脱原発に吹く風(2)―原発と再生エネの本当の実力―
2012年5月5日は、それまで日本で唯一稼動していた北海道電力泊原発三号機が定期点検のため運転
を停止しました。これで、日本は再び原発電源ゼロとなったのです。
この時からそこから部分的な再稼動を伴いつつ、現在では、原発の電気は、総電力供給の1~2%で、
再生可能エネルギー(風力、太陽光、バイオマスなど、「再エネ」と略す)は4.7%より低くなって
います。
つまり、過去7年、日本は事実上、原発なしで過ごしているのです。
原発を擁護する人たちは、この点に目をつぶって、日本の経済を維持するためには原発は必要だと主張
しますが、7年間も原発なしでも経済が行き詰まったとか、破綻したという事実はありません。
これこそ、原発擁護者の主張の最も弱いところで、理論的にも実態的にも破綻しています。
しかも、政府は、再生エネルギーへの開発に抑制的です。政府の送配電業務指針によれば、電力供給が
過剰になった場合の抑制順序は、①火力および揚水、②バイオマス、③自然変動電源(太陽光・風力)、
④長期固定電源(原子力・水力・地熱)となっていて、あくまでも原発を守り、原発エネルギーは抑制
しない仕組になっています。
たとえば、2014年9月、九州電力は再生エネルギーの受け入れを停止しました。しかも、この停止
は川内原発の再稼動の目途がたった直後のことで、何とも露骨な、原発優先措置でした。
これに続いて、北海道、東北、四国、沖縄の各電力会社も同様の措置をとりました。
受け入れ拒否の表向きの理由は、送電能力が一杯だから、というものですが、実態は、電力会社の送電
能力には十分すぎるほどの余裕があることも明らかになっています。
一方、再エネの発電能力(容量)は、2016年10月末時点で、4148万キロワットに上り、原発の容
量約4200万キロワットに匹敵するところまできているのです。これは何と原発の40基分に相当す
るのです。(注1)(熊本 2017:134)
つまり、もう原発はなくても能力的にには全く問題ないのです。
政府・経産省は、あくまでも原発を維持しようとする理屈として、「原発の電気は安い」と主張します。
2015年に経産省は発電単価を試算していますが、それによると、原子力10.1円/キロワット時、石炭・
火力12.3円/同、LNG(液化天然ガス)13.7円/同、となっています。
しかし、この試算結果は、条件を意図的に操作した、一種のフィクションであることは、これまで多く
の専門家によって証明されています。
たとえば、この問題を一貫して研究してきた熊本氏が、厳密に条件(稼働率、設備利用率、燃料費、リ
スク管理費など)を実情に合わせて計算すると、原子力は10.94円、石炭9.36円、LNG7.
04円だとの結果でした(熊本 2017: 126-131)。
原発の電気は石炭(および石油)やLNGのそれに比べて決して安くはないのです。むしろ「原発の電
気は高い」は日本だけでなく、世界の趨勢なのです。
現在のところ、再生エネの単価は、20円~28円と割高ですが、これも技術革新によって原発、石炭
・石油、LNGとならぶかそれよりも安くなる可能性があります。
もし、官民一体となって再生エネの技術開発に乗り出せば、間違いなく、以下にEUの例にみらるよう
に、再エネの価格は今の半分以下にはなると思います。
再エネに否定的な人は、太陽光や風力は、気象状況によって発電能力が変化するので、安定的なエネル
ギー供給源になり得ない、と主張します。
確かに、その面はありますが、現在、蓄電池の技術開発は急速に発展しており、さらに、調整電源とし
て、コジェネレーション(火力と電力にも熱としても利用する)やガスコンバインド(ガスタービンと
蒸気タービンを組み合わせ、効率化した火力発電)、バイオマス、地熱などとを組み合わせることで、
解決が可能です(熊本 2017:116-17)
ここで、ヨーロッパにおける脱原発事情を見てみましょう。
ヨーロッパにおいては、原発は再生エネの増加に対抗できず苦境に立たされています。
ヨーロッパの再生エネは風力発電が中心ですが、その平均価格は8.8円で、取引価格が6円という低
価格も現れています。
欧州の業界団体ソーラーパワー・ヨーロッパによると、2016年の世界の太陽光発電設備の新規導入量は
7660万キロワットで、前年比で5割増となり過去最高を更新しました。
これは、1年前の16年予測(中間シナリオ)の6200万キロワットを大きく上回っています。
その牽引となっているのは、新規の6割強を占めた中国と米国での太陽光発電です。
