熊澤良尊の将棋駒三昧

生涯2冊目の本「駒と歩む」。ペンクラブ大賞受賞。
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駒の漆文字についてⅡ

2019-12-16 00:38:09 | 文章

12月15日(日)、曇り。
今年もあと半月になりました。今日も寒そう。

話を駒の漆文字に戻します。「駒の漆文字について」の続き。
駒の作り手にとって、材料はたまたまの偶然の出会いであり、駒にとって書かれた文字は、作り手にとっても、最も重要な要素だと考えています。

この考えは駒づくりを始めたときからの思いであり、作者として少しでも良い字が書けるよう中国や日本の古典の鑑賞し目を養うとともに、筆に慣れることも重要で、筆をいつも身近に置く習慣づけが大切です。

しかし、普通駒の場合はサラッとした普通の墨書とは違って漆書きなので、その粘りに対応する技の習得が大切で、これには漆の特徴をよく会得しなくてはなりません。
私の場合、最初から盛り上げ駒を作っておりましたが、水無瀬兼成卿が立派な文字で活き活きした肉筆で一筆の書き駒は、到底作れないと直感。基本となる書の素養レベルが段違いなのが分かりました。
何年、何十年かかるか分からないけれども、水無瀬兼成卿の駒に少しでも近づきたいものだと、いつもの盛り上げ駒を作りながら、漆で一筆で文字を書く練習を続けて、ようやく何とか他人に見てもらえそうな文字が書けるようになったのは、それから25年くらい経った50何歳かの時でした。それは、大阪商業大学の谷岡学長から「世界一大きい将棋駒」を作ってほしいというリクエストで、それは、36x36升、駒数804枚の「大局将棋」でした。
「大局将棋」は、将棋博物館に寄贈された大橋家文書の中で発見された資料にあって、それを復元したいというものでした。

さて、804枚ある駒数は、普通の将棋の20組分。これをどう作ればよいか。思いついたのは昔ながらの方法で、書き駒で作るという考えです。漆で一筆で文字を書く練習は続けていましたので、それを成果につなげる良いチャンスだとも思いました。
新しくオープンする大学のアミューズメント産業研究所の常設展示室に使われる盤と駒のサイズは、小生に任されていました。
いろいろ考えた末、駒は実際に指すことを考えるとレギュラーサイズに近い大きさがよい。それだと盤は縦150センチ、横幅135センチほどで、これなら大きく手と背を伸ばせば敵陣にも手が届く。ということで、これに決めました。
文字は、菱湖や水無瀬でなく、自分の文字で、その雛型づくりから始めました。

駒は209種類。玉将をのぞいては裏もあるので、文字の種類は400種類を超える。雛型の表は太い楷書で書き、裏は細身の崩し字行書で書く。そうすれば、一見で表裏が分かりなり、より機能的。実物大で紙に書く雛型の文字は、気に入らなければ、2度3度と書き直して、その中から選び、雛型のツゲ木地に貼り付けるというわけです。

209種類の雛型が出来上がると、次は実際に必要枚数を漆で書く作業ですが、ここでの問題は、漆のネバリをどう克服するかということです。
ポイントは、いくつかあります。
先ず第一は、漆にもいろいろあるので、ネバリの少ない漆を使うことです。そのためには、いろいろのメーカーや、精製度が違う漆を入手し、実際に使っての確認が不可欠です。
次に、漆は使っているうちに、だんだん粘り気が強くなる性質があるので、粘り気が少ない状態で使うという気づかいも必要です。
ポイントは、漆だけではありません。筆も重要で、漆のネバリに負けない腰の強い穂先が不可欠。筆も色々手に入れて試してみましたが、これには質の良い玉毛(猫の首筋の毛)で作られた「蒔絵筆」が最良でした。同じ玉毛で作られた蒔絵筆でもピンキリで、質の良い玉毛で作られた蒔絵筆は、漆に負けないことと、漆の含みが良いのですが、最近は上質な玉毛そのものが枯渇していて、とにかく最上の筆を入手することすら不可能になっているようです。

盛り上げ駒もそうですが、文字は正対して書く。当然の話ですが、これが正しい文字の書き方で、これができないようでは、肉筆の文字とは言えないのですね。




 

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駒の写真集

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