book477 戦国の勇者17 津野田幸作 歴史群像新書 2011 (斜読・日本の作家一覧)
津野田氏の本は初めてである。2018年10月に香川の松山城、愛媛の松山城、宇和島城などを巡った。復習の本を探し、副題が「松山城攻防戦」と書かれたこの本を見つけた。目次にも高松城や村上水軍とある。読み始めたがどうも話が合わない。なんと、ともに備中の松山城、高松城だった。織田信長暗殺後の戦国時代、真田軍の小田原城攻め、秀吉軍の松山城攻め、村上水軍の大坂城砲撃が中心で、攻防戦が詳しく描かれているので、読み通した。
第1章 大手門侵入戦 、第2章 幸田門口の激戦 、第3章 搦手門の攻防は小田原城を舞台にした北条軍と真田軍の攻防である。巻頭に図示された主要大名勢力図によると、真田家が信濃を中心に、北の能登、越中、加賀、西の越前、美濃、東の甲斐、南の駿河一部、伊豆まで勢力を広げている。この勢力図のほかの大名は飛騨の金森家、駿河~遠江~三河以西の徳川家、関東の北条家、越後の上杉家、関西の羽柴家と丹後若狭の丹波家しかいない。これほど真田家が勢力を広げているのは初耳である。知将真田昌幸、次男真田幸村の力量であろう。
当然、優れた配下が大勢いた。P33に小田原城要図が図示されている。東の大手門に真田幸村始め、池島秀成、上杉景勝、北の真田口門に前田慶次郎、長連龍、直江兼続、南の搦手門に滝川義太夫、丸目蔵人が圧倒する戦力で構えている。この要図を見ながら攻防戦を読むと、臨場感が高まる。
小田原城主は後北条4代氏直だが、隠居した3代氏政がまだ実権を握っていた。司馬遼太郎著「箱根の坂」book471には、京都生まれの北条早雲が箱根の坂を越え、小田原城を築造、戦国時代の先駆けになったことが詳しく描かれている。しかし、周りの既成勢力が虎視眈々と後北条家を狙っていた。後北条家は堅固な小田原城に守られ敵を撃破していたが、新式の鉄砲、さらには大筒の時代に移っていた。
P20・・1586年、真田軍による大筒で戦端が開かれた。大手城門は崩れ落ち、北条勢は三の丸に板楯を置いて待ち構えるが、池島勢が優勢に攻め込み、北条勢が後退し始める。
P34・・幸田口から三の丸を目指す前田勢、長勢は、北条勢の柵を乗り越えるため、筏に脚と天井を取り付けて北条勢の攻撃をかわしながら柵を乗り越え、三の丸に侵攻する。一方、幸田口から評定曲輪を目指す直江勢も筏に加工して城門を打ち破り、評定曲輪に侵攻、二の丸に向かう。
搦手門では滝川勢と丸目勢が、真田幸村の応援を得て、火矢で城門を焼き落とす。
ところが真田軍による小田原城攻防はここで終わってしまう。実際の小田原城落城は1590年の豊臣秀吉の攻撃であるから、北条軍は2年ほど持ちこたえたのだろうか。その後の展開も書いて欲しかった。
小田原城は2回訪ねている。江戸時代に規模が大幅に縮小され、明治には廃城となり建物は解体されたが、天守はコンクリート造で復元された。門も順次復元されている。さらに復元が進めば小田原城攻防を彷彿できるかも知れない。
第4章 高松城奇襲作戦 、第5章 大谷吉継奮迅すは羽柴秀吉の毛利攻略が主軸になる。P129に松山城周辺要図、松山城要図が図示されている。周辺要図に、備前の岡山城、備中の高松城、鶴首城、松山城、備後や出雲、安芸の城が記されている。
羽柴秀吉は、軍資黒田官兵衛から真田、徳川と戦うには所領が不足しているとし毛利攻略を勧められる。毛利輝元はまだ若かったため、官兵衛の策略にのせられてしまう。
大坂城に藤堂高虎、前田利家を残し、秀吉・官兵衛は、高松城攻めに宇喜多忠家、松山城攻めの先陣に加藤清正、二番手に大谷吉継、三番手に山内一豊、水の手口の先鋒に福島正則、二番手に堀尾吉晴、三番手に加藤嘉明、本陣詰めに石田三成を指名する。総勢は六万人に近くなった。
岡山城で一日休息をとり、宇喜多軍は三里ほど離れた高松城へ夜を徹して行軍する。毛利側の最前線でありながら高松城では敵襲を予想しておらず、宇喜多軍は難なく城門を開くことができ、三の丸、二の丸に侵攻、城を落とす。
一方の松山城攻めも、守備兵が少ないため反撃できずに撤退し、大谷吉継が一番乗りする。さらには二里ほど先の鶴首城も落とす。
第6章 小早川隆景の決断 、第7章 村上水軍の戦いは、毛利家小早川隆景が秀吉に一矢報いようと、村上水軍の長である村上武吉に関船にのせた大筒による大坂城砲撃を依頼する。隆景はその足で、真田昌幸に会いに行き、陸からの大坂城攻めを頼む。真田は動かなかったが、村上水軍は淀川を上り、大筒砲撃で大坂城の米蔵を炎上させる成果を上げる。
城を取り上げた多くの本は、城の歴史、城の構造をていねいに紹介しているが、城を舞台にした攻防戦を描いた本は少ない。城の多くは戦いや地震、火災で損傷、焼失し修復、改修され、さらに明治維新後に多くが廃城、解体されて遺構も資料も限られているためであろう。城は攻防戦のために築城されたのだから、この本のように攻防戦を前面にした物語は城の役割を臨場感を持って理解することができる。(2018.12)