国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、太陽光の運転終了までトータルでみた発電コス
トは、16年の平均で1キロワット時あたり10セント(約11.1円)を割り込んでおり、17年には再生エネ
の中で最も安い陸上風力並みにまで下がるという(注2)。
イギリスでは、政府が原発の電気に対して補助金を出すに至っていますが、裏を返せば、補助金なしに
は原発は再生エネルギーとの競争では勝てないことを物語っています。
世界でみると、脱原発の事情は確実に進行しています。ドイツ(22年までに停止)、スイス(国民投
票で脱原発)、台湾(25年までに)、ベトナム(白紙)。韓国(建設計画白紙)、ベルギー(2025年
までに)、といったところです。
安倍政権は、あくまでも総供給量の24%ほどをベースロード電源として原発を維持する方針を変えて
いません。これには、たんにエネルギー源としてだけでなく核兵器保有の潜在能力を保持したいという、
隠れた思惑があることは、前回、書いた通りです。
ところで、政府や原発擁護者の中には、原発は火力発電とは異なり、温暖化の原因、炭酸ガスを出さな
いクリー・エネルギーである、というまことしやかな主張があります。
しかし、現在の火力発電は炭酸ガスの回収能力は非常に高くなっており、これからもさらに技術開発は
進んで行くと思います。
それより、原発には環境問題として重大な問題があります。
原発で発生したエネルギーのうち電気に代わるのは30%強ですから、7割弱は、冷却のために使われ
た温水が海に放出されます。
冷却水とはいえ、海水温との差は7度くらい高いので、原発を稼働している間は周辺の海水温度を上げ
てしまい、海の環境を変えてしまいます。
以前、原発銀座と言われる敦賀近辺の海中の様子を写したドキュメンタリー番組に見たことがあります
が、そこでは、以前にはいなかった暖水海域に住む魚が泳いでいました。
原発は必ず、冷却のために温水を排出しますので、これが続けば長期的には海水の温度を確実に上昇さ
せ、そして地球の温暖化をもたらします。
最後に、日本の原発に関して三つ指摘しておきます。
一つは、脱原発と経済の問題です。今、世界は脱原発、再生エネの技術開発に国の命運をかけて努力し
ています。
原発を維持しようとしている安倍政権は、これに消極的ですが、これは世界の再エネ・ビジネスから遅
れ、再エネ後進国として大きな経済的機会を失うことになります。もう、
次に、東京電力は福島の原発事故にかかわる損害賠償を自らの資金で行うことができず、事実上、破綻
しています。そこで、実態としては税金と銀行からの借り入れで、なんとか事業を続けています。
事故が起こった2011年の3月末には、三井住友、みずほ、三菱東京UFJなどおメガバンクを含む
八銀行が、経産省の要請を受けて、総額2兆円もの巨額融資を東電に無担保で行っています。
もし、東電が破綻すれば、これまでも融資してきたメガバンクは大損害を被るし、87万人ともいわれ
る個人株主や3600社の法人株主も大混乱に陥ります(吉原 毅『原発ゼロで日本経済は再生する』
(角川ONEテーマ21、2014:29)。
金融界はこの事態を恐れて、東電を破綻させない手を打ったということですが、本来なら、一旦会社を
整理して、原因の究明、責任の所在、財務内容などを明らかにして再出発すべきなのです。
最後に、福島事故あとの瓦礫のもたらす健康被害について、指摘しておきます。
政府は2012年に震災がれきの広域処理の方針を打ち出しました。原発からでる放射性廃棄物は100
ベクレ/Kg を基準に分類されますが、震災がれきを「放射性廃棄物」ではなく「放射性物質に汚染され
たおそれのある廃棄物」とし、8000ベクレル/Kg以下のもの、区分基準の80倍もの高い線量をもつも
のを一般の廃棄物として処理できることとしました。
しかし、8000ベクレルとは決して低い線量ではありません。これを、「広域処理」という名で全国に拡
散することは、長期的に健康被害をも拡散させることにもなります。大きな問題です。
(注1)熊本一規『電力改革の争点』緑風出版、2017:134-35
(注2)日本経済新聞 電子版 2017/5/31 16:36 http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ31HDK_R30C17A5000000/?n_cid=NMAIL002
https://sustainablejapan.jp/2017/03/10/world-electricity-production/14138
