した。」と熱烈プッシュを
   受けていたところ、図書館で遭遇。勇んで借りました。
   ・・・もう、ちょう好み!!なんなの!この幸せな読後感!!
   甘すぎる結末だろうが、軽い文体だろうが、深みはなかろうが
   なんだっていいのです。この本を取り巻く空気がすき。
   かわいらしい登場人物たちが好き。軽いのにそこはかとなく
   知性を感じさせる文体が好き。
   さじ加減を間違えたら「あざとさ」を感じさせかねないキャラを
   しっかりきっちりかわいらしい天然さんに仕立て上げています。
   自分にはない要素だから、こういうかわいらしい女性には
   純粋にあこがれます。そして、どこまでもアナログで純粋で
   天然記念物的なかわいらしい片思いにも。文庫本の購入決定です。

47.ホテルジューシー/坂木司
   ☆☆☆
   大家族の長女に生まれた柿生浩美(ヒロちゃん)は、直情で
   有能な働きモノ。大学一年の夏、沖縄にあるホテルジューシーで
   アルバイトをした。昼夜二重人格の「オーナー代理」をはじめ
   としたあやしげな同僚達や、ワケありのお客さんたちに
   翻弄され、怒りつつもけなげに奮闘するヒロちゃんだが・・・。
   日常の謎 in リゾート編。という感じ。
   あくまでも殺人などは起こりませんが、「日常」ではありません。
   沖縄のゆるーいのんびりとした空気が作品世界を覆っていて
   私たちの凝っている心を揉み解してくれます。ただし、
   ちょっぴりダークな終わり方の作品もあって、油断はできない感じ。
   最近の「ロハス」だとか「自分探し」だとかの騒ぎに
   若干、流されがちの輩にとっては、ちょっぴり耳がいたい話も。

48.広き迷路/三浦綾子
   ☆*
   旭川出身で銀座のデパートに勤める早川冬美には、高級官僚を
   父に持つ大企業のエリート社員・町沢加奈彦という素敵な恋人がいた。
   だが札幌に出張している筈の加奈彦を都心で見かけて以来、
   冬美の心に不安の影がよぎる。加奈彦さんには何か秘密がある。
   平凡な幸福を願う冬美を恐るべき罠が襲う。
   4月からほとんど教会に行くことができていません。
   その反動なのか、三浦作品を手に取ることが多かった月でした。
   他の三浦作品とは一線を画する異色作。ストーリー展開は
   かなりベタであまりお勧めはできません。初めて三浦作品を
   読む方は、ぜひ他の作品から入ってほしいです。

49.嵐吹くときも(上)(下)/三浦綾子
   天売・焼尻島を眼前に望む苫幌村で商店を営む順平、ふじ乃の
   一人娘として生まれた志津代。幼なじみの文治に思いを寄せる
   志津代の幸せな生活も、天性の美貌を持つふじ乃が行商人と
   一夜の過ちを冒し、息子の新太郎を身篭ったことから狂い始める。
   自らの祖父母をモデルに、明治・大正を生きた家族の肖像を描く
   波瀾万丈の人間ドラマ。
   ある家族の一代記。明治・大正時代の北海道の暮らしの
   大変さが心に残りました。この時代の人たちの苦労があって
   今の私たちの快適な生活があるんだな、とごくごく当たり前の
   感想を強く強く胸に抱きました。

51.煙か土か食い物/舞城王太郎
   ☆☆☆☆
   腕利きの救命外科医・奈津川四郎に凶報が届く。
   連続主婦殴打生き埋め事件の被害者におふくろがなったというのだ。
   ヘイヘイヘイ!復讐は俺に任せろマザファッカー!
   故郷に戻った四郎を待つ血と暴力に彩られた凄絶なドラマ。
   というわけで、舞城さんのデビュー作です。
   舞城さんはデビュー作から舞城さんでした。この存在感、半端ない。
   でも、このスピード感が心地よい。そして、やはり作品に
   あふれているこの世界への愛情。「家族愛」なんて言葉
   舞城さんは恥ずかしくて口にできない人なんだろうな。
   ちょっぴり壊れ方がクドカンさんに似ている気がしないでもない。
   方向性がかなり違うけれど。

