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のりぞうのほほんのんびりバンザイ

あわてない、あわてない。ひとやすみ、ひとやすみ。

海からの贈り物/リンドバーグ夫人

2009年10月27日 17時35分30秒 | 読書歴
96.海からの贈り物/リンドバーグ夫人

■内容
 大西洋横断飛行に最初に成功した飛行家リンドバーグ大佐夫人
 であり、自らも世界の女流飛行家の草分けの一人である著者が
 その経歴を一切捨て、一人の女として、主婦として、自分自身を
 相手に続けた人生に関する対話である。ほら貝、つめた貝、
 日の出貝などの海辺の小さな芸術品に託して、現代に生きる
 人間ならだれでもが直面しなければならぬいくつかの重要な
 問題が語られる。

■感想 ☆☆☆*
 最近、平易な文章にばかり触れていたため、読み難い日本語訳に
 すっかり手こずってしまったが、それでも読み進めながら
 しみじみと共感できる作品だった。
 むしろ、読み難い訳のおかげで、何度も読み返しながら読み
 進められ、通常以上に、文章の意味を、内容をかみしめながら
 読み進めることができたように思う。

 今から約40年前にアメリカ人向けに書かれたものではあるが、
 今もまったく状況は変わっていないことを実感した。
 むしろ、40年たったことによって、私たちの状況は当時よりも
 リンドバーグ夫人が警鐘を鳴らす状況に一層近づいているのでは
 ないか、という気がした。

 リンドバーグ夫人は、「最近の」男性も女性も、意識を外に
 向けてばかりで、自分を内部に向かわせることが少なくなった
 と指摘する。特に女性は、フェミニスト運動のおかげで、
 多くの権利を手にし、今まで以上に世の中での活躍の機会
 を持つようになった。けれど、そのために女性が失ったものは
 大きいのではないか、と彼女は訴える。
 人には自分を見つめる時間が必要であり、ひとりで考える
 時間が必要であり、孤独になることは大切である、という
 彼女の考えには心から共感できた。
 そして、確かにそのとおりかもしれない、と自分自身を省みた。
 インターネットにテレビ、携帯、様々なツールが増えたおかげで
 私たちの生活は便利になり、私たちは多くの情報を簡単に
 手に入れられるようになった。
 そして、その手に入れた情報のおかげで判断基準を増やす
 ことができている。だが、その中で、私たちがひとりで
 ゆっくりと物事に思いをはせる時間、物思いにふける時間は
 どんどん削られているように感じる。
 今、教育の世界では子供たちの想像力・創造力の欠如が
 指摘されていると言う。しかし、欠如しているのは、
 想像力でも創造力でもなく、それらを養う時間なのでは
 ないかと思った。

 だからといって、私は今の生活スタイルをすぐには変えられ
 ない。私は今の便利さを手放せられない。けれど、それでも、
 少しずつひとりに戻る時間を、自分ひとりで考える時間を
 確保したい。そう思った。

よつばと/あずまきよひこ

2009年10月22日 23時35分46秒 | 読書歴
95.よつばと/あずまきよひこ
■ストーリ
 いつでも、今日がいちばん楽しい日。
 夏休みの前日、とある町に強烈に元気な女の子「よつば」と、
 「とーちゃん」の親子が引っ越してきた。遠い海の向こうの
 島から来たらしい不思議な女の子、よつばがはじめて体験する
 「毎日」に振り回される周囲の人達。

■感想 ☆☆☆☆☆*
 ここ数年、家にある漫画を読み返したり、以前好きだった漫画を
 古本屋で読み返すことはあっても、新規開拓からすっかり
 遠ざかっていましたが、いろんな縁が重なったおかげで、
 久々に集中的に漫画の新規開拓を行えています。

 で、色々と読んだ最近の中でもピカイチだったのがこの作品。
 おもしろくて、おかしくて、かわいらしくて、いとしくて、
 ノスタルジックな気持ちに浸ることもできて、と
 この作品を読むだけで、心の中の様々な部分を刺激されました。

 物語はとてもシンプル。
 ある街に引っ越してきたよつばちゃんが父ちゃんや父ちゃんの友達、
 新しい街のお隣さんたちと一緒に「はじめて」を楽しむ物語。
 無邪気にどんなことでも楽しむよつばちゃんは、好奇心のかたまりで
 「はじめて」が大好き。「はじめて」ではないものも大好き。
 よつばちゃんは、どんなものだって楽しむ。
 それがたとえ、雨や風のような日常生活にあふれているものであっても。
 大雨の中、大喜びで外に出ていくよつばちゃんを心配する
 お隣さんへの父ちゃんの言葉が印象的。

