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西岡常一・宮上茂隆・穂積和夫「法隆寺」

2021年09月12日 | 斜読

book234 法隆寺 西岡常一・宮上茂隆・穂積和夫 草思社 2008.10  斜読・日本の作家一覧> 

 1980年ごろ、著名な建築を図解し、分かりやすい説明をつけた本が数多く出版された。子ども向けであるが、その道の達人が筆を執り、事実に基づいた説明を書いているので大人にも十分に手応えがある。
 「法隆寺」も昭和の宮大工として名を残す西岡常一氏(1908-1995)と日本建築の研究者として知られる宮上茂隆氏の執筆に、イラストレーターの穂積和夫氏が絵を描いていて、さっそく購入し、奈良の旅の資料とした。(子どもが小学生のころに見せたが早すぎた)。
 日本の木造とヨーロッパの石造を対比させた「木の文化・石の文化」をテーマに出張授業を行う機会があり、図の多いこの本を参考にしようと改めて読み直した。世界最古の木造建築として知られる法隆寺であり、中学の修学旅行や大学の古建築研修で見学し、2008年2月にも訪ねているので基本的なことは分かっているつもりだった。が、読み直して、理解に曖昧な点の多いことに気づいた。
 通り一遍の知識におぼれてしまうと先入観でものをみるようになってしまう。

 2019年3月に法隆寺、中宮寺を訪ねたときも「法隆寺」に目を通し、2021年8月に紀行文奈良の旅を書くときに要所を参考にしたので、2010.10の斜読b234に加筆し、再録した。
 
p4~5 日本には良質な檜が豊富にあったことが木造建築を発展させた・・、神社建築は単純な建物だからもとの通りにつくりかえることができた(伊勢神宮などの式年遷宮)・・、仏教の伝来とともに中国式の複雑なつくりで頑丈で長もちする寺院建築が伝わった・・、日本には奈良時代の堂塔が20余も残っていて、法隆寺の金堂と五重塔が世界最古の木造建築・・などの常識が、簡潔に整理されている。
p6~7 聖徳太子(574-622)が斑鳩に寺(=法隆寺)を造営したいきさつ、先立つ587年の仏教推進派の蘇我氏と反対派の物部氏の戦い、中宮寺建立、政権争い、大化の改新、斑鳩寺炎上が簡潔に記されている。・・教科書で習った日本史の復習だが、簡潔すぎると話の面白さに欠ける。主題が法隆寺だからやむを得ないが、子ども向けには要点を絞る工夫が欲しい。親の務めかな?・・。
p8~11 天武天皇即位後、法隆寺再建が始まる。土地区画による新たな敷地では、南に東、北に金堂の配置が難しく、東に金堂、西に塔の配置になったなどが紹介される。・・塔、金堂の南北配置と東西配置を図解してくれると理解が早い。これも親の務めのようだ・・。

p12~13には再建金堂の展開図が大きく描かれ、北面の西側から文殊菩薩、弥勒浄土、薬師浄土、普賢菩薩が図化されている。同じく東面に十一面観音、釈迦浄土、半跏菩薩、南面は観音菩薩、勢至菩薩、西面は半跏菩薩、阿弥陀浄土、聖観音菩薩が図化されている。
 金堂は入ることができないし、パンフレットなどの文字情報だけでは空想しにくいが、図解に加え菩薩や浄土の配置が説明されると、当時の仏教思想が理解できる・・子どもには補足が必要・・。

p14~15は金堂の礎石作りの話、水平を確かめる水ばかり(p18にも再掲)、水糸の知恵は子どもの興味を引く。
p16~23には木材の切り出し、木材加工の道具、切り出した柱をまず八角形に削り徐々に丸くする手順、円柱の中ほどを上下より太くするエンタシスが図解されている。
p27~28の斗と肘木の複雑な組物は、図解されると理解が早い。p29~30その斗・肘木に垂木、桁をのせ、p18~29屋根の骨組みが出来上がっていく。ところどころ専門的な解説が入るが、図解が理解を助ける。子どもでも分かりやすい。
p30~31で1階の屋根の骨組みが完成、p32~33で2階の骨組みを組み、p34~35で入母屋屋根が完成する。
p36~41は瓦を焼く窯、瓦の種類、瓦の葺き方、瓦の重さを支える工夫が図解される。解説が難しくても図だけで要点は理解できる。

p42~43はいまではほとんど見られなくなった土壁の作り方、p44~45に塗装の色と役割の紹介と、連子窓、高欄=手すり、扉の図解、p46~47に石の加工と基壇の作り方の図、p48~49に室内の塗装と落書きが図解される。
p50~51には室内の壁に描かれる仏教画、p52~53に仏像の安置が図解され、p54~55金堂が完成する。

p56~57金堂の次は塔の建設である。天武天皇の跡を継いだ皇后の持統天皇の時代に着手、塔は金堂の高さの2倍30mで計画された。p58~59吉野から檜を切り出し、いかだに組んで川に流す。
p60~61心柱を支える巨石=心礎を地下に埋め、心礎の上面に穴をうがち、釈迦の遺骨=舎利を納める。心柱が釈迦の象徴になる。
p62~63木材を加工し、p64~65心柱を立て、周りを埋め戻し、基壇をつくる。
p66~67には部材の名称と組み立ての順番が図解され、p68~71に組み立ての断面が図解されていて、五重塔の組み立てを現場で見ている気分になる。
p72~73は心柱の最頂部に立つ相輪の詳細が描かれている。相輪の詳細は肉眼では分からないので、図解を見ると理解できる。
p75~76屋根に瓦を葺き、壁を仕上げ、連子窓、扉を取り付け、p76室内を仕上げる。金堂と同じ工程なので図解は簡略されている。
p77五重塔が完成する。五重目の屋根の大きさは一重目の屋根の半分にしてあり、安定感と天に昇る勢いを感じさせる。

ところが、金堂の1階の屋根の四隅の軒が下がってきたので、p78~79金堂の軒を支える柱を立て、裳階と呼ばれる庇を回して外観を整えた。五重塔の1階にも裳階を加えてバランスをとることにした。五重塔だが、裳階に気づかないと六重に勘違いしてしまう。
p80~81は五重塔1階の仏壇の釈迦涅槃の彫刻、p82~83は中門と回廊が描かれている。
p84~85には飛鳥寺、四天王寺の配置図を対比させながら、法隆寺建設に有力者の援助があり、講堂、鐘楼、経楼がつくられ、p86~87いまに残る法隆寺伽藍ができたことが鳥瞰図で図解され、どのように法隆寺がつくられたかが完結する。

 小学6年以上のための図解本なのでもっと専門的な知識を得たい人のため、p88~93に宮上茂隆氏が解説を書いている。
 p94の西岡常一氏のあとがきに、・・使うときには自分が土になりきり、木になりきり、石になりきって仕事に勤める・・と述べている。宮大工の徹底した生き方を感じる。
 建築は出来上がってしまうと作り方の手順や骨組みの詳細は見えなくなってしまう。それを分かりやすく図解した本は子どものみならず大人の理解も助ける。・・解説は難しいので、子どもに読み聞かせるときはあらかじめ目を通し子どもが興味を持つような補足をするとよい・・。
 この本は「日本人はどのように建造物をつくってきたか」が丁寧に解説されている。法隆寺拝観者には絶好の副読本である。  (2010.10+2019.9)

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