52.小公子/バーネット
   ☆☆☆☆☆
   その昔、日曜19時30分からは「ハウス名作劇場」でした。
   私は海外の児童小説の名作にこの時間帯を通して出会いました。
   小公子もその一冊。アニメ「セディ」の原作です。
   (未だに主題歌だって歌えちゃうもんね!)
   素直でまっすぐな主人公が意固地なおじい様を素直な心で
   どんどん溶かして行き、やがてみんなみんなが幸せになっていくお話。
   あらすじだけ聞いていると「けっ」と思うかもしれませんが
   いついかなるときもまっすぐで人の善意を信じきっている
   セディがかわいらしくてたまりません。
   善意とか悪意って、結局はその人に跳ね返ってくるものなんだよね。
   と、反省気分を味わいました。

53.壺中の天国/倉知淳
   ☆☆☆
   寡作のミステリ作家、倉知さんの作品。猫丸先輩のシリーズも
   大好きですが、この作品も大好きです。久々に読み返しましたが
   初めて読んだときに「随分年上のおばちゃん」と思っていた
   ヒロインが自分より年下だと分かって、衝撃でした。
   あぁ、切ない・・・。   

4月の読書

2009年06月24日 00時42分24秒 | 読書歴
38.ディスコ水曜日探偵(上)(下)/舞城王太郎
   ☆☆☆☆
   迷子捜し専門のアメリカ人探偵ディスコ・ウェンズデイの
   目の前で6歳の梢に17歳の梢が侵入。真相の探究は全てを
   破滅へと誘う。謎の渦巻く円い館と名探偵の連続死。
   魂を奪われた少女たちと梢を苛む闇の男。
   「新潮」掲載に1050枚!の書き下ろしを加えた渾身の長篇小説。
   というわけで、この2冊を読み終えるのに、まるまる1ヶ月ほど
   かかりました。軽々しくお勧めできる本ではありません。
   読み終えたものの、筋をすべてを理解している自信もありません。
   それでも、クライマックスでは感動。作品世界が追求する
   大きな愛を確かに感じました。舞城さんは「人間が持つ悪意」を
   否定しません、けれども、その悪意を捨てられない人間が持つ
   「可能性」や「希望」や「善意」を強く信じているのだと
   思うのです。

   「俺は知っている。
    子供の抱く未来への希望は、そのまま親の願いでもあるのだ。」

   「でも人間てのは権利権利じゃない。大事なのは義務なのだ。
    護るべきは自分に与えられた確かな使命感なのだ。」

   「人間の希望があの前世界を創造したことを踏まえて考えるに
    もしすべての創造の源が希望、より良い世界が欲しいという
    気持ちならば、悪がどんなに生まれようとも
    歴史の繰り返しがいくら物事を悪くしようとも
    世界は必ず良く生まれ変わるし、その生まれ変わりの
    繰り返し自体の磨耗する真実は乗り越えていけるはずだ。」

40.ちいろば先生物語(上)(下)/三浦綾子
   ☆☆☆
   京都世光教会を創立し、今治教会を経て、アシュラム運動の
   発展に尽くした榎本保郎の52年を描いた伝記物語。
   「信仰に生きる」ことの難しさ、厳しさを思い知らされました。
   そして、同時に「信仰に生きる」ことの清清しさ、美しさ、
   喜びも教えてもらえました。最近、「祈る」ことを疎かに
   していた自分の姿を反省させられた作品。

42.石の森/三浦綾子
   ☆☆☆
   重く冷たい家庭で秘密を抱いている父母の姿から、
   「人は決して本当のところを分かり合えない」と思う19歳の
   ヒロインが真実の愛について模索する姿を描く。
   やや説教くさく、時代を感じさせられる作品ですが
   奥付を見ると、昭和54年発行でした。そりゃ、時代を
   感じさせられるのも仕方がないはずだ。それにしても、
   この真面目で「人間の原罪」や「生きる」ことについて
   真っ向から取り上げている作品は昭和50年から51年にかけて
   雑誌「セブンティーン」に連載されていたものだそうです。
   この作品が「セブンティーン」に連載できたところに
   時代を感じます。時代の移り変わりを、そして、私たちが
   現在進行形で何かを失っていることを感じさせてくれました。