 「大丈夫、大丈夫。
  あいつはなんでも楽しめるからな。よつばは 無敵だ。」

 この漫画を読んでいると、小さい頃の風景を、
 あの頃の空気のにおいを、あの頃の時間の流れを
 鮮明に思い出しているような気持ちにさせられます。

チルドレン/伊坂幸太郎

2009年10月22日 23時33分45秒 | 読書歴
94.チルドレン/伊坂幸太郎
■ストーリ
 こういう奇跡もあるんじゃないか?
 まっとうさの「力」は、まだ有効かもしれない。
 信じること、優しいこと、怒ること。それが報いられた瞬間の輝き。
 ばかばかしくて恰好よい、ファニーな「五つの奇跡」の物語。
 短編集のふりをした長編小説です。

■感想 ☆☆☆☆*
 5編のストーリーで、過去と現在を往復しつつ、陣内のぶれない
 人間性や、彼が父親に抱いていたわだかまりからの解放について
 描いた作品。
 各ストーリで、日常の1場面にスポットが当てられる。
 そこには、見過ごそうと思えば見過ごせる程度のちょっとした
 謎が隠されている。そのちょっとした謎に気付いているわけでは
 ないのに、陣内は彼特有の感性で敏感に反応し、いちゃもんを入れ、
 騒ぎ立て、いつのまにか謎を明らかにしていく。その隣で、
 目が見えないにも関わらず、唯一、起こっている出来事を正しく
 見ることのできる永瀬。
 そして、陣内に呆れながらも、彼の感性を認めている友人、鴨居。
 彼らが築いている関係の温かさ、親しさゆえの無遠慮さが大好きで
 気がつけば何度も読み返してしまう作品だ。

 突飛なキャラクターの陣内が周囲の友人たちにきちんと迷惑がられ
 呆れられ、そして結局は愛されている姿がいとおしい。
 突飛に見えて、枠におさまっていない分、実はもっとも真実や真理に
 近い陣内。だから彼の言葉は傍迷惑なのにポジティブだし、
 自分勝手なのに、希望にあふれている。人に元気を与える。
 「奇跡」は狙って起こすものではない。だから、意識して与えられる
 「優しさ」なんかを飛び越えたところにいる陣内の周囲に
 「奇跡」があふれているのかもしれない。

生き方上手~対話編~/日野原重明

2009年10月22日 23時29分53秒 | 読書歴
93.生き方上手~対話編~/日野原重明
■内容
 ミリオンセラー「生き方上手」の読者101人と91歳を越えた
 医師との対話。私たちにできることは、よりよい死を考えながら
 生きる、ただそれだけなのです。
■感想 ☆☆
 図書館へ行く、という私に祖母が「じゃあ、これも読んでみて。」
 と貸してくれた数冊のうちの1冊。祖母が本を読んでいる姿など
 見たことがないため、驚いたものの、だからこそ興味をひかれ、
 読み始めた。
 「生き方上手」の読者から送られた「読者カード」への回答が
 本になっているため、「生き方上手」を読んでいることが前提
 となっている。この本だけを読むことは想定されていないつくりと
 言っていいと思う。また、様々な年代の方に、見やすく読んで
 もらうよう構成されており、そのために文字が大きかったり、
 文字数が少なかったり、と少し物足りなく感じるところもある。

 けれど、そういったところを補って余りある説得力に満ちた
 言葉の数々だった。91歳を超えてなお、医師として現役で
 働き続けているという著者だからこそ、言葉に力を与えている
 のだと思う。それでいて、彼は「医師」という職業だけに
 人生を注いではおらず、「音楽」という楽しみも見つけて、
 今も毎日を生き生きと過ごしている。
 そういった充実した日々が彼に力を与え、そして読者である
 私たちにも元気を与えてくれるのだと思う。
 なにより、彼が持つすべてのものに対する「肯定」の気持ちが
 私を穏やかな気持ちにさせてくれた。

 こういったジャンルのベストセラーには苦手意識があるため、
 なかなか手に取れないでいますが、「生き方上手」は
 読んでみたいかも・・・と思わせられました。

きつねのはなし/森見登美彦

2009年10月19日 22時40分22秒 | 読書歴
92.きつねのはなし/森見登美彦
■ストーリ
 京の骨董店を舞台に現代の「百物語」の幕が開く。
 細長く薄気味悪い座敷に棲む狐面の男。闇と夜の狭間のような
 仄暗い空間で囁かれた奇妙な取引。私が差し出したものは、
 そして失ったものは、あれは何だったのか。
 さらに次々起こる怪異の結末は。妖しくも美しい幻燈に彩られた奇譚集。

