大木昌の雑記帳

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2019年は苦難と波乱の年―日本の課題と選択―

2019-01-06 07:35:22 | 社会
2019年は苦難と波乱の年―日本の課題と選択―

明けましておめでとうございます。

今年、最初の記事に何を書くかを考えた末、まずは、これまでの日本を振り返り、その文脈で今年は日本
にとってどんな年になるのかを、私の視点で展望してみたいと思います。

今年は平成が終わり、次の元号に変わる節目の年に当ります。もちろん、元号の更新(天皇の交替)によ
って日本社会の時代区分をすることには、それほど意味がないかもしれません。

むしろ政治や経済による時代区分の方が現実的でしょう。しかし、後で触れるように、多くの日本人にと
って、自分が生きてきた時代、これから生きてゆく時代をおおざっぱに元号で区切ることに、全く意味が
ないわけではありません。

例えば「昭和」という時代は最初の20年間、日本は中国・朝鮮・米英との戦争に明け暮れました。

戦後は廃墟の中から“奇跡”と言われるほどの経済復興に邁進してきました。

これ以後、昭和の終わりまで日本は、戦争に巻き込まれることもなく平和の中で、「ジャパン・アズ・ナ
ンバーワン」と言われるほどの繁栄を満喫してきました。

恐らくこの時期は、近代以降の日本人にとって、もっとも自信に満ち、幸せな時代だったと思います。

続く平成の世は、日本社会に激震が走った時代でした。まず、平成3年(1991年)には、バブルが崩
壊し銀行を始め多くの企業が倒産しました。

平成7年(1995年)には阪神淡路大地震が発生し、日本人は改めて自然の猛威に驚愕し、脅えました。

平成半ば過ぎには何とかバブルを克服し再び安定を確保することができましたが、平成23年(2011)
3月、東日本大震災が発生し、津波と福島の原子力発電所の爆発事故により、太平洋側の岩手・宮城・福
島県諸地域は、未曾有の被害を受けました。

その後も、平成24年には九州北部豪雨、28年には熊本地震、30年には西日本豪雨水害、北海道胆振
東地震、と日本列島は次々に自然災害に見舞われました。

ここで注目すべきは、災害の度に天皇ご夫妻が被災地を訪れ、被災者と膝を交えてお見舞いをする映像が
テレビで頻繁に流され、象徴としての天皇の存在が多くの国民の心に強く印象付けられたことです。

災害の見舞いだけでなく、現天皇は、自分の在任中は一度も戦争に巻き込まれることなく平安のうちに過
ぎたことに感謝するとともに、平和の尊さを折りに触れて強調してきました。

2012年に第二次安倍内閣が発足に導入された「アベノミクス」により市中に大量の貨幣を流す「異次
元の」金融緩和と、公共事業を始め財政出動を積極的に進めました。

これは一時的な株価の上昇をもたらしましたが、最も重要な「成長戦略」は何一つ進展しませんでした。

一方、安倍政権は、武器輸出の解禁、特定秘密保護法、安保法制(集団的自衛権の行使を認める)、共謀
罪の整理など、次々と国家主義と軍事化への色彩を強めてきました。

外交面では、安倍首相は頻繁に外国訪問をしましたが、残念ながら、見るべき成果はありませんでした。

そして、年も押し詰まった12月30日に、「TPP11」が発効し、日本はいよいよ関税を撤廃ないし
大幅に下げる方向に踏み出しました。

内政では、安倍政権は「種子法の廃止」や「改正水道法」」を可決させ、「命のインフラ」である食べ物
と水の管理運営を多国籍企業などの参入を認める民営化への道を開きました。

社会的には、安倍政権下で生じた「森友学園」「加計学園」疑惑と、それに関連して官僚による文書の改
ざんなどは、政治と行政にたいする国民の不信感を高めました。

平成の世を総括すると、市場の論理、民営化、企業合理性が社会のあらゆる側面に支配的になった時代、
日本がますますアメリカと一体となって軍事化に突き進んだ時代といえます。

以上の経緯を念頭に置いて2019年はどんな1年になるのかを展望してみましょう。

今年の日本を簡単にいえば、難題と困難にみちた選択の年だと思います。それは、政治・経済・社会・文
化のあらゆる分野に起こるでしょう。

まず、今年の五月1日に平成の天皇が退位し、新しい天皇が即位し平成から新しい元号に変わります。こ
れは、単にカレンダー上の変化だけではありません。

私たち日本人は、意識的であれ無意識的であれ、改めて「日本とは何か」「そこに住む自分は何者なのか」
という文化的なアイデンティティの問題に突き当たります。

5月には新天皇が即位します。新天皇がどのような姿勢で「象徴天皇」としての役割を果たしてゆくのか
分かりませんが、現在の明人天皇と同様、平和へのメッセージを語り継いでいって欲しいと思います。

今年は政治の面で、重要な案件が目白押しです。春の統一地方選挙、夏の参議院選挙(衆参同時選挙もあ
り得る)が行われます。この結果次第では、日本の政治地図が大きく変わる可能性があります。

もし、与党が参議院で三分の二を割るようなことがあれば、安倍首相の悲願である憲法改正が頓挫するこ
とになり、一挙に求心力を失います。

逆に与党が三分の二を維持ないし現状を上回れば、改憲に加速がつきます。この意味で、今回の参院戦は、
日本の将来を左右する非常に重要な選択となります。

外交面では、安倍首相は、安倍外交の総決算の年、と言っていますが、いずれも簡単ではありません。

日韓関係では、徴用工にたいする賠償問題、慰安婦像の撤去問題など、いわゆる「歴史認識」に関わる問
題、最近の韓国戦による日本の自衛隊機に対するレーダー照射の問題など、友好関係よりも対立局が強く
なっています。これらを解決してゆくのか安倍外交の手腕が問われますが、そう簡単ではなさそうです。