43.レイン・レイン・ボウ/加納朋子
   ☆☆☆*
   高校ソフトボール部仲間の通夜で再会した7人の女性たちは
   25歳を迎え、それぞれが悩みやトラブルを抱えていた。
   過酷な仕事に疲れた看護師、厄介な職場で奮闘する栄養士、
   過去のあやまちを引きずる主婦。彼女たちは、傷つき、
   迷いながら自分だけの答えを見つけていく。
   いわゆるライトミステリ。「日常の謎」カテゴリとして
   気軽に読める作品です。そして、読み終えた後に爽やかな気持ちを
   味わえる作品です。
   個人的には、今回の再読でこの作品が「月曜日の水玉模様」の
   姉妹作だと気付けて大収穫でした。読んでいる作品の中に
   他の作品の登場人物を見つけると、なんでこんなに嬉しいんだろう。

44.ロードムービー/辻村深月
   ☆☆☆☆
   「冷たい校舎に雪が降る」の姉妹作。この作品を読んでいたほうが
   楽しめる仕掛けがたくさんあります。「冷たい校舎」で
   気になっていたいくつかのカップルのその後がしっかりと
   描かれていて幸せな気持ちになりました。
   辻村さんは本当に自分の描く作品の登場人物が愛しくて
   愛しくてたまらない人なんだろうな。

3月の読書(後半)

2009年06月21日 23時33分33秒 | 読書歴
久々の読書感想文。
3月以来、読書感想文もすっかりとまっていましたが
読んだ本のメモはしっかりとっています。
なんせ記憶力がないもので。
というわけで、いつかの自分のためのメモ。

24.愛子の日めくり総まくり/佐藤愛子
   ☆☆☆
   大好きな佐藤愛子先生の辛口ユーモアエッセイ。
   1年間新聞に連載されていた日めくり形式のミニミニエッセイ。
   思わずくすりと笑ってしまう愛子節は健在です。
   ただ「毎日書く」ことは、それだけで大変なんだろうなぁと
   実感できます。他のエッセイよりもひとつひとつの記事の
   当たり外れは大きい気がします。

25.ゴールデン・スランバー/伊坂幸太郎
   ☆☆☆☆☆
   仙台での凱旋パレード中に起こったテロ事件。新首相は
   死亡し、元宅配ドライバーの青柳は、旧友に「大きな謀略に
   巻き込まれているから逃げろ」と促される。首相暗殺犯の
   濡れ衣を着せられようとする主人公。果たして、巨大な陰謀から、
   無事に逃げおおせられるのか?!
   という実にハラハラする作品です。ハラハラしながら読み進め
   ラスト近くで大きな感動を味わいました。友達っていいな。
   仲間っていいな。信じるっていいな。としみじみ思います。
   同時に個人の力の無力さもしみじみと実感できる小説。
   読後の爽快感は、ぜひ多くの人に味わってほしい。

26.一瞬でいい/唯川恵
   ☆☆☆
   1973年11月、浅間山での出来事が18歳の二人の少女と
   一人の少年の運命を変えた。事故の重みを胸に秘め、大人へと
   成長してゆく三人ほ18歳から49歳までの人生の軌跡を描いた
   31年間のラブ・ストーリー。
   女性好みの小説のようなきがします。
   波乱万丈なオトコとオンナとオンナの31年間。
   恋愛というものは、片思いも厄介だけれど
   両思いも同じぐらい厄介だなぁ、と思いました。

27.先生と僕/坂木司
   ☆☆☆
   ミステリ大好きな中学生と大学生のアルバイトが日常の小さな
   謎に挑む連作短編集。
   作中、ミステリ入門者の大学生のために、ミステリ大好きな
   中学生が入門編のミステリたちを紹介します。それらの
   本のタイトルがどれもこれも懐かしくて、少ししんみりしました。
   初めてミステリに足を踏み入れた小学生の頃。タイトルを見ている
   だけで、あの頃のワクワクが蘇りました。

28.切れない糸/坂木司
   ☆☆☆*
   父親の死を契機に、家業のクリーニング屋で働き始めた主人公。
   「たかがクリーニング」と思っていたけれど、奥が深い
   クリーニング業。お客様とのふれあいの仲から「働くこと」の
   難しさと爽快感、喜びを味わい始める主人公。
   読んでいるだけで、背筋が正されます。

29.ヴァン・ショーをあなたに/近藤史恵
   タルト・タタンの幸福  /近藤史恵
   ☆☆☆
   下町のフレンチレストラン、ビストロ・パ・マルのスタッフは四人。
   シェフの三舟さんと志村さん、ソムリエの金子さん、そして
   ギャルソンの「僕」。気取らない料理で客の舌と心をつかむ
   変わり者のシェフは、客たちの持ち込む不可解な謎をあざやかに
   解く名探偵でもあった。
   連絡短編集で一編につき、一皿の料理とひとつの謎が提供されます。
   ぶっきらぼうな名探偵、三舟シェフがいい味を出しています。
   軽く読み進められるので、疲れているときにお勧めのお話。
   うっかりヴァン・ショーから読んでしまいましたが、
   タルト・タタンのほうがシリーズ1作目です。