■感想 ☆☆*
 「夜は短し 恋せよ乙女」ですっかり森見さんの虜となってしまい
 集中的に他の作品にも手を伸ばしている。彼の作品に共通して
 いるのは、リズミカルな文章、ユーモアあふれる言い回し、
 そして登場人物に対する作者の愛情だと思う。それらが森見さんの
 作品をどこかコミカルで、どこかとぼけた味わいあふれるものに
 しているのだと思う。
 しかし、この作品は、森見さんの作品に対する私の上記のような
 見解を見事に覆す作品だった。どこまでも森見さんらしくない作品。
 読みながら、谷崎潤一郎の「陰影礼賛」を思い出した。
 そして、純日本風の家屋の隅々に必ず存在する陰影を、
 畳の部屋に漂うほの暗い雰囲気を、雨の日に瓦屋根から落ちる雨だれ
 が響かせるぽつんぽつんという寂しい響きを思い出した。

 社会はどんどん便利になり、24時間、お店が開くようになり
 ほしいものが何時でも手に入るようになった現代。どこにいても、
 手軽に連絡を取り合えるようになった現代。
 それでも、私たちの中には、今も脈々と「暗闇」が満ちていた時代の
 「目に見えないもの」が信じられていた時代の、「神様」や
 「天狗」や「河童」などが人間のすぐ隣にいた時代の考え方が
 流れ、私たちに影響をしているのだと思う。
 この「不思議」な話には、日本人だからこそ分かる感覚が
 たくさん盛り込まれているような気がする。そして、そういった
 「不思議」を家屋が作り出す「陰影」を感じ取れる日本人の感性を
 私は、ひそかに誇りに思ってしまうのである。
 の存在を
 をどの作品もどこかまったく
 

そのときはかれによろしく/市川拓司

2009年10月19日 22時32分37秒 | 読書歴
91.そのときはかれによろしく/市川拓司
■ストーリ
 小さなアクアプランツ店「トラッシュ」を経営している主人公、
 遠山智史のもとに、ある夜、森川鈴音と名乗る美しい女性が現れ、
 アルバイトとして住み込みで雇ってくれるように頼む。智史は
 怪しく思ったものの、彼女に奇妙な懐かしさを感じ、受け入れる。
 一方、智史は、結婚紹介所で知り合った美咲さんと何度かデートを
 重ね、デートのたびに、自分の13歳のときの思い出話をしていた。
 13歳の彼に初めてできた友達、五十嵐佑司と滝川花梨との
 出会いから別れまでについて。
 やがて彼は、鈴音がかつての友人、滝川花梨だということに
 気づき・・・。

■感想 ☆☆*
 市川さんらしい温かいファンタジー。
 当初、心がすさんでいる私にとっては、ちょっぴり設定が結末が
 甘すぎるように感じられた。けれど、この物語の核は、当初、私が
 思っていたような、決してただ甘いだけの「男女のラブストーリー」
 ではないのだと思う。「友情」や「親子愛」なども含めた「愛情」
 の物語。そう思うと、「甘さ」が「気持ちのよい温かさ」に変わって
 感じられた。
 主人公である智史が友人たちに向ける愛情や、智史自身が両親から
 向けられる愛情は、私たちが普段、照れくささゆえに、なかなか
 口に出して伝えられない気持ち。だからこそ、そういった気持ちを
 素直に行動や口に出して行動できる主人公たちの様子が胸に響く
 のだと思う。最初は彼らをななめに見ていたが、いつのまにか
 そんな彼らにしっかりと感情移入してしまった私は、「そのときは
 かれによろしく」という言葉の温かさに、そしてそこに込められて
 いる気持ちの大きさ、暖かさ、果てしなさに、胸が詰まった。
 寒い冬、暖かい部屋の中で、暖かいストーブの傍で、暖かい飲み物を
 飲みながら読みたくなるお話。そして、読み終えた後、静かに
 大好きな人に思いを馳せたくなる。そんな気持ちにさせられる
 かわいらしい話だった。

バレリーナの小さな恋/L・ヒル

2009年10月17日 22時18分05秒 | 読書歴
90.バレリーナの小さな恋/L・ヒル

■感想 ☆☆☆☆*
 「小学館」の「小学○年生」シリーズを楽しんでいた私は、
 「まりちゃん」シリーズで「バレエをしている女の子」に憧れた。
 習いたいとまでは思わなかったけれど、バレエをしている女の子が
 主役の物語を見つけると必ず手に取っていたし、飽きることなく、
 頻繁に読み返していた。おそらくバレリーナの衣装やバレリーナ
 特有の優雅な動きが私の中に眠っているオンナノコ心を惹きつけて
 やまないのだと思う。

 この「バレリーナの小さな恋」は「ピンクのバレエシューズ」の続編。
 「ピンクのバレエシューズ」で、イギリスの片田舎にある親戚の家に
 ひきとられたヒロインは、その環境に負けず、独学でバレエの練習を
 続ける。彼女は豊かな自然に感受性を刺激し、バレエの才能も飛躍的に
 伸ばし、有名なバレエ学校への入学試験に合格する。
 ここまでが「ピンクのバレエシューズ」。

