12月15日(日)、曇り。
今年もあと半月になりました。今日も寒そう。
話を駒の漆文字に戻します。「駒の漆文字について」の続き。
駒の作り手にとって、材料はたまたまの偶然の出会いであり、駒にとって書かれた文字は、作り手にとっても、最も重要な要素だと考えています。
この考えは駒づくりを始めたときからの思いであり、作者として少しでも良い字が書けるよう中国や日本の古典の鑑賞し目を養うとともに、筆に慣れることも重要で、筆をいつも身近に置く習慣づけが大切です。
しかし、普通駒の場合はサラッとした普通の墨書とは違って漆書きなので、その粘りに対応する技の習得が大切で、これには漆の特徴をよく会得しなくてはなりません。
私の場合、最初から盛り上げ駒を作っておりましたが、水無瀬兼成卿が立派な文字で活き活きした肉筆で一筆の書き駒は、到底作れないと直感。基本となる書の素養レベルが段違いなのが分かりました。
何年、何十年かかるか分からないけれども、水無瀬兼成卿の駒に少しでも近づきたいものだと、いつもの盛り上げ駒を作りながら、漆で一筆で文字を書く練習を続けて、ようやく何とか他人に見てもらえそうな文字が書けるようになったのは、それから25年くらい経った50何歳かの時でした。それは、大阪商業大学の谷岡学長から「世界一大きい将棋駒」を作ってほしいというリクエストで、それは、36x36升、駒数804枚の「大局将棋」でした。
「大局将棋」は、将棋博物館に寄贈された大橋家文書の中で発見された資料にあって、それを復元したいというものでした。
さて、804枚ある駒数は、普通の将棋の20組分。これをどう作ればよいか。思いついたのは昔ながらの方法で、書き駒で作るという考えです。漆で一筆で文字を書く練習は続けていましたので、それを成果につなげる良いチャンスだとも思いました。
新しくオープンする大学のアミューズメント産業研究所の常設展示室に使われる盤と駒のサイズは、小生に任されていました。
いろいろ考えた末、駒は実際に指すことを考えるとレギュラーサイズに近い大きさがよい。それだと盤は縦150センチ、横幅135センチほどで、これなら大きく手と背を伸ばせば敵陣にも手が届く。ということで、これに決めました。
文字は、菱湖や水無瀬でなく、自分の文字で、その雛型づくりから始めました。
駒は209種類。玉将をのぞいては裏もあるので、文字の種類は400種類を超える。雛型の表は太い楷書で書き、裏は細身の崩し字行書で書く。そうすれば、一見で表裏が分かりなり、より機能的。実物大で紙に書く雛型の文字は、気に入らなければ、2度3度と書き直して、その中から選び、雛型のツゲ木地に貼り付けるというわけです。
209種類の雛型が出来上がると、次は実際に必要枚数を漆で書く作業ですが、ここでの問題は、漆のネバリをどう克服するかということです。
ポイントは、いくつかあります。
先ず第一は、漆にもいろいろあるので、ネバリの少ない漆を使うことです。そのためには、いろいろのメーカーや、精製度が違う漆を入手し、実際に使っての確認が不可欠です。
次に、漆は使っているうちに、だんだん粘り気が強くなる性質があるので、粘り気が少ない状態で使うという気づかいも必要です。
ポイントは、漆だけではありません。筆も重要で、漆のネバリに負けない腰の強い穂先が不可欠。筆も色々手に入れて試してみましたが、これには質の良い玉毛(猫の首筋の毛)で作られた「蒔絵筆」が最良でした。同じ玉毛で作られた蒔絵筆でもピンキリで、質の良い玉毛で作られた蒔絵筆は、漆に負けないことと、漆の含みが良いのですが、最近は上質な玉毛そのものが枯渇していて、とにかく最上の筆を入手することすら不可能になっているようです。
盛り上げ駒もそうですが、文字は正対して書く。当然の話ですが、これが正しい文字の書き方で、これができないようでは、肉筆の文字とは言えないのですね。
12月13日(金)。
今日は晴れました。
映像は、ある方からリクエストをいただいて制作中の香車の根付。
数が60個余り纏まってのことなので、どんなものでどのように作ろうか、と考えておりました。