31.お茶席の冒険/有吉玉青
   ☆*
   実は借りるときに、有吉玉青さん(有吉佐和子さんの娘さん)と
   青木玉さん(幸田文さんの娘さん)をすっかり混在して借りて
   おりました。読みながら、「文章のトーンがいつもと随分、
   異なるなぁ。なんかいつものほうが好きだなぁ。」と首を
   ひねっておりましたが、全くの別人とは。
   文章には人柄、個性が色濃く出ることを改めて実感しました。
   有吉さんは非常に気さくな文章を書かれる方です。
   ただ、気さくな文章をもってしても、やはり「お茶席」に対する
   敷居の高さを打ち消すことはなかなか難しいようです。

32.秋の花/北村薫
   ☆☆☆☆☆*
   文化祭準備中の事故でひとりの女子高生が命を落とし、彼女の
   幼馴染は心をなくしてしまう。ふたりの先輩である「私」は、
   憔悴する後輩の姿を見て、事件の核心に迫ろうとする。
   円紫師匠シリーズ第3弾。そして、シリーズ初の長編です。
   読むたびに涙腺を刺激される一冊。帯に書かれていた
   「私たちってそんなにももろいものでしょうか。」と
   作中で円紫さんが「私」に向かって言う
   「許すことはできなくても、救うことはできます。」
   という言葉が読み手の私の心を貫きます。やりきれない思いに
   かられるお話。それでも「希望」を失わずに生きていきたい。
   そういうふうに思わせてくれる物語。

33.名前探しの放課後(上)(下)/辻村深月
   ☆☆☆☆☆☆
   「思い出してください、青春の切なさを」
   不可思議なタイムスリップで三ヵ月先から戻された依田いつか。
   彼は、これから起こる「誰か」の自殺を止めるため、同級生の
   坂崎あすならと「放課後の名前探し」をはじめる。
   おそらく好き嫌いがはっきりと別れる物語です。
   ミステリとしては、途中で話の展開が見えてしまうため、
   あまり驚きがありません。辻村さんの作品をこの本から
   読み始めた方にとっては、面白くもなんともない作品だと思います。
   ただ、他の作品を読んだことがある方
   (特に「ぼくのメジャースプーン」「凍りのくじら」を
    読んだことがある方!)は読み終えた後に必ず感動するはず。
   私は幸せ過ぎて、幸せすぎて泣き出しそうでした。
   辻村さんの作品に対する思い入れや作品ひとつひとつの登場人物に
   対する優しさが伝わってくる作品。

35.挑戦する勇気/羽生善治
   ☆☆☆☆
   羽生さんのすごさを改めて感じさせてくれる作品。おそらく
   エッセイではなく羽生さんの語りを文章にしたものではないかと。
   彼の凛とした生き方、飽くなき好奇心、将棋に対する愛情が
   非常に心地よいです。一芸を極めている人、極めようとしている人は
   言葉に説得力があるため、非常に気持ちがいいです。

36.こうふく みどりの
   こうふく あかの   /西加奈子
   ☆☆☆*
   「こうふく」シリーズ2部作。ふたつの作品の関わりは
   ごくごくわずか。けれども確かにつながっていて、同じテーマで
   描かれている作品だということが伝わってきます。
   どちらの作品も、視点が主人公に偏っておらず、色々なところに
   ちりばめられていた伏線が最後にすっきりとつながる手法。
   「そういうことだったのか!」という驚きと
   判明した人と人とのつながりに「あたたかさ」を感じます。
   アントニオ猪木に特別な思い入れはまったくありませんでしたが
   彼の言葉や生き様が多くの人に勇気を与えていることを
   実感できました。

パットお嬢さん/モンゴメリ

2009年03月29日 09時51分32秒 | 読書歴
2008年読了本
115.パットお嬢さん/モンゴメリ

■ストーリ
 美しい「銀の森」の女主人として、変化を嫌い、その自然と安らぎを
 保持しようと心をくだくパット。すばらしいユーモアを持ち、話好きの
 ジュディばあやと、頭の良い妹ピー子の三人、それに猫たちと
 幸福に満ちた世界で過ごしている。しかし、そこにも徐々に変化が
 訪れて・・・。