 続編にあたるこの話で、彼女は入学したバレエ学校で厳しいレッスン
 を受け始める。勿論、お約束のようにライバルが現れるし、
 嫌がらせも受ける。
 けれど、持ち前の勘の良さと感受性の強さで、めきめきと頭角を現し
 バレエ団への入団を許され、プリマとして認められていく。
 児童小説なので、話は短い。その短い話の中でヒロインが成功して
 いくので気持ちよく読み進められる。その結果、疲れた時などに
 つい手を伸ばしてしまう1冊になっているのだと思う。
 
 ヒロインはどんな状況でもめげることなくバレエに向かい続ける
 強さとバレエへのゆるぎない愛情を持っている。
 けれど、悲壮感を漂わせてはおらず、どこか無理をしているような
 印象もない。「なにくそ!」といったがむしゃらさもない。
 彼女は肩肘をはらず、自然体で過ごしている。だからこそ、そして
 悲壮感を漂わせることなく、軽やかにバレエに向かっているからこそ、
 私は彼女に憧れ続けているのだと思う。

小公女/バーネット

2009年10月17日 22時07分15秒 | 読書歴
89.小公女/バーネット
■ストーリ
 19世紀のイギリス。裕福だが母のいない家庭に育ったセーラ・
 クルーは、実業家でもある父親・クルー大尉の仕事の都合で
 イギリスのロンドンにあるミンチン女子学院に入学。寄宿舎で
 生活することになる。特別待遇となった心優しいセーラは、友人にも
 恵まれ、幸せな生活を送る。
 しかし、11歳の誕生日に、父親の訃報と事業破綻の知らせが
 セーラの元に届き、生活が一転し、屋根裏部屋に住まわせられ、
 女中奉公までさせられるようになる。貧しい暮らしの中でも、
 “公女様(プリンセス)のつもり”で、優しさを失わずに暮らすセーラ。
 ある日、隣の家にインドから富豪が引っ越してきて・・・。

■感想 ☆☆☆
 物心つくずっと前から「ハウス名作劇場」を見て育った(らしい)私は、
 この「小公女」を夕食時に見ていて、いきなり大号泣し、両親を
 びっくりさせたことがある。セイラとエミリー(フランス人形の形を
 したお友達)が羨ましかったし、その影響で、大きくなってもしつこく
 人形遊びをし続けていた。
 それぐらい愛着のある作品で、所有している文庫本の表紙は勿論、
 「ハウス名作劇場」のセイラがイラストで描かれているものである。
 (古本屋でこのイラストを見つけた瞬間、
  手にとってレジに向かってたっけ。)

 というわけで、割と定期的に読み返している作品。
 小さい頃は、読むたびに
 「セイラって、なんて健気なんだろう。」とか
 「セイラって、なんて偉いんだろう。」とか
 「セイラって、なんてかわいいんだろう。」とか思っていたけれど
 今、読み返すと、セイラの印象は以前と少し異なる気がする。

 ・・・もっとも、最後の感想に限らず、私のセイラに対する印象は
 小説というよりもアニメによって築かれた部分が多いわけですが。

 今、読み返すと、セイラは割と強情で、「健気」という感じではない。
 急激に変わった状況に耐え忍んでもおらず、どちらかというと、
 運命に立ち向かい、その状況の中で、負けまいと雄々しく戦っている
 女の子である。
 勿論、優しさも持ち合わせてはいる。けれど、それは先天的なもの
 ではなく、どちらかというと、彼女自身が自分の描いている理想像に
 追いつこうと考えた結果、養った「優しさ」のような印象を受けた。
 彼女はプライドを持って生きているし、プライドを持って理想を
 追い続けている。だから、プライドを傷つける人は許さないし、
 プライドがあるからこそ、無意識に人を見下している部分がある
 ような気がするのだ。
 ただ、それは、この作品が書かれた時代を考えるとしょうがない
 部分も大きいのだと思う。この時代には、確かに「階級差」があった
 のだろうし、その中でセイラは「上に立つもの」だった。
 「階級差がある状態」が普通で、その状態に疑問を挟む余地も
 なかったのだろうと思う。

 最後までアニメとの違和感を抱き続けたものの、その「階級差が
 ある状態」の中で、セイラが自分にできることを考え続ける姿、
 自分に与えられた特権に甘えず、自分自身とその階級を別に捉えて、
 自分自身を高めようとする姿は、とてもかっこよかった。

 ところで、このお話、現代の日本に設定を置き換えてドラマ化
 されるそうです。
 ・・・無理じゃない?
 どう考えても、この話は現代の日本に置き換えられないんじゃない?