しかし、いつまでも考えていても仕方がないので、気分転換に試しに書くことにしました。
根付なら、4枚とか20枚とかをぴったりそろえる必要がない。一枚ごと単独で使われる。ということで自由な気分でフリーハンド。楽しみながら書けば、勉強にもなる。
文字は小生肉筆の漆文字。これで書き上げる。よく見れば太い文字もあれば、細い字もある。表も難しいが、裏はもっと難しい。ですが、気分爽快。楽しい今日の午後でした。
RGさん、ご迷惑をおかけしています。申し訳ありません。
お送りした将棋チェスト。 駒台の片方が固く、半分ほどしか出てこないとのことで、申し訳ありません。原因は、経年変化で駒台の引き出し板が、反ったりしたためだと思います。
発送前にきちんと確認すべきところを、確認せずにお送りしてしまい、申し訳ありません。
先ほど、お電話しましたように、まず
①、座布団の上に、将棋チェストを裏向けて、底が見えるようにしてください。
②、2本のガムテープの内、問題の駒台側をはがすと、小さなネジがありますので、
そのネジを外してください。(ネジは保管しておいてください)
③、そのあと問題の駒台の横面に、かまぼこ板のような板を当てて、力をを込めて
駒台を押し出すようにしてください。力を入れても押し出せないときは、
かまぼこ板を金槌でコンコンと叩くようにすると、外せるようになると思います。
④、駒台の板が外せましたら、その駒台の板を、送料着払いにて当方にお送りください。
⑤、それでも押し出せないときは、本体ごと送料着払いにて、当方にお送りください。
返送に当たっては、輸送中に傷がつかないよう、梱包に十分配慮願います。
将棋チェストをすでに購入された方で、同じようなトラブルが生じている場合がある
かもしれません。 もしそのような方がおられましたら、ご遠慮なくお申し越しください。
12月12日(木)、曇り。
寒波襲来の予報。暖かな日差しは今日で終わりとか。漆の調子にも影響が及ぶかもしれません。
昨日、漆の駒文字についてコメントでお尋ねがありました。
駒は作り手にとって、3つの要素、①素材、②文字、③仕上げ、が良し悪しの決め手となりますので、それぞれに最善を尽くすことになります。
この内、①の素材は、模様などが希少で高価な素材ということではなく、一組ごとにツゲ駒の色合いと年輪などの模様がよく揃っていることを言い、これが基本です。そのうえで、好みとか、硬さなど使用しての手触りや耐久性が求められることになります。
②の文字は、好み使う人の好みはいろいろでしょうが、基本は見やすく分かりやすいことです。その上で求められるのが文字の美しさなのですが、その美しさは、レタリングされたいわゆる看板文字ではなく、日本古来の筆文字の美しさであります。
③の仕上げは、①ツゲの素材の良さを最大限引き出し、②の文字の美しさを最大限発揮させるための「技」であり、その良し悪しが駒のすべてを決することになります。
今回は、②の文字についてのお尋ねですので、そのことについて述べることにします。
駒の文字は、見やすくわかりやすいことが基本といいました。以前、テレビ将棋で高段者が「金と間違えて、銀を裏向けに打って、即負け」になったことがあります。これなどは、表の金も一文字で、銀の裏とよく似ていた駒だったことにあります。これは昔、大山名人が、不鮮明なテレビ画面でもよくわかるように、大きな文字の一文字に工夫したのです。ですから、これは、テレビ将棋に特化した駒であり、決して良い駒とは言えないと思います。
話を戻しまして、駒の文字は、駒の顔でもあり、駒の品格を大きく左右する要素であります。
時々、駒を作り始めた方から「良い駒を作るにはどうすればよいか」と尋ねられることがあります。その時に申し上げているのは「書の勉強が大切」だということが多いです。
「書の勉強」とは、まず、書に対する鑑賞眼を養うことだと思います。最初から良い文字が書けるわけではないので、文字を見極める力。これが大切だと思います。最近の書道展には、文字か絵画かの見分けがつかないものが、書として堂々と出ていることが多いです。私が思うには、書すなわち文字は、見る人に率直に読んでもらえるものでなくてはならないと考えています。ちょっと話が脱線しましたが、書(文字)は、見る人にその意味が伝わる。これが基本であり、欠かせないことだと思うのです。