■感想 ☆☆☆☆
 モンゴメリと言えば、「赤毛のアン」だが、
 私はアンよりも断然、パットと仲良く過ごしてきた。
 自分の住む村や自分の仲間たちが大好きで、
 「大人」になるための変化を受け入れられないパット。
 大事なものを守るために、かたくなに大人になることを拒否する彼女は、
 「大事なもの」の中に含まれている「大切な人」からの求婚さえ
 受け入れられずにすごしている。

 「パットお嬢さん」は、そんなパットの様子を
 パットが大事にしている村での生活を丹念に描くことで
 彼女のこだわりに説得力を持たせている。
 そして、次第に彼女が何を一番大切にしていたのか、彼女がこの村に
 こだわっていた理由がなんだったのかに気付かされる姿を追う。
 全体的に話の展開はとてもスローテンポで冗長。
 けれど、その冗長さがパットの人となりを表しているのだと思う。
 色々、考えすぎて、すぐには行動できない不器用なパットがいとしい。

 終盤、パット自身が変わるつもりはないにも関わらず
 周囲の大切な人たちにはどんどん変化が訪れ、その変化が
 パットにプレッシャーと孤独、寂寥感や焦りを与える。
 そのあたりの描写は、今の私だからこそ感じる共感もあって
 なんというか、何度も読み返したにも関わらず
 今まで感じたことのない読後感を味わえた気がする。
 当たり前だけれど、年とともに本との付き合い方は変わっていく。
 本全体との付き合い方も、一冊の本との付き合い方も。
 久々の「パットお嬢さん」はそういったことを実感させてくれる
 読書だった。

家庭小説

2009年03月29日 09時39分53秒 | 読書歴
2008年読了
111.昔気質の一少女(上)(下)/オルコット
113.リンバストロの乙女(上)(下)/

■ストーリ
 ・昔気質の一少女
  田舎育ちのポリーは、愛情豊かな母に厳しくしつけられた昔気質の
  少女であった。そんなポリーに都会で裕福な生活を送る友人
  ファンからの招待が来た。一冬をファンの家で過ごすことになった
  ポリーは、初めての都会や上流社会の生活に戸惑う。
  しかし、次第にポリーの思いやり深いふるまいがファンの家族に
  大切なことを気付かせる。
 ・リンバロストの乙女
  父をリンバストロの沼で失ったエルノラは、母とふたりで森の傍に
  暮らしていた。たったひとりの母親はエルノラに冷たく、彼女の
  「学校へ行きたい」という夢を無視する。しかし、エルノラは
  夢を諦めず、植物の標本などを売り、自力で学校に通うのだった。

■感想 ☆☆☆☆
 「若草物語」や「秘密の花園」のジャンルは「家庭小説」と
 言うらしい。「古き良き時代」の少女の模範となるべき小説。
 そのジャンルを「家庭小説」と呼ぶあたりこそ、時代を感じさせる
 ように思う。

 「少女はこうあるべき」「こう育つべき」といった教訓盛り沢山の小説で、
 ヒロインはひたすら「良い子」。そして、良い子故に周囲の人に愛される。
 たまに虫の居所が悪くて、ちょっとした散財をしたり、
 失敗をしたりもするけれど、その失敗は「枠内」での失敗であり、
 ただちに反省もする。
 つまるところ、「大人」から子供たちに対する「期待」がたくさん
 詰まった小説なのだと思う。

 と、書いていると、「家庭小説」に苦手意識を抱いているように
 思われてしまうかもしれないが、実際にはその逆で、家庭小説大好きだ。
 なかでも「昔気質の一少女」「リンバロストロの乙女」
 「ローズの幸福」「若草物語」「秘密の花園」はお気に入り具合で
 優劣をつけられないぐらい大好き。
 素直で可愛らしい少女と、その少女を穏やかに暖かく見守る大人の存在、
 という構図が私を安心させ、心おきなくその世界に没頭させてくれる
 のだと思う。