9月の読書

2009年10月11日 09時42分57秒 | 読書歴
82.蟋蟀/栗田有紀
■ストーリ
 生き物をテーマにした10の物語たち。手を握ったひとの未来が
 見える占い師の身に起こったこととは?(サラブレッド)
 優秀でかわいい秘書は、研究室に大きな水槽を持ち込んで?
 (あほろーとる)。夫の出世で住むことになった社宅には不思議な
 サークル活動があって・・・(猫語教室)。
 生き物をテーマやモチーフや題名にしたちょっぴり不思議な短編集。

■感想 ☆☆
 ありえない出来事、奇妙な生き物がふんだんに現れるファンタジー
 である。しかし、読後感に残る感覚は、ファンタジー特有の
 心温まるものではなく人間に対してのうすらさむさ、人特有の孤独と
 そら恐ろしさだ。
 栗田さんの文章は他の作品と同様、とぼけた味わいで、
 ひょうひょうとしたリズムを打ち出しており、さらさらと読みやすい。
 しかし、だからこそ、描かれる人間たちの、孤独が身に迫ってくる。
 人は、誰かと関わったり、誰かに囲まれたりしているときのほうが
 より一層、孤独を感じるのかもしれない。そう思った。

83.夏のくじら/大崎梢
■ストーリ
 都会から高知にやってきた大学生・篤史は、従兄弟から強引に、
 本場のよさこい祭りに誘われる。衣装、振り付け、地方車、鳴子。
 六年ぶりに復活する町内会チームは、どこよりも熱い。
 南国高知、真夏の風は、空から海へと吹き抜ける。
 一途な思いを秘めて、踊る青春群像。

■感想 ☆☆☆☆☆*
 文字を追っているだけで、突き抜けるような青空が目に浮かび、
 掴めるのではないかと思うほどむっとした暑さの空気や
 自分の肌がじりじりと日焼けしていく感覚が肌に迫ってくる。
 なぜ、人は祭りに熱中するのか。
 何がこうも人を祭りに惹きつけるのか。
 その疑問に明快な答えはないが、何かに打ち込む行為は
 理由など必要ないほど、楽しく気持ちの良いことなのだと実感できる。
 物語に引き込まれた私は、クライマックスで、
 祭りに打ち込む主人公たちの感動を、確かに共有することができた。
 彼らの感動をまるで自分の体験のように共有でき、心を震わせられた作品。
 恩田陸さんの「夜のピクニック」を思い出した。

84.ふくろうの叫び/パトリシア・ハイスミス
■ストーリ
 結婚に失敗し、精神的に疲れていたロバート・フォレスターにとって、
 幸せそうに生活する女性ジェニファーの姿をこっそり眺めることが、
 唯一のやすらぎだった。ある夜、ついに見つかってしまった彼を、
 意外にもジェニファーは暖かく迎え入れてくれる。
 その上、彼の孤独感に共鳴し、出会いを運命的なものと感じた彼女は
 恋人グレッグとの婚約を破棄してしまった。嫉妬と復讐にかられた
 グレッグは、ロバートを執拗にねらい始める。

■感想 ☆☆*
 20年前の作品ではあるが、テーマ、人間描写、共にまったく
 古さを感じさせない作品。
 狭い小さな街ゆえの濃密な人間関係が緊迫した状況を生み出していく。
 もがけばもがくほど追い込まれていく主人公のやりきれなさと、
 その末に待ち受ける結末に読み終えた後、茫然とした。
 人間の、そして女性の嫌な面がデフォルメされて表現されているものの
 それは確かに私の中にもある一面で、ぞっとしながら読み終えた。

85.やがて哀しき外国語/村上春樹
■内容
 初めてプリンストンを訪れたのは1984年の夏だった。
 F・スコット・フィッツジェラルドの母校を見ておきたかったからだが、
 その7年後、今度は大学に滞在することになった。
 2編の長編小説を書きあげることになったアメリカでの生活を、
 2年にわたり日本の読者に送り続けた16通のプリンストン便り。
■感想 ☆☆☆☆*
 村上作品のファンは多いけれど、同じぐらいアンチファンも
 多いように感じる。かくいう私も数年前までは、アンチファンと
 まではいかないけれども、彼の文章を読めないでいた。
 彼の文章を何度読んでもまったく記憶できず、読んでも読んでも
 さらさらと流れていく文章や盛り上がりの感じられないストーリ
 展開にてこずっていた。
 しかし、エッセイを読み始めてから、彼に対する印象が一変した。
 彼の文章の美しさ、平易な文章からにじみ出る知性に感嘆し、
 「尊敬する作家」となった。
 つまり、私にとって「エッセイ」が村上春樹の出発点であり
 彼の魅力をあますところなく伝えてくれる形態だ。
 そういった親しみやすさは、この作品でも健在。
 親しみやすさだけではなく、筋の通ったこだわりややわらかく
 あたたかな人柄、どんなに失敗談を書き連ねても伝わってくる
 知性も健在だ。
 どこの国で過ごそうとも、彼の日常は、彼のゆるぎない信条によって
 穏やかに保たれていて、大切なもの、大切でないものがはっきりしている。