2012年5月5日は、それまで日本で唯一稼動していた北海道電力泊原発三号機が定期点検のため運転
を停止しました。これで、日本は再び原発電源ゼロとなったのです。
この時からそこから部分的な再稼動を伴いつつ、現在では、原発の電気は、総電力供給の1~2%で、
再生可能エネルギー(風力、太陽光、バイオマスなど、「再エネ」と略す)は4.7%より低くなって
います。
つまり、過去7年、日本は事実上、原発なしで過ごしているのです。
原発を擁護する人たちは、この点に目をつぶって、日本の経済を維持するためには原発は必要だと主張
しますが、7年間も原発なしでも経済が行き詰まったとか、破綻したという事実はありません。
これこそ、原発擁護者の主張の最も弱いところで、理論的にも実態的にも破綻しています。
しかも、政府は、再生エネルギーへの開発に抑制的です。政府の送配電業務指針によれば、電力供給が
過剰になった場合の抑制順序は、①火力および揚水、②バイオマス、③自然変動電源(太陽光・風力)、
④長期固定電源(原子力・水力・地熱)となっていて、あくまでも原発を守り、原発エネルギーは抑制
しない仕組になっています。
たとえば、2014年9月、九州電力は再生エネルギーの受け入れを停止しました。しかも、この停止
は川内原発の再稼動の目途がたった直後のことで、何とも露骨な、原発優先措置でした。
これに続いて、北海道、東北、四国、沖縄の各電力会社も同様の措置をとりました。
受け入れ拒否の表向きの理由は、送電能力が一杯だから、というものですが、実態は、電力会社の送電
能力には十分すぎるほどの余裕があることも明らかになっています。
一方、再エネの発電能力(容量)は、2016年10月末時点で、4148万キロワットに上り、原発の容
量約4200万キロワットに匹敵するところまできているのです。これは何と原発の40基分に相当す
るのです。(注1)(熊本 2017:134)
つまり、もう原発はなくても能力的にには全く問題ないのです。
政府・経産省は、あくまでも原発を維持しようとする理屈として、「原発の電気は安い」と主張します。
2015年に経産省は発電単価を試算していますが、それによると、原子力10.1円/キロワット時、石炭・
火力12.3円/同、LNG(液化天然ガス)13.7円/同、となっています。
しかし、この試算結果は、条件を意図的に操作した、一種のフィクションであることは、これまで多く
の専門家によって証明されています。
たとえば、この問題を一貫して研究してきた熊本氏が、厳密に条件(稼働率、設備利用率、燃料費、リ
スク管理費など)を実情に合わせて計算すると、原子力は10.94円、石炭9.36円、LNG7.
04円だとの結果でした(熊本 2017: 126-131)。
原発の電気は石炭(および石油)やLNGのそれに比べて決して安くはないのです。むしろ「原発の電
気は高い」は日本だけでなく、世界の趨勢なのです。
現在のところ、再生エネの単価は、20円~28円と割高ですが、これも技術革新によって原発、石炭
・石油、LNGとならぶかそれよりも安くなる可能性があります。
もし、官民一体となって再生エネの技術開発に乗り出せば、間違いなく、以下にEUの例にみらるよう
に、再エネの価格は今の半分以下にはなると思います。
再エネに否定的な人は、太陽光や風力は、気象状況によって発電能力が変化するので、安定的なエネル
ギー供給源になり得ない、と主張します。
確かに、その面はありますが、現在、蓄電池の技術開発は急速に発展しており、さらに、調整電源とし
て、コジェネレーション(火力と電力にも熱としても利用する)やガスコンバインド(ガスタービンと
蒸気タービンを組み合わせ、効率化した火力発電)、バイオマス、地熱などとを組み合わせることで、
解決が可能です(熊本 2017:116-17)
ここで、ヨーロッパにおける脱原発事情を見てみましょう。
ヨーロッパにおいては、原発は再生エネの増加に対抗できず苦境に立たされています。
ヨーロッパの再生エネは風力発電が中心ですが、その平均価格は8.8円で、取引価格が6円という低
価格も現れています。
欧州の業界団体ソーラーパワー・ヨーロッパによると、2016年の世界の太陽光発電設備の新規導入量は
7660万キロワットで、前年比で5割増となり過去最高を更新しました。
これは、1年前の16年予測(中間シナリオ)の6200万キロワットを大きく上回っています。
その牽引となっているのは、新規の6割強を占めた中国と米国での太陽光発電です。