北朝鮮との関係では、安倍首相は自分の手で拉致された日本人を取り返す、と言っていますが、これまで
も全く動いませんし、近い将来解決する可能性は限りなく小さいと言わざるを得ません。なにしろ、拉致
問題に関して日本はアメリカと韓国に頼んで解決しようとしてきたのですから。日本の脅威である核とミ
サイル問題では、日本は蚊帳の外です。

日中関係では、今年、習主席との会談が予定されており、米中対立の中で中国は日本との関係改善に積極
的になるであろう、と言う期待を込めた雰囲気はありますが、尖閣の問題や中国船による不法漁業や、最
近では沖ノ島周辺での無断海洋調査など、日中間の問題も未解決のままです。

懸案の日ソ関係では、安倍首相は、自分の政権下で北方領土問題を解決する、と豪語していますが、従来
の北方四島の返還から、歯舞・色丹の二島返還へトーンダウンしました。しかし、ロシアは二島でさえ日
本に主権を渡す気はなさそうです。

なぜなら、日米の秘密協定で、アメリカは日本のどこにでも、何時までも基地を置く権利をもっているか
らです。ロシアは日本に、アメリカから、いずれの島にも基地を置かないことを確約した文書を取ること
を要求していますが、安倍政権にはとてもできないしょう。

日本は、ロシアとアメリカの顔色を見ながら、両方ともうまくやろうとしていますが、実際には又裂き状
態になっていて、三者が満足できる見通しはたっていません。

最後に日米関係ですが、安倍首相は盛んにトランプ大統領に“ゴマを摺って”います。たとえば、先のア
メリカ中間選挙でトランプ大統領が属する共和党は、上院ではこれまでの多数をかろうじて維持したもの
の、下院では民主党に敗れ多数を失いました。それでも、直後のトランプ氏との会見で、安倍首相は“歴
史的勝利、お目でとうございます”、と歯の浮くようなお世辞を言ってのけました。

欧米のメディアはこれにはあきれて、一斉に安倍首相を“おべっか使い”と、半ば笑い者扱いです。

昨年の三月の首脳会談のあとの記者会見でトランプ大統領は 「日本の安倍首相らは『こんなに長い間、
米国をうまくだませたなんて信じられない』とほくそ笑んでいる。そんな日々はもう終わりだ」、と本心
を明かしています(注1)。

1月から始まる日米貿易交渉に関して安倍首相は、今回は物品だけの貿易交渉と国会で言い張っていたに
も関わらず、トランプ政権は、サービス、金融、情報、知的所有権を含む合計22分野の交渉を行うこと
を公表しています。これが現実です。

ここは安倍外交と強固な日米同盟の真価が問われますが、おそらく、この交渉で、アメリカの圧力に抵抗
できず、安倍政権は相当の譲歩を迫られることになるでしょう。

安倍首相は、アメリカの対日赤字の8割を占める自動車にたいする関税の引き上げを猶予してもらい、そ
の代り、農産物の自由化にたいして大きな譲歩を呑まされるのではないか、と私は危惧しています。そし
て、この二国間交渉の結果次第で、日本経済は非常に深刻な打撃を受ける可能性があります。

ところが、問題はこれに留まりません。安倍政権は昨年12月、旧型の戦闘機F15に代わりに、今後、
F35AとF35の計150機を順次購入することを決めました。

防衛省の幹部は「トランプ氏に手土産を持たせないと何を言ってくるか分からないと政府は常に考えてい
る。・・・それでF35の百機購入となった」と語っています(『東京新聞』2019年1月4日)。

つまり、戦闘機購入は、これから始まる日米交渉で自動車関税の引き上げを猶予しえもらう“手土産”な
のです。貴重な税金が“手土産”に使われてしまうのです。

最悪のシナリオは、農産物は自由化に向かい、自動車関税は上げられ、さらなる武器の購入を呑まされる
ことです。

アメリカからの武器の購入を含め、来年度予算では防衛費が五兆円を超えました。その一方で、介護スタ
ッフの給与は増えず、年金その他の生活保護への予算は減らされてゆきます。

2018年の『経済白書』は、2018年度の経済成長が1%で、第2次安倍政権の発足と同じ12年12月に
始まった現在の景気拡大期間が「戦後最長に迫っている」と指摘しています。

しかし、実質賃金や可処分所得は増えていないので、「戦後最長」にどれほどの意味があるのか疑問です。

一方、今年の秋に消費税の10%への値上げが決まっており、景気はさらに下降局面に入るでしょう。

安倍首相が先頭に立ってセールスに力を入れた原発輸出は、成長戦略の重要な柱でしたが、これまで交渉
してきた案件が全て白紙になり、注ゼロになってしまいました。

現在では、オリンピック・パラリンピックと大阪万博というイベントで景気浮揚を狙う、という50年も
前の古い成功体験モデルの蒸し返ししか、具体的な方策を見出し得ない状況にあるようです。

残念ながら、今年はどの分野をとっても、あまり明るい光が見えない苦難の年になりそうです。


(注1)日本経済新聞 電子版 2018/3/23
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO28503690T20C18A3EA2000/


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