 彼のように大きな目で世界を見つめられる人になりたいと憧れる
 のですが、先輩からの「器が違うよ。」という言葉に、改めて深く
 納得したのでした。

86.秋期栗きんとん事件(上)(下)
■ストーリ
 あの日の放課後、手紙で呼び出されて以降、ぼくの幸せな高校生活
 は始まった。学校中を二人で巡った文化祭。夜風がちょっと寒かった
 クリスマス。お正月には揃って初詣。
 ・・・それなのに、小鳩君は機会があれば、彼女そっちのけで謎解きを
 繰り広げてしまう。そのころ、校区を襲う連続放火事件が少しずつ
 エスカレートし始め、小鳩君はとうとう本格的に推理を巡らし始める。
 シリーズ第三弾。
■感想
 最近の小学生は「目立つ」ことを恐れるそうだ。
 「目立つといじめられる」という図式が出来上がってしまった現代の
 学校社会。小鳩くんと小山内さんも「目立たないように」
 「小市民的に」生きようと努力する。「普通に生きよう」と意識して
 行動するあたりに主人公たちの思春期特有の「有能感」が感じられるし、
 そこがまた、「彼らの普通さ」を表している気がする。
 「目立っても得になることなどない」と思う気持ちと「でも、自分には
 こんな能力がある」と誇示したくなる気持ち。その二点間を小鳩君は
 不安定に揺れ動く。
 一方、小山内さんは、小鳩君ほど揺れ動くことなく、自分自身と
 決着をつけ、自分らしい生き方を模索し始める。
 主軸はあくまでも主要人物ふたりであり、連続放火事件は
 サイドストーリ。しかし、そのサイドストーリにふたりと小山内さんの
 年下の彼が関わり、三人の関係に大きく影響を及ぼし始める。
 クライマックスに私は爽快なきもちを抱いたが、よくよく考えると、
 思春期の男性には非常に酷な展開だと思う。それでも、私はその展開に
 不愉快な気持ちは抱かなかった。
 それが「女性の持つ残酷さ」なのかもしれない。
 前作で袂を分かちあったふたりが再び、共に生きることを選択する
 ラスト。次作ではおそらく高校卒業。いよいよこのふたりともお別れ
 なのかと思うと少しさびしい。

88.無名
■内容
 一合の酒と一冊の本があれば、それが最高の贅沢。そんな父が
 ある夏の終わりに脳出血のため入院した。混濁してゆく意識、
 肺炎の併発、抗生物質の投与、そして在宅看護。病床の父を
 見守りながら、息子は無数の記憶を掘り起こし、その無名の人生の
 軌跡を辿る。
■感想
 尊敬している父親が入院をきっかけに弱っていく様子を、作者は
 感情をおさえた文章で静かに書き記す。数奇な運命を経て「有名」
 になり得なかった父親の人生に思いを馳せる作者。ベッド脇で
 父親と過ごす夜、彼は父親が残したいくつかの俳句を丁寧に読み解き、
 彼の「生き方」や「美学」に思いをはせる。
 弱っていく父親の様子が克明に描写され、その姿と私の祖父や
 祖母の姿が重なった。
 私の祖父は倒れて病院に運ばれ、そのまま意識が戻ることなく
 半年間を病院で過ごした。祖父を看取った祖母は今、入院と在宅での
 看護を繰り返している。作品内でも描かれていたが、入院生活による
 行動範囲の狭まりは、確実に意識の混濁を引き起こす。
 高齢者にとって、意識の混濁は、その後に訪れるであろう「痴呆」
 を指し示す。しかし、現代の日本では、在宅介護が家族に及ぼす
 影響は大きく、介護を受ける本人も子供たちとの同居を望まないこと
 が多い。私の祖母も「ひとりぐらし」を望み続けるひとりだ。
 だからこそ、作者の祖父が在宅看護を始めようとした矢先に
 息を引き取ったとき、子供たちが「家族には迷惑をかけない、
 という父親なりの決意なのかもしれない」と受け止めた点に共感できた。
 高齢者にとって、「生きる」こと、「穏やかに死を迎える」こと、
 そして「死が訪れるその瞬間まで生きることへの熱意を持ち続ける」
 ことは非常に難しいのだと思う。
 「無名」のまま、地位にもお金にも権力にも何の執着を見せずに
 生き続け、穏やかに亡くなった作者の父親の人生は、彼なりの
 人生哲学を貫いた、という点でとても幸せな人生だったのだと思う。
 彼の選ぶ言葉には、彼の飾らない人柄がよく表れていると感じた。