国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、太陽光の運転終了までトータルでみた発電コス
トは、16年の平均で1キロワット時あたり10セント(約11.1円)を割り込んでおり、17年には再生エネ
の中で最も安い陸上風力並みにまで下がるという(注2)。
イギリスでは、政府が原発の電気に対して補助金を出すに至っていますが、裏を返せば、補助金なしに
は原発は再生エネルギーとの競争では勝てないことを物語っています。
世界でみると、脱原発の事情は確実に進行しています。ドイツ(22年までに停止)、スイス(国民投
票で脱原発)、台湾(25年までに)、ベトナム(白紙)。韓国(建設計画白紙)、ベルギー(2025年
までに)、といったところです。
安倍政権は、あくまでも総供給量の24%ほどをベースロード電源として原発を維持する方針を変えて
いません。これには、たんにエネルギー源としてだけでなく核兵器保有の潜在能力を保持したいという、
隠れた思惑があることは、前回、書いた通りです。
ところで、政府や原発擁護者の中には、原発は火力発電とは異なり、温暖化の原因、炭酸ガスを出さな
いクリー・エネルギーである、というまことしやかな主張があります。
しかし、現在の火力発電は炭酸ガスの回収能力は非常に高くなっており、これからもさらに技術開発は
進んで行くと思います。
それより、原発には環境問題として重大な問題があります。
原発で発生したエネルギーのうち電気に代わるのは30%強ですから、7割弱は、冷却のために使われ
た温水が海に放出されます。
冷却水とはいえ、海水温との差は7度くらい高いので、原発を稼働している間は周辺の海水温度を上げ
てしまい、海の環境を変えてしまいます。
以前、原発銀座と言われる敦賀近辺の海中の様子を写したドキュメンタリー番組に見たことがあります
が、そこでは、以前にはいなかった暖水海域に住む魚が泳いでいました。
原発は必ず、冷却のために温水を排出しますので、これが続けば長期的には海水の温度を確実に上昇さ
せ、そして地球の温暖化をもたらします。
最後に、日本の原発に関して三つ指摘しておきます。
一つは、脱原発と経済の問題です。今、世界は脱原発、再生エネの技術開発に国の命運をかけて努力し
ています。
原発を維持しようとしている安倍政権は、これに消極的ですが、これは世界の再エネ・ビジネスから遅
れ、再エネ後進国として大きな経済的機会を失うことになります。もう、
次に、東京電力は福島の原発事故にかかわる損害賠償を自らの資金で行うことができず、事実上、破綻
しています。そこで、実態としては税金と銀行からの借り入れで、なんとか事業を続けています。
事故が起こった2011年の3月末には、三井住友、みずほ、三菱東京UFJなどおメガバンクを含む
八銀行が、経産省の要請を受けて、総額2兆円もの巨額融資を東電に無担保で行っています。
もし、東電が破綻すれば、これまでも融資してきたメガバンクは大損害を被るし、87万人ともいわれ
る個人株主や3600社の法人株主も大混乱に陥ります(吉原 毅『原発ゼロで日本経済は再生する』
(角川ONEテーマ21、2014:29)。
金融界はこの事態を恐れて、東電を破綻させない手を打ったということですが、本来なら、一旦会社を
整理して、原因の究明、責任の所在、財務内容などを明らかにして再出発すべきなのです。
最後に、福島事故あとの瓦礫のもたらす健康被害について、指摘しておきます。
政府は2012年に震災がれきの広域処理の方針を打ち出しました。原発からでる放射性廃棄物は100
ベクレ/Kg を基準に分類されますが、震災がれきを「放射性廃棄物」ではなく「放射性物質に汚染され
たおそれのある廃棄物」とし、8000ベクレル/Kg以下のもの、区分基準の80倍もの高い線量をもつも
のを一般の廃棄物として処理できることとしました。
しかし、8000ベクレルとは決して低い線量ではありません。これを、「広域処理」という名で全国に拡
散することは、長期的に健康被害をも拡散させることにもなります。大きな問題です。
(注1)熊本一規『電力改革の争点』緑風出版、2017:134-35
(注2)日本経済新聞 電子版 2017/5/31 16:36 http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ31HDK_R30C17A5000000/?n_cid=NMAIL002
https://sustainablejapan.jp/2017/03/10/world-electricity-production/14138