 家庭小説が女性に特化した小説なのだと実感させられるのは
 話の流れに関係なく、食事や衣装が細かく描写される場面だ。
 時には、食事や衣装がまるまるストーリの中心に据えられ
 食べること、おしゃれをすることの楽しさやそれらが与えてくれる
 幸福感を疑似体験させてくれる。
 「昔気質の一少女」では「衣装」に関しての
 「リンバストロの乙女」では「食事」に関しての描写が特に多く、
 作者のこだわりを感じさせる。
 その時代特有の形態であり、今の私たちとはまったく違う部分も
 多いため、よく分からない言葉も多いのだが、
 それでも読んでいるだけでうきうきした気持ちにさせられるのは、
 私が女性だからなのだと思う。きっと、これらの描写の面白さは、
 男性には伝わりにくいのではないかと思うのだ。

 ラストは、やはり「女性視点」の王道であるロマンスで
 締めくくられるのも家庭小説の王道。
 ほんのりと品のよいロマンスが私をあたたかい気持ちにさせてくれた。
 この「めでたし、めでたし」の感覚が嬉しくて
 私は定期的に家庭小説を手に取りたくなるのだと思う。
 村岡花子先生、お世話になっています。

茶道具の楽しみ方

2009年03月20日 01時56分13秒 | 読書歴
23.入門 茶道具の楽しみかた

■内容
 茶の湯を日常生活に生かす。稽古で目にし、ふれる茶道具の特徴や
 扱い方を学び、身近にあるふだん使いの道具を茶道具として用いる
 「見立て」の楽しさ、取り合せの基本を紹介。
 手軽にできるお茶会のコツなども収録。

■感想 ☆☆*
 先週末、妹の仕事の関係で姉妹二人、お茶会に出席してきました。
 お茶屋さんで行われる本格的なお茶会で、前回、参加した時に
 自分たちの知識のなさを痛感したため、今回はほんの少し、予習。
 あくまでも付け焼刃ですが。

 本当の本当に「入門」で、「お、これはワタシも知っているぞ」
 と思うようなことも写真入りで丁寧に説明してくださってます。
 茶道具が分かるようになったら、かっこいいなぁと思うのですが
 やはりこの世界、奥が深いです。1日、2日の付け焼刃では
 歯が立ちません。

 けれど、お茶の魅力、そこに流れる静かなときの流れや喧騒を
 忘れて過ごす時間の大切さは伝わってきます。そして、だからと
 いって、「お茶」に対して、身構える必要はないよ、お茶って
 思っているより随分楽しいよ、と語りかけてくる声が聞こえて
 来るような本です。

 ・・・でも、やはりお茶会は身構えちゃいますけどね。
 わかんないこと、たくさんだし。その「わかんないことたくさん」
 の状況が楽しいな、と思ってます。

マチルダは小さな大天才/ロアルド・ダール

2009年03月20日 01時41分11秒 | 読書歴
22.マチルダは小さな大天才/ロアルド・ダール
■ストーリ
 マチルダは天才少女。三歳になる前に字が読めるようになり、
 四歳で有名な文学作品も読みこなす。ところが両親ときたら、
 そんな娘を「かさぶた」あつかい。「物知らず」だの
 「ばか」だのと、どなりちらしてばかり。学校にあがると、
 そこには巨大な女校長がいて、生徒をぎゅうぎゅう痛めつけている。
 横暴で高圧的な大人たちに頭脳で立ち向かうマチルダの痛快仕返し物語。

■感想 ☆☆☆☆
 定期的に読み返したくなる1冊。読むと必ず元気がもらえます。
 すかっとした後に「よし、がんばろう。」という気持ちになります。
 詐欺まがいの仕事をしている父親と下品でギャンブル好きな母親、
 そして「子供」が大嫌いな校長先生に囲まれて、自分の能力を
 もてあましているマチルダが自分の力で自分とお友達と
 大好きな先生を救う物語。

 「天才」というだけではダメで、自分の持っている能力を
 いかに使いこなすか、そのために、どれだけ自分で考えて動けるか、
 そして「幸せを手に入れよう」という強い意志を持っているか、
 それが大切なんだな、と思いました。

 マチルダは賢い。賢いから自分の賢さをまったくひけらかさない。
 けれど、謙遜もしないし、泣き寝入りもしない。やられたらやり返す。
 そのあたりがとってもかっこいい。
 自分の力を過不足なく把握すること、そして、今、自分にできる
 最善のことをしっかりと捉えられること。その大切さを痛感できる
 物語です。読み返すたびに思いますが、この本には小学生のとき、
 マチルダと同じくらいの頃に出会いたかったなー。きっと、今の
 数倍、わくわくして読んでいたと思う。