8月の読書

2009年09月14日 00時06分02秒 | 読書歴
73.φ(ファイ)は壊れたね PATH CONNECTED φ BROKE
■ストーリ
 旧友のマンションを訪ねた山吹はそこで奇妙な事件に遭遇した。
 まるでおもちゃ箱のように、過剰なまでに彩られた部屋の中で、
 背中に羽を生やした男の死体が宙吊りにされていたのだ。
 現場は密室。そしてその密室には一部始終を捉えた『φは壊れたね』
 と銘打たれたビデオテープが残されていた。

74.θ(シータ)は遊んでくれたよ ANOTHER PLAYMATE θ
■ストーリ
 那古野で起こった転落事件。死体の額には口紅でギリシャ文字の
 「θ」が描かれていた。最初は飛び降り自殺とされたその事件だが、
 その後も相次いで「θ」の描かれた転落事件が発生する。1人目の
 自殺者のパソコンには、『θ』という名の、人工知能と会話が
 出来るサイトへのアクセス履歴があった。

75.ε(イプシロン)に誓って SWEARING ON SOLEMN ε
■ストーリ
 偶然同時期に上京していた山吹と加部谷は、東京から那古野への
 帰路で同じバスに乗ることになった。しかし、2人が乗ったバスは
 発車して程なく1人の男にジャックされてしまう。
 バスの乗客名簿には『εに誓って』という名の宗教団体の名が
 記されていた。

76.λ(ラムダ)に歯がない λ HAS NO TEETH
■ストーリ
 実験のためにT建設を訪れていた国枝研究室の面々は、
 そこの研究所で奇妙な事件に遭遇。密室状態の部屋の中で、
 歯を全て抜かれた4人の男が銃殺されていたのだ。
 被害者のポケットには『λに歯がない』と書かれたメモが入っていた。

77.η(イータ)なのに夢のよう Dreamily in spite of η
■ストーリ
 通常では考えられない、地上12メートルの松の枝で
 発見された首吊り死体。現場近くの神社では
 『ηなのに夢のよう』と書かれた絵馬が発見された。
 その後も奇妙な場所での首吊り自殺が立て続けに発生するなか、
 西之園は親友、反町愛の恋人である金子から両親の飛行機事故の
 真相を知らされる。

■感想 ☆☆☆*
 久しぶりに森作品をまとめて読破。Vシリーズ以降、森作品から
 すっかり遠ざかっていたが、「イナイ×イナイ」で改めて森作品の
 「西ノ園萌絵」にひかれ、手に取った。
 シリーズよりも彼女の出番が多い点は、非常に満足。
 特に2作目「θは遊んでくれたよ」は犀川先生の出番も多く、
 特に面白く読み進めた。
 ただ、そのふたりの登場シーンや西ノ園萌絵の両親の事故に関する
 新事実以外は特に興味をひかれる部分がなかったのも事実だ。
 新シリーズのヒロインの影が薄いように感じた。

78.東電OL殺人事件
■内容
 1997年3月8日深夜。渋谷区円山町でひとりの女性が
 何者かによって絞殺された。被害者渡辺泰子が、昼間は
 東電のエリートOL、夜は娼婦というふたつの顔を持っていた
 ことがわかると、マスコミは取材に奔走した。
 逮捕されたのは、ネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリ。
 娼婦としての彼女が、最後に性交渉した「客」であった。
 衝撃の事件発生から劇的な第一審の無罪判決までを追った
 ノンフィクション。

■感想 ☆(作品としては。ただ、事件そのものに色々と
      考えさせられたため、気持ち的には☆☆☆☆)
 「事実は小説よりも奇なり」
 この言葉を強く実感した。12年前、ワイドショーが騒いでいた
 ことをおぼろげに覚えている。それぐらい報道が過熱した事件だが、
 改めてこの本を読み、その「事実とは思えない事実」に驚愕した。
 ただ、驚愕している頭のどこか片隅で、被害者となった彼女が
 なぜそういった生き方を選んだのか、そこをもっと知りたい、
 彼女の本音を聞きたい、彼女と話したい、と思う自分もいて、
 この事件があんなにもセンセーショナルに扱われたのは
 単なるワイドショー的悪趣味な覗き見根性だけではなく、
 当時も多くの女性たちがA子さんの選択を否定せず、
 驚愕しながらも、「彼女をしりたい」と思ってしまったからでは
 ないかと感じた。
 とは言え、このルポ自体は非常に読みにくかった。
 本来、冷静に事件を伝えるべきはずのルポライターの私情が
 情緒的な比喩表現とともに、ふんだんに盛り込まれている。
 特に男性特有の思い込み、というか「俺はわかってる」的な
 事件の追いかけ方には、若干、いらだちを覚えた。
 事件から10年以上経った今だからこそ、もう少し冷静に
 この事件を再検証するようなルポが出てくれればいいのに、と思う。
 事件から10年以上経っていたとしても、この事件について、
 この事件の被害者であるA子さんの行動については
 「古さ」が感じられない。そう思った。