特に駒文字の場合は、このことが大切で、しかも美しさが求められるわけです。
12月11日(水)、曇り。
漆はたっぷり太い文字。まだ漆は濡れています。今日午前中3時間で50枚ほどを書き上げました。3時間で100文字。ということで、表2文字で2分半ほどの計算になります。
現在は、5組のトータル枚数500枚余りでチャレンジ。総文字数は1500文字ほどになります。その結果、出来の良くないのは除外して、最終的には4組完成できればと思っているところです。
12月9日(月)、晴れ。
今朝は0℃。車のフロントガラスが凍り付ていましたが、日中は15℃近くと暖かでした。
映像は、このところ文字を書き続けている「中将棋駒」の一部ですが、まだまだ時間がかかります。
6日は、カニの解禁日でした。初セリのお祝儀相場は、5百万円のべらぼうな値段。世の中、何か狂っているとしか思えません。
でも、カニは美味いですね。大好物。
ということで、明日のお昼、大阪へカニを食する予約を入れております。本当は、北近畿か越前あたりの保養所まで行けばよいのでしょうが、時間もかかるし、面倒だなあと思っていたところ、新聞広告で「間人カニ」の広告を見つけました。
間人カニは、城崎の隣にある間人(たいざ)魚港で水揚げされたカニ。本場の味が大阪で食せるということで、大いに期待しているのですが、果たして結果はどうでしょうか。
新しい筆をおろそうと、未使用の蒔絵筆を整理、確認したところ、大阪の角岡製が22本ありました。15年ほど前に仕入れた筆で、一年で一本消費するとすれば、あと20年以上使える計算ですが、実際は大事に使うと、一本につき2年から3年くらいは健全に使うことができます。
蒔絵筆を扱う漆屋さんの話では、材料となる太い玉毛(猫の毛)の筆は皆無で、これならという筆は、この10年は作られていないのだそうだ。
しかしそれでも商売だから、ナイロン製の代用品の筆を置いているが、漆の含みとか、腰の強さでは、全く違うとのことです。
弘法筆を選ばずと言いますが、あれは真っ赤なウソ。私にとって、筆は大切なお宝です。
12月7日(土)、曇り。
寒い一日でした。
朝、昨日の「木村王位の就位式」の模様をもらいました。
他の就位式とは異なり、関係者限定のクローズ方式なので通常は100人程度とのことときいていますが、何と参加者は180人で、そう大きくない部屋は、はちきれんばかり。参加者は棋士の方たちが多かったそうです。このことを見ても、日ごろ木村さんが、周りから慕われていることの証だと思います。
私も案内状をいただいていて、出席するつもりで東京の宿をとっていたのですが、急遽21日の「祝賀会」の方のみに出席することにしたのは、少し、心残りではありましたね。
今日は中将棋駒。前々から少しやり残しているのがあり、再開です。このブログを書き終わったころ、テレビで豊島さんが竜王位獲得のビッグニュース。
12月3日(月)、雨。
冷たい雨が降ったり止んだりの一日でした。
仕事も色々。桐製文箱式の駒箱をやや深めに中将棋用に作り直したり、制作途上の中将棋駒を完成に向けた作業。映像は裏側の文字。毎日使っても、20年や30年くらいの耐久性を持たせたいと、漆を厚めにしたり。
その映像です。
中将棋連盟の方から、問い合わせのコメントいただきました。
概略は先に説明しましたが、文字は、400年前の水無瀬兼成卿の筆跡を基本にしています。
一番良いのは現物をご覧いただくことかと思います。
Hさん、お住まいはどちらでしょうか。
遠方の場合は、サンプルをお届けしてもよいのですし、 もし、工房へお越しいただけるなら、現物全体をご覧いただくのが一番良いのですが、いかがでしょうか。
コメント欄は、個人情報流出には十分留意しますので、ご連絡先などお知らせください。
この中将棋駒は、あくまで実戦で使っていただくことを前提に制作。毎日使っての耐久性にも配慮し、小生の命ある限り対応したいと考えております。