79.TSUGUMI/吉本ばなな
■ストーリ
 病弱で生意気な美少女つぐみ。彼女と育った海辺の小さな町へ
 帰省した夏、まだ淡い夜のはじまりに、つぐみと私は、ふるさとの
 最後のひと夏をともにする少年に出会った。少女から大人へと
 移りゆく季節の、二度とかえらないきらめきを描く。
 切なく透明な物語。

■感想 ☆☆☆☆*
 久々に読み返した吉本作品。
 何度読み返しても、彼女の文章表現の巧みさや文章の温かさに感動する。
 読み返せば読み返すほど、そして年を重ねるほどに
 彼女の文章の温もりをいとしく感じるようになった気がする。
 ヒロインであるつぐみの魅力は飛びぬけている。
 どんなに我がままでも、粗野な口調でも、乱暴なたたずまいでも
 彼女の印象はキュートで繊細、どこまでも「オンナノコ」なのだと思う。
 彼女がスカート姿であぐらをかく様子や
 誰かに対して「おい、お前。」と乱暴に呼びかける様子、
 体調を崩した時の青白い顔色や苦しそうな呼吸のもとで
 「メロンを買ってこい。」とわがままをいう様子。
 色あせない彼女の魅力が私の中に鮮明に残っていて
 小説世界の人間とは思えないほどリアルによみがえってくる。
 彼女のキャラクターだから、この作品からは「生きること」への
 前向きさが伝わってくるのだと思う。そういった重いテーマを
 軽やかに描いているところがこの作品の最大の魅力なのだと思う。

80.有頂天家族/森見 登美彦
■ストーリ
 時は現代。下鴨神社糺ノ森には平安時代から続く狸の一族が
 暮らしていた。今は亡き父の威光消えゆくなか、下鴨四兄弟は
 ある時は「腐れ大学生」、ある時は「虎」にと様々に化け、
 京都の街を縦横無尽に駆けめぐり、一族の誇りを保とうとしている。
 敵対する夷川家、半人間・半天狗の「弁天」、すっかり落ちぶれて
 出町柳に逼塞している天狗「赤玉先生」。天狗と人間が入り乱れて
 巻き起こす三つ巴の化かし合いが今日も始まった。

■感想 ☆☆☆
 「面白きことはよきこと哉」を座右の銘にしている狸が主人公。
 というと、ふざけた内容のユーモア小説に聞こえるが、
 そして、実際、堅苦しくまとまってはおらず、
 どこまでもユーモアを基調にしてはいるが、
 話の核は「家族」であり、「人と人との(狸と狸との)思いやり」
 である。父親の死以来、ばらばらになってしまった家族が、待ち受ける
 危機を目の前に、母親を、そして家族の誇りを守るために
 一致団結していく姿がテンポの良い文章で綴られる。
 クライマックスに向けての疾走感と高揚感が気持ちの良い一冊。
 家族だからこそ、話せないこと、吐き出せない本音があるけれど
 家族だからこそ、話さなくても傍にいるだけで分かること
 分かりあえることも大きいのだとしみじみ思える作品。

81.夜の光/坂木司
■ストーリ
 慰めはいらない。癒されなくていい。
 本当の仲間が、ほんの少しだけいればいい。

 本当の自分はここにはいない。高校での私たちは、常に仮面を
 被って過ごしている。家族、恋愛、将来。問題はそれぞれ違うが、
 みな強敵を相手に苦戦を余儀なくされている。そんな私たちが
 唯一寛げる場所がこの天文部。ここには、暖かくはないが、
 確かに共振し合える仲間がいる。

■感想 ☆☆☆
 坂木さんらしい優しさに満ちた作品。
 辛いこと、理不尽なことが日常にたくさん溢れていても、
 その現実を共有できる誰かがいることで乗り越えられることは大きい。
 現実を共有するだけでは、問題は解決しない。
 しかし、問題が解決しなくても、誰かが分かってくれることが
 大きな救いになるときはあるのだと思う。
 主人公たち4人は、優しい言葉を掛け合うことも、
 現在抱え込んでいる問題について悩みを吐露しあうことも
 慰めあうこともない。必要以上にもたれあわないのに
 お互いへの思いやりに満ちた関係が築けている姿が清々しく
 さわやかな気持ちで読み終えることができた。